◆専門調査員レポート

蔵王酪農センターの販売戦略

の特徴と課題
 
 

- 牛とトマトと花の村、岐阜県丹生川村 -

東北大学農学部 長谷部  正  


は じ め に
  本報告では、 これまで日本国内のナチュラルチーズ製造技術者育成のため 「チーズ
の学校」 としての役割を果たし、 また、 地域でのチーズの普及に力を入れている財団
法人蔵王酪農センター (以下 「センター」 という。) の販売戦略について述べる。 最初
にセンターの歩みを整理し、 続いて販売活動の特徴を明らかにする (注1)。 最後に、 
センターの販売戦略の特徴と今後の課題について述べる。
 
1 ナチュラルチーズの技術開発と普及
 センターは、 年配の人には電化センターの名前で知られているように、 その前身は昭
和35年神奈川県厚木市に設立された財団法人酪農電化センターである。 酪農電化センタ
ーは、 酪農の電化、 機械化による合理化と近代化を積極的に推進するということを目標
として設立されたモデル農場で、 大規模酪農の実践の他に、 大型機械による大規模草地
造成維持実験、 グラスインキュベータ (青草栽培器) の開発などいろいろな試みがなさ
れた。 39年には、 宮城県蔵王町に本格的実験農場をめざして移転し、 酪農経営における
規模拡大という面で宮城県内の酪農家に刺激を与えた。 
 
 55年に財団法人蔵王酪農センタ−と改称した。 それまで順調に伸びてきた乳製品の需
要が50年代に入ると停滞し、 52、 53年には乳製品の過剰問題が発生した。 この時期、 消
費量の水準が低く、 将来の消費量増大が期待されるチーズの需要拡大に大きな関心が集
まった。 このことは、 生産面の近代化を目標として活動してきたセンターが、 加工によ
る付加価値生産を目指す契機となった。 同年にナチュラルチーズ実験製造工場を設置し、 
チーズの販売を行う。 この時期はセンタ−に限らず、 日本全国で同じような試みがなさ
れている。 
 
 56年には、 畜産振興事業団の補助事業である国産ナチュラルチーズ製造技術開発実験
事業を導入した。 これは生乳の生産過剰下での消費拡大策を国産チーズの振興に求める
ということで、 63年までの8年にわたる長い事業であった。 この事業によって、 センタ
ーはナチュラルチーズ生産という加工部門に進出し、 さらにナチュラルチーズ製造技術
普及に努める。 この事業の目的は、 

 (1) 日本人にあったナチュラルチーズの開発
 (2) チーズ技術者の養成
 (3) チーズの普及活動

であった。 チーズ技術者養成には中央酪農会議の協力が得られた。 また、 販売について
は、 全農がバックアップするという形で始まった。 同年には、 河野隆一郎氏が2代目場
長にとして就任しており、 財団経営としても新たなスタートを切ったといえる。 
 
 事業実施期間中におけるセンターでの特徴的な活動は、 ナチュラルチーズに関する全
国的な技術研修である。 研修回数29回、 延べ313人が全国各地から集まり研修した。 現
在、 大手のメ−カ−も含めてチーズ工場は全国で70ほどあるが、 そこの技術者の多くが
センタ−で研修している。 現在でも年3、 4回研修を開催し、 受講者はすでに500名を
越している。 このようにセンターは、 日本における 「チーズの学校」 としての役割を担
ってきたといえる。 技術研修には、 メーカーや農協の人だけでなく、 大学職員、 行政関
係者、 酪農家等いろいろの職種の人が参加している。 
 
 さらに、 チーズの普及活動では、 海外文献の翻訳やチーズを使った料理コンテスト、 
料理教室を行い、 力を入れてきた。 
 
 全農を通した関東への販売はナチュラルチーズの販売としては時期尚早だったのか思
うように伸びなかった。 このため57年頃から、 地元でお土産品としてのチーズ販売を始
める。 最初は、 物産展への展示や県内の催しへ出品して定着をはかった。 いろいろ試行
錯誤はあったが、 これが軌道に乗り、 地場生産、 地場流通、 地場消費を基本にした安定
供給ができるようになった。  
 
2 観光牧場の開設とチーズ・キャビンでの販売  
 当初、 チーズ販売のみだったが、 センターの牧場に見学客が来るようになると、 休憩 
したり、 食事をしたりする所が必要となる。 このため60年に観光牧場蔵王ハートランド 
を開設し、 レストラン (ウインドフォール) やキャンプ場を設置する。 これは観光を取 
り入れた事業拡大への転換を示す。 さらに、 61年に喫茶 (ウインド・スクエア)、 ジン 
ギスカンなど観光牧場の施設を増設し、 62年に事業所を新築し、 見学者用の売店 (チー 
ズ・キャビン) を併設する。    
 
  これ以降、 チーズ生産の副産物利用と増大する観光客の需要の多様化に合わせるとい 
う目的のために製品の多角化を積極的に行う。    
 
  62年には、 すっきりした味を求める消費者需要にマッチしたチーズ・ドリンク 「ザオ 
ー・ホワイト」 を発売した。 これは、 ナチュラル・チーズ生産の過程で牛乳の固定成分 
の約半分がホエイ (乳清) となって流出するが、 それまでただ捨てられるだけの未利用 
資源しかなかったので、 それを有効活用する目的で研究・開発されたものである。 次い 
で、 蔵王という観光地のイメージを強調した商品の第1弾として、 「蔵王山麓バター」  
を63年に発売した。 また、 平成4年には、 牧場でのしぼりたてというイメージで新鮮さ 
を売りものにした 「蔵王山麓牛乳」 を、 翌5年には、 観光客から要望の多かったアイス 
クリームを 「蔵王山麓アイスクリーム」 の名前で発売する。 こうして、 センタ−の直売 
所は、 チーズ専門店という基本線を維持しながら、 観光地蔵王のイメージを積極的に生 
かした他の乳製品の販売を行い、 観光客の要望に応える。 
 
  しかし、 あくまでも表1に示すようにセンターの製品生産の主力はチーズであり、 そ 
の図の販売のうちセンター直売所での売上げ比率は27%(表3参照)を占めている。セ 
ンターには、 現在年間7万人の客があり、3年位前から、 旅行社のパックツアーの立ち 
寄り地点になっていて、 たとえば、 山形の 「さくらんぼ狩り」の時期であれば、 その中 
継として立ち寄って、 買物時間を含めて30分程度と短時間であるが、 ビデオをみたり、  
パンフレットを配布することでセンターについてよく知ってもらう。 
表1 生乳仕向け割合 
チーズ 96%
牛乳 3%
アイスクリーム 1%
  
 蔵王酪農センターのチーズ工場は月20トンの処理能力があるがチーズ向け処理乳量は 
約1, 800トンで、 75パ−セントの稼働率である。 
 
  1月から3月にかけての冬期間は観光客がほとんどなくセンター直売所での売上がダ 
ウンし、 このため工場の稼働率も低くなる。 この間は、 スキ−場の土産店へ商品を出す 
があまり売れない。 したがって、 冬期間は、 主に、 新商品の開発、 販売戦略の立案、 新 
規販路の開拓などに時間をさくことになる。 
 
3 消費者との結びつきを  重視するチーズ販売    
 表2に示したように最近の蔵王酪農センターのチーズ販売量は大きく伸びている。 特 
に、 ソフト系の販売量の伸びが著しい。 これを支えているのが、 クリームタイプとチー 
ズケーキである。 クリームタイプは業務用が伸びている。 これはケーキだけでなく後述 
のようにプリン、 かまぼこ等の材料として食品メーカーへの販売が主体である。 チーズ 
ケーキの伸びも顕著で、 全農直販を通したクラブ生協への出荷が増えている。 
表2 最近のチーズ販売量の推移(単位:トン)
  平成2年 3年 4年 5年
ハード系 15.3 18.6 21.2 23.0
ソフト系 113.8 104.1 128.6 175.7
  クリームチーズ 77.5 70.7 80.1 97.5
  チーズケーキ 10.2 10.0 17.9 44.3
  スプレットタイプ 21.4 18.4 21.7 24.5
  ヌーシャテイルチーズ 4.7 4.9 8.9 9.2
(注)ヌーシャティルチーズは、脂肪分をクリームタイプの半分(約15%)
   に抑えたもの。
 
  このようにセンターの販売が伸びているわけだが、 その販売の特徴についてチーズ事 
業部の高昭栄販売課長に聞いてみた。  
  
  センターの職員は、 42名で、 そのうち11名が販売担当である。 チーズの販売先の割合 
は表3のとおり基本的には、 消費者の顔が見える範囲の販売を行うことを原則とし、 そ 
ういう意味では、 売上比率の2割近くを占める生協との付き合いを大事にしている。 宮 
城県には共同購入と店舗販売の両活動を行う「宮城生協」と 
 
  共同購入活動だけを行っている「仙台共同購入会」の2つの生協がある。 蔵王酪農セ 
ンターは、 次のような活動を通してチーズ普及についてより消費者の理解を得やすい仙 
台共同購入会に商品を卸している。 センターが共同購入会と協力して行う活動としては、  
共同購入会からは見学会ということで組合員がセンターに来るし、 またセンターからも 
出向いて年2回ほどチーズの話をしている。 このようにして生協組合員にチーズについ 
ての理解を深めてもらう。 また、 生協の方から、 商品についてのアドバイスを受ける。 
 
  組合員が安心して食べられる国産の材料を使ったチーズケーキの開発という希望があ 
り、 そのことが共同開発につながった。 最近のチーズケーキ出荷量の著しい成長はまさ 
にその反映である。 
表3 チーズの販売先別比率

販売先

販売比率(平成5年)
センター直売所 27%
生協 18%
お土産等 29%
アンテナショップ 10%
業務用その他 16%
   
 
  消費者との付き合いを深めるために友の会の制度が設けられている。 友の会 「蔵王フ 
レッシュガーデン倶楽部」 を始めるときの基本的な発想としては、 チーズ作りをきちん 
と理解して商品を購入してもらうということにあった。 もちろんこのような制度を設け 
ることで、 需要拡大のためにも消費者に蔵王に来てほしいというのが直接的な理由であ 
る。 現在会員は、 仙台市を中心として100名程度である。 会費は年会費制で、 初年度 
2, 000円、 次年度からは1, 000円である。 特典としては、  

(1) 利用金額に応じた景品の提供 

(2) 利用料金の割引制 (たとえばセンター内では施設利用も含め利用代金の10%引)  

がある。 また、 年4回会報 「ZF Gardens」 を出してチーズに関するものも含めさまざま 
な情報を伝えている。    
  
  消費者との結び付きということでは、 以前から郵パックを利用したチーズ製品の産地 
直送も行っている。   
 
  販売担当者は配送係も兼ねており、 小売店舗での陳列も行う。 最近は消費者が日付に 
ついて気にするので、 賞味期間内であっても、 古いものから順に入れ替えを行ったりす 
る。 工場では衛生管理に気を付け、 販売は日付管理を徹底している。 
  
  また、 販売担当は、 パンフレットを利用して食べ方や料理方法についても説明する。 
 
  地域特産品というイメージを大事にするため、 他の中小メーカーがよく行う値引きに 
よって売上を伸ばしたり、 シェアを拡大するというようなことはしない。 生協の他に、  
百貨店やお土産店を販売対象にしているのは、 次のような理由による。 
 
  販売面からみて、 量販店だと輸入品や大手の安い商品も扱っているのでセンターの商 
品はそれらと比べた場合割高感がある。 これに対して、 百貨店では基本的に値引き販売 
をしないし、 お土産の場合には高くても売れるので販売先としてメリットがある。 もち 
ろん、 この背景として高い技術で品質のよい製品を作ることを目標としているため、 生 
産規模が小さくスケールメリットを発揮できないし、 また、 原材料費を圧縮したコスト 
ダウンが難しいということがある。  

 4 お客さんとの信頼関係をつくるアンテナショップ 
 


 センターは、 仙台市内の三越百貨店の食料品売り場にテナントを持ち、 消費者の動向 
を探るためのアンテナショップとして位置づけている。 このアンテナショップでの販売 
の工夫や商品の売れ筋について、 売り場の本田やす子ショップリーダーからの聞き取り 
をもとにまとめてみる。

 ゴーダ、 エダムなどのハードタイプは、 チーズの味がよくわかっている人でないと売 
れない。 ただし、 ハード系でタテに引き裂き、 好みのサイズに切れるホワイトザオーが 
売れ筋である。 これは、 あっさりした味が好まれているためである。 アンテナショッ 
プでは、 ソフト系製品の販売量の方が多い。 7種類あるクリームタイプがよく売れる。  
特に、 甘味のあるクリーミースプレッドの販売量が多い。 また、 チーズケ−キも以前か 
らよく売れる商品である。 ここ2、 3年は、 チーズドリンク 「ザオー・ホワイト」 の販 
売が伸びている。 チーズ臭くない飲みやすさが消費者に好評である。 
 
  デパートのテナントのためか、 固定したお得意さんが多いという。 この点は、 センタ 
ー職員が直接販売員としてチーズ取り扱っているのが、 仙台市内ではこの場所に限られ 
るというのが大きな理由となっている。 また、 地元の仙台市や宮城県内のお客さんだけ 
でなく、 東京方面からのお客さんもこられる。 これは、 お中元やお歳暮として送られて、  
食べてみて美味しいので仙台へ出張の時などに立ち寄って買い求めるためである。 
   
  チーズの普及のために、 パンフレットを配ったり、 店頭広告を行って効果をあげてい 
る。 ここで強調したいのは、 お客さんとの会話を通した普及活動である。 デパートにテ 
ナントを出した当時は、 お客さんの方でもナチュラルチーズについてはほとんど知らな 
いといってよい状況であった。 それは、 次のようなエピソードによっても物語られる。 
   
  ある時 「ナチュラルチーズを下さい」 というお客さんが来られ、 販売担当者は、 お客 
さんにナチュラルチーズというのは総称であるということ、 ナチュラルチーズについて 
の基本的な知識、 食べ方、 料理方法などについて説明した。 その際なるべく分かりやす 
い言葉で納得いくように話すことに心がけたという。 専門的なことをくどくど言うより、  
本当にナチュラルチーズについて知ってもらい、 少しでも多く食べてもらえるようにと 
いう願いからであった。 お客さんがナチュラルチーズを買う場合のよき相談役としての 
役割を担ってきた。 その結果、 固定客が増えてきた。 お客さんとの付き合いを大切にし 
ていると、 お客さんがいろいろな種類を試してみるようになり、 だんだんチーズが好き 
になってくるのがわかる。 このように商売は人が大事であり、 信頼を得ることが重要で 
ある。  

  テナントの客層としては主婦が多い。  その中でも、  

(1) 若い人はパン食などにバターやジャムの代用品として手軽に利用できる塗るタイプ 

(2) 中年は家族に食べさせる料理に用いることが出来るタイプ 

(3) 年配の人はあっさりとした味で直接おつまみとしても利用できる裂くタイプ 

というように購入するものが年齢によって異なる。    
  プチザオー (ベービーゴーダタイプ) やチーズドリンクは年代を問わず売れる。 最近 
の消費者は、 日付が古いと買わないというのも特徴である。 
 日頃お客さんと接している体験をもとに、 売り場から工場への提案も行った。 デパー 
トのお客さんの場合、 その都度食べる程度の少量購入の希望が多い。 このため商品単位 
を小さくして、 100グラムや50グラムの単位で売ることを提案した。 モッツァレーラは 
単位を半分にしたらよく売れたし、 ゴーダのペッパー入り (ペッパーゴーダ) はくさ味 
がないし、 しかも小さいので売れる。  
 センターの製品に関して価格が高いという問題はあるが、 チーズそのものについての 
苦情はほとんどない。 品質については、 センターのチーズということで信頼されている。  
値引きは、 2個買った場合に若干安くする程度のことしかやっていない。 また、 デパー 
トという売り場の性格もあって派手な販売活動は行っていない。 モニター制度がないの 
で、 売り場での試食や試飲を通して直接消費者の声を聞くことは販売促進にとって重要 
である。 
 売り場の視点からは、 今後のチーズの販売として、 簡単に料理できるもの、 癖のない 
ものといった若い人が喜ぶものを売っていくことが必要であるという。
 
5 チーズの販売戦略と普及のための新たな模索  
<販売戦略の基本は製品差別化>  
  ガットウルグアイラウンドの合意によって乳製品においても関税化が受け入れられる 
ことになり、 チーズを生産販売しているメーカー等が今後、 輸入チーズにどのように対 
応していくかが大きな課題となっている。 そのための基本戦略は、 一言でいうなら製品 
差別化ということになろう。 財団法人であるセンターとしてもこの点は同じである。  
  センターは、 特にチーズ部門に力を入れるようになってからは、 地域ということを全 
面に押し出してきている。 観光地としても知られている蔵王という地域を強調すること 
によって、 その商品の差別化を行う戦略である。 地域特産品としての製品差別化のメリ 
ットは、 独占的な要素があるため高い価格を設定できることにある。 この点は、 一村一 
品におけるチーズの生産・販売と共通する (注2)。 その背景として、 価格的には割高 
なところを質でカバーしているという技術面での自信であろう。 しかし、 地域にこだわ 
った場合、 生産や販売の規模は限られたものとなる。 また、 チーズの普及という面から 
もきわめて地味な活動にならざるをえない。 しかし、 このことは口コミによる宣伝の威 
力で、 むしろチーズの愛好者にとっては好まれる。 ただ、 それも行きすぎるとチーズマ 
ニアのためのセンターということになりかねない。 
 また、 センターは、 日本人の口にあったチーズの開発と普及を今後も続ける意向であ 
る。 日本人の口にあったチーズと言うのは、 売り場担当の販売経験によれば、
 
 (1) あっさりしている  (2) くさ味がない 

という2つの特徴を持つことである。 こうした日本人の口にあった品質の製品をきちん 
と作ることも差別化戦略である。  

<デザ−トの販売に力を入れる>  
  製品差別化には、 絶えざる新商品の開発が欠かせない。 センターでは、 これまで独自 
商品を開発してきたが、 最近は食品材料のための技術開発にも力を入れている。 宮城県 
の特産品である 「笹かまぼこ」 で、 最近消費者に人気がある商品として 「チーズ入り笹 
かまぼこ」 がある。 センターでは、 メーカーから笹かまに詰めても流れ出ないクリーム 
チーズの開発を頼まれ、 試作を重ねて新しい製品を開発し、 それが 「チーズ入り笹かま 
ぼこ」 の材料として用いられている。 また、 千葉県の乳業メーカーからプリンに用いる 
クリームチーズの開発要請があり、 これも安定剤に工夫を加えて製品開発に成功し、 チ 
ーズプリンの材料として好評である。 こうした食品材料としての新製品の開発が、 近年 
の業務用向けクリ−ムチーズ販売量の増加につながっている。 
 また、 センターでは、 今後の方向として、 海外から輸入される安い製品に対抗するた 
めに、 デザートに力を入れる意向である。 乳製品の販売としてデザートを重視するのは、  
大手量販店の販売担当者も強調することで、 需要拡大分野である。 平成6年の春から、  
カスタード、 ストロベリー、 オレンジアンドキャロットのチーズケーキを新たに発売し 
た。 船積みの輸入品ではなく、 航空便の輸入品に対抗していくという発想から、 チーズ 
ケーキを今後の主力商品として位置づけている。 円高で安く供給される輸入品に対抗し 
ていくために、 新鮮さを売りものにしていくマ−ケティング戦略である。 
 もう一つの目標は、 安全な商品の開発である。 他の農産物についてもよく指摘される 
ことであるが、 安全性は、 お客さんに訴えかける販売上の重要なポイントである。 この 
ことは、 先に述べたクラブ生協とのチーズケ−キ共同開発の実績でも示されている。 
 
6 今後の課題
<チーズの普及への取り組み>  
センターは、 これまで国産ナチュラルチーズの技術開発、 技術者養成、 ナチュラルチ 
ーズの普及という3つの目標を掲げ、 財政的な補助を受けながら活動してきた。 技術開 
発、 技術者養成に関しては 「チーズの学校」 と呼ばれてきたようにその成果をあげてき 
た。 ナチュラルチーズの普及については、 チーズの需要の伸びが今後とも期待されるこ 
ともあって依然として大きな目標である。 財団法人であるセンターは、 他の営利を目的 
とする会社と違う独自性をここに求めている。 その意味では、 今後どのような方向を目 
指していくかということが、 財団法人としてのセンターが現在抱える大きな課題である。 
 しかし、 従来の財政的な補助に支えられて行ってきた普及活動と異なり、 これからは 
自力で普及活動に取り組まなければならない。 したがって、 普及のための財源を確保す 
るという問題があり、 それを解決しなければならない。 換言すれば、 普及に力を入れた 
からといって販売が伸びないというジレンマをいかに克服していくかということになる。  
この問題に対する取り組みとして注目されるのがチーズハウスの開設である。 
 
  センターでは、 今年財団単独事業としてチーズ普及と啓蒙をねらったチーズハウスを 
開設した。 これまでもチーズに興味を持ち、 家庭でチーズをつくりたいというような熱 
心なグループに対するチーズ作りの講習会は、 工場での実習を含めて行われてきた。 こ 
のような製造技術の勉強でなく、 料理作りで製品を試すことによってチーズについてよ 
く知ってもらうというのもチーズの普及のための1つの方法である。 チーズハウスは、  
そのような発想で作られた。    
  
  チーズを普及するといっても、 興味のある人はパンフレットだけというわけにはいか 
ない。 このように販売と普及において相手を識別し、 ターゲットを絞るという戦略をと 
っていこうとしている。 これまでのように観光目的で訪れる人には売店で製品を供給で 
きるが、 チーズに興味があって勉強したい人はチーズハウスで対応する。 普及の対象と 
しては、 農協の婦人部や婦人クラブ、 あるいはチーズの勉強会を組織しているグループ 
を考えている。 また、 ここでは、 本格的とまではいかないが、 料理の提案も行っている。  
その例が、 「ラクロネット」 である。 これは、 ホットプレートを用いれば簡単に食べれ 
る手軽な料理で、 一般の家庭にも向いている。 プレートがあたたまったらチーズをのせ 
る。 用いるチーズは、 ゴーダ、 サムソー、 マリボー、モッツァレーラなどのハード系が 
よい。何種類かのチーズを組み合わせて食べるといろいろなチーズの味を楽しむことが 
できる。 チーズがとけてきたら、 食べやすい大きさに準備した野菜や魚介類などの好み 
の具をのせる。 チーズがとけ具もあたたまったら、 木のへらでチーズと具をパンにの 
せ食べる。 
 
  チーズハウスをチーズの普及のためにうまく活用しうるかどうかは今後のセンターの 
活動にかかっている。 その場合、 適切な料金でいかに利用者の満足のいくサービスが提 
供できるかがポイントになる。 その点、 優れた技術によって支えられてきたナチュラル 
チーズ技術者養成とは違った意味でサ−ビスの質が問われることになる。 
   
  また、 地域に根ざしたチーズ作りを前提としてチーズの普及を行っていくためには、  
最近横ばい状態である観光客を増やすことも大きな課題である。 たとえば新たな観光の 
目玉を作って冬期間の集客力をあげることも1つの方向であろう。 
  
 さらに、 これまでセンターで技術研修を受けた人は500名を越している。 現在研修者か 
ら技術的な相談があった時に相談に応ずるということはやっているが、 研究者の同窓会 
といったものはない。 チーズの普及という点から考えれば、 こうした研修者は重要な資 
産である。 知的資本ストックである研修者のネットワークを作り、 チーズ普及を行って 
いくのも今後の重要な試みといえる。 

 注1)センターの歩みをまとめるにあたっては、 財団法人蔵王酪農センター発行 
    『いま熟成の時 ―国産ナチュラルチーズ開発の歩み―』 平成元年3月
    を参照した。 
 
  注2)一村一品運動のチーズ生産及び販売に関する全国的な動向については、 村
     田富夫他「離陸期にあるチーズ消費 ―チーズの消費構造と地域展開に関す
     る研究―」 (畜産振興事業団 『平成4年度畜産物需要開発調査研究事業報
     告書』) の第U章で詳しい分析が行われている。  
     
 

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