◎地域便り


中山間地の活性化に挑む創意に満ちた和牛繁殖肥育一貫

鳥取県/山崎 和夫
 岡山県に接し中国山脈沿いの、 杉で有名な山林の町鳥取県智頭 (ちづ) 町。 山
仕事もなく、 米や牛では儲からないので、 昭和42年工業高校を卒業するとすぐ
神戸に就職した岸本眞一郎 (49歳) さん。 しかし、 拘束の多い会社勤めは性分
に合わず、 昭和48年Uターンして和牛の飼育を始めた。 

 国の農業後継者資金を使って繁殖雌牛7頭からスタートし、 50年の子牛価格
の下落を機に肥育に着手、 繁殖10頭、 肥育8頭の一貫経営に取り組んだ。 これ
までにも県内で小規模の一貫経営の例はあったが、 多頭化して本格的に取り組ん
だのは岸本さんが最初であった。 このころから水田転作が本格化してきたので借
地によって飼料作面積を広げていった。 また、 飼養技術の向上のため東部青年肥
育研究会、 智頭町農協肥育部に加入した。 

 その後も頭数、 飼料作とも徐々に拡大していく中で、 岸本さんらの要望がかな
って町営のアパート式畜産団地が完成、 昭和59年仲間4人と共にこの団地に入
った。 現在では繁殖35頭、 肥育33頭の経営規模である。 

 経営の方針は低コスト化、 その手段は自給粗飼料の増産と豆腐粕の利用である。 

 粗飼料は転作水田の借地4haに、 半分は混播牧草 (オーチャードグラス、 レ
ッドクローバーなど)、 残り半分はソルゴーイタリアンを作付け、ほとんど自走式
収穫機で刈り取り、 生草4割、 サイレージ6割にして給与している。 中山間の水
田のため5団地 (35筆)、12戸の農家から借り受けているが、 分散しているの
で効率が悪く随分苦労している。 

 また、 地元の豆腐工場から豆腐粕を毎週1回1.5トンを運搬 (年間80トン)、 
圧ぺんとうもろこし、 専管ふすま、 酒糠 (さかぬか) を、 さらに繁殖にはビート
パルプを混合、 2〜3週間発酵させて粕サイレージに仕上げ給与している。 これ
でエサ代は3割方安くなるとのことだ。 脂肪の質が良くなるため牛肉の味もひと
きわ良いという。 

 今年10月から県の畜産活性化事業を利用して牛肉の直売を始めた。 自宅近く
の直売所で食肉センターから持ち帰った精肉 (月当たり3〜4頭分) を販売して
いる。 口コミで広がったお客さんからはなかなかの好評を得ている。 今後は、 エ
サの関係でつながりのある豆腐、 酒も併せて売りたいと語る。 

 岸本さんは 「水田転作がますます強化される情勢だ。 中山間の農地を守り生か
すには畜産以外にはない。 中山間活性化のため支援してほしい」 と熱っぽく抱負
を語っていた。 


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