★ 事業団たより


消費者ニーズのある中食商品とは

(財)外食産業総合調査研究センター主催 「飲食店の経営管理研修会」 より

食肉生産流通部食肉課 高 原  恵

はじめに

 外食業界にとって今年は、 景気の低迷から売り上げが停滞していたところに、 BSE報道や病原性大腸菌O−157による食中毒事件が発生するなど非常に厳しい年 であった。 しかし、この中にあってコンビニエンスストアの持ち帰り弁当など「中 食 (なかしょく)」 と言われる業態は、 逆に売り上げを伸ばしたとも言われてい る。  今般、 財団法人外食産業総合調査研究センターが開催した 「飲食店の経営管理 研修会」 の中で、 中食をテーマとし、 食品アナリスト三沢ひろこ氏から 「消費者 ニーズのある中食商品とは」 という興味深い講演が行われたので、 その要旨につ いて御紹介する。

食事形態と世帯員数の変化

 総務庁の家計調査によると1人当たりの食料費の動向は、 この10年間大きく変 化していないものの、 それぞれの品目のシェアは変化し続けている (図−1)。 図−1 食料支出の推移  1995年の食料費のうち、 外食費や惣菜など調理食品の対前年伸び率が頭打ちの 中、 唯一伸びているのが、 主食的調理食品 (弁当など家に持ち帰りすぐに食べら れ、 その食品だけで1食として完結するもの。 以下 「中食」 という。) である(図 −2)。 図−2 食料支出の変化  また、 1970年からの外食、 惣菜、 中食の支出の推移をみると、 外食と惣菜はほ ぼ同じ動きをしているものの、中食については1970年の21倍にまで伸びている(1 人当たり支出額、 図−3)。 図−3 外部型食費の推移  このような中食の増加は、 1世帯当たりの世帯員数と大きく関係している。 全 国平均の世帯員数は年々減少しており、 とりわけ単身世帯や老夫婦世帯の増加な どが顕著に見られる (東京都では1人〜2人世帯が60%を占める。)。  中食の購入・消費は単身世帯、 老夫婦世帯などで伸びてきたと見られ、 その背 景には、 次のようなことが考えられる。  例えば、 単身世帯では、 仕事を終えて家で1人分の食事を用意することは手間、 時間、 経済性、 いずれの面でも効率が悪い。 一方、 外食は、 場所、 時間、 経済面 での制約がある。 その点、 中食という食事形態は単身者のライフスタイルへの適 応力が大きい。  また、 老夫婦世帯などでは、 調理をして後片づけすることが面倒であること、 食べる量が少量であること、 外食には慣れていないことなどから、 中食は非常に 定着しやすいものとなっている。  このように、 中食が今後も伸びていく環境は整ってきているのである。

なぜ惣菜より中食市場が有望なのか

 調理の手間を省くために購入するのは中食も惣菜も同じであるが、 これまでの ライフスタイルの移り変わりをみると中食と惣菜は違った消費特性を持っており、 惣菜から中食へと需要がシフトしていく過程がはっきりしている。 また、 今後さ らに成長が期待される市場としては、 惣菜もさることながら中食の可能性が大き いと見られている。  主婦が社会進出を果たした惣菜ブームの時代には、 惣菜をおかずとして買って 家で盛りつけ、 ご飯を炊き、 味噌汁を作るといったように、 一部の調理の手間は 省けるものの、 まだ食事を準備したり後片付けをすることは必要であった。 また、 食事を作ることは、 主婦の仕事であるといった考え方や手作り志向というものが あったため、 単に、 買ってきた食事を家族の食卓にそのまま出すということは余 りなかった。 更に、 世帯員数が多ければ、 既製品の弁当は経済的ではないとして あまり好まれなかった。  しかし、 現在の単身世帯や老夫婦世帯などにおいては、 1人分又は2人分の食 事の支度をするのは非効率で無駄も多いと考えられている。 また、 3人以上の家 族であっても、 個人の事情により食事を1人でとる個食化が進んでいる。 これは、 それぞれの都合による必要に迫られた個食化であるため、 主婦にとっても食事を 作らないことに対する抵抗感は無く、 「調理 (後片付けも) に使っていた時間は 別なことに使う」 という新しいライフスタイルが形成されているのである。 惣菜 の利用には、 多少の省力化はあっても、 調理者と調理時間が必要だが、 中食を利 用するには、 調理者も調理時間も必要ないのである。 中食は 「主婦がいる」 とい うことを前提としない食事のシステムとなっている。 また、 外食は場所を選ぶと いうわずらわしさがあり、 三度三度の食事に利用していくことは様々な面で難し い。 <家庭での食事スタイルの変化>

年代格差、 所得格差、 地域格差のない中食

 中食を利用する者は、 地域、 年代、 所得格差も非常に小さいものとなっている。 年代格差については、 例えば、 子供は塾に行く前にハンバーガーを食べる (ハン バーガーは中食ではないが、 テイクアウトが容易。)。 若い単身者は、 仕事から帰 る途中弁当を買って帰る。 共稼ぎの夫婦でも食事はばらばらであることが多い。 年をとると、 調理する手間を省き、 外食せず家でゆっくり食べることを好むとい ったように幅広い年代層において中食を選択する傾向にある。  所得格差についても、 低所得者層から高所得者層まで同様な傾向が見られる。 地域格差については、 都市部においては単身世帯の増加、 地方においては過疎化 による老夫婦世帯の増加のため、 中食の利用率が高くなってきている。  惣菜についての利用はほぼ中食と同じ傾向にあるが、 外食についてはやはり所 得格差が大きく影響するものとなっている。  このように、 中食市場は年代、 所得、 地域などとは無関係に、 これからも成長 を続けていくと予想される。

中食依存の食事形態

 30歳以下の一人暮らしの食生活を見ると、 男性については10年前は殆ど外食で あったが、 最近では外食の割合が半分程度になり、 利便で安価な中食にシフトし ている。 一方、 女性については中食もかなり増加しているが外食も増加している。 また、 自宅で夕食を食べない理由としては、 「夕食の支度をするのが面倒」 とい うことが一番大きな要因であり、 手軽に済ませることのできる食事が望まれてい る。  暖めるだけでよい冷凍食品の利用については、 単身世帯用の1DKマンションな どに備えて付けられている冷凍庫の容量が非常に小さいこと、 コンビニエンスス トアの品揃えが充実していないことなどから、 利用率がまだ低いものとなってい る。  このため、 時間をかけず、 簡単に食事をしたいという若い人のニーズに、 中食 は非常に合致しているのである。 一人暮らしにとって、 スーパーマーケットの食 材売り場の商品は調理の手間がかかり、 量も多く、 開店時間も限られたものであ るので利用しにくい。 一方、 中食は調理に係る手間、 時間などをすべて省くこと ができるといった生活のゆとりを提供してくれるので、 「依存性が高い」 という 大きな特徴が見られる。 <中食に移行するパターン>

おわりに

 このように、 中食が食事の形態として惣菜や未調理食材と違うのは、 全く調理 を必要としない点にある。 中食を利用することで、 時間や料理技術がいらず、 中 食以外の食品や商品を買う必要もなくなる。 店頭における商品の陳列や流通自体 の構造も変化していくものと思われる。 また、 食事というものが調理の手間を必 要としないものになることから食のスナック化 (軽食化) が進むかもしれない。  しかし、 中食が日常の食事として更に市場拡大を図るためには、 高齢化社会の 到来、 単身世帯のこれまで以上の増加など社会的な構造の変化に合わせ、 提供の 仕方にも工夫をし、 様々な消費者のニーズを的確に把握して、 健康的な食事とし ても発達していくことが要求されると思われる。 特に、 素材の質や安全性、 製造 工程の安全性に関しては、 消費者ニーズを待つまでもなく、 中食の日常化に伴う 応分の責務として対応すべきであり、 その評価が今後の中食市場のすう勢を決定 づけることになるだろう。
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