★ 事業団レポート


今年の牛肉需給を振り返って

企画情報部 安 井  護
 今年、 平成8年の牛肉の需給動向を振り返ってみたい。 特徴的なことは、 (1) 
国産牛肉の人気が高まり、 価格が極めて堅調に推移したこと、 (2) これとは逆に、 
輸入自由化以降、 ほぼ一本調子で拡大してきた牛肉の消費にブレーキがかかった
ことである。 

極めて好調に推移した国産牛肉

 長らく、 低下傾向にあった国産牛肉の卸売価格 (省令規格・東京市場) は、 昨 年の秋口から逆に前年同月を上回って推移するようになった。 今年に入ってから は、 上げ足を早め、 9月には4年9カ月ぶりに1,200円台に乗せた (図1)。 図1 牛肉の卸売価格(省令・東京)  この要因として、 次のことが考えられる。 供給サイド ・生産量が、 和牛、 乳牛ともに減少局面にあること (図2) 図2 牛肉の生産量(季節調整値) 需要サイド ・一般に消費者の購買行動が、 低価格一辺倒でなく、 質も伴ったプラスアルファ  を求め始めたこと (国産牛肉へのプラス要因) ・低価格の輸入牛肉が一般化し、 消費者が輸入牛肉に 「飽き」 を感じ、 国産牛肉  へ回帰しているとみられること ・このような状況の中で、 量販店等の小売りサイドが国産牛肉を見直す販売戦略  に転換したこと  以上のような傾向は、 昨年の秋口から見えてきたが、 今年になって、 2つの出 来事がこの動きを加速させた。 3月末からの英国でのBSEに関する報道、 さらに 今夏猛威を振るった病原性大腸菌O−157の影響である。 いずれも結果的に消費者 に輸入牛肉の消費を手控えさせ、 国産牛肉への需要シフトを加速させたと見られ る。 更に、 8月から実施された食肉の原産国表示の義務付けも影響しているだろ う。  全般に好調に推移した今年の国産牛肉の卸売価格であるが、 高級品A5だけは、 引き続き前年同月を総じて5%程度下回っている。 これは、 景気回復の足取りが 非常にゆっくりとしたものであるため、 高級業務用の需要が引き続き弱いためと 考えられる。

前年を下回る輸入牛肉の出回り量

 輸入自由化以来、 ほぼ毎年度10%を超える伸びを示してきた輸入牛肉の推定出 回り量 (消費量) は、 5月以降、 ほぼ毎月、 前年同月を下回り、 特に9月は▲21. 7%と激減している (図3)。  家計購入量は、 4月以降9月まで、 毎月前年同月を1割程度も下回っている (図4)。 これまで輸入牛肉の浸透が牛肉の家計消費を押し上げてきたのが、 逆に 今年は、 輸入牛肉の買い控えが、 家計消費を少なくさせたといえる。 図3 輸入牛肉の推定出回り量 図4 牛肉の家計購入量(1人当たり)

増減を繰り返した輸入

 牛肉の輸入量は、 冷凍品に係るセーフガードの解除と発動などで大きく増減し た (図5)。 4月には、 昨年8月に発動された冷凍品のセーフガードが解除され、 関税が3.8%引き下げられた。 このことから、 通関待ちの玉が一斉に通関され、6 月までに輸入が急増し、 昨年に引き続き8月には冷凍品の関税が50%に引き上げ られるセーフガードが発動されることが確実となった。 7月には、 その発動を見 越して輸入が大きく伸びた。  しかし、 上述のように4月以降、 輸入牛肉の需要はさえず、 8月、 9月と前年 同月を3割から4割近くも下回った。 図5 牛肉の輸入量

国産への 「追い風」 を確かなものに

 さて、 「国産品が好調、 輸入品が不調」 という展開となった8年の牛肉の需給 動向であるが、 今年、 国産牛肉に吹いた 「追い風」 を来年以降も確実なものにす るために、 消費者が安心でき、 安全だと言ってくれる、 より高品質な牛肉を生産 し、 提供していかなければならないことだけは間違いないだろう。
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