北海道/田中 義春
北海道網走支庁管内興部(おこっぺ)町に住む大黒(だいこく)宏さん(39歳)は子 どもの頃、学校給食で出された牛乳が地元のものでないことを疑問に感じていた。 「興部町という酪農地帯でありながら、なぜ自分で搾った地元の牛乳を飲むことが できないのだろう」と。 それから15年、大学を卒業してからオーストラリアやニュージーランドをヒッ チハイクしながら、自分の家で乳を搾り、小さな工場で牛乳や乳製品を作って売っ ている本当の酪農家の姿を見い出したのである。 北海道に帰ってきてから、夢を求めて関係機関を精力的にまわり、許認可の手続 きをとり、昭和63年、不安と期待の中で「ノースプレインファーム」を設立、牛乳の 製造販売を開始した。 まず、地域の人に受け入れられなければと考え、地元へ牛乳を宅配することから 始めた。現在は周辺町村300戸にまで増え、また千葉そごうや高島屋にもテナント を持ち、売りあげも伸びている。 また、旭川市に牛肉料理を中心にしたレストランを、今年8月には札幌市にも居 酒屋を出店させた。大黒さんは素材を生かしたメニュー作りに余念がなく、特に原 料にこだわっている。質の良い草と健康な牛からの乳、そして「さし」を気にせず赤 肉主体の肉をお客に提供している。 現在、草地面積50ヘクタールで、経産牛60頭を濃厚飼料多給をさけて自然の形で 飼養している。仲間も重要な戦力と考え、地元の人はもちろん、各地のいろいろな 業種の人との情報交換も積極的に行っている。レストランや居酒屋の従業員にも 上から命令するのは嫌いなので、料理についてはすべて任せて、自分はスタッフの 一員として味をみるだけという。 小さい頃不思議に思ったことが、試行錯誤を経て次々に現実のものとなり、夢は 広がる一方。大黒さんは、酪農という従来の枠にとらわれず、多様化した新たな取 り組みをする人が出てくることと、それができる体制を望んでいる。元のページに戻る