★ 農林水産省から


配合飼料価格安定制度について −平成11年度から新制度に移行−

畜産局流通飼料課 氏里 由紀夫




はじめに

 配合飼料価格安定制度は、輸入飼料原料に由来する配合飼料価格の短期的で、
かつ、急激な変動が畜産経営に与える影響を緩和することを目的とした制度であ
り、土地資源に乏しく、配合飼料原料の大宗を輸入飼料穀物に依存している我が
国畜産経営の安定を図る上で重要な制度となっている。

 本制度は、畜産経営者及び配合飼料メーカーが積み立てた基金(民間基金)に
より運営される通常補てん制度と、これによっては対処し得ない大幅な配合飼料
価格の高騰があった場合に発動され、その財源の一部を国が助成している異常補
てん制度から構成されている。

 本稿では、制度創設に至る経緯について、当時の飼料穀物の需給事情にふれつ
つ説明するとともに、今般、制度発足後約25年ぶりに行われた制度見直しの内容
について説明する。


配合飼料価格安定制度の創設

通常補てん制度の創設

 昭和20年代前半は、濃厚飼料供給中、そうこう類が40%を占めていたが、特に、
製粉時に発生する副産物のふすまは、飼料としての栄養価値に優れ、また、農家
周辺で手に入れやすかったことから、飼料の主流となっていた。その後、飼料の
統制が撤廃された昭和25年以降、所得水準の向上等に伴い、畜産物の消費が急激
に増加し、飼料需要が著しい伸びを示す一方、外貨不足から十分な飼料の輸入が
行われず、ふすまをはじめとする飼料価格の乱高下が生じるようになった。

 このため、畜産物の生産拡大のためには、輸入飼料に依存せざるを得ない我が
国の事情にかんがみ、27年に、政府自らが輸入飼料の買入れ、保管、売渡しを操
作することによって、飼料の需給と価格の安定を図り、畜産の振興を図ることを
目的として、「飼料需給安定法」が制定されることになった。

 当時、同法に基づき政府操作する輸入飼料には、小麦、大麦に加え、既に民間
貿易が認められていたものの、円滑に輸入が行われていなかったとうもろこし、
ふすま等が位置付けられ、これらの輸入飼料の政府操作を通じて、その需給と価
格の安定が図られた。

 その後、我が国畜産は、36年に制定された「農業基本法」により、畜産経営が
畜産物需要の増加に対応した選択的拡大の一部門として位置付けられた結果、め
ざましい発展を遂げることとなった。

 また、昭和30年代後半以降、我が国の経済成長に伴う外貨事情の好転、家畜の
飼養管理、飼料配合技術の向上等から、飼料の需要構造は、ふすま等の単体飼料
中心から輸入飼料穀物をベースとした配合飼料中心へと転換していくことになり、
政府操作飼料の飼料全体に占める割合が急速に低下するようになった。

 一方、38年9月から始まった米国の港湾ストやベトナム戦争により海上運賃が
上昇するとともに、38年の米国内の干ばつと西欧諸国の穀物需要の増加から、米
国内のとうもろこし市況も上昇し、それまで安定的に推移してきた配合飼料価格
が38年から40年にかけて半年ごとに連続して値上げされる事態となった。

 このように、飼料穀物の国際需給の変動がそのまま配合飼料価格に反映される
ようになったことから、「飼料需給安定法」による飼料の需給と価格の安定を補
完する制度の創設が求められるようになった。

 このため、43年に民間基金として全国購買農業協同組合連合会(現在の全農)
が主体となる「全国配合飼料供給安定基金(以下「全農基金」という。)と全国
酪農業協同組合連合会が主体となる「全国乳牛配合飼料価格安定基金(以下「乳
配基金」という。)」が設立され、現行の配合飼料価格安定制度(通常補てん制
度)の基礎が整備されたが、初めての補てんは、45年のミシシッピ川凍結等に端
を発した値上げに対して行われた。


異常補てん制度の創設

 全農基金と乳配基金の設立後しばらくは、飼料穀物の国際需給は、緩和基調で
推移してきたが、昭和47年以降、異常気象によるアルゼンチン、オーストラリア
等の南半球生産国の大減産やソ連、中国等の不作に端を発して、世界の穀物需給
は急激にひっ迫し、47年1月時点のシカゴのとうもろこし相場が1ブッシェル当た
り121セントであったのが、49年10月には381セントまで上昇し、わずか2年間で
約3倍にまで高騰する事態となった。

 また、このような飼料穀物の高騰は、用船需要を急速に高める要因の1つとな
り、ガルフ−日本間の海上運賃は、47年1月時点ではトン当たり4.3ドルであった
のが、48年12月には32ドルまで暴騰した。その後、49年下期には10ドル台後半ま
で下がったものの、49年上期は20ドル後半で推移するなど、我が国の輸入価格に
著しく影響を与える結果となった。

 このような海上運賃の上昇を伴う飼料穀物の国際相場の高騰は、我が国の配合
飼料価格に直接反映され、48年1月に約3,200円/トンの値上げが行われて以降、
50年1月までにおける累次の価格引上げにより、この期間中2回の計4,000円程度の
価格引下げを差し引いても、なお合計約37,000円/トンの引上げとなった。

 また、石油危機によるインフレを背景として他の畜産生産資材も高騰する結果
になったことから、畜産経営に深刻な影響を与え、我が国畜産は重大な危機に直
面することになった。

 この配合飼料価格の高騰に際し、農林省としては、飼料の安定供給と価格沈静
化のために、各般にわたる緊急対策を打ち出したが、その一環として、配合飼料
価格安定制度の機能を強化することになった。

 まず、民間基金については、48年1月及び3月の配合飼料価格の引上げ(計約8,
000円/トン)に対応して、既に補てん業務を開始していた全農基金及び乳配基
金に対し、畜産振興事業団から出資を行い、財政基盤を充実させるとともに、乳
配基金を専門農協4連合会(全国酪農業協同組合連合会、全国畜産農業協同組合
連合会、全国開拓農業協同組合連合会及び日本養鶏農業協同組合連合会)からな
る全国畜産配合飼料価格安定基金に改組拡充し、畜産振興事業団から追加出資が
行われた。

 また、日本飼料工業会の傘下の組織についても、48年3月に全日本配合飼料価
格安定基金(以下「商系基金」という。)が設立され、農協系統の民間基金に対
するのと同様に畜産振興事業団から出資が行われた。

 なお、48年の配合飼料価格の高騰に対し、3基金で総額144億円の通常補てん金
が交付されたが、その原資は一部借入金をもって調達されたため、畜産振興事業
団から借入金の利子相当額の2億6,100万円が3基金に対し助成され、これとは別
に、畜産経営者に対し配合飼料購入費の一部につき低利資金の融通措置も講じら
れた。

 さらに、48年9月の約10,000円/トン、49年2月の12,000円/トンの配合飼料価
格の引上げに対し、民間基金に対する補てん原資の助成(返還条件付き補助金)、
畜産経営者に対する低利資金の融通等の緊急措置を講じたが、50年1月以降も値
上げが確実視され、不安定な需給情勢が継続することが見込まれていたことか
ら、飼料穀物価格の急騰等の有事において、このような緊急対策のみに依存す
ることなく恒久的な価格安定対策がとれるよう、新たな制度の整備が急がれる
ことになった。

 異常補てん制度は、このような経緯を踏まえ、畜産経営者の負担能力を超え
る配合飼料価格の高騰は国と民間の共同責任で対処すべきであるとの観点から
設けられたもので、50年2月に異常補てんの実施主体である配合飼料価格安定特
別基金(現在の配合飼料供給安定機構)が設立されている。


配合飼料価格安定制度の見直し

見直しの背景

 本制度の発動実績を、異常補てん制度が設立された昭和49年度第4四半期以降
についてみると、異常補てん制度に関しては、12回の発動により合計1,373億円
の補てん金が交付されており、また、通常補てん制度に関しては、44回(商系基
金は46回)の発動により合計6,149億円の補てん金が交付されている。

 本制度への畜産経営者の加入率は、ほぼ100%となっており、全国の畜産経営
者に深く浸透した制度となっているが、現行制度が発足して以来、約25年が経過
し、現在、本制度を取り巻く情勢は、制度発足当時に比べ大きく変化してきた。

 畜産全体をみれば、農家戸数が減少する一方で経営規模の拡大が進展するとと
もに、牛肉の輸入自由化やウルグアイ・ラウンド農業合意の受け入れにより畜産
物輸入量が増大し、輸入畜産物との厳しい価格競争を余儀なくされるなど、着実
に国際化の波が進展しており、コスト低減等による生産性の向上が従来にも増し
て強く求められるようになってきた。

 一方で、畜産生産資材で重要な位置を占める配合飼料をめぐる情勢については、
国内畜産物と輸入畜産物との競合が激化する中、畜産物需要の伸びの鈍化に伴う
配合飼料需要の頭打ちを背景として、畜産農家のニーズの多様化による配合飼料
の多銘柄化、地域内の販売競争の激化等が進行し、配合飼料価格の形成も多様化
するようになった。

 このような状況の中、平成10年6月に畜産局長の私的諮問機関である流通飼料
問題研究会の報告書として「新たな流通飼料政策のあり方」がとりまとめられた。
本報告書では、畜産を取り巻く情勢が変化する中で、畜産物生産費に大きなウエ
イトを占める流通飼料対策は、畜産業の発展を図るための最重要課題の1つであ
り、新たな状況に対応した流通飼料施策の構築が必要であるとし、配合飼料価格
安定制度についても、制度全体として一貫性を確保しながら、見直しの検討を行
う必要があるとされた。

 このような背景の下、異常補てん及び通常補てんの両制度について、制度本来
の趣旨に立ち返り、所要の見直しを行い、平成11年度から新制度に移行すること
になった。次に、異常補てん制度及び通常補てん制度の見直しの内容について説
明する。


異常補てん制度の見直し内容

 今回の異常補てん制度の見直しの主な点は、@輸入原料価格の算定対象品目
(とうもろこし、こうりゃん、大豆油かす)に麦類(大麦、小麦、ふすま)を追
加し、A異常補てん額を輸入原料の実績価格により算定する方式に変更したこと
にある。

 従来の制度では、当該四半期の輸入原料価格が当該四半期の直前1年間の平均
輸入原料価格(以下「基準輸入原料価格」という。)の115%を上回り、かつ、
当該四半期の配合飼料価格が当該四半期の直前1年間の平均配合飼料価格(以下
「基準配合飼料価格」という。)の108%を上回る場合に、通常補てんの発動を
前提として、異常補てんが発動されることとなっていた。

 また、補てん額の算定については、当該四半期の配合飼料価格が基準配合飼料
価格の108%を上回る部分を限度として交付されるとともに、基準配合飼料価格
の8%の部分は、通常補てんとして交付される仕組みとなっており、その際、当
該四半期の輸入原料価格及び配合飼料価格の算定に当たっては、いずれも当該四
半期開始前に見通し価格により算定することになっていた。

 このうち、輸入原料価格については、10年5月29日省議決定の「新たな麦政策
大綱」に基づき、平成11年度からの飼料用麦の輸入について段階的にSBS方式を
導入することに伴い、とうもろこし等と同様に飼料用麦類についても国際価格の
動向が輸入価格に反映されることになることから、これに対処するため、輸入原
料価格の算定対象品目として従来の3品目に加え、麦類3品目を追加することとし
た。

 さらに、このような飼料原料情勢の変化に加え、発動基準の透明性を確保する
観点から、これまでの見通し価格から、当該四半期終了後に判明する算定対象品
目の輸入実績価格をもって算定することに変更した。

 従来の制度の配合飼料価格要件については、制度発足当時において、配合飼料
価格に占める輸入原料価格(とうもろこし、こうりゃん、大豆油かす)の割合が
約5割であったことから、輸入原料価格の上昇率の1/2(15%×1/2≒8%)を配合
飼料価格にかかる発動基準としており、元々輸入原料価格要件を前提として設定
されたものとなっている。

 今回の見直しでは、異常補てん額の算定の根拠となる価格を配合飼料価格の見
通し価格から輸入原料の実績価格に変更し、輸入原料価格の上昇を的確に捉え、
通常補てんでは対処し得ない輸入原料価格の異常な上昇部分を手当するという異
常補てん制度の役割をより明確化することにした。

 なお、価格補てん制度が配合飼料価格の大幅な変動が畜産経営に与える影響を
緩和する制度であることから、見直し後も基本的に配合飼料価格の上昇がなけれ
ば、通常補てんも異常補てんもあり得ないことになる。

 具体的には、異常補てん発動時においては、通常補てんを含めた総補てん額は、
事前に見込まれた配合飼料価格上昇額(当該四半期の配合飼料価格が直前1年間
の平均配合飼料価格を上回る額を限度として当該四半期開始前に民間基金が決め
た額)で当該四半期開始前に決定され、そのうち基準輸入原料価格の15%に相当
する上昇分は、常に通常補てんが担うこととなる。

 一方、異常補てんは、事後的に算定される輸入原料価格上昇額(輸入原料価格
から基準輸入原料価格を差し引いた額)のうち、基準輸入原料価格の15%を上回
る額を限度として当該四半期終了後に決定され、通常補てん金と併せて現行制度
と同じ時期(当該四半期の翌四半期の第2月中旬)に交付されることとなる。

 このように、今回の見直しは、輸入原料価格の異常な上昇分を手当するという
制度本来の趣旨並びに異常補てん発動時の通常補てんとの役割分担をより明確化
したものとなっている。
◇図:配合飼料価格安定制度の見直し概念図◇

gainen-1.gif (28552 バイト)

gainen-2.gif (39181 バイト)



通常補てん制度の見直し内容

 通常補てん制度の見直しの主な点は、@四半期ごとの配合飼料価格の変動に対
し、補てん基準を「前年度の第4四半期の配合飼料価格」から「直前1年間の平
均配合飼料価格」に変更し、Aこれをもってしても、なお畜産経営者の実質負担
額の急増が認められる場合は、その上昇率を4%以内とする措置を制度化したこ
とにある。

 補てん基準を前年度第4四半期の配合飼料価格の水準に1年間固定することは、
畜産経営の指標となる水準を1年間確保する意味において、意義があったものと
考えられる。しかしながら、補てん基準が変わる第4四半期から翌年度第1四半期
の新年度移行時において、畜産経営者の実質負担額の増加が生じやすく、特例的
な補てんによりこれを回避してきた一方で、価格安定期又は価格が引下げ基調時
においても前年度第4四半期の価格を上回っている限り補てんが継続されるなど、
畜産経営における国際競争力を確保する意味においても、配合飼料価格の変動が
畜産経営に及ぼす影響を緩和することを目的とした本制度が効率的に運用されて
いるとは言い難い状況となっている。さらに、前年度第4四半期価格を年度を通
じて固定する通常補てんの補てん基準の考え方が直前1年間の移動平均価格とし
た異常補てんの考え方と異なっており、制度全体として一貫性が確保されていな
いことも課題となっていた。

 したがって、今回の見直しは、新年度移行時及び異常補てん発動前後において、
より円滑に影響緩和が図れることを目的として、通常補てんにおいても異常補て
んと同じ移動平均方式を採用するとともに、配合飼料価格の上昇に伴う畜産経営
者の実質負担額の上昇率を一定限度内(4%)に抑制することから、畜産経営者
にも理解されやすい見直しになったものと考えられる。


おわりに

 本制度は、畜産が農業の基幹作目となっており、かつ、飼料原料の大宗を輸入
に依存している我が国特有の制度であり、飼料原料を自給している諸外国には類
似した制度は見当たらない。

 配合飼料価格は、飼料穀物の国際価格、為替動向等の要因により決定されるこ
とから、輸入原料価格の上昇に伴う配合飼料価格の高騰に対し、その上昇局面に
おいて補てんを行うことにより、畜産経営者の実質負担額を徐々に上昇させ、そ
の間に、上昇した価格水準に対応した経営能力を求める仕組みとなっており、他
の畜産物価格安定制度に見られるような価格支持制度とは異なっている。

 今回の制度見直しは、従来の制度以上の負担を伴うことなく、補てん額の算定
方法のみを変更することにより、配合飼料価格上昇時の畜産経営者の実質負担額
の上昇が、より円滑に緩和されることを目的として行われたものであり、配合飼
料価格が上昇し、真に補てんが必要となる事態においては、的確な補てん対応が
可能になるものと考えている。

元のページに戻る