★農林水産省から


加工原料乳生産者補給金等

暫定措置法の改正について

 

                          農林水産省畜産局畜政課畜産総合対策室 

                                        企画官       内 畠 聖 寿 


 
 先の第131回国会において、 加工原料乳生産者補給金等暫定措置法の一部を改正
する法律が成立した。 
 
  今後所要の政省令等を整備した上で本年4月1日から施行されることとなってい
るこの法律は、 1993年12月に終局をみたガット・ウルグァイ・ラウンド交渉の合意 
(以下 「UR合意」 という。)を踏まえ、 新たな国際的規律の下で、 今後とも我が国
酪農が期待される役割を果たし得るような存立基盤を確保し得るよう、 畜産振興事
業団 (以下 「事業団」 という。) の乳製品の輸入に係る調整の業務に関し所要の規
定の整備を行うことを主たる内容とするものである。 
 
1 乳製品に係るUR合意の概要
 ガット・ウルグァイ・ラウンドは、 86年に、 90年までの4年間を交渉期間として
開始された多角的貿易交渉であり、 この中で、 農業分野についても、 国境措置、 国
内支持、 輸出競争の分野に関し保護水準の削減の観点から交渉が進められた。 
 
  しかしながら、 輸出補助金の削減等に関する米・EC間での対立等もあり、 また
他分野での交渉も合意に至らず、 交渉期間を延長して協議が続けられた結果、 93年
12月に最終合意に至り、 7年余りに及ぶ交渉の幕を閉じた。 
 
  この交渉の中で我が国は、 乳製品についてはガットの規定を明確化し、 輸入数量
制限措置を関税化の例外とするよう主張していたが、 ドゥニ調整案受入れに当たっ
て、 乳製品についてもその国境措置を関税化することを余儀なくされた。 
 
 UR合意の内容については、 既に本誌等でも紹介されているところであり、 繰返
しの虞なしとしないが、 乳製品の国境措置に関する部分についてその概要を記せば
次のとおりである。 

(1) 関税化
 
 輸入割当品目及び国家貿易品目については、 次の方式で関税化

 ○関税相当量
 
  国内価格と国際価格の差を関税相当量として設定。 実施期間において15%削減

  国内価格‥86〜88年度の卸売価格
  国際価格‥86〜88年度の国際酪農取極に基づく最低輸出価格を基礎に算定

 ○輸入アクセス (現行アクセス) 

 @ 輸入割当品目については、 86〜88年度の割当て枠を維持 (日米合意に基づく
   ものについては一部枠拡大)

 A 国家貿易品目 (バター、 脱脂粉乳等) については、 畜産振興事業団が86〜88
   年度の生乳換算の平均輸入量 (約13. 7万トン)を毎年度輸入

 B @の割当て枠及び畜産振興事業団輸入分については、 現行の関税率を適用。
    畜産振興事業団輸入分については、 86〜88年度における差益分を加えた水準
      を上限として、 入札により国内へ販売。 
      なお、 この差益分については実施期間において15%削減
  
  C B以外の輸入については関税相当量を適用
   
(2) 関税引下げ
 
    農産物の関税引下げは全体として平均36%、 最低15%という原則の下で乳製品
  の関税引下げを実施
  

2 法改正の概要

  このような合意内容を踏まえ、 加工原料乳生産者補給金等暫定措置法の改正を行
うこととなったが、 生産者補給金に係る規定については、 現時点における酪農・乳
業の状況に照らした不足払いの必要性や、 UR合意における国内支持に関する削減
約束の内容〔AMS (助成合計量) を個別産品ごとでなく、 トータルで実施期間中
に20%削減〕にもかんがみて、 改正を加えていない。 
 
  このため、 改正は専ら国境措置の関税化に伴うものであるが、 新たな国際的規律
の下で事業団による輸入に係る調整の業務を通じて国内乳製品の価格安定や酪農・
乳業経営に極力影響が及ばないようにしつつ、 酪農・乳業の一層の合理化を推進す
ることをねらいとし、 概ね次の4点につき、 所要の規定を整備した。 

ア 事業団による指定乳製品等の一元輸入規定の廃止

イ 事業団による民間輸入に係る指定乳製品等の買入れ及び売戻し

ウ 事業団による現行アクセス分の指定乳製品等の輸入

エ 事業団による指定乳製品等の売渡し
 
以下、 上記4点について概説することとする。 

(1) 事業団による一元輸入規定の廃止

   現行法においては、 国内における市況を十分勘案しつつ、 指定乳製品等の輸入
  及び売渡しを行うことにより、 乳製品の需給及び価格の安定に十全を期する必要
  があることから、 指定乳製品等の輸入については事業団が一元的にこれを行うこ
  ととされている。 
   
    しかしながら、 UR合意により、 乳製品の輸入に関する国境措置を関税化する
  こととなったため、 関税相当量 (以下 「TE」 という。) を支払えば、 いかなる
  者でも指定乳製品等を輸入することができるよう、 これを定めた規定を削ること
  としたものである。 

(2) 事業団による民間輸入に係る指定乳製品等の買入れ及び売戻し

   UR合意により乳製品の輸入に関する国境措置は関税化されることとなったが、 
  事業団以外の指定乳製品等を輸入する者が支払うTEの一部については、 事業団
  がその指定乳製品等を買い入れ、 これに一定の額を上乗せして売り戻すという方
  法で徴収することとしている。 
 
    これは、 仮にTEを支払って指定乳製品等が輸入されるようになった場合に生
  じることが予想される国内酪農・乳業への影響に対処するため、 これにより得ら
  れる差益を機動的に不足払財源や関連助成措置等に充て得るようにすることを目
  的とするものである。 
   
    この場合の事業団の買入れの価額は、 当該指定乳製品等について輸入申告をす
  べき価額 (CIF価格) であり、 売戻しの価額は、 国際約束に従って農林水産大
  臣が定めて告示する金額〔TEのうち、 事業団が指定乳製品等を輸入して売り渡
  す場合のマークアップ (輸入差益) の上限額〕に、 当該売戻しに係る指定乳製品
  等の数量を乗じて得た額を、 買入れの価額に加えて得た額である。 
 
    なお、 現在指定乳製品等であっても、 用途が特定されていることから指定乳製
  品の価格安定に悪影響を及ぼすおそれがないものとして事業団の一元輸入の例外
  とされているもので、 今後用途が特定されて関税割当てが行われることとなる乳
  製品については、 基本的には事業団への売渡しは要しないものとするが、 用途外
  に使用される場合には通常の場合と同様の扱いをすべきものであることから、 か
  かる指定乳製品等の輸入者は、 その指定乳製品等が用途外に使用されることとな
  った場合の当該指定乳製品等の事業団への売渡しの確保についての契約を輸入申
  告前に事業団との間で締結すべきものとしている。 
  
(3) 事業団による現行アクセス分の指定乳製品等の輸入
   
    UR合意により、 毎年度約13. 7万トンの指定乳製品等を事業団が輸入するこ
  とに伴い、 現行の価格高騰時の輸入のほか、 現行アクセス分を輸入できるように
  するための規定を置くものである。 
 
    これは、 指定乳製品の価格安定を図る上で、 現行アクセスとして輸入される乳
  製品についても需給、 価格の動向を踏まえつつ輸入し、 売り渡すことが必要であ
  ることによるものである。 

(4) 指定乳製品等の売渡し
 
    現行アクセス分の輸入を事業団が行い、 これを保管することとな ることを勘
  案し、 指定乳製品のより効果的な価格安定に資するため、 価格高騰時又は農林水
  産大臣の指示する方針に従って事業団がその保管する指定乳製品等を売り渡す旨
  の規定を整備するものである。 
 
    このとき、 後者の指示売渡しについては、 実際の国内需給・価格の動向を十分
  見極めた売渡しが行われるようにする観点から、 農林水産大臣は、 指定乳製品の
  生産条件及び需給事情その他の経済事情を考慮し、 指定乳製品の消費の安定に資
  することを旨として売渡し方針を指示するものとされている。 
主要乳製品の関税率等の値(基準期間)
  枠内
税率
関税相当量 マークアップ
(上段)
バター
脱脂粉乳
35%
25%
35%+1,159円/kg
25%+ 466円/kg
950円/kg
358円/kg



3 国会における審議
  政府は、 概要上記の加工原料乳生産者補給金等暫定措置法の一部を改正する法律
案を昨年 10月21日閣議決定し、 同月24日第 131回国会に提出した。 同法案は、WT
O設立協定や新食糧法をはじめとする他の六法案とともに、 衆参ともにWTO特別
委で審議され、 同年12月8日のWTO協定の 「実施のための会合」 開催の日に成立
をみた。   
   
  なお、 参議院WTO特委においては、 附帯決議が行われたので、 関係部分を掲げ
ておく。  

    

  加工原料乳生産者補給金等暫定措置法の一部を改正する法律案、 繭糸価格安定
  法及び蚕糸砂糖類価格安定事業団法の一部を改正する法律案、 農産物価格安定法
  の一部を改正する法律案及び主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律案に対
  する附帯決議 
  
    我が国の農業は、 国民の食生活等に不可欠な農産物の供給や地域経済の活性化 
  等の面で重要な役割を果たしているばかりでなく、 生産の場である水田や畑は、  
  森林ともあいまって、 国土・自然環境の保全、 緑の景観の維持等多面的な公益的 
  機能を発揮している。     
    
    このため、 国際化時代の進展に対応して、 農業の生産基盤を整備し、 農産物の 
  需給の安定を図り、 もって国民生活と国民経済の安定を期することは、 国の重要 
  な責務である。   
    
    よって政府は、 世界貿易機関設立協定に関連する農業関係法の施行に当たり、  
  ガット・ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策予算について従来の農林水産予 
  算に支障をきたさないようにする等国内対策を誠実に推進し、 農業者の不安を払 
  拭するとともに、 次の事項の実現に万遺憾なきを期すべきである。  

  一 カレント・アクセス等によって輸入される乳製品、 生糸・繭、 でん粉及び小 
      麦の国内市場への供給については、 国内産品の需給や価格に悪影響を及ぼさ 
      ないよう適切に対応すること。  

  二 乳製品については、 需給の安定に努めるとともに、 酪農経営の体質強化を図
      るため、 生産基盤の整備、 負債対策の充実、 担い手の確保等総合的な施策を
      推進すること。
        
  三〜十四  (略) 
  
    右決議する。 

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