季節別食肉消費動向調査からみた豚肉の消費の動き

                                                
                                               社団法人 食品需給研究センター  
                                                      研究員  佐 藤 喜美子 

 このレポートは、 消費が伸び悩んでいるともいわれている豚肉の最近の消費動向につい
て、 当需給センターが財団法人日本食肉消費総合センターの委託により実施した 「季節別
食肉消費動向調査」 の調査結果からまとめたものである。 
 なお、 この調査は、 消費者の食肉に対する意識及び家庭における購入状況、 購入価格等
並びに嗜好性等について、 全国の消費者世帯のうち2, 000世帯 (大都市1,100世帯、 中都
市900世帯) を対象として昭和57年度から実施しているものであり、 61年度からは年2回
 (6月、 12月) 調査を行っている。 
1 豚肉の購入状況
 (1) 豚肉の購入世帯割合
  5年12月の調査対象1週間の食肉の購入世帯割合を食肉の種類別にみると、 「豚肉」 が
87. 6%、 「牛肉」 が86. 7%、 「鶏肉」 が76. 5%となり、 わずか0.9ポイント差ながら豚
肉の購入世帯がまだ牛肉の購入世帯を上回っている。 しかし、 図1でみるとおり、 牛肉
の購入世帯は年々、 確実に増加する一方で、 豚肉の購入世帯はほぼ横ばいで推移しており、
近い将来牛肉の購入世帯が豚肉の購入世帯を上回るものと予測される。 また、 鶏肉は季節
的な変動はあるものの、 豚肉同様購入傾向に大きな変化はみられず、 牛肉の購入世帯割合
が大幅に増えているのが目立っている。 
 (2) 豚肉の購入頻度
  5年12月の調査対象1週間に豚肉を購入した世帯の購入頻度をみると、「週1回」が54.9
%、 「週2回」が35.2%、 「週3回」 が8.1%、 「週4回以上」が1.4%となっており、 牛肉
の購入頻度と大きな差異は認められない。 ただ、 「週2回」 の購入世帯をみると、牛肉は
わずかながら増加傾向がみられ、 逆に豚肉は減少傾向がみられることから、 この傾向が
強まるのかどうか今後の調査が注目される。  鶏肉については、 「週1回」 の購入世帯が
67.8%を占め、 牛肉、 豚肉に比べると購入頻度は低い傾向になっている。
  
 (3) 豚肉の購入先
  豚肉の購入先をみると 「スーパー」が61.1%で最も多く、 次いで 「食肉専門店」21.9%、
「生協」 19. 2%、 「デパート」 5. 0%となり、「スーパー」の占める割合が圧倒的に高くな
っている。 牛肉の購入頻度と比べると豚肉同様、 「スーパー」 の占める割合は極めて高く
なっているものの、 豚肉の方が 「スーパー」利用者が牛肉をやや上回っており、逆に 「食
肉専門店」 の利用割合がかなり低くなっている。 なお、 鶏肉も 「スーパー」 からの購入
が58. 3%と他を引き離して多く、 いずれの食肉も「スーパー」 からの購入が若干増加傾
向にある。 
 
2 1世帯・1週間当たりの豚肉の購入数量
  調査対象1週間の購入回数と1回当たりの購入数量より算出した1世帯・1週間当たり
の食肉の種類別購入数量 (表1) から、 豚肉の購入数量の最近の傾向をみてみる。 
 
  5年12月の食肉の1世帯当たり平均購入数量は、 牛肉が629.2c、 豚肉が561.4c、牛
豚ひき肉が197.1c、 鶏肉が477.8cとなり、 牛肉の購入数量が最も多くなっている。し
かし、 図2に示すように、 63年までは豚肉の購入数量が牛肉を大きく上回っていた。それ
が元年には牛肉が590.1c、 豚肉が590.6cとなり、 その差はほとんどなくなった。2年
には牛肉の購入数量が減少したことから、 再び差が開いたが牛肉輸入自由化が実施された
3年には豚肉と牛肉の購入数量が逆転した。 
 
  その後、 4年は牛肉の購入数量が前年より減り、 前年より購入数量の増えた豚肉との差
は縮まったが、 再度逆転することはなく、 5年も前述のように牛肉が豚肉を上回った。 
 
  最近8年間における購入数量の増減を前半の4年間と後半の4年間の対比でみると、 食
肉計では、 前半の4年間は14.1%増えたが、 後半の4年間はわずか0.4%増であり、 単純
な比較ではあるが、 食肉の購入数量の伸びは鈍化してきているといえる。 豚肉についてみ
ると、 前半の4年間は3.5%とわずかながら増えているが、 後半の4年間では▲4.9%と
なり、 消費世帯での消費が減退しているのが分かる。 
 
  一方、 牛肉についてみると、 前半の4年間は29.0%増と急激に増えているが、 後半の4
年間は6. 6%増となり、 購入数量の伸びは前半の伸びに比べると鈍化してきていることが
分かる。 なお、 鶏肉については、 前半の4年間は12.5%増であるが、 後半の4年間は▲
10.6%となり、 わずかに減退している。 
 
  次に、 食肉全体に占めるそれぞれの食肉の構成割合をみると、 購入数量が増加している
牛肉が構成割合も増加しており、 かつては食肉中最も購入数量の多かった豚肉は、 購入数
量の減少に伴い構成割合も次第に減退している。 鶏肉の構成割合は、 豚肉ほどではないが
わずかに減っている。 これをみると、 牛肉の購入数量増加は豚肉に大きな影響を及ぼして
おり、 鶏肉はほとんど影響を受けていないことがわかる。 
 
3 豚肉に対する消費者意識
 豚肉に対する消費者の意識がどのように変化しているかをみることにする。 
  まず、 最近の食肉の価格に対する調査結果 (表2) から、 消費者が豚肉の価格について
どう感じているかをみると、 5年12月調査では、 「変わらない」 と感じている人が73.1%、
「安くなった」 と感じている人が15.6%、 「わからない」 が5.5%、 「高くなった」 と感じて
いる人が5.3%の順になり、 大半の人は豚肉の価格は変化していないと感じている。 
 
 それでは、 牛肉の輸入自由化が決定された直後の63年12月はどうだったかというと、や
はり 「変わらない」 と感じている人が大半を占め、 72.4%と今回調査 (5年12月)とほぼ
同じ割合となっている。 次いで 「安くなった」 と感じている人が18.3%となり、 今回より
2.7ポイント高くなっているものの、 差は大きくない。 また、 牛肉の輸入自由化が実施さ
れた直後の3年12月調査をみると、 このときも 「変わらない」と感じている人が75.3%と
大半を占める。 ただ、 このときは 「安くなった」 と感じている人が63年より大幅に減り、 
「高くなった」 と感じている人が増えているし、 総務庁の「小売物価統計調査年報」 (東京)
をみると、 小売価格は数カ月前からほとんど変わっていないので、 安い輸入牛肉等の影響
により割高感を抱いた人がいたためであろうと思われる。
 
4 最近の豚肉料理の傾向
 調査対象1週間に作った夕食における豚肉料理の出現頻度(豚肉の料理件数を100とした
場合の出現頻度) の推移 (図3) から豚肉料理の傾向をみると、 主な豚肉料理のどれもが
季節的な変動はあるものの、 夕食における出現頻度は横ばいで推移している。 このことか
ら、 家庭における主な豚肉料理に変化はみられず、 従って豚肉に対する消費者の嗜好も変
わっていないといえる。 
 
 以上みたように、 豚肉の消費減退の要因は、 消費者の豚肉に対する嗜好の変化や価格に
対する不満等ではなく、 ひとえに牛肉の消費が伸びたことにあるといえる。

  では、 なぜ牛肉の消費が伸びたのかといえば、 牛肉の輸入自由化により、 輸入牛肉、国
産牛肉ともに以前に比べ価格、 品揃え等において格段に購入し易くなり、 また、スーパー
等のPR効果もあり牛肉に馴染みのなかった消費者も牛肉を購入するようになった。 この
ため、牛肉、 特に輸入牛肉の消費は増加した。 しかし、 牛肉の伸び率が鈍化してきている
ことにもあらわれているように、 一時牛肉に関心の高かった消費者も牛肉消費に対する落
ち着きを取り戻してきており、 今後、 牛肉、 豚肉の消費がどのように展開していくかを予
測するのは難しく、 ここ数年の消費者の購買行動が注目される。 
 

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