★ 農林水産省から


「新たな酪農・乳業対策大綱」について

企画情報部


 平成11年 3 月、「新たな酪農・乳業対策大網」が決定された。以下、農林水産
省公表の「骨子」に基づき、その概要について紹介する。


背景等

 我が国の酪農は、現行農業基本法の下で著しく発展し、優れた経営感覚を有す
る専業かつ規模の大きい酪農家が大宗を占める農業構造を実現するとともに、乳
業も大きく発展を遂げ、我が国の基幹的な食品産業に成長してきた。その反面、
担い手の育成・確保、畜産環境問題の深刻化、輸入飼料への過度の依存、乳業の
再編・合理化の遅れ等のほか、価格が硬直的であること等に伴う問題が顕在化し
ている。
 
このような状況の中で、我が国酪農・乳業の健全で持続的な発展を期するため
には、国際化の進展に対応し、酪農経営の安定を図りつつ、市場原理の活用を進
め、国内生産の可能な限りの拡大を基本とする牛乳・乳製品の安定的な供給を確
保する必要がある。

 このため、平成10年12月に公表された「農政改革大綱」及び「農政改革プログ
ラム」に即し、畜産分野においても酪農・乳業に係る各般の施策の見直しが行わ
れた結果、総合的な施策体系による「新たな酪農・乳業対策大網」が取りまとめ
られた。


新たな酪農・乳業対策大網の概要

T 主要な改革の方向

 1 市場実勢を反映した適正な価格形成の実現及び酪農経営の安定の確保
 
(1)市場実勢を反映した適正な価格形成の実現

 現行の価格政策の下、乳製品価格、加工原料乳価格が、硬直的・固定的となっ
ているため、川下のニーズ等に応えた生産・供給が行われていない等の問題が生
じている。また、WTO次期交渉においては、国内助成(AMS)の削減等がより一
層求められると想定される中で、次期交渉に備えた対応が急務となっている。こ
のため、乳製品・加工原料乳について、平成13年度を目途として、計画生産等の
的確な実施により、引き続き全体としての需給の安定を図りつつ、安定指標価格、
国産乳製品の売買操作、基準取引価格及びこれに係る勧告を廃止し、実際の取引
価格が市場実勢を反映して形成される制度に移行する。

 また、飲用向け等の生乳について、指定生乳生産者団体の広域化等による生乳
共販体制の強化を図りつつ、透明性の高い公正かつ適正な価格形成システムを構
築する。

 (2)酪農経営の安定の確保

 生産者団体による計画生産を一層効果的に実施するとともに、指定生乳生産者
団体の広域化を踏まえ、全国レベル及びブロック内での需給調整機能を強化する。

 また、引き続き所要の国境措置と国家貿易の下、農畜産業振興事業団による外
国産乳製品の適切な輸入・放出を行うとともに、乳業者等による調整保管に対し
所要の支援を実施する。

 さらに、価格に市場実勢を反映させた場合において、加工原料乳地域における
生乳の再生産を確保し、加工原料乳の生産者の経営安定を図るための措置を実施
する。(現行の生産者補給金制度は、平成13年度を目途として、加工原料乳の生
産者に対する新たな経営安定措置に円滑かつ適正に移行する。)

[内容]

 @ 加工原料乳の数量に応じ、一定の限度数量の範囲内での直接支払い。

 A 新たな措置の単価は、市場実勢が生産者サイドまで的確に伝達されるよう、
 毎年度設定。また、一定期間における生産者の経営判断等の目安となるような
 手法の確立。

 B 単価設定に当たっては、生乳の生産条件、乳製品の価格動向、乳業者の合
 理化の状況等を考慮。

 C 単価の具体的な算定方式、決定時期等については、関係者からなる検討の
 場において検討。

 なお、併せて、加工原料乳の価格の過度の変動の影響を緩和するための生産者
の自主的な取組みを前提とした措置について、その必要性を含め、検討。

 2 経営体・担い手対策−ゆとりある生産性の高い酪農経営の確立−
 
(1)新規就農の促進

 就農ルートの多様化や経営管理技術の高度化に対応した、農業大学校等におけ
るカリキュラムの拡充や実践的な経営体験研修のための施設整備等を実施する。
また、新規就農者が経営を一括して継承する場合に、濃密な経営・技術指導等を
行う体制を整備する。

 (2) 法人化・協業化の推進

 法人化・協業化は、施設・機械の共同利用等による生産性の向上、多様な担い
手の役割分担、定期的な休日の確保のみならず、農村社会の活性化や経営の円滑
な継承等にとって重要であることから、経営実態に合わせた法人化・協業化を推
進する。

 (3)経営継承の円滑化−日本型畜産経営継承システムの構築−                          

 農場リース事業等の活用による離農跡地の農地及び施設の円滑な継承を図ると
ともに、後継者不在の健全な酪農経営と就農希望の酪農ヘルパー等を円滑に結び
つけるなど、我が国の実態に合うような経営継承システム(日本型畜産経営継承
システム)の確立に向けた検討を進める。

 (4)地域経営支援システムの構築

 労働時間の軽減及び周年拘束性の解消を図るため、酪農ヘルパー、コントラク
ター等の各支援組織を一定の地域ごとに統合・ネットワーク化し、サービス機能
の多様化と業務運営の効率化による農家負担の軽減を実施する。

 また、個々の酪農家の経営実態に応じたきめ細かな指導体制を整備し、畜産経
営の地域支援システムを確立する。

 3 生乳の流通対策

 (1)指定生乳生産者団体の広域化

 集送乳の合理化による流通コストの削減、より的確な需給調整等による適正な
生乳価格の形成を図るため、指定生乳生産者団体の広域化を推進する。(平成12
年度末までに都府県 8 ブロック化)。

 また、広域化された指定生乳生産者団体について、需給調整等の機能が一層効
果的に果たされるよう、そのあり方を検討する。

 (2)透明性の高い生乳取引の推進

 指定生乳生産者団体の広域化を踏まえ、需給事情の適切な反映、生産者の経営
の安定及び所得の確保を図る観点から、入札等市場取引の導入や相対取引のルー
ル化等透明性の高い公正かつ適正な生乳取引について検討を行う。

 (3)乳脂肪分及び体細胞数に係る取引上の制約の見直し

 乳脂肪分及び体細胞数に係る取引上の制約については、購入飼料への過度の依
存や乳用牛の早期廃用を招いている等の問題が生じている。このため、平成11年
度末までを目途に、3.5%未満の生乳も受乳されるよう見直すほか、体細胞数につ
いても取引基準の見直し及び適切な運用を実施する。

 4 乳業対策−地域の実態に即した乳業の再編・合理化−

 製造販売コストの削減が十分に進んでいない等の実態を踏まえ、乳業の再編・
合理化を強力に推進する必要がある。このため、工場の統廃合等についての目標
を設定し、地域の実態に即したきめ細かな再編・合理化対策を実施する。

U 改革を進めるための条件整備

 1 畜産環境対策の推進

 家畜ふん尿の管理の適正化と利用の促進を図るための新たな法制度を制定する
とともに、融資、税制等の支援措置を実施する。(今通常国会に「家畜排せつ物
の管理の適正化及び利用の促進に関する法律案」を提出)。

 また、補助事業やリース事業、制度資金等により、家畜ふん尿処理施設の計画
的整備を推進し、今後 5 年間で不適切な管理の解消を目指すとともに、堆肥利用
の促進のため、成分表示や畜産と耕種の連携の強化、堆肥の需給ネットワークの
整備等を推進するほか、効率的かつ低コストな悪臭防止技術や浄化処理技術の開
発・普及を推進する。

 2 自給飼料の増産

 飼料自給率の向上、環境問題への対応等を図る観点から、具体的な数値目標及
び推進方策等を定めた「飼料増産推進計画」を策定し、飼料増産運動を展開する。

 また、転作田、水田裏等への飼料作物の作付拡大、林地、耕作放棄地等の低・
未利用地の活用、草地の造成・整備、国産稲わらの活用等により、飼料基盤を拡
大するとともに、飼料用稲について、多収量品種の収量安定化のための技術の開
発等を推進する。

 さらに、飼料作物の収量及び品質の向上を図るため、作付規模の拡大、団地化
による作業単位の大型化、栽培管理技術の向上、新品種の開発・普及等を推進す
るほか、飼料生産の労働負担の軽減等のため、機械の共同利用、コントラクター
の育成等を推進する。

 加えて、我が国の土地条件、自然条件に適応した放牧技術(日本型放牧技術)
の活用、林地の放牧利用、公共牧場の草資源の活用等により、草地畜産を振興す
る。

 3 家畜改良の推進及び飼養管理技術の高度化

 後代検定や牛群検定を強化するとともに、新技術の開発・実用化及び活用を更
に推進し、乳用牛の能力の一層の向上を図るため、新たな「家畜改良増殖目標」
を策定する。

 また、ゆとりある生産性の高い酪農経営の実現を図るため、労働時間の短縮や
効率的な飼養管理を推進する必要があることから、搾乳ロボットの実用化等、新
しい飼養管理技術の開発・実用化等を推進する。

 4 牛乳・乳製品の流通・消費対策
 
(1)牛乳類の表示の適正化

 消費者の的確な商品選択に資する観点から、原則として生乳を主な原料とする
ものに限って「牛乳」の文言の使用を認める等、牛乳類の表示の改善を図り、こ
れを契機として国産の牛乳類の消費拡大を図る。

 (2)学校給食への牛乳の供給の促進

 学校給食用牛乳の重要性を踏まえつつ、引き続きその推進を図ることが必要で
ある。しかしながら、供給事業者が固定的であり、供給価格等が割高である等の
批判があるため、学校給食用牛乳供給対策のあり方を見直し、平成12年度から、
競争条件の整備等により、速やかに効率的な実施方式に転換する。

 (3)牛乳・乳製品の消費拡大対策

 消費者ニーズに対応し、需要の伸び悩んでいる年齢層に着目し、牛乳の有する
優れた効果を普及するなど、消費拡大対策をきめ細かくかつ重点的に推進する。

 (4)安全で良質な牛乳・乳製品の製造及び効率的な流通

 生産段階への衛生管理ガイドラインの導入、製品製造段階へのHACCP手法の普
及等により牛乳・乳製品の衛生・品質管理を徹底する。

 (5)乳製品取引市場の創設・定着

 市場実勢を反映した価格の形成を推進するため、入札による透明性の高い取引
を行う場として乳製品取引市場を創設・定着する。

 5 生産資材費低減対策等の推進

 配合飼料価格安定制度について発動基準の透明性の確保等を図るための見直し
を行うほか、備蓄飼料穀物の効果的な活用を推進する。

 また、流通飼料、動物用医薬品、畜舎等の生産資材のより低廉な供給のため、
規制緩和等を推進する。

 6 生産努力目標及び新たな「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方
 針」の策定

 牛乳・乳製品について、可能な限り国内生産を拡大することにより自給率の向
上を図ることを基本とし、このため、生産努力目標を策定し、その達成に向け、
関係者一体となった取組みを行う。

 また、生産努力目標の策定に伴い、地域別の生産量、飼養頭数の目標、生産性
向上等のための基本的指標、乳業の合理化の目標等を盛り込んだ新たな「酪農及
び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」を策定する。

V 当面の措置

 指定生乳生産者団体の広域化の推進、透明性の高い生乳取引の検討、乳製品取
引市場の創設・定着を図るほか、現行の制度の適切な運用を行う。

 @ 特別対策(いわゆる「横積み」)については、畜産環境問題に適切に対応
 し得る飼料基盤に立脚した酪農経営者を支援するための施策に転換する。

 A 環境整備加算、ヘルパー加算について、所期の目的を効果的に達成し得る
 施策への転換を早急に検討し、平成12年度価格の決定までに結論を得る。

 B ルールに即して保証価格等を決定する。

 C 価格関連対策については、「新たな酪農・乳業対策」に即して実施する。

W 改革を推進するための検討体制の整備

 今後は、「新たな酪農・乳業対策」の実施のため、実務的・実践的な検討を要
する事項に関し関係者からなる検討体制を速やかに整備し、総合的かつ的確な検
討を行い、着実に改革を実施することとしている。

 なお、大網全文については、農林水産省ホームページ(http://www.maff.go.jp/)
に掲載されている。

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