◎今月の話題


資源多消費型社会の食生活を考える

フリージャーナリスト 三樹尚子









「成長の時代」 の次に来るもの

 20世紀は 「成長」 と 「拡大」 に先進各国がかつてない重きをおいて邁進した時
代であった。 この100年間で地球上の人口は4倍に増え、 人間の経済活動は20倍、 
エネルギー消費量は25倍に拡大したという推計がある。 そして1992年の 「リオ地
球サミット」 と本年6月の 「国連環境特別総会」 では、 <持続可能でない…unsu
-stainableな…消費と生産のパターンが、 地球環境の悪化が続いていることの主
原因である>と指摘している。 

 それでは消費と生産の持続可能な様式を、 いかなる考え方と方法で求めたらよ
いのか?

 大阪大学の盛岡通教授は次のようなポイントをあげている (注1)。 

1 基本的なヒューマン・ニーズを満たすこと

2 生活の質を高めること

3 ライフスタイルの各段階で環境への負荷を最小にすること

4 しかも、 次世代のニーズを満たすことを危うくしない物財の消費の様式を目
  標とするべきであること。 

 この循環型の社会経済システムへの移行には、 さまざまな経済セクター間で新
たに責任を分担しあう対話と共同作業が必要となる。 少なくとも、 大量に発生し
続けるゴミや有害物の後処理に追われる状況から脱して、 ドイツや北欧諸国のよ
うに発生回避の視点を貫いた環境政策の制度化が望まれる。 この点について個々
の日本の市民活動や産業界の対応には欧米より活発な面もみられるものの、 本格
的な省資源・循環型の共生社会をめざす体制は、 まだ、 整っていない。 



日本の食生活の現状

 では、 我々に身近な食生活の現状はどうだろうか?

 日本の食卓は戦後 「一汁一菜」 の確保に苦労した時代から、 メニューの洋風化・
多様化、 さらには簡便化・外部化が急速に進んできた。 オイルショックを経た19
70年代の後半から80年代にかけて、 サービス経済化や既婚女性の社会進出といっ
た都市生活の変化のもと、 人々の食生活が一見豊かになる一方で環境への負荷が
高まってきた。 

 具体的には

1 1986年以降、 国民一人・一日当たりの供給熱量に対する摂取熱量の比率が我
  が国では8割を割り、 統計上 「可食廃棄」 の率が2割を越えたこと

2 しかも1987年以降は供給熱量自給率が5割を下回っている状況のなかで、 世
  界の人口・食糧事情を見通した施策が求められること

3 家庭ゴミに占める生ゴミと食品・飲料の容器包装材の割合が多く、 ゴミ処理
  にかかる社会コストが増大していること

4 消費者の大半は食生活面で 「環境にやさしいライフスタイル」 を身につけた
  いと思っているが、 具体的に 「何をどうしたらよいのか」 についての迷いが
  あり、 情報が不足していること

などの問題点が顕在化してきたのである。 



エコクッキングの提唱と個人/生産者の役割

 農林水産省では、 以上の経緯から1993年度に一般消費者を対象とする 「環境調
和型食生活」 検討委員会 (筆者は事務局メンバーの一人) を発足させ、 現在も普
及啓発に当たっている。 

 同委員会では、 家庭内の食行動を1 食べ物の買い方・選び方、 2 地球にや
さしい家庭料理、 3 洗い物・後片付けの手順、 4 上手な食品の保存法、 5捨
て方・活かし方の工夫の5つの段階に分けて考察し、  「食生活を環境にやさしい
ものに変えるための24の指針」 を1995年に発表した。 各自がA 食べ物のゴミ
を少なくする工夫、 B 台所の排水を汚さない工夫、 C 調理のエネルギーを節
約する工夫などの身近な環境に配慮した調理法である 「エコクッキング」 の実践
を進めながら、 子供や孫の代に安心して暮らせる社会づくりに向けて、 互いに協
力できる体制を深めていきたいものである。 

 さらに国立環境研究所が1995年に3大都市圏で実施したアンケート調査 (注2) 
によると、 消費者が環境問題を解決するためにメーカーに望む点としては、「廃棄
された製品を責任をもって回収・処分する」 が77.4%と最も多く、 次いで 「環境
によい製品を積極的に開発する」 が68.5%となっている。 製品のライフサイクル 
(資材調達から廃棄段階まで)の全体をとらえた環境への配慮が望まれているとい
えよう。 同時に個人としては、 購買の時点で価格や品質だけでなく環境への負荷
を考えて品物を選ぶ 「グリーンコンシューマー」 としての自覚や行動が、 ますま
す重要になってくると考えられる。 

 (注1) 1997年9月 「第2回環境家計簿運動推進全国大会」 基調講演より

 (注2) 「地球環境問題をめぐる消費者の意識と行動が企業戦略に及ぼす影響」 
    調査 有効回答1,541


みき ひさこ 民間のシンクタンクを経て、 平成7年独立。 21世紀に向けての地域間交流や循環 型社会システムのあり方等にかかわる調査研究に携わる。 農林水産省 「環境調和型食生活検討委員会」 の事務局メンバーとしても活動。

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