◎今月の話題


牛乳・乳製品の市場性の一側面について

財団法人日本乳業技術協会 常務理事 中 野  覚








新商品開発に必要な視点は

 人口の伸びの鈍化、 消費者ニーズの多様化・高度化、 競合商品との競争の激化 等に加えてWTO体制の展開によるグローバル化の進展により、牛乳・乳製品市場に おいても競争は一層激化の傾向にある。  このような状況下での牛乳・乳製品の商品開発に際してのコンセプトについて は、 時代の変化を踏まえた社会情勢への対応、 さらに年齢、 性別、 地域等を踏ま えて考えていかなければならない。  全国乳業協同組合連合会では、 3カ年にわたり 「飲用乳類に関する新製品開発 のための調査」 (指定助成対象事業) を実施した (筆者は、 同調査の検討委員会 の座長を務めた。)。 この調査の目的は、 消費者ニーズの発掘、 販売・流通サイド の意向調査、 新商品のアイデア、 生活の中のトレンド等を詳細に把握し、 新製品 の開発に結びつけようとするものである。 以下にその概要を紹介する。 (1) 消費者が飲用乳類に求めるもの:機能性を有すること、 天然・自然な状態   で、 乳本来の風味を損なうことなく、 かつ、 流行の素材を取り込むこと、 甘   さを控えめとすること。 (2) 流通サイドの新商品開発に当たっての意向:低価格で質の良い商品、 健康   感と満足感についてバランスの得られる商品、 低糖・低脂肪商品、 おいしい   商品、 男性の関心をも得られるコンセプトを活用した商品の他、 新商品開発   をもっと活発に、 容器・容量に一工夫を。 (3) 栄養士、 料理専門家等のオピニオンリーダーが求めるもの:栄養的なバラ   ンスへの配慮、 一口サイズ等の少量化、 酸味の活用、 甘さ控え目、 製品特性   としての手作りイメージ、 商品開発の対象ターゲットの拡大 (乳幼児、 お年   寄りから、 外国人まで)、 食べる場、 TPOの広がり、 オシャレで新鮮な雰囲気。 (4) さらに食生活への配慮点としては、 特に女性では甘味と脂肪分に細かに気   づかうこと、 年齢別では、 ヤングは清涼感や刺激、 充実した内容を望み、 シ   ニアでは健康志向が強く、 ビタミンとカルシウムを積極的にとるのに反し、   カロリーのとりすぎには注意すること等が指摘された。

商品に 「安心」 の価値付けを

 上記の調査結果を踏まえ、 牛乳・乳製品の新商品開発に際してのコンセプトを 整理すると、 以下のようにとりまとめることが可能となろう。 (1) 成分や処理法等:牛乳に見られる乳脂肪分率や無脂乳固形分率、 あるいは   特定の殺菌法で処理したことを商品名等に織り込んだもの。 (2) 産地や生産者の限定:北海道などの生乳の産地名、 あるいはさらに地域を   限定した高原などの名称、 または具体的な生産者名をおり込んだもの。 デン   マークで話題の乳牛の飼育法の限定によるオーガニックミルクもこの例であ   る。 (3) 包装形態等:ガラス瓶、 紙容器、 合成樹脂を素材とし、 丸型、 柱型、 箱型、   変形型等々の形、 内容量が数グラムから2キログラム程度までで、 取り扱い   やすさ、 利便性を考慮した多様な容器や包装。 (4) 年齢:流行中のキャラクターや流行用語等を利用したもの、 あるいはフォ   ローアップミルク (9カ月齢以降の幼児向け粉乳) の様に特定の年齢層のみ   を対象にしたもの。 (5) 販売チャネル:特定のスーパー等との提携商品や専門販売店のみを対象と   した商品等販売チャネルを活用したもの。 (6) 機能: 1)食品に期待される第一次の機能、 即ち、栄養機能面についてカルシウム、 鉄、ビ  タミン類等を添加して強化したもの。 2)第二次の機能、 即ち、 感覚機能面に力点をおいた製品群。 乳脂肪の低い融点部  分を利用した塗りやすいバターや、 多様な果実や果汁等風味食品との組み合わ  せを活用したもの。 「美味しい牛乳作り」 の活動もこの項目に整理されよう。 3)生体に対する食品の調節機能。 老化の抑制や病気の防止、 生体防護等に着目し  た第三次機能面を重視したもので、 アレルギーの軽減を図った粉乳やヨーグル  ト等の乳製品。 有効な腸内細菌を増加させる作用等があるといわれる特定保健  用食品としての発酵乳製品等。 (7) 組み合わせ:上述した各種の要件を複数組み合わせた製品。 (8) 価格:最も重要なポイントであり、 各要件がモザイクとなって組み合わさ   った中での適正な価格。  これらの視点からの商品開発に多くの努力がなされているが、 その成果を得る のはなかなか難しい。 しかし、 これらのコンセプトは、 日本特有のものというよ りは社会の成熟と共に世界的な傾向となりつつあり、 それだけに品質及び価格の グロバリゼーションの重要性が一層増しているということになるのだろうか?  21世紀を目前にした今日、 商品という 「物」 だけの価値に加えてメンタルな 部分での 「安心」 等の価値付けも考えねばならない時代といえよう。
なかの さとる  昭和34年東北大学農学部助手を経て、 (株) 日本乳業技術協会へ。  昭和59年常務理事に就任、 現在に至る。 「ミルク総合事典」(分担執筆) ほか、 牛乳・乳製品に関する著書多数。

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