★ 巻頭言


21世紀に向けた畜産構造の実現を!

                          農林水産省畜産局長  高 木 勇 樹


 この4月に畜産局長に就任いたしました。 
 20年ぶりの畜産局勤めとなりましたが、 この間、 我が国の畜産は、 食生活の多様
化等を背景として着実な発展を遂げ、 我が国農業の基幹的部門に成長してまいりま
した。 
 
  しかしながら、 最近の畜産をとりまく状況は、 従事者の高齢化、 新規就農者の減
少、 山村等における過疎化の進行等がみられる中で、 需給面では、 需要の伸びが総
じて鈍化し、 需給の不均衡、 価格の低迷といった事態を招来しやすい状況となって
おります。 
 
  加えて、 昨年12月には、 ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉が実質的に合意をみ
たところであり、 今後、 乳製品の関税化や畜産物の関税引下げを余儀なくされたと
ころであります。 
 
  今後の畜産の発展にとって、 極めて重大な局面に局長を拝命したわけであります
が、 今後の畜産施策について所信の一端を申しあげます。 
 
  もとより、 我が国の畜産は、 国民生活に欠かせない食肉や牛乳等の安定供給とい
う基本的な使命に加えて、 地域社会の活力維持、 国土や自然環境の保全等の役割を
果たしております。 
 
  このような重要で多面的な役割を担う畜産について、 長期的な展望の下に魅力あ
る産業として確立するとともに、 安全な畜産物の安定的な供給を図るため、 先に策
定された 「新しい食料、 農業、 農村政策」 の方向に即し、 21世紀に向けた畜産構造
を早期に実現できるよう努めてまいりたいと考えております。 
 
 また、 ウルグァイ・ラウンド合意の実施に伴い、内外の情勢の変化等を踏まえ、今
後の国際化の進展に耐え得る畜産の確立のための方策につきまして、 昨年12月に閣
議了解された 「ガット・ウルグァイ・ラウンド農業合意の実施に伴う農業施策に関
する基本方針」 に沿って設置した 「緊急農業農村対策本部」 において検討の上、 農
政審議会における議論等を踏まえつつ、 逐次、 具体化に向けて万全を期していくこ
ととされ、 このため、 現在、 色々な部署で検討が行われております。 そして、肉用
子牛生産者補給金制度及び加工原料乳不足払制度の適切かつ円滑な運営を図るとと
もに、 肉用子牛等対策を適切に実施していくこととしております。 
 
  さらに、 平成6年度においては、 以下の施策を重点に講じていくこととしており
ます。 
 
  第1に、 大家畜畜産の振興であります。 酪農及び肉用牛生産は、 国土資源の有効
利用を図る上で、 あるいは今後の地域農業の展開や農山村の振興を図る上で、 その
果たす役割がますます重要なものとなってきており、 今後とも、 我が国の土地利用
型農業の基軸として位置付け、 長期的な視点に立ってその健全な発展を図る必要が
あります。 
 
  このためには、 生産性の向上と経営体質の強化を図ることが喫緊の課題となって
おり、 飼料基盤の整備、 経営規模の拡大、 経営の効率化等による低コスト化等を推
進し、 消費者ニーズに対応した合理的な国内生産の振興に努めてまいりたいと考え
ております。 
 
  特に、 平成6年度においては、 良質な牛肉の生産を推進するための肉用牛の品質
向上対策、 酪農労働時間の短縮、 乳牛の栄養改善等を図るための新飼料給与システ
ムの普及推進等を新たに実施してまいりたいと考えております。 
 
  第2に、 飼料対策であります。 今後の大家畜畜産経営の安定的な発展のためには、
飼料自給度の向上を基本として、 粗飼料生産性向上等により飼料費の低減を図るこ
とが重要であり、 このため、 草地の造成・整備を計画的に推進するとともに、 草地
における自給飼料生産の拡大を図るための総合的な整備に努めてまいりたいと考え
ております。 
 
 一方、 濃厚飼料については、 我が国は、 飼料穀物の大部分を輸入に依存しており、 
米国等主要生産国の農業政策や気象条件その他の不確定な要因による影響を受けや
すい体質にあることから、 その供給及び価格の安定を図ることが重要であります。 
このため、 飼料穀物の安定的な輸入と備蓄の推進及び配合飼料価格安定制度の適切
な運用に努めてまいりたいと考えております。 
 
 第3に、 畜産物の価格安定対策等であります。 適正な畜産物価格の形成は、 畜産
経営の安定に資するだけでなく、 畜産物需要の拡大にとっても不可欠なものであり
ます。 このため、 引き続き、 各種の価格安定制度の適切な運用に努めてまいりたい
と考えております。 また、 流通・加工の合理化及び近代化のための施策を推進する
とともに、 消費拡大対策を推進してまいる所存であります。 
 
 第4に、 家畜改良増殖対策と畜産新技術の開発・実用化であります。 我が国畜産
の安定的発展を図るためには、 家畜の能力向上を通じた生産性の向上と経営体質の
強化が重要となっております。 このため、 牛群検定の実施等をはじめとする家畜改
良増殖対策を推進するとともに、 受精卵移植、 雌雄産み分け等の畜産新技術につい
ては、 我が国畜産の未来を切り拓く方策として、 その水準の向上と普及・定着の促
進に一層努力してまいりたいと考えております。 
 
 第5に、 家畜衛生対策と畜産物の安全性の確保であります。 多頭化、 集団化等飼
養形態の変化に応じた家畜衛生対策の確立に努めるとともに、 畜産物の安全性に対
する社会的関心の高まりに対応して、 飼料、 飼料添加物、 動物用医薬品等について、 
安全性・有効性の確保、 使用の適正化を図るための諸対策を推進してまいる所存で
あります。 
 
 第6に、 畜産環境対策であります。 家畜ふん尿の適正な処理及び耕種農業におけ
る堆きゅう肥利用を促進するとともに、 畜産経営の周辺環境の整備等を推進するほ
か、 新たに水道水源周辺地域等において、 高度な家畜ふん尿処理施設を緊急に整備
してまいりたいと考えております。 
 
 以上申し述べました諸施策を円滑かつ効率的に実施し、 我が国畜産の一層の発展
を図っていくためには、 関係各位の御理解と御努力によるところが大であることは
申すまでもありません。 
 
 皆様の御理解と御支援を賜りますよう、 よろしくお願いいたします。  


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