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 「いま、消費者が望むもの」      

 

 日本生活協同組合連合会 常務理事  布藤 明良


  畜産振興事業団は、10月12日〜13日に東京で、事業団の出資者等を対象に経営
者研修会を開催しました。当日行われた講演の中から、生協の活動に長年携わってきて、
消費者の動向に詳しい布藤明良氏の「いま、消費者が望むもの」の一部を紹介します。
消費者が関心を示している四つのもの
  消費者の行動に大きく影響しているものが四つあります。それは、環境によいもの、
健康によいもの、安いもの、そしておいしいものです。



環境にいいもの

 これまではタテマエに過ぎませんでしたが、今日、本質的なものになってきているの
が「環境にいいもの」です。
 
 なぜ「環境にいいもの」かというと、環境をテーマとした運動も4年、5年続いてき
て、この課題は1人だけで努力してもしょうがない、ということに気付き始めたのです。
 
 その一つの例が、ビン牛乳です。都市部でビン牛乳の配達が再び広がりつつあります。
当初、日本の社会が高齢化していく中で、女性の健康も含めて骨粗しょう症の心配が広
がってきました。そこで手っ取り早いカルシウムの摂取には牛乳がいちばんいいと、牛
乳の需要が伸びかけました。ただ、それだけでなく、「ビンのリサイクルが進んできた
ことが、ビン牛乳の普及の底上げをしている大きな原因です」ということを多くの組合
員から言われました。
 
 当初の「健康にいい」ということプラス「環境にもいい」というこの二つが、まだ小
規模でありますが、ビン牛乳の配達を復活させ、広げているのです。さらに、配達だけ
でなく、会員制で「私は何曜と何曜、ビン牛乳を買います」と、牛乳が残らないように
店舗に置く方式が、少し増えだしました。配達するだけでなく、ビン牛乳を確実に購入
するメンバーを編成し、店舗にメンバーだけのコーナーをつくっていくという方向へ着
手したのです。健康のためのカルシウム摂取と、環境・リサイクルということが一致し
て、ビン牛乳の需要が伸びてきているのです。
 
 ただ、いま、目が向いているのは生活環境の部分です。要するに自分が住んでいる身
の回りのゴミとか下水、水とか、そういう範囲です。タテマエではよく自然環境のこと
をいいますが、本質のところでは、自分の身の回りでない、遠い存在である自然環境ま
で考えるには、まだちょっと時間がかかるでしょう。
 
 この自然環境にいまの消費者が真剣に目を向けだしたときには、生産基地の問題とか
、生産のあり方に対して従来以上に消費者の見る目は厳しくなっていくでしょう。既に
そういうことを言っている人もいますが、一般の消費者の認識のなかではまだまだタテ
マエプラス知識的な部分であって、自分の行動をそこへ移すという段階までにはいって
いないと私は見ています。しかし、いずれ河川とか森林、それから自然を使って生産す
る農業の環境への影響については、これまで以上に厳しい目を消費者は向けるようにな
るのではないかと思います。


健康にいいもの

 消費者の関心の二つ目は「健康にいいもの」です。当たり前といえば当たり前ですが、
「健康にいいもの」というところへ消費者の関心はどんどん入り込んできています。
消費のあり方はきわめて堅実ですが、堅実であっても、特に女性は「健康にいいこと」
と「美容にいいこと」に圧倒的に注目しますね。たとえ消費が堅実な方向に向かっても
、金に糸目つけないとは言いませんが、金で健康が買えるんだったら高いとは思ってま
せん。

 本当に「健康にいい」、どれよりもいいというものがあれば、少々高くても手を出す
のは間違いないと思っています。やはり、健康と美容については、男性の想像以上に強
いものが女性にはあります。この点で本当に健康にいい商品が生まれて、他と差別化、
差異化ができれば、絶対に価格の問題よりも優先されるものと思います。


安いもの

 関心の高いものとして、三つ目はなんといっても安いもの。これは、ぼつぼつ本質を
見極めだしたのではないかと思います。安けりゃいいということから、やっぱりおいし
くって安心できるもののウェートが少しずつ高まりつつあります。確かに一時期、消費
者は安いものを求める方向へ行きましたし、今でも多くの方は、「安いものはよく売れ
る」ということで動いています。価格破壊ということで動いています。価格破壊という
ことでいろんな情報が乱れておりますが、やはり消費をリードする人は、その安さのな
かに本質を見極め、少々高くても安心できるもの、おいしいものへと志向を変化させて
いくのではないかという気がします。


おいしいもの

 四つ目は、これが一番今強い関心事ですが、「おいしいもの」です。10人中9.9人
まで、「本当のところを言うと、おいしいものが少なくなった」と思っています。意外
とアンケートなどでは、この意見はでにくいんです。何かカッコつけて、「環境に素晴
らしくて」とか「安全で」とか「自然栽培で」とか言います。しかし、消費者が行動に
移す場合、絶対的に強いのはやはりおいしいものに間違いありません。なぜかというと
、食の満足はやはりおいしさにあるわけです。どういっても、消費者も、実はそこがホ
ンネのところで、実際の行動はおいしさを求めて行動しています。

消費の中の新しい価値観
 新しい価値観が消費のなかに見え始めたような気がしています。バブル経済の崩壊以
降、消費が非常に熟成し、堅実になりました。これはもうおそらく変わることはないで
しょう。特に私は神戸が地元ですから、あの震災を経験した人は、ちょっとやそっとじ
ゃ動きませんね。

 わが家も震災で皿がほとんど割れましたが、もう買いません。「必要なものだけあれ
ばよい」ということです。本は全部捨てました。要るときに買って、あとはもう読んだ
ら全部捨てる。家に並べておくようなむだなことはないという主義になりました。皿だ
けかと思ったら、いつも買い過ぎて、冷蔵庫でものを腐らせていたんですね。それが必
要な分しか買わなくなって、使い切っていくという主義に変わってきた。聞きましたら
、震災を受けた人というのは意外とそうゆう人が多いんですね。成熟してきたというこ
と、堅実ということ、消費が本質に向かったのかなという気がします。
 
 消費の幅が広く、百人百様ということが言われますが、自分流のスタイルがどんどん
広がってきています。ただ、生活に対する考え方というか、価値というか、これは女性
と男性はかなり違います。30歳代までの男性の場合、いちばん生活の価値をまだ仕事
に置いているケースが多い。しかし、これも昔と違って半分以下で、本当に生き甲斐と
いうことを考えると、友だちとか健康とか言います。それには仕事は勝ちません。

 女性は圧倒的に仕事ではなくプライベートな生活と言います。「私は健康や、だから
お父さんは早く保険に入れておかないかん」とかね。ホンネで言うとそういうところが
即座に返ってきます。「いつまでも付き合える友だちをちゃんとつくっておかなければ」
という、いちばんの価値をそういうところに置いているのです。

変わりつつある消費行動
 消費者の動向を話すときに、例えば年齢とか職業とか年収とかで一くくりできない時
代に入ったんだと思います。例えばステーキは年収の高い人が食べるというわれわれの
常識があります。今やそうじゃないですよね。若い人はこうで、高齢者はこうでという
ことも一概に言えなくなった。むしろ40歳以上の人のほうが、はるかに若返り志向が
強いです。そうすると、そういう年代の若返り志向、特に女性の若返り志向をくすぐっ
たら、今の若い20歳代の女性なんか蹴散らかしてでも消費を喚起する力を実は持って
いるということです。これを食べて美容にいい、健康にいい、そこまでいかなくても、
「簡単においしくできる」ものでもいい。いろんな目標がありますが、意外と若返り志
向は強いものです。

 逆に若い層は保守的な人が多いんです。新しいものにどんどん飛びついているようで
すが、お金もないということもあり、意外とあちこち手を出しそうで出さない保守的な
人が多い。だから固定的に「若い層はこれで、高齢者はこうで」と考えるのは間違えて
いる。それぐらい生活に対する考え方、消費に対する行動は変わりつつあります。

 最終的には、本当にほしいものというのは、それを使って幸せを感じるか、嬉しく感
じるか。着るものであれば、ものすごく楽しい、すごいよと、人にしてやったりと言え
るようなものであるのかどうか。安くて、しかもセンスが良くて。しかし、衣料品には、
これまでの経験から、「安もの買いの銭失い」ということもまだ生きつづけています。
食べるものであれば、これが美容につながって、健康につながるというようなもの。
自分自身の心に秘めたものを積み重ねていく、そうゆうところをくすぐるような商品で
あるかどうか。要するに、最終目標はだれでも自分が健康で、幸せになるかどうかとい
うことです。そのために食べ物をどんな形で選んでいくかということにつながっている
と思います。

 おいしいものを作るのは当然ですが、おいしさだけでは絶対に飽きられるし、退屈し
ていくわけです。そこで何か人間の最大目標である楽しく幸せに感じる点をくすぐるよ
うな、食べ物ではむずかしいかもしれませんが、そこへつながっているということを消
費のなかへ位置づけることがこれからは重要な課題だと思っています。
新しいマーケティングは
 商品の提供の仕方、マーケティングのあり方ということを私なりに消費者と話して考
えることは、本当に消費者の実際の暮らしを見て商品づくりをするということを真剣勝
負でやり切れていたかどうかということです。これまでは、消費が例え一時的に落ちる
ことがあっても、長期的には伸びてきました。

 これまでの成長の要因を三つあげると、一つはやはり収入の増加。二つ目は曲がりな
りにも人口とか世帯数は、増えてきたこと。三つ目は、それにつれて価格が上がってき
たことです。給料は徐々に上がってくる。また、将来も日本は経済が発展して上がるも
んだと思っていたから、将来への不安を今ほど感じなかった。いま、この三つが完全に
止まったわけです。ものに対する考え方、消費に対する考え方もころっと、大きくうね
りを起こして変化しています。収入が増えてきた、人口、世帯が増加してきた。それで
昨年体比で数値を見ながらわれわれは経営をやってきた。数年前からこの三つが完全に
止まってしまった。

 そうすると、とにかく売れるものをつくる。売れるものをつくるためにはどうしたら
いいかといったら、本当の生活、本質はどこにあるのかということを徹底して探る以外
にないということに向かっているのではないかと思っています。そのためには、コスト
のかかる多品種少量を色を変え品を変えて出さないと、なかなか1品でヒットというの
はむずかしい。一方で、経営はまさにコスト削減をして効率経営をしなきゃいかんとい
う、非常にむずかしい状況なのです。
理性的行動への変化
 非常に困ったのは、「価格破壊」がここ数年、広がったということです。経営コスト
とか生産コストを考えなきゃいかんと思った矢先、それより先に消費行動が低価格志向
へと走り、低価格志向を仕掛けた業界の経営のほうが追いつかなくなった、そのための
改革も追いつかなくなったという問題で、苦しんでいます。これらが商品を消費者に提
供していく上で非常に厳しい課題です。数量を増やすということは無理なわけですから、
どこかのをどう取っていくか、どう食生活を変えてもらうか、ということ以外にないと
思っています。

 ただ言えることは、いちばん先に消費者が行動するのは情緒的行動ですから、好き嫌
いかでまず動きます。だから、うまいといったら、やはりパッと動きますよね。それか
らこれは気に入ったと思ったら、さーっと消費を起こします。やはりどんな時代になっ
てもいちばん先の消費者の行動というのは情緒的行動です。

 その次に理性的行動。これがどのぐらいのパーセンテージでいくのかよく掴めません。
「いや、そう言うても、これは環境にいいのよ」とか、「これは日本の農業のためにい
いのよ」とか言う人もいますが、現実の消費行動に影響していくのは非常に穏やかです。

 どこまでそのパーセンテージが占めるかわかりませんが、これは私たち生協の消費者
運動の重要な課題の一つです。私たちの力不足で、今はまだまだホンネのところでは情
緒的行動に走り回っている消費者が多いことも事実です。

 しかし、ぼつぼつ環境とか安全という面に、特に安全については理性的行動にかなり
ウェートがかかりつつあります。そのパーセンテージはせいぜいまだ20〜30%かな
という気がしています。そういうことに配慮した製造のあり方、商品のあり方というも
のを考える必要があるのではないでしょうか。

 理性的行動というのは、正しいか悪いかというような判断をします。品物はおいしく
てどんなに努力して作ったものでも、例えば物差しを環境で当てはめると、環境にちょ
っと悪いと、「これは悪い」となってしまう。一般的にみんな広がるとは思いませんけ
れども、これからの製品づくりを考えるに当たっては、非常に恐い部分、そこのところ
を放っていけない課題であると思います。

 
 
 

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