◎地域便り


井戸端会議と牛飼いと

広島県/枡川 一之
 中国山脈のまっ只中で、 稲作農家の主婦が、 共同で和牛飼育を行っている。 

 広島県比婆郡高野町和南原三沢地区は、 標高600m、 山あいの集落で、 農家
戸数18戸中有畜農家は7戸と少なく、 林業と水稲の単作地域である。 

 平成元年、 採草地の入会権を共有していた4戸が、 稲作協業をすることとなり、 
稲刈機、 もみ乾燥機、 もみすり機等の大型農機を導入して、 「三沢農機利用組合」 
(組合員4戸、 代表者前田正人さん) を結成し、 集落入口に関連施設を建設した。 

 平成2年、 もみ殻の利用と採草地への時間放牧をするため、 各戸の和牛を集め
て共同飼育をすることが話し合われた。 翌年8月、 関係者の指導により、 米調整
施設に付属して、 繁殖牛15頭収容の牛舎を建設した。 同時に各戸より母牛8頭
と子牛を収容し、 採草地の地名をとり、「斉ノ木牧場」 として、 和牛飼育の協業を
始めた。 発足時の母牛頭数、 子牛等によって生じた各戸の評価額の差は、 その後
の子牛の販売代金で平均化した。 

 牧場の朝は、 4戸の組合員による当番制の給飼に始まる。 午後2時頃になると、 
組合員の最年長で和牛飼育のベテランのOさん (73歳) がやってくる。 母牛の
様子、 子牛の状態等を見回り、 3時になると、 4牧区に分割した放牧場に出す。 
放牧場は、 昭和40年代に造成した混播牧草地だが、 現在は良好な芝草地に変わ
っている。 

 夕方5時頃になると、 各戸の婦人がやって来る。 夕方の給飼と翌朝の準備、 敷
料の入れ替え等が、 様々な話題と共に賑やかに始まる。 やがて牛たちも牛舎にか
えり、 1日が暮れる。 現在は母牛11頭と子牛たちだが、 まもなく、 農協の毛無
山 (けなしやま) 肉用牛センターに預託している妊娠牛6頭が帰り、 牛舎は満杯
になる。 

 この共同利用によって飼養頭数の増加、 稲ワラやもみがら等の有効活用、 転作
田の利用、 さらに休日が取れるようになったなどの成果があがっているという。 

 代表の前田さんは 「出来る者がやる、 無理はしない、 果実は平等分配する」 こ
とが、 永続するための秘けつと話す。 明日も、 楽しい井戸端会議の牛飼いが始ま
るだろう。 


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