◎地域便り


中山間地の養豚を自家製ハムで生きる

鳥取県/山崎 和夫
 鳥取県東部で兵庫県但馬 (たじま) に接する標高450mのスギの町若桜町吉川。 
大阪の食品会社の精肉部で働いていたが、 昭和60年父母が専業でやっていた肉豚
の一貫経営を継ぐためUターンした平口政則 (40才) さんと妻の靖惠(39才) さん。 
山間地で田20アール、 畑10アールと耕地が狭いため、 経営の拡大を自家製ハムな
どの加工に求めた。 

 もともと 「豚肉の価格低迷で、 いくら頑張っても生産者の気持ちは価格に反映
されない。 それなら生産から販売までを自分でやりたい」 と思っていた。 

 県専門技術員や改良普及員の指導を得て、 他の加工現場を見学、 試行錯誤の2
年を過ごした。 その間に地域の関係者から試作品に対する適切なアドバイスを受
け、 味付け等を工夫していった。 あわせて販売先を確保できたので、 昨年11月か
らハム工房 「つくしんぼ」 のブランド名でハム、 ウィンナーソーセージ、 ベーコ
ンの製造販売を始め、 年間約3,500kgを生産している。 

  「つくしんぼは、 早春、 広島の原爆跡地に、 元気に芽を出してきたのにちなん
で田舎っぽい名をつけた」 と平口さんは語る。 

 必要最小限の設備を整えた工場で、 徹底的に手間ひまをかける。 中でもハムは
2週間漬け込んで下地をつくり、 自分でレンガを積み上げて造った燻煙室で5〜
6時間いぶす。 微妙な調節が必要なので、 その間は燻煙室のそばにつきっきり。 

 しかし、 良い豚を育てることが基本なので、 肉豚生産の手を抜くこともできず、 
ハムづくりには週2日しかさけない。 

 年間出荷肉豚1,100頭、 うち100頭を加工用に向ける。 その豚には特別の飼料配
合で厚脂になるよう、 また、 特有の臭みがなくなるよう飼育している。 品種はす
べてL・W×Dである。 

 販売先は県外を含めた約120名の会員(1人1万2千円の会費で年3回ベーコン・
ハム等1.5kg程の詰合せを配布)、 町内の観光施設や各種イベント等への直接販売、 
大阪・横浜の知人を介しての宅配便など。 創業前の試作段階で評判を得たことや
農業改良普及センター等を通してマスコミが話題にしたこと等から会員は口コミ
で広がった。 生産量に限りがあるため、 町外の観光地からの引き合いもあるが、 
今のところ町内での注文販売が中心である。 

 条件不利な山間地でも、 すぐれた英知とやる気があれば経営は立派にやれる好
事例といえよう。 

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