社団法人 家畜改良事業団 電子計算センター 企画課長 風間 辰也
1 家畜改良事業団とは
社団法人家畜改良事業団は47都道府県と中央農業団体を会員とする公益法人で、昭 和46年に発足しました。(昭和46年に発足した財団法人を改組したもの。) 現在、職員数は178名で、家畜の改良の推進を担うことを目的として、次のような 業務を行っています。 @ 優良検定済種雄牛の作出(計画交配による候補種雄牛の生産及び後代検定による優 良種雄牛の選抜) A 広域人工授精センター及び家畜バイテクセンターにおける人工授精用精液及び受信 卵の生産または購入、及び配布 B 家畜の能力検定及び検定成績のとりまとめ C 家畜の血液型検査及び繁殖技術の研究開発
D 家畜の改良に関する調査研究と普及活動2 牛群検定事業の概要
(1)牛群検定とは
家畜改良事業団が行う業務の一つに牛群検定事業があります。 酪農の生産現場からは、毎日、極めて多岐に渡るデータが発生しています。 その中から乳量、乳成分、飼料給与量、繁殖記録といったデータを月に1回、牛1頭毎 に記録することが牛群検定です。 今から100年前の1895年1月にデンマークの片田舎で始まった乳牛の泌乳能力 検定は、今世紀に入ると、たちまち先進農国に広がり、今日では、それぞれの国の酪農 を支える、重要な基盤事業となっています。 わが国の牛群検定は、昭和50年(1975年)2月に開始されました。デンマークから 約80年遅れてのスタートということになり、以来、20年が経過しています。(2)牛群検定の必要性
ガット・ウルグアイラウンド農業交渉の合意により今年から全ての乳製品が関税化さ れました。また、カレントアクセスとして、国内の需要に関係なく、原料乳換算で約14 万トン(消費量の約2%)が輸入されることなりました。この14万トンという数字は 決して小さくない数字であると思います。2000年までの輸入数量はそれほど大きく変わ らないでしょうが、やがては輸入乳製品の価格が下がることは明らかです。 このような情勢の中にあっては、いかに計画的に、かつコストを下げて高品質な生乳 を生産するかが大きな課題であると考えられます。 牛群検定はそのための手段として最も効果が上がる事業であると思います。 乳用牛の改良のために始まり、正確なデータを継続的に生み出す牛群検定は、乳用種 雄牛の後代検定(個体の能力をその子の成績から推定すること)、雌牛の能力評価はも ちろん、今や、高位生産をキーワードとして展開される、我が国酪農の、重要な基盤形 成事業としての責任を負っていると言っても過言ではありません。 海外に目を向けると、検定発祥の地ということもあり、ヨーロッパ諸国はどこも高い 検定加入率を誇っています。とりわけ、EUの中の2大乳製品輸出国であるデンマーク 、オランダの1993年におけるデンマーク、オランダの1993年における検定牛率は、それ ぞれ83%、77%といった状況です。 両国とも、1984年に導入されたクオータという生産割当制のもと、牛群検定情報をフ ルに利用して、経営内容の改善、乳質のチェック、個体管理、遺伝的な改良等に取り組 んでおり、「いかにコストを下げるか」といった点に精力を注いでおります。(3)牛群検定で何ができるか
(社)家畜改良事業団電子計算センターでは、検定農家から毎月送られてくるデータを 集計し、月ごと(または年間)の乳量、乳成分と乳質、濃厚飼料給与量、繁殖関係情報 等を牛群と個体別とに分けて、毎月農家にお返ししています。(図1) @ 個体ごとに乳量、乳成分を把握し、適正な飼料給与量を判断すること。 (飼養管理の改善) A 繁殖関係情報を活用して経産牛稼働率の向上を図ること。 B 検定成績に基づいて、雌牛の的確な選抜淘汰の判断を行うこと。(遺伝資源の確保 及び選別) 以上のように酪農生産全体に係わる実態を、出来るだけ数字で掴むための手段として 実施されているのが牛群検定です。(4)牛群検定事業の実施状況
現在、全国46の都道府県が事業に参加しています。平成7年10月末における検定農家 数は13,906戸、検定牛頭数は527,938頭とで、検定加入牛率は全国で43.5%となってい ます。(平成7年2月1日家畜の飼料動向比)
都道府県別の加入率を見てみますと、北海道が65.9%、都府県が29.0%と、格差が大 きく、また、都府県間においても10%台から60%台までと大きな開きもあります。
牛群検定の加入率は、年々、着実に増加してきましたが、厳しい酪農情勢等を反映し、 ここ数年、やや伸び悩みの傾向にあります。(図2)(5)オンライン化の推進
牛群検定では、検定記録を正確かつ迅速に収集する事が最も重要なことです。そこで 、昭和60年からオンライン化試験事業に着手しました。当時、小型化・高性能化が著し く進展してきたパーソナルコンピュータと電話回線を利用して検定記録を収集するため 、当団独自のシステムの開発をいたしました。 現在、このシステムをベースとして、平成2年度から「乳用牛検定情報処理システム 化推進事業」(畜産振興事業団指定助成対象事業)により、検定組合にパーソナルコン ピュータ及びハンディターミナルを設置し、オンライン化を進めています。 オンラインに移行しますと、検定成績がフィードバックされるまでの日数が大幅に短 縮され、検定立会後、4日前後で検定農家に検定成績表が届きます。 また、オンライン実施組合に対しては、検定組合に設置したパソコンを利用して、農 家向け、組合向けの情報が処理できるようソフトを提供しています。 平成6年度末におけるオンライン実施率は、検定牛合計の約83%に達しています。更 に、平成7年度から検定組合との通信システム等の整備・拡充を図り、平成8年度末ま でには、全国の検定組合とのオンライン化がほぼ完全実施される予定です。3 牛群検定参加の成果
平成6年における検定牛1頭当たりの305日乳量は8,193kgで、昭和50年の5,826kgと 比較して2,367kg増加しており、1頭当たりの産乳量は着実に伸びています。 なお、昭和50年の平均乳量を100とした各年次の推移を図3に示しました。 乳量階層別検定成績を見ると、6,000kg未満の低能力牛の比率が急激に減少し、着実 に高能力牛に置きかわっています(図4、5)。 一方、全国の生乳生産量、経産牛頭数と牛群検定成績を使って、牛群検定参加牛と非 検定牛の乳量差を、事業開始初からの推移を見ますと、その差は年々拡大する傾向にあ り、平成6年における乳量差は2,253kgになります(図6)。これは、検定農家におけ る、検定成績の活用を通じた、泌乳能力の改良と、飼養管理の改善の成果であると言え ます。
平成6年、7年と2年つづけて猛暑であったことは記憶に新しいことです。夏が暑い ということは、牛乳の消費が伸びて非常に結構なことですが、その反面、牛乳を生産す る牛にとっては、決して好ましいことではありません。 我が国で飼養されている主要な品種であるホルスタイン種は、原産地がオランダのフ リージアン地方であることから、比較的冷涼な気候に適した品種です。従って、暑さに よる影響は、如実に検定成績に現れてきます。 牛群検定データに基づいて、検定日1日1頭当たりの泌乳量を月毎に計算し、本誌で も11月号から「最近の畜産物の需給動向」の中で、紹介しています。 都府県では例年6月から7月にかけて1頭当たりの乳量は低下し、8月が最低となり ます。 一方、北海道では牧草の条件が整った6月が最も乳量が出る傾向にあります。都府県、 北海道とも4年、5年と着実に乳量が増加してきましたが、6年の7月、8月は激減し ました。9月からは回復に向かいましたが、平年の水準までには戻りませんでした。 更に、都府県では、7年の4、5月が6年のベースに戻らないうち、7月、8月再び 減少する結果となりました。北海道でも、6年ほどではありませんが、6月〜8月にか けて乳量の伸びが鈍化する傾向が見られました。(最近の畜産物の需給動向 牛乳・乳 製品のコーナーを参照) 検定加入牛のうち約83%のデータがオンラインで届くことから、このような気象条件 の影響をいち早く捉えることができます。 また、現在、畜産振興事業団から委託を受けて、個体の能力、繁殖成績、未経産牛の データ等を活用して、生乳の生産を予測するためのモデル式を開発する業務を手がけて います。5 終わりに
家畜改良事業団としましては、牛群検定事業を酪農における基幹事業と位置づけ、酪 農家の方がより利用しやすい検定へと改善を図り、一層の普及拡大を推進して参ります ので、関係機関の方々のご支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。