★農林水産省から


「牛肉・豚肉の需給・価格の動向と7年度下期の見通し」

 

 農林水産大臣官房調査課  菊池 淳志


  去る6月9日に公表された「平成7年度農業観測」を補完するため、畜産物需給動向
検討会が開催され、7年度下期の需給・価格の見通しについて検討が行われた。ここで
は牛肉と豚肉の需給・価格の動向及び下期の見通しについて、その概要を紹介したい。

 なお、本文中の変動の幅を表す用語は次の通りであり、特に断り書きのない限り前年
同期(前年度、前年同月等)に対するものである。


[変動の幅を表す用語]

わずか・・・・・・±2%台以内
やや・・・・・・・±3〜5%台
かなり・・・・・・±6〜15%台
 かなりの程度・・±6〜15%台
 かなり大きく・・±11〜15%台
大幅・・・・・・・±16%台以上
1 牛肉 
 (1)消費

 最近の国民1人当たりの牛肉消費量(供給純食料ベース)をみると、食料消費の外部
化・サービス化が進展するなか、安価な輸入牛肉の出回り量が増加していること等を反
映して加工・外食等消費量が高い伸び率を示している。また消費の4割強を占める家計
消費量についても、牛肉嗜好の高まりや小売価格が低下していること等から増加してい
る。このようなことから、7年4〜9月間は、加工・外食等消費量が前年同期に比べ
10.0%増、また、家計消費量が3.3%増となり、全体では7.1%増となった。

 次に、国民1人当たりの消費量を国産品、輸入品別にみると、輸入品については、国
産品に比べ安いこと等から輸入数量が増加してきたこと等を反映して消費者が増加して
おり、7年4〜9月間は前年同期に比べ12.9%増とかなり大きく増加した。一方、国産
品は、最近の国内の牛肉生産量がほぼ横ばいで推移していること等を反映してほぼ横ば
いで推移しており、7年4〜9月間は1.6%減となった。しかし、国産牛肉については
、従来に比べ消費者が割安感をもつようになったこと等から、販売に力を入れている量
販店等もみられるようになっている。

 7年度下期の牛肉の消費量は、牛肉の小売価格の低下、輸入牛肉の出回り量の
増加等からやや増加すると見込まれる。


(2)供給

@ 国内生産

 成牛と畜頭数を種類別にみると、7年4〜9月間は、肉用めす牛が増加したものの、4
年度以降の子牛価格の低下を反映して、子牛生産頭数が減少傾向で推移したこと等から肉
用おす牛が減少に転じ、肉用種全体では0.3%増にとどまった。一方、乳用種は、乳用肥
育おす牛は増加したものの、生乳生産の回復を図るため乳用めす牛のと畜が減少したこと
等から4.1%減となった。この結果、成牛全体のと畜頭数は2.3%減となった。
 
 また、こうしたと畜頭数の減少から、成牛の枝肉生産量は0.5%減となった。

 7年度下期の成牛と畜頭数は、おおむねこの時期に出荷を迎えるとみられる子牛
の生産動力(肉用種は出荷時から約29か月前、乳用種は出荷時から約21か月前の子
牛の生産動向)等からみると、肉用種は前年同期並みと見込まれ、乳用種は、乳用
肥育おす牛が前年同期並みとみられるものの、生乳の増産を背景とした乳用めす牛
のと畜頭数の減少によりわずかに減少すると見込まれることから、全体ではわずか
に減少すると見込まれる。また、成牛枝肉生産量は、成牛と畜頭数がわずかに減少
することから、わずかに減少すると見込まれる。
 

A輸入

 7年4〜9月間の牛肉の輸入数量は、需要が引き続き堅調なこと、円高の進行により輸
入価格が低下したこと等から冷蔵品、冷凍品とも増加し、全体では19.7%増となった。特
に、冷凍品については、7年4〜6月間の輸入数量が前年同期の117%を超えたことから、
関税暫定措置法の規定に基づく緊急措置が発動され、8月以降7年度末までの関税率が
48.1%から50%に引き上げられた。また、このような輸入数量の増加により在庫水準が高
くなっている。
 
  7年度下期の牛肉の輸入数量は、消費量がやや増加すると見込まれる一方、国内
生産量がわずかに減少すると見込まれること等から前年同期に比べ増加するものの、
在庫水準が高いこと等から上期に比べ伸び率が鈍化し、やや増加にとどまると見込
まれる。

 なお、今後とも、輸出国における生産・価格の動向、為替相場の動向等を注視していく
必要がある。



(3)価格

 去勢和牛の枝肉卸売価格(東京)は、3年度以降、景気の影響により需要が低迷するな
かで国内生産量が増加したこと等から前年度を下回って推移している。取引規格別(A−
3規格以上)にみると、3年度、4年度は、特定の需要に支えられた上位規格のものに比
べ、輸入牛肉との競合等から低位規格のものほど低下傾向が顕著に表れた。その後はいず
れの規格も安定的に推移したものの、7年4〜9月間は、景気回復の足踏み状態が長引く
なかで、割安感のある低位価格規格のものより上位規格のものの価格の低下が大きくなっ
ている。

 一方、乳用肥育去勢牛(東京)についてみると、輸入牛肉との競合による影響から2年
度以降低下傾向で推移している。取引価格別(B−3、B−2規格)では、特に規格が低
いものほど影響が顕著に表れた。しかしながら、量販店等において従来に比べ消費者が割
安感をもつようになった国産牛肉の販売に力を入れていること等もあって、最近ではB−
3がおおむね安定的に推移し、B−2は低下率が鈍化している。

 省令規格の枝肉卸売価格でみると、輸入牛肉との競合等から低下傾向で推移しており、
7年4〜9月間は1.4%安とわずかに低下した。

 7年度下期の牛枝肉卸売価格(省令規格)は、消費量がやや増加すると見込まれ
る一方、供給面では、国内生産量がわずかに減少すると見込まれるものの輸入数量
がやや増加すると見込まれ、また、在庫の取崩しが進むと見込まれること等から、
ほぼ前年同期並みと見込まれる。

 

2 豚肉
(1)消費

 最近の国民1人当たりの豚肉消費量(供給純食料ベース)をみると、食料消費の外部化
・サービス化の進展がみられるなか、景気動向や気象変動等の影響も加わり、家計消費量、
加工・外食等消費量は、加工仕向量が増加したものの、その他の業務、外食向けの需要が
低迷したとみられることから1.8%減となり、全体では0.2%増にとどまった。

 次に、国民1人当たりの消費量を国産品、輸入品別にみると、国産品は、近年国内の生
産量が減少していること等を反映して消費量が減少しており、7年4〜9月間は6.1%減
とかなりの程度減少している。一方、輸入品は、特に冷蔵品の輸入数量が増加しているこ
と等を反映して増加しており、7年4〜9月間は11.9%増とかなり大きく増加した。

 7年度下期の豚肉の消費量は、近年はほぼ横ばいで推移していること等から、全
体では上期に引き続き前年同期並みと見込まれる。



(2)供給

@ 国内生産

 7年4〜9月間の肉豚と畜頭数は、引き続き子取り用めす豚頭数が減少していることに
加え、前年及び今年の猛暑の影響により出荷頭数が減少したことから7.2%減となった。
 また、豚枝肉生産量は、こうした肉豚と畜頭数の減少により6.3%減となった。

 7年度下期の肉豚と畜頭数は、飼養農家戸数の減少に伴い子取り用めす豚頭数が
引き続き減少していること等から、わずかに減少すると見込まれる。
表3 豚肉の生産量(単位:千頭、kg/頭、千トン、%)
  実数 対前年度(同期)増減(▲)率
5年度 6年度 7(4〜9月) 5年度 6年度 7(4〜9月)
肉豚と畜頭数 19,168 18,439 8,314 0.3 ▲3.8 ▲7.2
枝肉生産量 1,438 1,377 619 0.4 ▲4.3 ▲6.3
1頭当たり枝肉重量 75.0 74.7 74.5 0.1 ▲0.4    1.1
資料:農林水産省「食肉流通統計」


 
A 輸入

 7年4〜9月間の豚肉の輸入数量は、国内生産の減少を背景に冷蔵品が29.3%増加し、
また、加工向けの需要の増加等により冷蔵品も13.4%増加したことから、全体では、17.8
%増と大幅な増加となった。このため、輸入品の在庫量が増加しており、8月末の期末在
庫量は全体で10万トンを超え、また、10月には約11万5千トンもの豚肉が輸入されたこと
から、10月末の期末在庫量は15万8千トンとこれまでにない高い水準となった。

 なお、7年4〜9月間の輸入数量が前3ヵ年(同期間)の平均の119%を超えたことか
ら、関税暫定措置法の規定に基づく緊急措置が発動され、11月以降7年度末までの基準輸
入価格が460.01円/kgから568.90円/kgに引き上げられた。

 7年度下期の豚肉の輸入数量は、国内生産量がわずかに減少するとみられるもの
の、基準輸入価格の引き上げにより輸入価格が上昇するとみられること、在庫水準
が輸入の増加により高くなっていること等から、前年同期に比べかなり減少すると
見込まれる。ただし、国内の価格水準等により変動することも考えられ、今後の動向を
注視していく必要がある。
表4 豚肉の輸入数量(単位:千トン、%)
  輸入数量、冷蔵品割合 対前年度(同期)増減(▲)率
5年度 6年度 7(4〜9月) 5年度 6年度 7(4〜9月)
全体 454.8 503.0 300.2 ▲2.6 10.6 17.8
冷蔵品 121.7 141.1 91.0 7.0 16.0 29.3
冷凍品 333.1 361.9 209.1 ▲5.8 8.7 13.4
(冷蔵品割合) 26.8 28.1 30.3
台湾 202.7 241.3 139.1 ▲0.9 19.0 17.3
冷蔵品 73.4 80.8 45.9 ▲5.6 10.1 11.1
冷凍品 129.3 160.5 93.2 2.1 24.1 20.6
(冷蔵品割合) 36.2 33.5 33.0
デンマーク 133.0 133.2 70.0 ▲10.6 0.1 ▲4.7
冷蔵品 0.1 0.6 0.1 533.4 303.0 ▲59.6
冷凍品 132.8 132.6 69.8 ▲10.7 ▲0.2 ▲4.6
(冷蔵品割合) 0.1 0.4 0.2
アメリカ 68.0 75.3 55.5 1.5 10.7 49.8
冷蔵品 44.5 53.8 40.9 33.3 20.9 57.3
冷凍品 23.5 21.5 14.7 ▲30.1 ▲8.4 33.0
(冷蔵品割合) 65.4 71.4 73.6
資料:農大蔵省「貿易統計計」
注:冷蔵品割合=冷蔵品/(冷蔵品+冷凍品)×100
 
(3)卸売価格

 7年4〜9月間の豚枝肉卸売価格(省令規格)は、国内生産量が減少したこと等から6
月までは前年同月を上回ったものの、輸入数量の増加により在庫が高水準になったこと等
から、7月以降は価格が高騰した前年同月を下回って推移しており、期間平均では前年同
期に比べ0.5%高となった。
 
 7年度下期の豚枝肉卸売価格(省令規格)は、国内生産量、輸入数量とも減少す
るとみられること等から、価格が低迷した前年同期に比べややないしかなり上回る
と見込まれる。ただし、基準輸入価格が引き上げられたこと、在庫水準が高いこと等こ
れまでにない価格の変動要因もあることから、今後の動向を注視していく必要がある。


元のページに戻る