★中央畜産技術研修会から


ファーストフード店における鶏肉流通と販売戦略

                          日本 ケンタッキー・フライド・チキン株式会社   

                        企画官       商品部長 菅 原   恭


 
 昨年10月下旬に農林水産省畜産局の中央畜産技術研修会 (養鶏) が開催され、 そ
の中で 「ファーストフード店における鶏肉流通と販売戦略」 と題して、 日本ケンタ
ッキーフライドチキン株式会社商品部長の菅原恭氏の講議がありました。 
 
  同社は、 1970 年の大阪万博に実験店を出店して以来、 着々と店舗網を拡大し、 
1,055店 (94年11月末) にまで広がっています。 日本にフライドチキンを広めたの
は同社で、 多くの人がフライドチキンと言えばケンタッキーフライドチキン (KF
C)を連想するのではないでしょうか。 
  
  同氏の了解を得て、 講議の要約を紹介します。 
KFCのコンセプト
 私どもKFCのビジネスはファーストフードというジャンルに入りますが、 その
基本コンセプトはQSCです。 Qはクォリティー、 商品の品質、 Sはサービス、 お
客様に提供するサービスです。 Cはクリーンネス、 これは清潔な店構え、 清潔な態
度でお客様に接しましょうということです。 このQSCが日本の飲食業にもたらし
たものは計り知れないものがあると思います。 

 KFCでは、 このコンセプトに加えて、 食の原点である素材の徹底的な追求とし
て 「FHH」 というものを打ち出し、 終始一貫、 強いこだわりをもって臨んでいま
す。 このFHHというのは、 Fがフレッシュ、 新鮮。 Hがヘルシーで健康。 Hはハ
ンドメイド、 手作りのおいしさを意味し、 追求していきますということで、 私ども
の基本コンセプトとしています。 
 
  実際に素材に凝りだしますと、 やることは山のようにあるのですが、 私どもとし
てはチキンのみならず油、 粉、 野菜、 飲料、 すべての食材にこだわりをもって素材
の追求を今までも続けてきましたし、 今後も続けていきたいと考えています。 ここ
の部分が私どもの商品のオリジナリティーとして皆さまにも評価いただいて、 ここ
までこれたのではないかなと考えています。 
 
国内生産の9%弱を使用
  現在、 KFCが使っているチキンは年間6, 000万羽で、 一つの企業としてはおそ
らく日本最大だと思います。 平成5年度の国内生産羽数は約6億8, 000万羽ですの
で、 その9%弱を使用していることになります。 私ども商品部の一番重要な仕事は、 
自主的な制度、 規格によって、 新鮮で安全なチキンを同一規格、 品質で毎日、 全国
に展開する各店舗に配送し、 お客様に提供することす。 
 
  6,000万羽はすべて中びなで、 飼育日齢は大体38日から42日齢、 生体重量は1,450
グラムから1, 750グラムです。 この1羽を9ピースにカットしますが、 それぞれの
ピースについても重量範囲を規定しています。 日本のブロイラーの通常飼育日数は
いま60日前後ですが、 これですと、 飼育日数の長い分だけ脂肪分が多く、 鶏特有の
臭みが残ってしまうため、 中びなをベースにしています。 
 
  そのカット方法もKFCが指定した肢体で正確にカットされることは当然ですが、 
それに加えて鮮度、 皮膚の状況、 内出血の有無、 程度、 それから骨折、 脱臼、 残っ
ている羽毛の問題、 異物の付着、 内臓の付着等々がチェックされます。 
 
認定工場制度
  私どもの鶏の供給システムの一番ベーシックな部分は、 認定工場制度です。 92年
4月に行政により食鳥検査制度が導入されていますが、 それに先駆け、 自主規格で
カットチキンシステムの認定工場制度を89年2月にスタートさせました。 この認定
工場制度は、 ひなの段階から各店舗に配送されるまでの間の食材であるチキンが常
に安全で、 衛生的で、 新鮮であるように管理、 運用を義務づけており、 当社独自の
認定基準を採用したところしか供給先として取引をしないということで、 制度とし
て確立しています。 
 
  まず最初に、 登録農場制度というものを採っており、 厳選された登録農場でひな
の飼育が行われています。 新規登録のためには飼育登録書を提出の上、 私どものほ
うでQA (Quality Assurance) という品質管理の部門のチェックをクリアして、 
初めて新規に登録されます。 そして農場は設備であるとか、 飼育方法、 配合飼料、 
薬品の管理状況等を認定工場に報告することが義務づけられています。 
 
  成鳥に関しては、 出荷10日前の完全休薬を義務づけております。 政令では7日間
ですが、 安全性を重視し、 3日間延ばしています。 また、 抜き取り検査も随時私ど
ものほうでやっています。 
 
  現在の認定工場は12社13工場あり、 食材の安全性と品質管理を定めたKFC独自
の認定基準が設定されています。 500項目以上の基準をパスしなければならず、 1
年ごとに更新、 定期検査並びに随時立ち入り検査が実施されて、 徹底した衛生品質
管理が行われています。 
 
  500項目以上の基準の一例をあげますと、 成鳥を扱う所、 放血、 脱毛する所、 内
臓物を出す所、 解体・包装する所、 梱包・出荷をする所と、 作業場所は最低5つの
部屋に分けるような形になっております。 それから各部屋ごとに作業服の色を変え、 
作業員の方の移動を明確にして、 汚い部屋から衛生的なきれいな部屋への移動がで
きないように規定されております。 このような細かい基準、 チェックポイントが生
産管理システムになっており、 お客様に安全で安心して食べていただける商品提供
の源になっているです。 
 
  配送システムは、 午前中に加工場で加工して、 午後にはトラックで各地の配送セ
ンターに輸送します。 翌日、 小型トラックによって店舗へ出荷します。 店舗にはウ
ォークインと呼んでいる冷蔵庫があり、 実際にその製品を調理する前に店舗の人間
が重量、 カット状態、 不要な脂肪をチェックし、 不純物などを取り除きます。 店舗
へは処理してから、 早いもので2日、 通常は3日目ぐらいのものが納入されてきま
す。 もうちょっと早くならないだろうかということが課題の1つです。 
  
新鮮なチキンにこだわる
 私どもが国産のチキンを使用する理由というのは、 あくまでも新鮮さ、 安全さと 
安定供給ということです。 国産のブロイラー業界の生産環境については、 人手の問 
題、 後継者の問題、 輸入品の増大、 内食需要の低迷といった状況で、 どちらかとい 
えば、 やはり衰退傾向という部分が見られるのではないでしょうか。 われわれとし 
てはいま非常な心配事になっています。 しかし、 KFCとしてはFHHのコンセプ 
トの追求のためには、 新鮮で安全な国産のチキンを適正な価格で安定供給してもら 
うことがぜひとも必要なのです。 

 昨今、 輸入品については冷凍技術の向上、 輸送手段の進歩・改善、 各輸出国の工 
場設備・衛生水準の向上があり、 品質レベルが相当高まっていると思っています。  
今年タイに行ってきたり、 過去に中国を見たり、 米国の工場を見たりしていますが、 
当然のことながら規模的な部分での違いは当然あります。 ただ、 向こうのほうが食 
品工場としてのハードが非常にしっかりしてきており、 そこからくる品質レベルの 
高まりを感じました。 特に9ピースカットについては、 海外の生産体系が日本のよ 
うに大びな主体ではなく私どもが使用している中びな主体であり、 品質の安定性に 
ついてこれからは注目していかなければと思っています。 さらに、 円高による内外 
格差という部分もあり、 われわれの購買政策も少なからず影響を受けつつあるとい 
うのがいまの状況です。    

 今後、 輸入物をどうするかということですが、 私どもは 「新鮮」 というものを一 
番に考えており、 国産のチキンを最優先で使用しています。 それと、 鶏肉そのもの 
を生産地で加工する形が一番良いと思います。 私どもの店舗というのは、 生 (なま) 
のチキンを持ってきて、 製品化する機能を持っているわけです。 ここのところが他 
のチェーンとも違いますし、 コンビニとも違う点です。  

 私どもはいわば生のものを持ってきて、 そこでつくるからお客さんのほうに非常 
に評価された。 そのための原料としてフレッシュのチキンが必要だと考えています。 
 今後の問題として、 加工品については、 海外で上手く加工して、 よりジューシー 
なチキンができるのであれば、 考えていかなければならないと思っています。 ただ、  
店舗でつくるわれわれの言葉でいう 「ORチキン」 (圧力釜を使い、 11種の秘伝ス 
パイスを加えたオリジナル・レシピ・チキンの略) についてはこれからも国内のチ 
キンを主体として考えていきたいと思っています。 
 
外食産業の現状と課題
 
  外食産業は基本的にはゼロ成長の時代に突入し、 きわめて厳しい現実に直面して
います。 バブル経済の崩壊に伴う景気の低迷とか、 個人所得の伸び悩み、 消費の冷
え込みが大きな影響を与えています。 販売者側が従来考えている良い商品とお客様
がお求めになる良い商品、 あるいは欲しい商品との間に大きなギャップが見られま
す。 それからお客様のそれぞれのその時々の購買動機を満たしてくれる商品が良い
商品というように変わってきているのではなかろうか。 外食産業でも、 消費不振の
なかで個性化、 多様化にいかに対応できるかということが大きな課題になっていま
す。 
 
  もう一つは、 新しい競合状態、 業態間といった部分でのボーダレスの競合が激化
しています。 外食、 中食、 内食、 こういう垣根を外したなかで今現在も競争が進行
しています。 従来はファーストフードの中でとか、 外食といった中での競合でした
が、 そういうものを飛び越えて競合する構造になってきています。 結果としての単
一コンセプトでの拡大路線はやや陰りが見え始めてきているのではなかろうかなと
思います。 
 
  特に中食マーケットの伸びが著しくて、 コンビニエンスストアにおけるファース
トフードタイプの商品はメニューのバラエティーの豊富さ、 低価格、 簡便性などか
ら、 ファーストフード店に大きな影響を与えています。 コンビニエンスのトップ企
業のファーストフード部門の売上は外食トップのマクドナルドの売り上げを上回っ
ているのです。 
 
  今、 外食産業に求められているのは差別化と個性化です。 これができない企業は
淘汰されていくといっても過言ではありません。 個性化、 差別化については、 顧客
ニーズ、 満足度の追求という部分であらゆる角度から試行を重ね、 取り組んでいか
なければいけないと思っています。 
  
  そういった中で私どもの競合の環境という部分は、 チキン商品の競合だけではあ
りません。 これまでの私どもの持っているような単一のメニューから多様化路線が
取られ、 あらゆる商品、 業態で競合が見られます。 どのファーストフードチェーン
も主要メニューにサイドメニューを加えて顧客の選択肢を増やしており、 利便性を
進めながら集客力アップと売上げの向上を目指しています。 
 
新しいコンセプト
 
  お客さんに満足していただくということについては、 本物のユニークな味を追求
して素材にこだわりを持つということ、 手のひらの温かみのある手作り感を志向す
るということ、 フレッシュなイメージを絶えず創造し、 それを商品だけでなく店舗
やサービスにおいても徹底させるということ、 温かみのあるサービスを基本として、
われわれはサービス産業です、 食品販売業でないということを自覚してやっていき
たい。 それからバラエティーさが求められており、 いままで以上に新商品や複合コ
ンセプトの開発に取り組んでいきたいと思っています。 
 
  新コンセプトの開発と新しいビジネスチャンスということで20数年間、 どの外食
産業も伸張してきましたが、 ファーストフードの業態に限らず、 既存の業態がすべ
てといっていいくらいコンセプト疲労という状況にきています。 新しいコンセプト
の開発が求められて新しいマーケットの創出という時代になってきていると思いま
す。 生活者が情報の発信地になっているということを今感じています。 
 

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