◎今月の話題


酪農の明日を担う −酪農ヘルパーからの新規就農−

社団法人 酪農ヘルパー全国協会 専務理事 星井 静一








酪農ヘルパー事業の役割

 酪農ヘルパー事業は、年中無休の労働条件の改善、「ゆとり」ある酪農経営の
実現、そして酪農後継者等の就農促進に貢献している。休日もとれない仕事では、
若者は牧場に戻ってこない。家族一緒に遊びにも行けないので、若手酪農家の切
実な要望が、定期的な休日を確保するために専任の酪農ヘルパーを雇用する利用
組合の組織活動につながった。

 現在、全国の利用組合組織は384組合で、全酪農家の57%、1万9千400戸が加入
し、定期利用の日数は年平均12.6日となり、さらに、病気、怪我、出産等長期就
業不能の場合のヘルパー利用互助制度も急速に普及しつつある。


ヘルパーを担う酪農後継者

 古く相互扶助の時代から酪農ヘルパーの仕事を担ってきたのは若い酪農後継者
で、現在も、専任ヘルパー1,139人の約3割が酪農家の子弟で、確実な就農予備軍
である。親から子へ経営を継承し、立派な経営者として各地域で活躍している元
ヘルパーは数え切れない。ヘルパー就業後に、他牧場の管理に従事したり、酪農
後継者と一緒になった女性ヘルパー、さらに臨時ヘルパーの経験がある酪農家を
加えれば、元ヘルパー軍団の輪は一層広がる。

 ヘルパー就業には、搾乳技術等飼養管理の基礎が習得でき、多くの経営を見て
勉強ができるメリットがあり、後継前の若者の修業の場となる。酪農家がこれを
評価して、就農予備軍育成の輪を大きくする取り組みが進むよう支援していきた
い。


ヘルパーは新規就農予備軍

 このような中で、酪農ヘルパーから新規就農する若者が、北海道を主体に多く
出てきており、もう1つの役割として、新規就農予備軍育成の機能が注目されて
いる。

 平成11年8月、「日本型畜産経営継承システム検討委員会」(農林水産省設置、
座長:菱沼毅現農畜産業振興事業団副理事長)は、このような機能を重視して、
後継者のいない健全な酪農経営と酪農ヘルパー等の新規就農希望者とを結びつけ
る等、円滑な経営継承の推進について幅広く検討して報告書を出した。

 全国には100人を超すヘルパーに新規就農の希望があるが、ゴールに至るまで
には、多くの問題解決が必要である。

・技術面から酪農経営全般を学ぶために、先進農家等での研修が必要
・資金面からヘルパーの給料だけでは就 農資金がたまらない
・就農支援情報(技術習得先情報、就農 可能な牧場情報、資金手当情報等)が 
 入手しにくい
・担保力の不足、保証人の確保
・理解ある伴侶探し、家族の理解協力

 報告書には、就農希望者等の情報整備、経営体験研修の推進等の分野を協会が
受け持ち、就農を支援するよう提言されており、この任務を円滑に遂行するため
にも、飼養技術の高度化等に対応した、利用農家に信頼される優れた技術・知見
を持ち意欲あるヘルパーを計画的に養成確保する取り組みが従来以上にますます
重要になると考えている。

 また最近、家族労働力不足や家畜排せつ物処理対応等から、ヘルパー経験者を
牧場従業員として求める酪農家が増えており、この面からも技術に優れた人材の
育成は必要となるのである。


酪農体験が人材を育てる

 ヘルパーの経歴をみると、非農家出身が約5割、また学歴では、普通高校・文
系大学等卒業で、農業教育を受けていない者が約5割を占め、都会出や農業経験
がない若者が戦力になって活躍している。酪農家での酪農体験実習が、この道に
入るきっかけになった者が意外と多い。就農の希望もその時に生まれる。経験豊
かな酪農家が、若者の豊かな感性に、牛飼いの素晴らしさ、農業の大事さを教え
てくれるからである。自分自身で酪農の魅力を知り、将来の適性をつかむことが
できる酪農体験実習制度は、助成事業で推進できるようになったので、これを活
用してヘルパー就業を促進し、さらに新規就農へつながるよう普及に取り組んで
いる。


新規就農への道

 これまでに新規就農した事例をみると、多額の投資が必要になるので、北海道
では、農業公社等が離農跡地の農地や施設を購入し、補改修後に新規就農者にリ
ースし、経営が安定する一定期間後に譲渡する「農場リース事業」を活用してい
る場合が多い。この事業を利用して巣立っていったヘルパーを紹介すると、
[広瀬光一、裕子さんご夫妻]

 ご主人は富山県非農家出身(工業デザイン専攻)、夫人は千葉県非農家出身
(畜産経営専攻)。卒業後、北海道中標津の利用組合ファム・エイで共に同僚ヘ
ルパーとして就業中に結婚。1児の親。平成10年別海町研修牧場で1年間研修後、
11年に別海町の紹介で離農跡地に就農(成牛40頭、農地53ヘクタール)。5年
後の買い取りを目指して奮闘中。

[今井勇人さん]

 北海道非農家出身。農業高校卒業後、会社勤め等を経て、平成8年、北海道滝
上町でヘルパーに就業。2年後の10年に農協の紹介で、経営移譲希望牧場をリレ
ー方式で継承。現在、成牛50頭、農地55ヘクタールを管理。町内40戸の酪農家
の仲間にやっと入れたと頑張る。ヘルパー経験者の夫人、愛嬢の3人家族。

 就農者は、いずれも、家族の協力、地域仲間の励まし等を心の支えにし、なに
よりも「やればできる」との前進の意志で奮戦中。新規就農の促進には、支援制
度の充実のほか、周囲の声援、心の支援も重要な要素となるのである。


ほしい せいいち  昭和33年千葉大学園芸学部卒業後、農林省福島種畜牧場に勤務。畜産総合対策 室長、長野種畜牧場長を経て、(財)日本軽種馬登録協会常務理事。平成2年よ り現職。

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