日本ハム・ソーセージ工業協同組合 理事長 大社 義規
平成3年4月に牛肉の輸入自由化が実施されて、今年度でもう3年目を迎えるに 至った。関税率もこの間70%から今年度はいよいよ最終段階の50%まで下がってき たが、この間の推移を振り返り、関税率50%後の見通しについて若干述べてみたい。 自由化前から予想されたとおり、国産牛肉の価格は大幅に下落した。特に乳雄肥 育牛のB3(枝肉価格)は、自由化直後の平成3年4月から今年3月までに約20% 下落した。 また、輸入牛肉の指標的存在であるオーストラリア産チルドビーフ・フルセット の価格を見ると自由化後一貫して下がりつづけ、同じ期間に約20%強値下がりして いる。ハムソーセージメーカーの多くは食肉の流通に携わっているが、我々にとっ ても予想を上回る値下がりであった。このため国内生産者はもとより流通業者にと っても大変厳しい環境であったと言わざるを得ない。 振り返って、この原因は大きく見て次の4つに起因すると思われる。 1.自由化による流通業者の過剰輸入 いずれの商品の場合でも自由化直後は思惑が働き、輸入量の過剰は避けられない。 輸入牛肉においても需要の強いチルドビーフは、実需を大幅に上回る数量が輸入さ れ、自由化初年度には対応に苦慮する向きが多かった。 2.円高要因 自由化前に、現在経験しているような円高はほとんどの者が予想していなかった。 ところが平成3年4月から5年3月までに、円は対豪ドルレートで22%の切り上げ となった。一応、関税率は3年度の70%から4年度の60%へ10%(実質輸入価格は 6%強)引き下げられた。円高と関税率引き下げによる全体では28%値下がりした 計算となり、円高要因が大きなウェートを占めている。 3.複合不況に伴う外食産業の不振による価格低迷 牛肉の出回り量の伸びをみると、不況下の影響を受けているとはいえないが、牛 肉のかなりの部分を消費している外食産業が不振のため、この影響が小売部門への 安値販売につながり、市中価格が輸入価格を下回るような結果を招いている。 4.米国向け牛肉輸出の自主規制の発動 牛肉の最大輸入国である米国が、豪州などの牛肉生産国に対し輸出自主規制を要 請したため、生産国では輸出先を他の国に求めた。しかし輸出先として期待された 韓国は経済不況もあって輸入量を抑えている。これらの結果牛肉輸出に最も有望な 日本市場へ現在、売り圧力を強めている。 これらの要因が重なって自由化後の供給過剰と価格低迷を発生させてきた。今後 の需給を考える上で以上の要因がどうなるか、と検討してみると、流通業者の輸入 競争については、自由化である以上全面的に秩序ある輸入ということは不可能であ るが、過剰輸入のため多くの業者が損失をこうむっており、輸入業者も本当の意味 で販売力を持った実需筋に限られてくると思われるので、やや落ちついた輸入姿勢 が期待できよう。 外食産業の不振についても、複合不況もそろそろ底を打ち、やや回復の兆しも見 受けられるので、次第に回復を感じられるようになるのではないかと期待している。 円高については予測困難であるが、そろそろ底打ち感も近いのではなかろうか。 米国の輸入自主規制要請は当分続くものと思われ、産地国は、依然として対日輸 出マインドは強いものがあると考える必要があろう。 この他、従来、牛肉は価格の割高感から、加工原料としては微々たる量しか使用 されていなかったが、加工用牛肉の価格は、今非常に安くなってきているので、ハ ムソーセージメーカーでも魅力ある原料の一つとして、ビーフを使った新商品の開 発に意欲的であり、この面からの消費も拡大するものと確信している。 以上述べたように、平成5年の関税率50%がもたらすものは、一層の混乱ではな く、以上述べた多くの要因が次第に落ちついてきているので、これ以上の混乱はな く新しい価格体系に調和した消費の活況が期待できるのではなかろうか。