◎巻頭言


日本の畜産に消費者が求めること

日本生活協同組合連合会   理事 大橋 雅美







消費者に信頼される表示を
 消費者の購買行動は、 ここ数年大きく変わってきています。 「価格破壊」 とい うことが、 何年か前からいわれ、 より安いものを消費者が求める一方、 各方面に おいても、 リストラクチャリングをはじめ、 物流の効率化などにより、 流通業界 は、 価格破壊といわれるものに対応するため、 大きな転換期を迎えざるを得なか ったと思われます。  1995年度日本生協連全国生計費調査によると、 消費支出に占める食費の割合は、 1988年度においては19. 2%であったものが、 1995年度においては16.3%と低下 しています。 このなかで食費に占める肉類の割合は1988年度では11.3%、 1995年 度においては10.1%であり、 小売価格の低下という側面はあるものの食費におけ る肉類の消費支出は頭打ちの状態とも言えます。 消費を増やすためには、 価格で の競争も必要でしょうが、 これからはそれにも増して 「安心・安全」 という価格 以外のポイントが重要だと思います。  私たち消費者は生鮮品に対しては価格とともに、 鮮度についても以前から常に 関心を持っていました。 店舗において同じ商品が同じ棚に同じ価格で陳列されて いると、 必ずと言っていいほど、 鮮度の良い方を選びます。 しかし、 こういった 消費者の購買行動を逆手にとって、 最近消費者にとって信じられないようなこと が起きていることも事実であります。  牛乳では加工乳を成分無調整と偽って出荷したり、 またパンにおいては、 製造 日付を先付けして出荷したりしていることが、 最近明らかになっており、 これら の問題の経過や責任について問われているところであります。  こういったことは、 消費者と生産者との信頼関係を損なうものであり、 今後、 生鮮品全般に対する信頼性にも大きく影響してくるものと思われます。 現在、 生 鮮品の取引は、 まさに生産者と消費者の信頼関係の上に成り立っているものとい えます。 例えていえば、 様々な商品が大量に輸入されているなかでも、 「国産」 というラベルに対してこだわりというか、 志向性が未だに根強く存在しており、 同じ価格、 同じ鮮度であれば、 大半の消費者は国産品を選択するでしょう。 そう いった志向性を利用して、 輸入物を国産と偽ったとしても、 消費者にとっては見 た目には分からず、 選択してしまうことが、 決してないとは言い切れません。  逆に消費者が商品を選択する際に基準とするものは、 情報としては表示しかな いのですから、 その表示を信用して選択するしかないわけです。 先日、 問題とな ったものに、 輸入物の大豆を7割も使用していた納豆を 「国産大豆使用」 として 出荷していた例がありました。  生鮮食品に限らず、 より安くてよりよい、 より新しいものをということは、 以 前から注目されてきていることですが、 それと同様に表示の内容についても消費 者は最近大きな注意を払っています。 正しい表示は、 消費者が商品を選択する上 で、 必要最低限、 且つ最も重要な情報であり、 その情報を信頼して商品を選択す るのです。 その必要最低限で最重要の情報において、 虚偽の表示をされたりすれ ば、 消費者は一体何を基準に商品を選択すればよいのでしょうか。  先般、 食肉について原産国・原産地表示が義務づけられたことなどは、 消費者 にとって大変望ましいことです。 牛肉に関しては、 昨今狂牛病について様々な報 道がなされているなかで、 原産国・原産地表示は必要最低限の情報として求めら れていると言えるでしょう。  生活協同組合では、 日付表示の変更において、 牛乳の 「製造日付」 の併記を求 めてきておりますが、 今後も消費者が必要なものとして求める表示については、 消費者の立場から強く要望していく所存であります。 国産独自の商品政策を
 日本の農業・畜産は、 「自由化」 という波の中で激しい競争が強いられていま すが、 だからこそ消費者の立場に立った政策が必要となってくるでしょう。 今後 も低価格指向が続くことが確実と思われますが、 それとは逆に、 畜産物の原料で ある飼料穀物の相場が1995年の4月頃から世界的に高騰してきております。  通常はそういった状況のなかで、 物流コストなど流通にかかる経費を如何に抑 えていくかということが鍵になるのでしょうが、 もともと人件費等が高い我が国 において、 農業・畜産の世界に限らずコスト削減には限界があると思われます。 その分バイオテクノロジー等による技術面での競争が中心になってきます。 しか し、 農地面積の限界等、 ハード面において、 我が国は十分な条件が整備されてい るとは決していえません。  より安全性や効率化を高めるために、 国産畜産品の検査制度をより強化し、 さ らにその制度を幅広く消費者に伝え、 消費者の信頼を得るためのさらなる努力が 必要だと思われます。 また、 ソフトの面において、 農業従事者の高齢化や後継者 の減少に歯止めをかけるためにもUターンやIターン政策にも力をいれ、 農業を担 っていく人材を確保していくとともに、 それらの新しい力により、 国産独自の、 より差別化された商品政策を打ち出していくことが、 重要な課題となってくるで しょう。

元のページに戻る