最近の食肉の消費動向について

           


 6月10日に公表された平成6年度農業観測では、昨年度の食肉消費について 「牛肉は引
き続き家計消費量、 加工・外食等消費量のいずれも増加しているが、 豚肉及び鶏肉は、 
景気低迷に伴う内食回帰の影響もあって、 家計消費量が増加に転じる一方、 加工・外食
等消費量が減少に転じている」 と述べている (図1)。 
 
  また、 近年の牛肉輸入量の急増は、 牛肉だけでなく、 豚肉と鶏肉の消費に大きな影響
を与えていると言われている。 
 
  そこで、 今月号では、 農林水産省畜産局食肉鶏卵課の桑原芳彦氏に最近の食肉消費の
特徴的な動きについて地域別の考察を、 また、 (社)食品需給研究センターの佐藤喜美
子氏には最近の豚肉の消費動向について、 先日発表された季節別食肉消費動向調査報告
 ((財)日本食肉消費総合センターが事業実施主体の指定助成対象事業) からまとめて
いただいた。 
 
  さらに、 消費の最前線にいる大手スーパーの食肉担当部長に最近の食肉の消費動向に
ついて話を伺ったので、 紹介したい。 
 
地域別にみた食肉の家計消費の動き

                                                 農林水産省畜産局食肉鶏卵課 
                                                            桑 原 芳 彦 
増加に転じた食肉の家計消費
  食肉の消費は、 家計消費、 加工仕向及び外食等と大きく3つに分けられる。 全国ベー
スでみると、 家計消費が占める割合は、 牛肉で約5割、 豚肉で約4割、 鶏肉で約3割と
なっている(表1)。 食肉全体 (牛肉、 豚肉及び鶏肉の合計) の家計消費量は、 昭和63年
以降減少傾向で推移してきたが、 平成4年に増加に転じた。 品目別の消費量についてみ
ると、 牛肉は増加傾向で推移し、 豚肉は減少傾向で推移してきたものが、 5年はわずか
に増加した。 鶏肉については、 減少傾向となっている。 
 
  元年と5年の品目別の構成比をみると、 前述の牛肉の増加傾向を反映し、 牛肉は、 
25.6%のシェアが28.8%と高まったが、 豚肉は、 42.1%が40.3%と低下し、 鶏肉につい
ても、32.4%が30.9%と低下した (表2)。 
  
  近年の食肉全体の1人当たりの家計消費量が増加しているのは、 牛肉消費量の増加に
よるものであり、 その増加の要因としては、 牛肉の輸入自由化により牛肉輸入量が増加
し、それに伴う牛肉価格の低下によるところが大きいと考えられる。 牛肉の購入単価 (牛
肉の1世帯当たりの支出金額/購入数量×100c)は、 牛肉輸入自由化前年の2年は329円
/100cであったが、 5年には290円/100cと低下している(表3及び図1)。 購入単価
の低下は通常の小売価格の低下によるものばかりでなく、量販店を中心とした牛肉の特売
が盛んに行われるようになったことに伴い、 消費者の購入がその時に集中する傾向が強
まったことも大きな要因であると考えられる。 
 
  牛肉の消費量が増加しているもう一つの要因として考えられることは、 これまで牛肉
の消費量が比較的少なかった東日本地域での消費が伸びてきているということである。 
食肉の消費については、 東日本は豚肉中心、 西日本は牛肉中心ということが言われる。 
料理で例えると、 肉じゃがの場合、 肉とは東日本では豚肉だが、 西日本では牛肉であり、 
また、 関西でカレーライスと言えばビーフカレーのことを意味するといった具合である。 
  
  このように、 食肉の消費動向は地域により異なるため、 全国ベースの消費動向を把握
するときに、 地域別の食肉の1人当たりの家計消費量の推移及びその特徴について知る
必要がある。 ここでは、 地域としては東日本と西日本と大きく2つに分け、 東日本の代
表的な地域として東北及び関東地方、 西日本の代表的な地域として近畿及び中国地方に
ついてそれぞれの地域の消費動向を見ていくこととする。 

牛肉の消費が伸びている東日本
  東北地方の場合、 食肉全体では増加傾向で推移している。 品目別についてみると、 牛
肉は2年以降10%を超える伸びが続いており、 5年は20%を超えた。 豚肉は減少傾向で
推移し、 鶏肉についても、 減少傾向で推移してきたが、 5年はやや増加した。 元年と5
年を比べた品目別の構成比は、 牛肉は11.8%のシェアが19.6%と高まったが、 豚肉は
59. 2%であったものが53.0%と、 鶏肉についても、 28.9%が27.4%と低下した (図2
及び図3)。 

  関東地方の場合、 食肉全体ではほぼ横ばいで推移している。 品目別についてみると、
牛肉は増加傾向で推移しているが、 豚肉及び鶏肉については減少傾向で推移している。 
元年と5年を比べた品目別の構成比は、 牛肉は20.0%のシェアが24.6%と高まったが、 
豚肉は50.6%が47.3%と低下し、 鶏肉についても、 29.4%が28.1%と低下した (図4)。 
 
  このように、 近年、 東日本の食肉の家計消費量は、 全体としては横ばいないし増加傾
向で推移している。 品目別には、 牛肉については増加傾向で推移しているが、 豚肉及び
鶏肉については減少傾向となっている。 品目別の構成比については、 牛肉のシェアの伸
びが続き、 豚肉及び鶏肉のシェアは低下傾向で推移している。 
 
  消費量は、 全体の伸びは小さく、 牛肉は増加傾向、 豚肉が減少傾向で推移しているこ
とから、 豚肉から牛肉へと消費がシフトしているものと考えられる。 
シェアが一定の西日本の食肉消費
 近畿地方の場合、 食肉全体では、 ほぼ横ばいで推移してきたが、 5年はわずかに増加
した。 品目別についてみると、 牛肉は2年以降ほぼ横ばいで推移している。 豚肉はほぼ
横ばいで推移してきたが、 5年はやや増加した。 鶏肉は3年以降ほぼ横ばいで推移して
いる。 品目別の構成比については、 牛肉は、 2年以降38%台とほとんどシェアに変化が
見られない。 豚肉、 鶏肉についても、 元年以降30〜31%台で推移している。 このように
近畿地方の場合、 食肉の構成比は、 牛肉が約4割、 豚肉が約3割、 鶏肉が約3割と近年
ほぼ一定の割合で推移している。 

 近畿地方のもう一つの特徴として、 他の地域に比べ牛肉の購入単価が高い水準にある
ということである。 全国的に購入単価の低下が続いている牛肉において、 5年は331円
/100cと、 依然300円/100cを超える水準にある。 関西では、「輸入牛肉よりも国産牛
肉」、「乳用種よりも和牛」 というように、 食肉の中では、 長年牛肉を中心としてきた食
文化により、多分、 価格低下を犠牲にしても、 一定水準以上の肉質の牛肉 (美味しい牛
肉) を購入する傾向が強いためと考えられる (図5及び図6)。 

  中国地方の場合、 食肉全体では横ばいで推移している。 品目別についてみると、 牛肉
は、 2年以降3年を除きほぼ横ばいで推移している。 豚肉は2年以降、 また、 鶏肉につ
いても横ばいで推移している。 元年以降の品目別の構成比についてみると、牛肉は3年を
除き36〜37%台で、 豚肉についても3年を除き29〜30%台で推移している。 鶏肉につい
ても32〜33%台とほとんどシェアに変化が見られない。 このように、 中国地方において
も、 近畿地方同様その構成比に大きな変化は見られない。 その構成比は、 牛肉が約4割、 
豚肉が約3割、 鶏肉が約3割と近年ほぼ一定の割合で推移している (図7)。  
  このように、 近年、 西日本の食肉の1人当たりの家計消費量は、 全体としては横ばい
ないし、 わずかに増加傾向で推移している。 品目別の構成比について見てみても、 その
構成比に大きな変化は見られれない。
西日本の牛肉消費は東日本の約2倍、
豚肉は逆に東日本が西日本の約1. 5倍
  東日本と西日本の食肉の年間1人当たりの家計消費量を比較すると消費量及び品目別の
構成比において大きな違いがある。 5年のデータで比較してみると、 食肉全体では東日本
が約10〜11s台であるのに対し、 西日本は約12〜13s台と、 2s程度上回っている。 ま
た、 全国平均との比較では、 東日本は全国平均を下回っているが、 西日本は上回る水準に
ある。 
 
  品目別の消費量については、 牛肉は、 東日本が約2. 0〜2. 8sであるのに対し、 西日
本は約4. 7〜4. 8sと2s程度 (約2倍) 上回っている。 全国平均との比較では、 東日
本は全国平均を下回り、 西日本は上回る水準にある。 しかし、 東日本の牛肉の消費量は
増加傾向にあり、 消費量も全国平均や西日本の地域に比べ未だ低い水準にあるため、 今
後も増加するものと見込まれる。 
 
  豚肉については、 東日本が約5. 4sであるのに対し、 西日本は約3.5〜3.9sと、 2s
程度 (約1.5倍) 東日本が西日本を上回っているが、 東日本は豚肉の消費量が減少傾向に
ある。 また、 全国平均との比較では、 東日本は全国平均を上回る水準であり、 西日本は
下回る水準にある。 
 
  鶏肉については、 東日本が約2. 8〜3. 2sであるのに対し、 西日本は3. 9〜4. 0sと
、 1s程度西日本が上回っている (図8)。 
 
  品目別の構成比を5年のデータで比較してみると、 牛肉については、 東日本は約2割
から2割強という水準であるのに対し、 西日本は約4割を占めている。 しかし、 近年の
東日本の地域における牛肉のシェアは、 東北地方においては、 元年は12%であったシェ
アが5年には20%に、 また、 関東地方においても、 同じく20%であったシェアが25%ま
で伸びてきていることから、 今後の牛肉の消費量の増加に伴い、 東日本における牛肉の
シェアは高まっていくものと見込まれる。 
  
  豚肉については、 東日本は約5割を占めているが、 西日本の地域は約4割弱という水
準である。 しかし、 近年の東日本における豚肉のシェアは、 東北地方においては、 元年
は59%であったシェアが5年には53%と、 また、 関東地方においても、 同じく51%であ
ったシェアが47%と低下してきており、 今後の牛肉の消費量の増加に伴い、 東日本にお
ける豚肉のシェアは低下するものと見込まれる。 
  
  鶏肉については、 東日本は3割弱を占め、 西日本においても3割強とほぼ同水準とな
っている (図9)。 
食肉全体の消費量の拡大へ
  牛肉輸入自由化による牛肉価格の低下は、 これまで牛肉消費量の少なかった東日本に
おいては、 牛肉消費量の増加をもたらしたと見られるが、 食肉消費が成熟しているとい
われる西日本においては、 牛肉の購入単価の低下も小さく、 食肉消費量全体に大きな変
化は見られない。 
 
  食肉全体としては、 食肉の家計消費量が全国平均を下回っている東日本地域でも横ば
いないし増加傾向で推移しており、 今後、 東日本のみならず、 全国での消費量が増える
ことを期待したい。 
 
  また、 品目別にみたとき、 大きな変化のない西日本に比べ、 東日本地域は牛肉対豚肉
・鶏肉という様相が見られ、 牛肉の輸入量の増大ともあいまって、 今後どのような変化
を起こしていくのか注目されるところである。 
 

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