日本オーガニック検査員協会 会長 水野 葉子
農林水産省では、新たに有機食品の検査認証制度を導入するという。有機食品 の生産・表示をめぐり、混乱がみられるという認識からであろう。私がオーガニ ック検査員になったきっかけも、オーガニック、有機無農薬、無農薬無化学肥料 といった表示の違いは何なのか、と感じていたときに、日本にも、欧米の認定機 関からオーガニック認定を受けているところがあると知ったことであった。 欧米においては、オーガニックという言葉を用いる時、それは第三者による検 査を毎年受け、認証された有機品を指す。オーガニックと表示できるものは、法 律や認定機関の基準にのっとって生産され、第三者の確認を受けたものだけであ る。
米国における認定プロセスを見てみよう。図にあるように、認定にかかわる者は申請者、認定機関、認定委員会、そして 検査員である。 申請者は、生産者、加工メーカー、流通関係者等である。生産物または製品が きちんとオーガニック基準にのっとっているという認定を受け、消費者及びバイ ヤーから信頼を得たいという目的を持って、申請をする。 認定機関は、申請を受けて、申請者がその認定機関の基準を正しく理解し、一 定の基準にのっとって生産・製造・管理を行い、生産物または製品が認定機関の 基準を満たしているかを判断し、「オーガニック認定」の表示の許可を与える機 関である。 認定委員会は、元検査員、薬品関係に詳しい人、生産者等から構成されている 場合が多い。この認定委員会が検査員の報告書に基づき、認定、非認定、条件付 認定を決定する。形式的には認定機関に属しているが、通常は認定機関の意向に かかわらず自由に決定を下す権限を持っている。 検査員は、文字通り検査をする人。検査はするが、認定の判断は下さない。日 本オーガニック検査員協会(JOIA)の現検査員会員はIOIA(独立検査員協会、米 国)またはJOIAにおいて検査技術を習得し、試験に合格し、一定の見習期間を終 了した者である。IOIAは、民間団体であるが、IOIAで養成された検査員しか使わ ないという認定機関もあるほどその教育内容は信頼を得ている。(IOIAとJOIAは、 密接な関係にあり、JOIAの検査員の養成講座で合格すると、JOIA/IOIAの修了証が 交付される。)検査員は「消費者の代表」という意識を持ち、第三者の立場を保 持し、客観的に検査を行い、報告義務がある。そしてほとんど毎年見直しがされ る各認定機関の基準を十分に理解するとともに最新情勢を把握していく必要があ る。
実際に検査で問われる内容は多い。例えば農場の場合は農地歴に始まり、申請 圃場の周りの環境(隣接地、水、公害の影響等)、種子・種苗の状況、投入資材、 土壌管理状況、作物状況、作業記録、病虫害管理法、使用機械、保管・輸送状況、 販売形態・方法等である。加工メーカーの場合は、加工場環境に始まり、オーガ ニック原料使用の確認、水質、使用添加物、加工助剤、工程、使用機械器具類の 管理、衛生管理、防虫防鼠方法等がオーガニック基準にのっとったものであるか、 製品から原料まで遡れるか、製造量と入荷原料の量に矛盾はないか等実際に書類 を確認する(実際の監査追跡)。また、オーガニック原料および加工品のオーガ ニック性が保持されるためにどのような方策がとられているかも重要な検査ポイ ントとなる。 オーガニック検査員の仕事は、顕微鏡をのぞいたり、土壌検査をすることだと 思われる場合がある。オーガニック認定は生産物や製品の農薬残留ゼロや無菌を 保証するものではない。オーガニック運動はあくまで環境運動の一環であり、化 学物質で弱ってしまった土壌を有機農法によって回復し、農薬や化学肥料に頼ら ない持続的農業を推進し、その結果、地球汚染を減らそうというのが根本思想で あると思う。実際に農業に取り組む人々にとって、この数十年間化学物質に汚染 された土壌での有機農業は至難のことである。オーガニック検査員が消費者の代 表として客観的検査をすることは、結果的にこれらの生産者に信頼と評価をもた らす。それが検査員の大きな役目の 1 つではないかと思っている。
みずの ようこ1980年立教大学文学部卒業。1987年ミネソタ州立大学にて修士号取得。1995年 IOIA(Independent Organic Inspectors Association)のオーガニック検査員資格取 得。1997年日本オーガニック検査員協会を設立、初代会長に就任。