★ 農林水産省から


飼料用輸入麦の同時契約(SBS)方式の概要について

畜産局 流通飼料課 澁谷 和彦




はじめに

 飼料穀物のうち、政府操作飼料(飼料用小麦、飼料用大麦)については、飼料
需給安定法及び主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(食糧法)により、
買入れ及び売渡しを実施している。

 今般、従来の方式に加えて、飼料用麦の輸入方式の弾力化や多角化を図り、個
別の需要にきめ細かく対応した品質・価格での供給を可能とすることを目的とし
た同時契約(SBS(Simultaneous Buy and Sell))方式を今年度から新たに導入し、
これまでに6月29日に第1回、9月14日に第2回の見積合わせ(入札)を実施した。

 以下、本方式の概要等について解説する。


SBS方式創設の経緯等

制度創設の経緯

 飼料穀物としての麦に関しては、濃厚飼料中の使用割合が、大麦5.1%、小麦
0.3%(平成9年度)と使用率は低いものの、その栄養価、嗜好性等から畜種によ
っては、根強い需要があり、その供給は大宗を海外からの輸入に依存しているの
が実態である。また、輸入制度については、昭和27年飼料需給安定法の施行以降、
政府操作飼料として長年にわたり、飼料需給計画に基づき国の管理の下、輸入及
び売渡しを行ってきた。

 一方、わが国の畜産業は、海外からの畜産物輸入に対抗するためにも、生産コ
ストの主要な部分を占める飼料費の低減化が重要課題となっている。

 ウルグアイ・ラウンド農業合意で麦については関税化の措置が採られ、平成7
年4月から関税化品目となったが、飼料ユーザーの中では、民間ベースで麦を輸
入する場合、輸出貨物製造用原材料用(加工貿易用)として輸入される麦を除い
て、高水準の関税相当量(TE)を支払わねばならず、結果として、飼料業界が以
前から望んでいた自由化にはほど遠い内容のものとなったとの評価があり、さら
なる規制緩和策の検討が必要となった。

 それ以降、「麦問題研究会」、「流通飼料問題研究会」等の場において、麦の
生産から流通、消費の広範囲にわたり検討が進められ、その結果、これらの意見
等を反映して10年5月「新たな麦政策大綱」が省議決定され、専増産ふすま制度
の廃止の代償措置として、飼料用麦の輸入について、国家貿易の枠内で、実需者
のニーズにきめ細かく対応でき、運用方法によっては実質的に関税相当量免除と
同等の効果を有し、畜産振興にメリットとなると考えられるSBS方式の導入が盛
り込まれた。(別掲参照)

 以来、本方式導入に関する細部の検討等を経て、2回にわたる見積合わせの実
施に至り、現在、第1回見積合わせにより契約された飼料用輸入麦が加工、流通
の段階にあると思われる。


SBS方式の導入による畜産農家へのメリット

 SBS方式の導入による飼料業界、畜産農家等のメリットとしては、

(1)低品質麦等飼料ユーザーの個別の需要に細かく対応した品質・価格の飼料
  用麦の供給

(2)大型船による他飼料との混載による運送及び飼料需要地近隣の港での荷卸
   し等による輸送コストの削減

により、飼料コストの低減化に有用な措置となることが考えられる。


同時契約(SBS)方式の概要

SBS方式実施に当たっての条件、留意事項等

 飼料用輸入麦の同時契約による輸入業務委託・売渡要領の概要については、以
下のとおりである。

1 対象品目

 飼料用に供される小麦及び大麦で、産地は限定しない。規格は、事故品等以外
のものであれば特に問わず、荷姿も特定しない。

2 同時契約の参加資格者

 飼料用輸入麦の同時契約は随意契約なので、同時契約の申込みができる資格を
有する者(有資格者)は、信用度、経営の状況及び履行能力その他の事情を勘案
し、契約の履行が確実である者でなければならない。

 現在、受託申込資格者(政府から飼料用輸入麦の買入れの委託を受けることの
できる者)として29社の輸入業者、買受申込資格者(政府に対して飼料用輸入麦
の買受けの申込みができる者)として11の飼料実需者団体がそれぞれの申込資格
者になっている。

3 同時申込の方法

 見積合わせは、食糧庁が指定する日時、場所において、あらかじめ結びついた
受託申込資格者及び買受申込資格者の連名で、申込数量、受託申込価格、買受申
込価格を記載した飼料用輸入麦の同時申込書を食糧庁が受けることによって成立
する。

4 申込数量

 一契約の申込みに係る最低申込数量は、実需者団体の月間買受け数量等を考慮
して100トンとした。また、一受託申込資格者の年間の受託申込数量及び一買受
申込資格者の年間の買受申込数量は、特定の実需者団体の寡占防止等に配慮し、
当該年度の飼料用輸入麦(飼料用小麦及び飼料用大麦の合計)の年間契約予定数
量の2分の1を上限とした。

5 契約の相手方の決定

 同時申込書に記載された受託申込価格が買受受託予定価格(国が定める買入予
定価格)以下かつ買受申込価格が売渡予定価格(国が定める売渡予定価格であっ
て、受託申込価格に国の売渡しのための必要最小限の経費を加算した価格)以上
であって、受託申込価格が安価なものから、順次契約予定数量に達するまで、契
約の相手方として決定する。(図1参照)

 ただし、受託申込価格と買受申込価格の差が、国際約束に従って農林水産大臣
が定めて告示する額(マークアップ(11年度 小麦:46.50円/kg、大麦:29.50
円/kg))を超えない申込みを有効とする。
◇図1 飼料用麦の輸入に係るSBS入札方式◇
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 注:●印は国が輸入業者から買い入れる価格、
   ○印は国が実需者に対して売り渡す価格。
6 契約の締結

 同時契約の相手方が決定したときは、その翌日から14日以内に飼料用輸入麦の
同時契約書を作成し、食糧庁、政府の委託を受けて飼料用輸入麦の買入れに係る
業務を行う相手方(受託者)及び政府から当該飼料用輸入麦の買受けを行う相手
方(買受人)が、同時契約書に記名、押印することにより契約が確定する。契約
は、買入委託契約と売渡契約の複合契約となる。(図2、図3参照)

 なお、契約履行期限(船積期間)は、契約締結後、小麦6カ月、大麦4カ月とし
た(小麦については、オフグレード小麦の発生等を考慮し、期間を長めに設定)。

 また、契約を分割して履行することができる。
◇図2 飼料用麦の同時契約方式(SBS)の概念図◇
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◇図3 現行輸入システムの概念図◇
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7 輸入業務委託について

(1)輸入業務委託の内容

 食糧庁が受託者に委託する業務は以下の内容となる。

@輸出国における現品の買付けから輸入港等まで運送する業務及びこれらに付随
 する業務

A輸入港等に到着した現品を本船から引渡場所まで搬送し、政府に引き渡すため
 に必要な業務及びこれらに付随する業務

(2)輸入港及び輸入港別の輸入数量の決定

@輸入港は、植物防疫法施行規則に掲げる港(植物防疫検査が可能な港)から選
 定。回送を行う場合も同様である。

A受託者は、飼料用輸入麦の積来本船が本邦の輸入港に到着する月の前々月の20
 日までに、輸入港別の輸入数量を決定し、食糧庁に報告する。

(3)輸入手続

 輸入港に到着した飼料用麦は、植物防疫法に基づく検査及び関税法に基づく輸
入手続が必要である。また、通関は、本船通関で行うことになっている。

 なお、同時契約によって輸入された麦は飼料に供されるので、厚生省による食
品衛生法の手続は不要である。

(4)引渡場所等

@引渡場所の決定

 引渡場所は、輸入港の所在する食糧庁指定倉庫の中から、食糧事務所長、受託
者及び買受人と協議の上、決定する。

A荷さばき等の実施

 本船等から引渡場所までの荷さばき及び引渡業務の実施については、買受人は
合理的かつ経済的な実施計画を作成し、食糧事務所長の承認を得なければならな
い。

(5)検査等

 引渡場所等において、会計法による給付の完了の確認及び農産物検査法による
食糧事務所の検査を受けなければならない。

(6)安全性の確保

@同時契約で輸入された麦は、食糧庁長官が定めるところにより安全性検査を実
 施し、安全性を確保しなければならない。

A当該検査は、輸出国、本邦、第三国のいずれかの公的検査機関で行う。

B植物防疫法に基づき検疫くん蒸の命令があった場合には、くん蒸後における薬
 品の残留の有無を分析した結果を食糧事務所長に報告しなければならない。

C貯穀害虫の駆除については、義務付けないので、売却後、受託者と買受人で協
 議の上、自己負担で行うことになる。

(7)積載船の制限

@飼料用麦と他の積載物が混同しない限り混載が認められるが、輸入米麦買入委
 託契約(一般国貿)に係る米麦との混載は認められない。

A複数の輸入業者が同一本船に積み合わせ、ジョイントして契約を履行すること
 は認められる。

 ただし、混載は、原則としてハッチを別にする等他の貨物と区分するものとす
るが、同時契約によって契約される飼料用麦で同種類のものについては、あえて
区分する必要はない。

8 売渡しについて

(1)売渡条件

 飼料用輸入麦の売渡しに際しては、飼料需給安定法に基づき買受人に対し次の
条件を付す。

@買い受けた飼料用輸入麦は、飼料用外国産小麦加工工場、単体飼料用外国産大
 麦加工工場又は配合飼料用外国産大麦加工工場として指定された工場(指定工
 場)において、その全量を変形加工すること。

A変形加工した飼料用輸入麦を関税定率法施行規則に定める配合飼料を生産する
 ための原料として使用する際には、指定工場において使用すること。

B変形加工した飼料用輸入麦を単体飼料用に供する際には、単体飼料以外の用途
 に供し、又は供するために売り渡してはならないこと。

C単体飼料用についての加工期限及び配合飼料用についての加工使用期限は、国
 から買受人への所有権移転後(食糧事務所における荷渡指図書交付後)4カ月
 とすること。

D単体飼料用の変形加工、配合飼料用変形加工及びその使用が上記期限内に完了
 したことについて、日本穀物検定協会の検定又は認定を受けなければならない
 こと。

 なお、売渡条件の履行確認は、指定工場所在地食糧事務所長が行う。

(2)加工 

 買受人は、食糧事務所長が荷渡指図書交付する際に指定工場別、用途別の加工
予定数量の届出を行い、またその数量に変更がある場合にも、速やかにその旨を
届け出なければならない。

(3)指定工場における飼料用輸入麦の保管

 指定工場における飼料用輸入麦の保管は、契約ごと及び用途ごとに保管しなけ
ればならない。ただし、原料タンクの収容力の不足が見込まれる場合には、用途
ごとの保管をする必要はない。

(4)報告及び帳簿の整備等

@単体飼料を生産する買受人は、畜産局長が指定した場合には、「同時契約に係
 る単体飼料用輸入麦加工・譲渡計画書」を畜産局長に提出しなければならない。

A買受人は、生産した飼料の譲渡を完了したときは、「同時契約に係る飼料用輸
 入麦加工品譲渡状況報告書」を農林水産大臣に提出しなければならない。

B買受人は、生産した飼料の受払いを明確にするため、「同時契約に係る飼料用
 輸入麦受払台帳」を整備し、関係書類とともに2年間保存しなければならない。

(5)違反に対する措置

 買受人が、売渡条件を違反した場合または各種の報告及び台帳の整備等を怠っ
た場合は、畜産局長及び食糧庁長官が、買受人に対し、飼料用輸入麦の売渡しの
停止を命ずることがある。さらに売渡条件に違反する行為に買受人から契約金を
徴収する場合がある。


見積合わせ(入札)の実施と結果

 第1回飼料用輸入麦の同時契約の見積合わせは、6月29日(火)、第2回は9月
14日(火)に食糧庁入札室において行った。その条件及び結果は別表のとおりで
ある。また、11年度の契約予定数量のうち、第2回見積合わせまでに落札されな
かった小麦約4万9千トン、大麦約4万1千トンを対象に11月18日(木)に見積合わ
せの実施を予定している。

別表 11年度飼料用麦SBS方式見積合わせの結果
no-t01.gif (5103 バイト)


今後の方向性

 12年度以降の契約予定数量等については、11年度の実施状況等を見極めつつ、 
段階的に拡大していくこととしている。

 また、飼料用から食糧用への横流れ防止の観点から、国内における流通につい
ては、従来の方法を踏襲しているが、これについても今後、規制緩和の可能性を
模索していく考えである。


おわりに

 以上、飼料用麦のSBS輸入方式についての概略を解説したが、この方式は、飼
料用麦の流通について、規制緩和の方向性の中で創設されたものであり、畜産物
の生産費の中で大きなウェイトを占める流通飼料費の低減化を意図するものでも
ある。

 この制度を有効に活用し、メリットを最大限活かすことによって、わが国の畜
産業が、生産性の高い構造を実現し、国際競争力が高まること及び畜産経営の安
定に寄与することを期待するものである。

 最後に、飼料用輸入麦の円滑な流通が図られるよう、皆様のご理解とご協力を
お願いする次第である。


別 掲

○新たな麦政策大綱(抜粋)

2.現行施策見直しの方向

(4)飼料用麦等

@専増産ふすま制度の廃止及び関連対策の実施

 専増産ふすま制度については、濃厚飼料に占める専増産ふすまの割合が減少傾
向にある中にあって地域ごとの需給のアンバランス、生産に係る諸規制に伴う加
工コストの増大、製粉工場の生産事情の制約に伴う生産の限界と供給の不安定性
といった問題が指摘されている。

 このため、専増産ふすま制度については、代替飼料の開発・普及、各種企業対
策等の推進等を踏まえ、平成14年度末を目途として廃止する。

 また、これに併せ、輸入方法の弾力化や多様化等を図る観点から、特定用途の
麦の一部にSBS方式を段階的に導入することとする。

○新たな流通飼料政策のあり方について(抜粋)

5.新たな輸入方法の導入

(1)飼料の主原料であるとうもろこし・こうりゃん等については、需要者が、
 民間において、生産国の需給事情に応じ、安価な原料を機動的かつ随時買い付
 ける状況にあるのに対し、国家貿易によって輸入されている外国産飼料用大麦・
 小麦については、飼料需給計画に基づいて、安定的な供給が行われている反面、
 需要者の特定の需要に対応することが困難な面がある。

(2)こうした視点に配慮し、現在、国家貿易により輸入が行われている外国産
 飼料用麦について、輸入方法の弾力化や多様化を進める必要がある。このため、
 ウルグアイ・ラウンド農業交渉の合意に基づく国家貿易を前提としつつ、個別
 の需要にきめ細かく対応した品質・価格の飼料用麦の供給を目的として、平成
 11年度を目途に、輸入業者と国内実需者等があらかじめ結びつくSBS方式を段
 階的に導入する必要がある。

  その際、SBS方式の年間実施回数、対象数量、成約方法等具体的内容につい
 ては、国内実需者等の意見を踏まえ、国家貿易制度の円滑かつ適切な運用に配
 慮しつつ、決定すべきである。

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