★ 事業団便り


北の黒牛

企画情報部 安 井  護

 北海道で、 和牛の生産が伸びていると聞いた。 代表的な家畜市場である白老 

(しらおい) 市場は、 全国各地からの購買者で活況を呈している。 95年の取引頭

数は7,444頭と前年より1,021頭も多く、 全国ランキングで13位に入っている。 も

う一つのホクレン十勝市場も6,130頭で18位である。 



 北海道の牛というと、 乳牛のホルスタイン、 過去に導入が盛んであったアンガ

スなどの外国種といったイメージがあり、 和牛、 それも黒毛和種の飼養が盛んに

なっているということは、 不勉強で知らなかった。 3月に和牛生産の中心地の一

つ、 早来 (はやきた) 地方を訪れる機会があったので、 そこでの取り組みを紹介

したい。 



草資源を利用し、 高品質な子牛生産
 北海道の和牛生産は、 古くから取り組んできた白老を中心とする胆振 (いぶり) 地方と近年めきめきと実力を付けてきた十勝地方とに大きく分けられる。 近年で は各地で和牛生産に取り組む生産者が増えており、 白老市場には北海道の西半分 から、 十勝市場には東半分から広く、 肥育素牛として和子牛が出荷されている。  千歳空港から車で約1時間のJA早来で話を聞いた。 この地区では和牛生産に取 り組んでから25年も経つと聞いて驚いた。 そもそものきっかけは昭和44年に始ま った減反政策にある。 稲作からの転換を求められ、 45年から46年にかけて宮崎県 から繁殖用素牛 (雌牛) を26頭導入したことが始まりである。 その後、 数々の変 遷はあったものの順調に頭数が増加し、 今では早来町全体で繁殖雌牛400頭弱ま で拡大している。  早来町に限らず、 北海道の和子牛の特徴として挙げられるのは、 粗飼料を十分 に与えられているので、 胃袋が強く、 骨格がしっかりしていること、 肥育ステー ジでいい成績を出すための基礎ができていることだ。  早来町の和牛生産を支えるのは早来町公共育成牧場で、 和牛だけでなく、乳牛 も育成されている。 牧場の周りには、 採草地が十分に確保され、 冬場の乾草に困 ることもない。     地域一体での改良の努力
 早来での和牛の歴史の中で、 一番大きな変化は 「まき牛」 による自然交配から 人工授精への移行にある。 和牛の歴史は25年もあるものの、 もともと稲作が中心 で、 和牛は 「余技」 と考える農家が多かった。 このため、 改良についても熱心で なく、 事実、 90年までは、 早来町の平均子牛価格は白老市場の平均価格よりも低 かった。  これは、 早来町だけの話ではなく、 北海道で和牛は 「夏期間 (農繁期) は北海 道の広大な自然 (放牧場) に放し飼いし、 冬期間 (農閑期) に舎飼いすれば金に なるすこぶる扱いやすい家畜」 であり、 「黒毛で、 4本肢があれば価格もそこそ こついた」 という歴史がある (「早来の黒毛和種 20年の歩み」 から)。 このこと が、 改良を遅らせてきた大きな要因となっている。  そこで、 早来町では、 再度、 繁殖母牛の外部導入と人工授精による計画交配、 優良雌牛の町内保留を進めるなど母牛の改良を強力に推進することとした。 これ に対し、 「何故、 今までやってきた方法を変えなきゃならないのか」 と強い反発 もあったそうだ。 しかし、 母牛と種雄牛の 「相性」 を調べ、 相性のいい交配を推 進するためビラをつくって配るなど、 JA早来畜産課の木林係長たちの熱心な指導 で、 農家の理解も進み、 子牛の価格も市場価格をかなり上回るなど、 地域で一体 となった改良の努力が実っている。 畜舎の周りで放し飼い
 町内で、 母牛25頭を飼う西田さん宅を訪れた。 牛舎に牛がいないので、 どうし たのかと不思議に思ったら、 奥のパドックに放たれている。 雪の多かった今年は 3月中旬になっても、 まだ、 積雪があったが、 黒牛は雪の上で元気に乾草を食べ ている。 黒毛和牛といえば、 「通常、 牛舎の中で、 つなぎ飼い」 という固定観念 があったので、 少々驚いたが、 北海道では、 放し飼いが当たり前だという。 大雪 でも降らない限り、 昼は毎日畜舎から牛を出しているそうで、 白い雪と黒牛のコ ントラストがとてもおもしろい。  飼料は、 主に乾草で、 町の共同採草場から調達している。 夏は昼夜放牧で、 パ ドックの周りの林の下草を食べているそうだ。  【雪の上でも元気に歩き回る黒牛】 肥育への挑戦
 肥育まで、 自分たちで手がけたい、 JA早来では、 昨年から肥育センターでの肥 育試験を開始した。 運営はJAと農家が共同で当たっている。  肥育事業を始めたきっかけは、 肥育データをどうしても入手したかったからと のこと。 現在は、 子牛を市場で販売するとそこで情報の糸は切れてしまい、 販売 した子牛がどのような枝肉成績を残したか全く情報が伝わってこない。 毎回、 子 牛市場で購買者から情報収集をしているが、 具体的なデータもなく、 客観性に欠 ける。 今後も、 産地として、 成長していくためには、 繁殖と肥育を両方手がけ、 車の両輪としてやって行かねばとの強い思いがある。  ただ、 実際には、 子牛価格が堅調なので、 始めたばかりの肥育事業にとっては、 採算だけを考えると非常につらい面もあるそうだ。     【240頭の和牛を1人で管理している肥育センター】 間接検定で実力を証明
 北海道で初めての間接検定が昨年10月と12月に相次いで終了した。 (社) 北海 道家畜改良事業団が所有する2頭の種雄牛 (黒毛和種) で、 うち1頭は島根県が 生んだ名牛 「第7糸桜」 を父にもつ 「北賢桜」。 検定息牛10頭のうちA5が5頭と 5割の高打率である。 10頭の成績 (平均値) は、 質量兼備で、 脂肪交雑2.4 (5 年度の全国検定牛平均2.1)、 ロース芯面積54平方センチメートル (同46.5平方セ ンチメートル) などと全国平均値を上回っている。  もう1頭の 「菊福鶴」 は優秀な検定成績を残したものの、 残念ながら既に死亡 している。  北海道が種雄牛の造成を本格的に開始したのは、 近年のことである。 和牛の生 産が増えてくるにつれ、 人気のある種雄牛の精液はどうしても、 北海道に十分回 ってこない。 やはり、 北海道の生産者のために、 北海道で実力のある種雄牛を作 っていく必要があると強く認識されたのが、 造成を開始したきっかけである。  間接検定を終えた 「北賢桜」 をはじめとして、 優秀な種雄牛のラインアップで、 北海道の和牛が先進県と肩を並べるものと、 大きく期待されている。  【活躍が期待されている北賢桜の勇姿】 肥育の取り組みが課題
  (社) 北海道家畜改良事業団企画改良部の小林主幹は、 自分たちが苦労して作 った種雄牛の子牛の枝肉データは、 のどから手が出るほど欲しいという。 今後、 改良を進めていく上での悩みは、 枝肉データがほとんど入手できないこと。 子牛 市場で内地の購買者に買われていった子牛の成績を追跡することはまずできない。  肥育は、 繁殖とは技術が異なるのは当然として、 内地のやり方をそのまま導入 してOKというようなものでもない。 北海道の気候風土にあった肥育技術の確立も 重要だし、 何よりも個々の経営の資金力、 経営管理技術も大きく問われる。  北海道は和子牛の生産地で、 内地への素牛供給基地となっている。 しかし、 和 牛産地として飛躍するには、 繁殖だけでなく、 肥育して、 肉にしてその成果を取 り入れることが必要である。 肥育にどのように取り組んでいくか、 次なるステッ プとして、 北海道でどう取り組まれていくのか、 大いに注目したい。
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