★ 農林水産省から


食料・農業・農村基本問題調査会中間取りまとめについて

農林水産大臣官房企画室

中間取りまとめにいたる経緯

 昭和36年に農業基本法が制定されて以来、 36年が経過し、 この間、 社会経 済情勢は国内的にも国際的にも大きく変化してきており、 我が国においても、 自 由で活力のある経済社会システムの創造を目指して様々な改革が進められていま す。  人口・食料・環境・エネルギー問題は、 地球的規模での21世紀の課題であり、 我が国の食料・農業・農村についても、 これまでの農業政策の制度や考え方だけ では対処できなくなりつつあります。 また、 食料・農業・農村政策のあり方につ いても、 国民全体、 国土全体の問題としてとらえなおし、 新しい政策としていく ことが必要となっています。  このような中で、 農業基本法の見直しを含む農政の抜本的な改革を図るため、 食料・農業・農村基本問題調査会 (以下、 調査会) が内閣総理大臣の諮問機関と して、 総理府に昨年4月に設置されました。 委員20名、 専門委員15名が任命 され、 会長は、 木村尚三郎東京大学名誉教授が選ばれ、 会長代理として渡辺文雄 栃木県知事が指名されました。  調査会は、 昨年4月の第1回会合の際に、 橋本総理から 「食料、 農業及び農村 に係る基本的な政策に関し、 必要な改革を図るための方策に関する基本的事項に ついて、 貴調査会の意見を求める」 との諮問を受けました。  第2回の会合では、 調査会における検討項目についてフリーディスカッション を行い、 第3回の会合において、 食料、 農業、 農村の3部会が設置され、 検討項 目が整理されました。 食料部会長は荏開津典生千葉経済大学経済学部教授、 農業 部会長は後藤康夫日本銀行政策委員会委員、 農村部会長は祖田修京都大学大学院 農学研究科教授となっています。  昨年6月下旬以降は、 各部会を中心にそれぞれの検討項目に従って、 食料、 農 業、 農村政策のあり方の基本的な考え方について検討を行い、 議論を深め、 昨年 12月には、 国民各層の意見を求めるため、 それまでの議論を中間的に取りまと め、 公表しました。  今後は、 国民各層から寄せられる意見も参考にしながら、 諸制度の抜本的な見 直しを含む具体的な政策全般にわたる改革の方向について検討を行い、 本年夏頃 を目途に最終答申を行う予定になっています。

中間取りまとめの概要

I 食料・農業・農村を考える基本的な視点  今後、 国民的見地に立って、 食料・農業・農村を一体として施策の対象とし、 検討していく。 1 食料供給の安定は、 国民生活の基盤である。 2 農地と森林は、 水をはぐくみ、 国土をつくる。 3 21世紀は、 持続的社会の形成が求められる。 4 人口・食料・環境・エネルギー問題は、 地球的規模の問題である。 5 経済社会全体にわたる変化が進行する。 II 食料・農業・農村の当面する諸課題 1 将来にわたり国民に対する食料の安定供給を確保していく。 2 政策全般にわたり消費者・国民の視点に立ち、 そのニーズに対応する。 3 食料供給の重要な担い手である食品産業の健全な発展を図る。 4 農業構造の変革を進めるとともに、 意欲ある農業者の経営の安定を図る。 5 中山間地域等を含む農村地域の振興・活性化と魅力ある 「むらづくり」 を進   める。 6 農業の環境保全機能を発揮するとともに、 環境への負荷の軽減を図る。 7 飢餓、 貧困問題の解決に向けて食料・農業分野における国際貢献を行う。 8 その他諸外国の農業政策の動向や財政事情を踏まえる。 III 食料・農業・農村政策の基本的考え方 1 国民の生命と健康を守る食料安全保障政策の確立 (1) 不安定化する世界の食料需給  世界の食料需給は、次のような背景から、 短期的な不安定さが増すとともに、中 長期的にはひっ迫する恐れがある。 1) 人口の急激な増加と食生活の高度化により需要が大幅に増大 2) 農用地の面的拡大の限界や環境問題の顕在化等生産面での種々の制約 3) 輸出国が特定の国に偏る傾向、 また輸出国は在庫水準を圧縮 (2) 国民が必要とする食料の安定供給の確保 ア 国民が必要とする食料の安定供給を確保するためには、 国内農業生産、 輸入  及び備蓄を適切に組み合わせていくことが必要である。 イ 国内農業生産の位置付けについては、 国内農業生産を基本とすべきとの意見  が大勢を占めたが、 国内農業生産と同様に輸入の役割も重要であるとの意見も  あった。 〔国内農業生産を基本として位置付けるべきであるとの意見〕 1) 輸入への依存度を高めることは、 我が国の食料供給構造の危うさを増す。 2) 自国の資源を最大限に活用することは、 地球社会における各国の責務である。 3) 農業を適切に維持することにより、 国土・環境保全等の機能が発揮される。 4) 食料輸出国内における供給不足等の場合、 輸入が確保されるとは限らない。 〔国内農業生産と同様に輸入の役割も重要であるとの意見〕 1) 高コストの国内農業生産を拡大した場合、 国民負担が増大する。 2) 食料外交による輸入の確保に努めるべきである。 (3) 食料自給率の取扱い  食料自給率を政策目標とするか否かについては、 賛否両論があることから、 引 き続き検討を加える。 〔食料自給率を政策目標とすべきであるとの意見〕 1) 食料自給率が先進国中で極めて低いことを踏まえ、 向上を図るべきである。 2) 食料自給率はわかりやすいので、 政策目標につき国民合意を得やすい。 〔食料自給率を政策目標とすべきでないとの意見〕 1) 食料自給率は、 主に消費の変化によって低下してきたものであり、 行政が介  入することは困難である。 2) 食料自給率は国内生産力を示す客観的な指標ではない。 むしろ食料供給力の  維持のための政策体系が重要である。 (4) 食料供給力の維持・確保 ア 安定的輸入の確保が困難となる等の事態が生じても最低限必要な栄養を供給  できるような農業生産の基盤 (農地、 水、 担い手、 技術等) の確保が必要であ  る。 イ 必要な農地総量を明確化するとともに、 生産転換や公平な供給のための体制  につき検討すべきである。 (5) 安全・良質な食料の供給と的確な情報提供  国民のニーズに応え、 より安全・良質な食料の供給に努めるとともに、 国民が 適切な商品選択ができるよう規格・表示等的確な情報提供を行うべきである。 (6) 食料供給の担い手としての食品産業の発展  食品産業は、食料の安定供給について農業とともに重要な役割を担っており、そ の一層の合理化・効率化を図るとともに、 食品産業に対し国内農産物の適正な品 質、 価格での安定供給を行うべきである。 2 次世代に向けた農業構造の変革 (1) 農業構造の変革と生産性の向上 ア 効率的な経営体が地域農業の中心を担うよう農業構造の変革を加速すべきで  ある。 このため、 経営感覚に優れた意欲ある農業者に施策を集中し、 規模拡大  による生産性の向上、 高付加価値化等を促進することが必要である。 イ 農地の流動化、 農業基盤整備、 技術開発について、 構造の変革と結びつけ重  点化していくべきである。 (2) 意欲ある多彩な担い手の確保・育成 ア 意欲ある農業者を確保・育成していくため、 農家の後継者の育成、 農業経営  の法人化、 新規参入の促進等を図ることが必要である。 イ 農業において重要な役割を担う女性の地位の明確化・向上を図るとともに、  高齢者も担い手としてとらえ施策を講ずることが必要である。 ウ 多様な教育の機会等を通じ、 農業についての理解を深めていくことも重要で  ある。 (3) 農地制度のあり方 ア 将来にわたって優良農地を確保していくことが必要であり、 農地の公共性に  ついての認識の徹底を図るべきである。 イ 株式会社の農地の権利取得を認めるか否かについては賛否両論があることか  ら、 引き続き検討を加える。 〔株式会社の農地の権利取得を認めるべきとの意見〕 1) 情報力、 技術開発力等を有する株式会社の参入で農業が活性化する。 2) 農業生産法人が株式会社に発展することにより、 規模拡大等が容易となる。 3) 畜産・施設園芸部門では株式会社が既に参入し、 活躍している。 4) 土地利用規制の強化により投機的取得等の防止を図るべきである。 〔株式会社の農地の権利取得を認めるべきでないとの意見〕 1) 不耕作や転用目的の投機的な農地の取得を完全には排除できない。 2) 利益が出ない場合には事業から撤退し、 農地が荒廃するおそれがある。 3) 水管理、 土地利用等の面での地域社会のつながりを乱すおそれがある。 4) 自然を相手にする農業の担い手は家族経営を基本とすべきである。 3 市場原理の活用と経営の安定 (1) 価格政策における市場原理の一層の活用  需要の動向が生産者に伝わりにくいといった問題を解消し、 経営感覚に優れた 意欲ある農業者を育成するため、 価格が需給や国民のニーズを反映するシグナル としての機能を十分発揮し得るようにしていくべきである。 (2) 意欲ある農業者に対する経営安定対策のあり方  価格が低落した場合に、 意欲ある農業者の経営が打撃を受けることのないよう、 作目別の生産・流通事情等に応じ、 経営安定措置の導入を検討すべきである。  また、 中長期的には、 個々の作目ごとではなく、 農業経営全体をとらえた経営 安定対策の導入につき検討を行っていくべきである。 (3) 米政策のあり方  米の生産力及び需要の現状から、 価格の安定を図るため、 水田の生産力を維持 しつつ、 生産調整を実施していくことが必要である。 その際、 生産・生産者団体 は自らの問題として対応し、 行政はこれを支援することとすべきである。  また、 価格が大幅に低下した場合に意欲ある農業者が大きな打撃を受ける事態 を防止するため、 経営の安定を図るための措置を講ずることが必要である。 (4) 農産物についての内外価格差の縮小  我が国においては、 農業経営の零細性、 高地価、 割高な資材費・人件費等から 生産コストが高くならざるを得ない面があることも踏まえながら、 米以外の農産 物についても、 意欲ある農業者の経営の安定を図りつつ、 内外価格差の縮小に努 めることが必要である。 4 中山間地域等の振興  中山間地域等においては、 規模拡大による生産性の向上には限界があるが、 食 料の供給に加え、 国土・環境の保全、 水資源のかん養等重要な役割を果たしてい る。 このため、 中山間地域等を維持発展させていくため、 平地地域とは異なった 観点からの施策の検討が必要である。 (1) 立地条件を活かした特色ある農林業の展開  中山間地域等においては、 多様な立地条件を活かし、 多品目少量生産、 付加価 値の高い農業生産や、 加工・流通分野、 グリーンツーリズム、 都市との交流等の 複合的な活動の展開を促進していくことが必要である。 (2) 食料供給、 国土保全等の観点からの施策のあり方 ア 中山間地域等においては、 過疎化・高齢化の進行等により担い手の確保が困  難となるとともに、 集落機能が低下しつつあり、 農業生産や地域社会の維持が  重要な課題となっている。 食料の供給、 国土・環境の保全等の機能が低下する  ことのないよう、 公的な支援策を講ずることが必要である。 イ 食料供給、 国土保全等の機能を維持するための新たな施策として、 農業者の  収入機会確保の必要性が高まっているが、 EUで実施されているような直接所  得補償措置を導入することについては、 賛否両論があることから、 引き続き検  討を加える。 〔直接所得補償措置の導入に積極的な意見〕 1) 適切な農業生産活動を維持するためには、 傾斜地が多い等の生産条件の不利  を補うことが必要である。 2) 国土・環境保全等経済外的な価値の創出に貢献する農業者の支援が必要であ  る。 3) 地域社会の維持のためには、産業振興、 生活環境整備だけでは限界があり、定  住を確保する観点からより直接的な所得確保に資する措置が必要である。 〔直接所得補償措置の導入に消極的な意見〕 1) 規模拡大の進んでいない我が国では、 零細な農業構造の温存や意欲の減退等  の問題の生じない施策が必要である。 2) 農業者に限った助成については、 合理的な理由なしには国民の理解は得難い。 3) 平地と中山間地域の作目等の違いが小さい我が国では、 対象地域、 対象者の  範囲等を明確にしなければ国民の理解は得難い。 5 農村地域の活力の増進 (1) 農村の公益的・多面的機能の発揮  農村は、 国土・環境の保全、 水資源のかん養、 自然・景観の提供等公益的機能 が発揮される場である。 このような機能は広く国民が享受するものであり、 美し い農村空間は国民共有の財産として位置づけられる。 (2) 農村地域の活性化と魅力ある 「むらづくり」  農村地域の活性化を図っていくため、 農林業を含む多様な産業の振興や生活環 境整備の促進等が重要である。  この場合、 中小都市と周辺農村の連携・機能分担や総合的・計画的な土地利用 を図ることが重要である。 また、 農村住民と都市住民の交流の条件整備が必要で ある。 6 環境と調和する持続的な生産の推進 (1) 農業の公益的機能の発揮  農業は、 環境と最も調和し得る産業であり、 国土や環境を保全する機能を果た していることから、 政策の構築に当たってこれを十分に踏まえることが必要であ る。 (2) 環境に対する負荷の軽減  化学肥料・農薬の使用量の削減等により、 農業全体を環境への負荷軽減に配慮 した持続的な農業 (環境保全型農業) へと移行させていくことが必要である。 7 食料・農業分野における主体的・積極的な国際貢献  世界の食料の安定的確保・供給のみならず、 我が国の食料安全保障にもつなが るものとして、 技術協力、 資金協力及び食糧援助を積極的に推進していくべきで ある。

両論併記について

 この中間取りまとめは、 これまでの調査会における議論を中間的にとりまとめ たものであり、 この中には以下のように、 意見が分かれ賛否両論が記述されてい る事項があります。 1) 食料の安定供給の確保の観点から、「国内農業生産を基本として位置づけるか   否か」 2) 食料自給率の取り扱いとして、 「自給率を政策目標とすべきか否か」 3) 農地制度のあり方として、 「株式会社の農地の権利取得を認めるべきか否か」 4) 食料供給、 国土保全等の観点からの施策のあり方として、「中山間地域等に直   接所得補償措置を導入するか否か」  1)については、 賛成論は、 これ以上の輸入依存は、 我が国の食料供給構造の危 険性を増すことになること、 各国がそれぞれ自国の農業資源を最大限に活用する ことは各国の責務であること、 農業が有している国土・環境保全等の公益的・多 面的機能を十全に発揮させる必要があること、 輸入、 備蓄には不安定性があるこ と等を根拠にした意見であり、 反対論は、 国内農業生産の拡大は国民負担の増加 につながること、 国際協調時代を迎え、 輸入先の多元化等食料外交による輸入の 確保に努めるべきこと等を根拠にした意見でした。  2)については、 賛成論は、 我が国の食料自給率が先進国の中でも極めて低いも のとなっていること、 食料自給率は、 政策目標とすることについて国民合意が得 られやすい指標であること等を根拠とした意見であり、 反対論は、 食料自給率の 低下は、 米の消費の減少、 輸入飼料に頼らざるを得ない畜産物の消費の増加等国 民の食生活の変化によるものであり、 行政が国民の消費行動に積極的に介入する ことは困難であること、 国民に安心感をもたらすためには、 食料自給率よりむし ろ食料供給力の維持が重要であり、 そのための政策体系を構築していくべきであ ること等を根拠にした意見でした。  3)については、 賛成論は、 様々な経営能力を有する株式会社の農業への参入は 農業全体を活性化させること、 農業生産法人が株式会社化することにより、 規模 拡大や加工・流通分野への進出のための資金調達が容易になること、 既に畜産・ 施設園芸部門における生産では、 株式会社を含めた法人経営が重要な地位を占め ていること、 農地の投機的取得や無秩序な転用を防止することが基本であり、 参 入規制は適当ではないこと等を根拠とした意見であり、 反対論は、 現在の状況で は投機的な農地の取得を完全に排除することができず無秩序な農地転用につなが りかねないこと、 株式会社は利益が出ないような場合には事業から撤退し農地が 荒廃するおそれがあること、 株式会社の参入は地域社会のつながりを乱すおそれ があること、 農業の担い手は家族経営が基本でありこの基本を崩すべきではない こと等を根拠とした意見でした。  4)については、 賛成論は、 条件不利地域に対しては、 適切な農業生産活動を維 持するため不利性を補う必要があること、 国土・環境の保全、 水資源のかん養等 経済外的な貢献を行う農業者に対して支援を行う必要があること、 中山間地域等 の地域社会を維持していくためには、 定住確保の観点から直接的な所得補償が必 要であること等を根拠とした意見であり、 反対論は、 EU型直接所得補償の導入 は、 零細な農業構造の温存、 農業者の生産意欲の減退につながること、 農業者の みに助成することに対する合理的な理由が必要なこと、 助成の対象地域、 対象範 囲等を明確にすることが困難なこと等を根拠とした意見でした。

調査会の情報公開等について

 調査会では、 これまでの提出資料、 議事録について原則として公開しています。 中間取りまとめについても、 農林水産省の情報公開窓口以外にも、 インターネッ ト(http://www.maff.go.jp) アグリコール (FAXサービス: 03−3595−4848(指示に従って73732を入力)) で入手が可能です。  また、 中間取りまとめに関するご質問、 ご意見等を以下で受け付けています。 農林水産大臣官房企画室  〒100−8950   東京都千代田区霞ヶ関1−2−1    電話:03−3502−7134    FAX:03−3592−7695    E−Mail:white56@sc.maff.go.jp
元のページに戻る