◎巻頭言


転換期に差しかかった世界の飼料穀物

社団法人 東京穀物市況調査会 理事長  児 玉 一 彌



 アメリカ農務省の11月発表の世界飼料穀物の期末在庫予想によれば、 1995/96年度末には
8千9百万トンで消費に対する在庫の比率は10.7%と、 1993年アメリカ中西部の大洪水によ
る減産時の14. 7%、 1994年のアメリカ大豊作時の15. 7%に較べ大幅な落ち込みを示してい
る。 これは今までの最高の在庫率であった1986/87年度の29.5%に対して、 10年間で3分の
1になってしまったことになる。 特に1995/96年度はアメリカのトウモロコシの期末在庫率
が9. 8%と予想されているが、 1994/95年度末の21.6%に比べると一挙に半分以下に落ち込
んでおり、 期末に流通在庫を含めて一カ月分しかない大変に危機的な様相となっている。 

 今回の飼料穀物の逼迫した需給情勢はシカゴ商品取引所価格にも反映し、 昨年の今頃ブッシ
ェル当たり2.30ドルしていたトウモロコシ期近物の値位置が、 今では3ドルを超え4ドルに向
かっている。 今回の特徴は需給の逼迫とこれに伴う世界の価格上昇が単に飼料穀物のみでなく、 
小麦・大麦・大豆からコメまであらゆる品目に

  わたっていることである。 同じアメリカ農務省の予想した期末在庫率で見ると、 穀物全体 (
コメ・小麦・飼料穀物合計) では1994/95年の16.8%から一挙にFAO (国連食糧農業機関) が
最低の安全な線といっていた17%を大きく割り込んで13.1%となってしまったし、 大豆も16.3
%から12.7%となり、 この需給の逼迫により小麦・コメ・大豆みんなそろって価格が前年同期
より50%近く上昇している。 

 今までの穀物価格の世界的上昇は、 1983年のアメリカの干ばつ、 1993年アメリカ中西部の洪
水によるトウモロコシ・大豆の高騰、 1993年日本のコメ不作による200万トンの緊急買い付け
による急騰など、 異常気象による生産サイドの支障が原因で需給が逼迫し価格が上昇しており、 
その際は被害を受けた特定の穀物価格に影響がでていた。 ところが今回は、 特定の穀物だけの
値上がりでなく世界の穀物全般にわたる値上がりであること、 また1994年度のアメリカにおけ
るトウモロコシの大豊作にもかかわらず、 強い需要に支えられてローン価格を割るような大き
な価格の落ち込みを見せなかったことなどからして、 今まで供給サイドが誘因していた世界の
穀物需給とそれに見合う価格動向が、 ここへきて需要サイドがイニシアチブをとるようになっ
てきたように見受けられる。 

 中国をはじめ東南アジア諸国のGDPの伸びはそれぞれ年率10%、8%と高く、 それに伴い所得
増加ならびに人口の都市への集中による食生活の変化は、 肉やパン、 ウドンなどの消費を増加
させている。 同様の傾向は中南米でも見られ、 最近の世界的高値にもかかわらず強い買い意向
を示す一方、 中国やタイで見られるように、 今まで大量に日本・韓国・東南アジアなど近隣諸
国に輸出されていたトウモロコシなどは、 国内需要をみたすにもなお不足する様になり、 タイ・
中国自身のみならず、 供給を受けていた近隣諸国も共に供給源を求めてアメリカに殺到したこ
とが、 今回の世界の価格高騰の様相である。 

 このような発展途上国からの食用需要・飼料用需要の増加のみならず、 先進国においても、 
石油と違い再生産可能な資源としての農産物の工業用原料需要が漸次増えてきていることも見
逃せない。 例えばアメリカにおけるトウモロコシより作られる異性化糖、 ガソリンに混入され
るエタノール、 ヨーロッパでの菜種油の動力エンジン稼働油としての利用などが顕著になって
きている。 

 この10月に収穫を迎えたばかりなのにこんなに高値を付けた相場は、 来年の端境期に向けて
どんなレイショニング (値上がりにより需要を押さえ需給を調整する市場現象) を起こし、 ど
こまで価格を押し上げるか。 次に世界特に発展途上国の人口増加をも考え合わせると需要が更
に増加して行くと見られるのに対し、 今検討されているアメリカの1995年農業法やヨーロッパ
のCAP (共通農業政策) の見直しが、増大している今後の世界の穀物需要を十分に賄ってくれる
か、 今の逼迫した情勢を一過性と見るには余りにも根が深い問題ではないかと思えてならない。



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