食肉消費最前線


 

最近の食肉の消費動向と今後の動きについて、 豚肉を中心として、 大手スーパーの食肉
担当部長にお話を伺いました。 
                       
 (聞き手 企画情報部 安 井  護) 
91年の牛肉の輸入自由化をきっかけに、 牛肉、 豚肉、 鶏肉の食肉3品の消費構造が大き
く変化してきましたが、 消費者に直接接する立場からみて、 その中でも一番大きく変わ
ったものは何でしょうか?

 A: 元々、 消費者は牛肉に高級品というイメージを持っており、 そのため、 自由化前
     のインポートフェアなどでは、 価格を特別に下げた牛肉が飛ぶように売れました。 
     自由化後、 スーパー各社は競って輸入牛肉の価格を引き下げ、 販売に力を入れて
     きた結果、 輸入牛肉だけでなく国産牛肉も価格が下がり、 価格だけを見れば大衆
     肉である豚肉と鶏肉の仲間に入ったことだと思います。 

 
 牛肉の高級イメージが薄らぎ、 豚肉が牛肉に押されているということでしょうか?
 
 A: 牛肉が豚肉のレベルまで、 価格的にも、 イメージ的にも近づいてきたので、 豚肉
     が牛肉に押されていると言えます。 
    自由化前は、 豚肉と牛肉には価格差があったので競合しませんでした。 また、 自
     由化になってスーパーがまず最初に売ったのが、 ステーキカットですが、 これは
     料理方法が違うので、 豚肉とはまだ競合しませんでした。 
    その後、 牛肉の価格が大幅に下がるにつれ、 スーパーはステーキだけでなく、 ス
     ライスも売り始めました。 スライスは、 豚肉と牛肉のどちらでも使える料理が多
     いので、 まともに競合するようになりました。 


 料理方法にポイントがあるようですね?


 A: 牛肉、 豚肉、 鶏肉でそれぞれ、 他の食肉では代替できない料理があります。 牛肉
     のしゃぶしゃぶ、 すき焼き、 ステーキ、 豚肉のしょうが焼き、 豚カツなどで、 こ
     の部分はベースとして変わりません。 
    一方、 炒めものなどに使うスライスは、 価格差がないとすれば、 豚肉の代わりに
     牛肉を使うことが多くなり、 例えば、 関東では肉じゃがに豚肉を使っていました
     が、 牛肉を使うようになってきています。 特に、 牛肉の価格が一段と下がった昨
     年から、 このことを強く感じています。 

 
  この状態が落ちつくまでにはしばらく時間がかかるのでしょうか?

 A: 現在は、 牛肉でも、 豚肉でもどちらでも使える料理の中で、 それぞれが陣地とり
     している段階と言えるでしょう。 この料理には牛肉、 この料理には豚肉というよ
     うに、 使い分けが落ちつけば食肉消費の構成は安定するでしょう。 現在は過渡期
     であり、 しばらくすれば、 現在の関西地区のように食肉の消費が成熟することと
     思います。 

 
  牛肉の販売が伸びているとすれば、 売場面積も、 牛肉が増え、 豚肉が減っているので
  しょうか?

 A: 牛肉売場の商品回転率は上がっているかもしれませんが、 面積割りのベースは大
     きく変えていません。 豚肉、 鶏肉にも需要があるわけで、 需要を一度減らすと回
     復させるのは大変なので、 面積は簡単に変えられません。 

 
  では、 牛肉と豚肉の売り方に差はあるのでしょうか?

 A: やはり、 牛肉の方にチラシや売場のPOPで力を入れています。 以前に比べ薄れ
   たとはいえ、 牛肉にはまだ高級イメージがありますし、 もともと価格弾性値が高
     い商品ですから、 チラシの目玉になっています。 
     ただ、 従来、 牛肉は特売中心で売っていたものを、 最近は通常価格を引き下げて
     販売しています。 また、 ただ安い価格だけでなく、 産地、 ブランド、 おいしさな
     どで商品を差別化し、 販売しているのが最近の傾向です。 
    

  さて、 チルド豚肉の輸入が増えていますが、 輸入豚肉はどのように使っていますか?

 A: シェルフライフが伸びてきて、 非常に使い易くなっています。 スーパーではヒレ
     とロースという特定部位を大量に必要とするので、 その需要に対応できる輸入物
     がどうしても必要です。 当社では、 輸入豚肉は原産地国を表示して、 販売してい
     ます。 牛肉の場合、 和牛、 乳オス、 米国産、 豪州産とある程度の棲み分けができ
     ていますが、 豚肉の場合は牛肉と違って品質に大きな差がないので、 棲み分けは
     難しいかもしれません。 

 
  国産品は輸入物と差別化できないのでしょうか?

 A: 消費者にアッピールするには、 安心、 安全、 産地表示がポイントとなるでしょう。 
     品質の面で挙げれば、 黒豚があります。 他の豚肉に比べて、 単価が高いにもかか
     わらず、 販売量は毎年2割近く伸びています。 消費者も黒豚を理解しており、 定
     着しているといえます。 ただ、 各店の売場スペースやその地域のマーケット特性
     から、 全店には置いていませんが ……。 

 
  価格も下がり、 イメージも変わってきた牛肉に対抗して、 豚肉が健闘するには何が
  必要でしょうか?
 
 A: 従来とは違った豚肉に向いた新しい料理方法の提案が必要です。 例えば、 スペア
     リブ。 日本人には牛肉では大きすぎ、 料理しづらいので豚肉のスペアリブ料理の
     提案はいいアイデアだと思います。 

 
  よく消費者の最近の動向、 消費者の好みの変化などと言われますが、 スーパーを始
  めとする売る側が消費者を動かしている面があるのではないでしょうか?

 A: 商売はお客様の反応を売場で聞くことが基本です。 いくら売る側がよかれと思っ
     て企画しても、 うまく行かないことがあり、 お客様の反応を見ながら、 うまくい
     かない場合はどんどん変えていかなければなりません。 毎日が勝負です。 いくら
     商品を安く提供しても、 お客様の方に受け入れるニーズがなければ、 空回りに終
     わります。 
    安くすれば売れるという単純な時代ではありません。 価格だけに訴えるのではな
     く、 売る商品にプラスαが必要です。 価格を下げても、 翌日にはそれが当たり前
     になって、 それ以上のことが求められるというのが、 最近の食肉売場からみた消
     費動向かと思います。 

 

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