鳥取県/山崎 和夫
鳥取県の県鳥オシドリが生息する鵜の池に近い日野郡日野町本郷。この地域は 古くから日野牛の産地、今でも米と肉牛の複合経営が主流で、どの農家も牛とは 切っても切れない仲だ。 松本勝美さん(59)は祖父から三代続く人工授精師。年間150頭程度の牛に人工 授精を行っている。 昭和32年、高校卒業と同時に就農、祖父から牛の見方、調教の仕方などを学ん だ。 持ち前の根性と努力で共進会には必ず出品し、いつも上位に入賞、和牛のオリ ンピック全国共進会で優等賞 2 席に入賞したこともある。 もともと、「種牛屋」(種雄牛を所有し、農家の牛に人工授精や自然交配を行 う。)であった松本さんは、昭和54年、鳥取県で種雄牛が民有から県有へ移行し たのを契機に、和牛繁殖経営に力を入れ、今では繁殖牛18頭、育成牛2頭、肥育 牛3頭、子牛11頭を飼育している。山間地のため、水稲80アール、飼料作物60ア ールと、耕地は零細である。 住居のすぐ隣の旧牛舎には分娩前後の母牛を、また、そこから100メートル程離 れたところに、平成7年公社営畜産基地建設事業で建てた環境の良い牛舎があり、 そこでは離乳後から分娩1カ月前までの母牛を飼育している。堆肥舎で、程良く 熟成した堆肥は、毎年 4 ヘクタール分の稲わらと交換している。 数年前、町内産の子牛が18万円程に下がったとき危機感を抱いた松本さんは、 「良い牛を作れば値も高くなり、牛飼いに弾みがつく。それが村おこしにつなが るのではないか。良い牛を作れば金は人が持ってくるよ」と優良牛の導入・保留 の重要性を声を大にして提唱した。優良牛作りは官民一体となった取り組みが第 一だとも話す。 改良努力の結果、日野町及び隣接の日南町の子牛の評価が高まり、今年8月開 催の鳥取県西部畜産共進会で松本さんほか3戸の繁殖雌牛群はグランドチャンピ オンに輝いた。また、 9 月26日開催の県共進会では優等賞 1 席を受賞した。 松本さんが繁殖育成を行った「糸高茂」は、家畜改良事業団が買い取り、岡山 種雄牛センターで活躍している。 松本さんを中心とするグループは十数年前から「消費者の口を考えた肉作りが 大切」と「牛肉を食べる会」を作り研究を行っている。中でも香川県の肥育農家 との連携で、消費者に喜ばれる牛肉生産を模索している。 松本さんの夢は、日野郡の繁殖牛のレベルを一層向上させるとともに、現在サ ラリーマンの息子さんがUターンし、親子で繁殖肥育のモデル経営を実現するこ とである。