輸入乳製品(バター・脱脂粉乳)の流通及び消費の実態

−輸入乳製品の流通実態調査より−
(乳業部)


 この調査は、平成3年度に畜産振興事業団が放出した輸入乳製品の流通及び消費の実態を体系的に調査分析し、乳製品価格安定業務の的確な実施に資することを目的として、(社)食品需給研究センターに委託して実施したものです。以下、その概要を報告します。

 なお、本調査では、カバー率も高く、回答内容も良質なものであり、特に落札者について、その消費数量はほぼ解明されましたが、全体の推計において、末端の業種における用途の実態が充分に反映されているとはいえないかもしれませんので留意して利用下さい。
1 調査の概要

 調査の対象は3年度において畜産振興事業団(以下「事業団」という)が輸入・
放出したバターと脱脂粉乳の落札者及び落札者以外(落札者に対する販売先の調査
の結果、明らかになったこれら乳製品の卸売業や実需者のことで以下、「落札者以
外」という)に対し、バターと脱脂粉乳の流通や消費の実態についてメール及びヒ
アリング調査を実施した。なお、回答企業の内訳は、表1のとおりである。

表1 回答企業の内訳
区分 業   種 輸入バター
回答企業数
輸入脱脂粉乳回答企業数
落札者 1.乳業等 13 15
2.卸売業 30 37
3.飲料 1
4.はっ酵乳・乳酸菌飲料 2
5.アイスクリーム 3 3
6.油脂 1 1
7.製菓・製パン 7 10
8.調理食品
9.その他 1
小 計 54 70
落札者以外 1.乳業等 14 18
2.卸売業 8 4
3.飲料 2
4.はっ酵乳・乳酸菌飲料 1
5.アイスクリーム 2 5
6.油脂 2 2
7.製菓・製パン 3 0
8.調理食品 0 0
9.その他 0
小 計 29 32
合 計 83 102
注:乳業等とは、乳業以外に農業生産者団体と乳業関連団体を含む。


2 輸入バター

(1) 国産品との比較評価

 本調査の結果、実需者において、国産品との比較で問題視されたのは、風味、色、
展延性、融解特性、荷姿・包装、品質のばらつきであった。

 風味については、特に貯蔵及び流通段階での酸化的変敗、脂肪の加水分解に基づ
く変敗なども劣下の原因となるようである。風味は各業種とも最も重視しており、
輸入バターの問題点として指摘している。なお、製菓・製パン、油脂、乳業、アイ
スクリームの順で風味に対する要求度合が高いようである。

 色については、特に黄色味は脂肪球内に含まれるカロチンやキサントフィルのた
めで飼料に起因するものである。黄色味が問題となるのは、加工乳、白物の乳飲料、
着色しないタイプのコンパウンドマーガリンなどを生産している業種である。特に
乳業では、国産バターとの混合使用によってこの欠点を補っている。これに対し、
アイスクリームでは黄色味が長所であるとする企業もみうけられた。

 硬度は、一般に冬期生産されたものが夏期生産に比べて固い。融解特性について
も冬期と夏期で異なる。この展延性及び融解特性に関する国産との差異は食品加工
上、作業効率が悪い。特にコンパウンドマーガリンでは、他の植物性油脂との組合
せや配合量に影響を及ぼすことになる。したがって、それらを製造している油脂メ
ーカーや乳業、また、製菓・製パンで特に問題点となっている。

 荷姿については、25sと大きく、重く扱いにくいという意見が多かった。国産バ
ターでは、20s、450gなどが中心となっており、特にホテル、レストランや洋菓子
店が輸入バターを敬遠するのは品質とともに荷姿が大きな要因となっている。また、
包装も国産と比較して、開封作業がしにくいという意見も多く聞かれた。

 品質のばらつきについては、各業種とも問題点としている。輸入国別、メーカー
別、工場別、季節別によるばらつきを指摘する企業が多かった。

 次に輸入国別について、国産との比較評価をみると、食味・風味では、「ニュー
ジーランド」が最も良く、次いで「オーストラリア」、「アイルランド」、「オラ
ンダ」の順という結果となった(表2)。

表2 輸入バターの食味・風味についての国産との比較(輸入国別・業種別)
区 分 オーストラリア ニュージーランド オランダ アイルランド
乳 業 −0.44 −0.47 −1.00 −1.00
卸売業 −0.42 −0.38 −0.80 −0.40
アイスクリーム −0.50 −0.40
油脂 −1.00 −1.33
製菓・製パン −1.00 −0.40 −1.00
平 均 −0.51 −0.49 −0.91 −0.75
注:国産品と比較して、良いを2、やや良いを1、かわらないを0、
  やや悪いを−1、悪いを−2として集計。

 また、同様に色に対する比較評価についてみると、「ニュージーランド」が最も
良く、ついで「オーストラリア」、「アイルランド」、「オランダ」という順で、
食味・風味と同様な傾向を示している(表3)。

表3 輸入バターの色についての国産との比較(輸入国別・業種別)
区 分 オーストラリア ニュージーランド オランダ アイルランド
乳業 −0.61 −0.53 −1.20 −0.86
卸売業 −0.58 −0.62 −0.80 −0.40
アイスクリーム −0.25 −0.40
油脂 −0.00 −0.33
製菓・製パン −0.67 −0.60 −1.00
平 均 −0.55 −0.53 −1.00 −0.67
注:国産と比較して、良いを2、やや良いを1、かわらないを0、
  やや悪いを−1、悪いを−2として集計。


(2) 流通経路とその流通比率の推計

 ここでは輸入バターの流通経路とその流通比率について調査結果を基に推測を試
みたもので、3年度の事業団の放出数量は15,988トン(対前年比266.5%)であり、
流通比率はすべてこの放出数量に対する比率で示した(図1)。

図1 輸入バターの流通経路とその推定流通比率(単位:%)

 落札者のうち、「乳業等」(乳業、農業生産者団体、乳業関連団体)は全体の27
.1%を落札している。なかでも大手乳業メーカー個々の落札数量はそれほど多くな
い。また、「乳業等」は落札者以外からも調達しており、「卸売業」から計61.3%
と大量に買い入れている。また、31.1%を社内消費しており、年度末在庫は26.2%
となっている。販売数量は31.1%で「卸売業」、「実需者」に販売している。

 次に、「卸売業」の落札数量は56.5%と最も多い。なかでも、個々にみると、大
手乳業系販社が多いようである。また、落札者以外に「乳業等」、「食品加工メー
カー」から8.4%を買い入れている。販売先についてみると、「乳業等」が46.1%
と多く、「実需者」は15.6%となっている。

 「食品加工メーカー」の落札数量は16.4%となっている。業種別では、製菓メー
カーが最も多く、その他アイスクリームメーカーなどである。個々についてみると
中小が多く、他社の委託によって、落札している企業が多いようである。また、社
内消費は0.6%と少なく、15.8%を「卸売業」へ販売している。

 流通の最終段階である「実需者」(落札者を除く)では、「製菓・製パン」が16
.9%と最も多く、次いで「乳業」が15.5%、「油脂メーカー」が6.6%、「調理食
品メーカー」が1.9%、「アイスクリームメーカー」が1.2%となっている。

 総じて、流通や消費において「乳業」が中心的役割を担っていることがうかがえ
る。また、外食産業や小売業における消費はまったくみられない結果となっている。
これは、品質だけでなく、荷姿も大きな要因となっているためである。


(3) 用途別の消費数量の推計

 ここでは3年度における輸入バターの用途別の消費数量について本調査の結果を
もとに推計を試みた。なお、3年度の輸入バターの消費数量は、放出数量15,988ト
ンから推定年度末在庫数量4,188トンを差し引き、11,800トンとした。

 「飲料」が49.3%と最も多くなっている。特に加工乳が多く、残りは乳飲料がほ
とんどで、それ以外の用途は少ないようである。

 「アイスクリーム類」では11.3%となっている。スーパープレミアムやプレミア
ムの乳脂肪は、生クリームや濃縮乳が使用される場合が多く、輸入バターはプレミ
アムタイプ以外のアイスクリームやアイスミルクに使用されている。

 「パン類」では、23.1%である。ほとんどが食パンであり、菓子パン、バラエテ
ィ・ブレッドではあまり、使用されていない。

 「菓子類」では、1.4%となっている。これは、主に乳業メーカーでプリンに使
用している。本調査では、菓子類での消費量は微小という結果になったが、実際に
は高級洋菓子を除いて少しあるように思われる。

 「コンパウンドマーガリン」では、11.4%である。油脂メーカー及び乳業で生産
しているものである。

 「調理食品」では、3.0%となっている。これは主に冷凍調理食品で消費してい
る(以上図2)。

 次に国内のバターの用途別消費において、輸入バターはどのような位置にあるの
だろうか。3年度における国内の用途別消費数量(事業団「平成3年度乳製品消費
実態調査報告書」より)から分析してみると、国内全体の消費数量からみれば輸入
バターは、13.77%を占めており、用途別にみると表4のとおりとなる。


表4 バターの用途別の推定消費数量構成比 
業  種 構成比

うち、輸入品
パン・菓子 24.32 3.36
食料(加工品・乳飲料他) 21.75 6.80
外食・その他 7.61 0.07
コンパウンドマーガリン 6.30 1.57
はっ酵乳・乳酸菌飲料 5.92 0.00
アイスクリーム 5.47 1.55
調理食品 1.89 0.42
家庭用 26.74 0.00
100.00 13.77
注:LIPC「平成3年度乳製品消費実態調査報告書」を参考に作成


3 輸入脱脂粉乳

(1) 国産品との比較評価

 実需者にとって国産品との比較で問題となるのは、食味・風味、溶解性、焦粉、
はっ酵適性、製パン適性、細菌数、包装、品質のばらつきなどであった。

 食味・風味は実需者にとって、最も重視されるもののひとつである。輸入脱脂粉
乳は、品質のばらつきがあり、また、特に製品の乳脂肪含量、水分含量の高いもの
もみうけられ、貯蔵温度変化も受けやすいことから、食味・風味は国産品に比べて、
明らかに差異を認める企業が多く、問題点として指摘している。

 溶解性についても脱脂粉乳の調整方法や貯蔵条件によって影響を受けやすいとい
われている。国産品との差異は、多くの企業で認めているが、問題視するかどうか
は、企業間でばらつきが多く、何ら問題はないという企業も多かった。

 焦粉もごく一部にみうけられたようである。

 はっ酵適性は、特にはっ酵乳で問題視されている。はっ酵乳では、脱脂粉乳がヨ
ーグルトミックスの主原料であり、カードを作るとき、その安定性がポイントとな
るため、輸入脱脂粉乳はほとんど使用されていない。

 製パン適性とは、つまり、製パンには、高温熱処理脱脂粉乳が適しているといわ
れている。これは、加熱された脱脂粉乳はカゼインの吸水性が増加し、パン容積の
低下を押え、ダレ防止効果があるという。国産品が必ずしも、これに対応している
訳ではないが、輸入品に比べてすぐれていることから、国産品を使用するケースが
ほとんどであった。

 細菌数は、一般細菌数、耐熱性菌ともに国産品に比べて一般的に約10倍多いと指
摘するメーカーもみうけられた。しかし、規格基準を満たしていることもあり、問
題視する企業は多くない。しかし、缶コーヒーでは、耐熱性菌が多いことからほと
んど使用されていなかった。

 包装については、国産に比べて開封作業がしにくい、包装がきたないという意見
が多く聞かれた。また、荷姿が25sというのは、大きく、重たく、作業効率が悪い
という意見も多かった。

 品質のばらつきについては、輸入国、メーカー、生産工場、ロット、季節によっ
てみられるという意見が多く聞かれた。この原材料のばらつきは、最終製品の品質
のばらつきに影響することから、各企業とも作業効率が悪いということで、輸入脱
脂粉乳の大きな問題点のひとつとなっている。

 次に、輸入国別について国産品との比較評価をみると、「ニュージーランド」が
最も良く、次いで「オーストラリア」、「アイルランド」、「イギリス」、「ベル
ギー」、「オランダ」、「スウェーデン」、「カナダ」、「ドイツ」の順という結
果となった。

 これを業種別の評価でみると、総じて全体と同様の傾向を示している。「油脂メ
ーカー」「その他」では、他の業種に比べて比較的ポイントが低くなっており、こ
れは食味・風味に対する要求度合が高いことがうかがえる。「製菓・製パン」特に、
製パン・洋菓子では、輸入脱脂粉乳を敬遠するメーカーも多いことから、実際には
さらに評価が低いと思われる。また、「はっ酵乳・乳酸菌飲料メーカー」では、は
っ酵乳への使用は、ほとんどのメーカーが敬遠しており、乳酸菌飲料における評価
となっている(表5)。

表5 輸入脱脂粉乳の食味・風味についての国産との比較(輸入国別・業種別)
区 分 オースト
ラリア
ニュージー
ランド
イギリス アイル
ランド
ドイツ オランダ スウェー
デン
ベルギー カナダ
乳業 −0.58 −0.65 −0.92 −1.29 −1.75 −1.00 −1.00 −1.00 −1.02
卸売業 −0.29 −0.06 −0.77 −0.33 −0.88 −0.83 −1.00 −0.55 −0.83
飲料 −0.50 −1.00 −1.00 −1.00 −1.00 −2.00 −2.00 −2.00
はっ酵乳 0.00 0.00
アイスクリーム −0.67 −0.25 −1.00 −2.00 −1.50 −1.00 −2.00
油脂 −1.25 −1.67 −1.00 −2.00 −1.00 −1.00
製菓・製パン −0.44 −0.22 −1.00 0.00 −1.00
その他 −1.00
平 均 −1.51 −0.38 −0.88 −0.83 −1.10 −0.94 −1.00 −0.89 −1.08
注:国産品と比較して、良いを2、やや良いを1、かわらないを0、
  やや悪いを−1、悪いを−2として集計。


(2) 流通経路とその流通比率の推計

 ここでは、輸入脱脂粉乳の流通経路とその流通比率について調査結果を基に推定
を試みたものであり、3年度の事業団の放出数量は38,541トン(対前年比972.8%)
で、流通比率はすべてこの放出数量に対する比率で示した(図3)。

 「落札者」のうち、「乳業等」(バターの項参照)は全体の31.7%を落札してい
る。なかでも大手乳業メーカー個々の落札数量は多くない。また、落札者以外にも
調達しており、「卸売業」から44.5%と大量に買い入れている。社内消費は42.7%
と多く、年度末在庫が8.2%となっている。また、25.3%を「卸売業」、「実需者」
へ販売している。

 次に、「卸売業」の落札量は44.1%と最も多い。なかでも個々の数量は、大手乳
業系販社が多いようである。また、落札者以外に「乳業等」、「食品加工メーカー」
から14.3%を買い入れている。販売数量は、「乳業等」が44.5%と大量に流通して
おり、「実需者」は11.0%となっている。

 「食品加工メーカー」の落札数量は24.3%となっている。業種別では、製菓メー
カー(他社からの委託が多いようである。)が最も多く、次いで、飲料メーカー、
アイスクリームメーカー、油脂メーカー等となっている。また、社内消費は7.5%
と少なく、販売数量は6.9%で主に「卸売業」となっている。

 流通の最終段階である「実需者」(落札者を除く)では、「乳業」が18.7%と最
も多く、次いで「はっ酵乳・乳酸菌飲料メーカー」が4.7%、「アイスクリームメ
ーカー」が2.4%、「製菓・製パン」が1.7%、「油脂メーカー」が1.6%、「飲料
メーカー」が1.3%、「調理食品メーカー」が1.3%となっている。

 総じて、やはり、輸入脱脂粉乳の流通や消費において「乳業」がその中心的役割
を担っていることがうかがえる。


(3) 用途別の消費数量の推計

 ここでは、3年度における輸入脱脂粉乳の用途別の消費数量について、本調査の
結果をもとに推計を試みた。なお、3年度の輸入脱脂粉乳の消費数量は、放出数量
38,541トンから、推定年度末在庫数量7,041トンを差し引き、31,500トンとした。

 「飲料」が61.1%と最も多くなっている。とくに加工乳、乳飲料が多く、その他
乳類入り炭酸飲料、乳類入り清涼飲料、麦芽飲料であり、それ以外の用途は少ない
ようである。

 「はっ酵乳・乳酸菌飲料」では、13.7%となっており、ほとんどが乳酸菌飲料で
あり、はっ酵乳ではほとんど国産を使用している。

 「アイスクリーム類」では13.7%となっている。プレミアムタイプからラクトア
イスまで幅広く使用されている。

 「パン類」では、2.2%である。ほとんどが食パンであり、菓子パン、バラエテ
ィ・ブレッドではあまり、使用されていない。

 「菓子類」が1.3%となっている。これは、主に乳業でのプリンである。その他
製菓ではチョコレ−トやビスケットで消費量は微小だが、実際にはもう少しあるよ
うである。

 「コンパウンドマーガリン」では、2.4%で油脂メーカー及び乳業で生産してい
るものである。

 「業務用代用濃縮乳」では、1.6%であり、これは製菓・製パン向けに原材料と
して使用される代用濃縮乳のことである。

 「調理食品」では、1.7%となっている。これは主に冷凍調理食品で使用されて
いる。

 「その他」が2.3%となっており、これは、主にコンパウンドクリームで、それ
以外では製パン素材と鶏卵加工品などである(以上図4)。

 次に国内の脱脂粉乳の用途別消費において輸入脱脂粉乳はどのような位置にある
のだろうか。3年度における国内の用途別消費数量(事業団「平成3年度乳製品消
費実態調査報告書」より)から分析してみると、国内全体の消費数量からみれば、
輸入脱脂粉乳は14.00%を占めており、用途別にみると表6のとおりである。

表6 脱脂粉乳の用途別の推定消費数量構成比
業  種 構成比

うち、輸入品
食料(加工品・乳飲料他) 46.49 8.54
はっ酵乳・乳酸菌飲料 26.18 1.91
パン・菓子 6.95 0.49
アイスクリーム 6.90 1.91
外食・その他 5.44 0.34
コンパウンドマーガリン 4.19 0.57
調理食品 3.85 0.24
100.00 14.00
注:事業団「平成3年度乳製品消費実態調査報告書」から分析


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