乳業部
「乳業再編整備等対策事業」(以下、「本事業」という。)は、ウルグアイ・ ラウンド農業合意に伴う国際化の進展の下で、国際競争の激化に備えて、乳業工 場の再編整備等を促すことにより対応力を強化すること等を主な目的として、平 成8年度に設定された指定助成対象事業である。わが国の乳業の構造的な問題と しては、かねてより、欧米諸国に比べて零細規模の工場が多数存在し、かつ、製 造コストも高いという問題点が指摘されているが、さらに昨今の喫緊の課題とし ては、環境問題や安全な牛乳乳製品の供給への取り組み、また新技術による製品 開発等が社会的要請として強く求められている。 本事業は、こうした乳業の再編整備等を支援するために、乳業の集約化による 効率的な乳業施設の整備、これと併せて行う環境・衛生問題等に配慮した乳業施 設の整備、生乳需給の安定のための拠点となる需給調整施設の整備等を助成の対 象としている。 乳業の再編整備等を対象とする指定助成対象事業としては、3年度に設定され た「中小乳業合理化促進事業」および4年度に設定された「生乳需給調整体制強 化対策事業」が7年度まで実施されたところであるが、8年度に新たに設定された 本事業は、こうした時代的な背景・課題および社会的要請の変化等を受けて、そ の後継的な指定助成対象事業として新たに設定されたものである。
次に、本事業を構成する各事業を整理すると下記のとおりのチャートになるが、 以下では、流れに沿って各事業ごとにその概要を説明することとしたい。 なお、本事業の事業実施主体は、農業協同組合、同連合会、農業協同組合もし くは農業協同組合連合会が株主になっている株式会社(農水大臣が定めた基準に 適合するものに限る。)または中小企業等協同組合(「一時貯乳施設整備事業」 の場合は除く)等となっている。 <本事業のチャート> 1 乳業施設再編合理化対策事業 この事業は、国が実施する「乳業再編総合対策推進事業」(7年4月1日付け7畜 B371号農林水産事務次官依命通知)または「生乳乳製品流通対策事業」(12年4 月1日付け12畜B310号農林水産事務次官依命通知)により、都道府県が策定する 乳業再編実行計画に即した乳業工場等の近代化および効率化を図るための下記の 事業とする。 (1)効率的乳業施設整備事業 本事業の中核となる事業で、乳業の再編整備等を促進する次の事業を対象とす る。 ア 事業実施主体が乳業工場の施設等を新設、増設または移設(以下、「新設等」) する事業および乳業者が乳業工場の施設等を新設等する場合に、事業実施主体 が当該乳業工場の当該新設等に要する経費の一部を助成する事業 イ 事業実施主体が乳業工場の施設等の新設等と併せて環境・衛生問題への対応、 新製品の開発等に配慮した高度な乳業施設の整備(以下、「環境・衛生等整備」) を行う事業および乳業者が乳業工場の施設等の新設等に併せて環境・衛生等整 備を行う場合に、事業実施主体が当該新設等に要する経費の一部を助成する事 業 ウ 要件等 ・施設等の新設の場合 …3乳業工場等を廃止 ・施設等を増設または移設する場合 …2乳業工場等を廃止 (2)廃止工場対策事業 事業実施主体が、乳業の再編整備等を促進する目的で乳業工場等を廃棄する事 業および乳業者が乳業工場等を廃棄する場合に、事業実施主体が当該廃棄に要す る経費の一部を助成する事業 (参考)廃止工場等の要件 当該乳業工場等が、次のアまたはイに該当する場合に限るものとする。 ア 生乳処理能力がおおむね日量2トン以上で、かつ直近の年間生乳処理量が360 トン以上であること等 イ 学校給食用牛乳の供給を行っていること 2 広域需給調整施設整備対策事業 この事業は、余剰生乳(需給変動により飲用牛乳としての処理が困難で、乳製 品等の原料となるもの)の発生に伴う飲用牛乳市場の混乱を回避するとともに、 生乳流通の合理化を推進し、計画的かつ安定的な生乳の供給に資することを目的 とした下記の事業とする。 (1)需給調整拠点施設整備事業 生乳の広域流通に対応した需給の円滑な調整に資する目的で、以下の要件に適 合する余剰生乳の処理機能を有する拠点施設または設備を整備する事業 ア 酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律第2条の3第3項の規定による協議が 調った集乳および乳業の合理化等を内容とする都道府県計画に照らし適当と認 められるもの イ 処理対象生乳が、複数の都道府県の区域で生産される生乳であること(北海 道、沖縄県はその限りではない。) ウ 乳製品等を製造する施設または設備であること (2)一時貯乳施設整備事業 生乳の短期的な需給調整および集送乳の合理化に資するため、以下の要件に適 合する生乳の貯乳機能を有する施設または設備を整備する事業 ア (1)のアの協議が調った集乳および乳業の合理化等を内容とする都道府県 計画に照らし適当と認められるもの イ 生乳の貯乳能力が、原則として日量50トン以上のものであること ウ 処理対象生乳が、複数の市町村の区域で生産される生乳であること エ 生乳の広域流通に対応した合理的な集送乳が可能となる場所に設置されるも のであること
「酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律」に基づき、12年4月に新たに目 標等が設定された「酪農及び肉用牛の近代化を図るための基本方針」においては、 本事業にも関連する重要な長期的目標が、下表のとおり設定された。この目標は、 本事業の実施要領(国)や助成実施要綱(事業団)において目標値としてうたわ れているものではないが、国の行政上の方向付けを示すものとして、ここで取り 上げておくこととする。 牛乳乳製品工場数の目標 注1:1日当たり生乳処理量2トン以上の工場数を対象とする。 2:乳製品工場は乳製品製造が、飲用牛乳工場は飲用牛乳の処理が 主体の工場である。 (参考)1 製造・販売コストの目標 注1:1日当たり生乳処理量2トン以上の工場数を対象とする。 2:製造・販売コストには、原料乳代、一般管理費および支払利子は 含まない。 (参考)2 HACCP手法の普及目標 注1:1日当たり生乳処理量2トン以上の工場数を対象とする。 2:HACCPとは、食品衛生法に定める総合衛生管理製造過程をいう。
本事業の最近までの実施状況は下表のとおりであるが、初年度の8年度からの 動向を見ると、8、9年度においては、事業の実績件数は、比較的少ないものとな っている。しかしながら、10年度からは拍車がかかり始め、単年度の事業実績が、 8、9年度の合計実績に比べて、工場数では30%、また金額では50%の増加を示し た。11年度においても、工場数では減少したものの、大型の案件が増えたこと等 から金額では10年度に比べて2.5倍に増大している。(図1) ◇図 乳業再編整備等対策事業実績数◇ 当初の実績件数が比較的少なっかたのは、乳業にとって再編・合理化は当面す る重要課題ではあるが、実際に取り組むには、集乳圏・営業権の整理・調整を要 することや効率的乳業施設の整備には複数工場の廃止を必要とする等の地域経済 や地元の雇用への影響の面でいずれも短時間での解決が難しい問題があることが その原因とみられる。 おわりに、国の実施要領の規定では、本事業の実施期間は15年度までの8年間 であるが、本事業の実施を通じて、乳業の再編整備等が充分その効果を発揮し、 乳業の競争力の向上、集送乳の合理化等をはじめとして、製造・販売コストの低 減や余剰生乳処理の円滑化等の所期の事業目的が、十分に達成されることが期待 される。 表 本事業の実施状況 注1:当該年度の実績(執行ベース)における工場数には、当該年度に廃止ま たは整備を完了したものをカウントした。 2:効率的乳業施設整備事業の工場数は、1つの採択案件において、新設と 移設または増設と移設を複合的に行うケースは1ヶ所とカウントした。 3:廃止工場対策事業の工場数には、全額自費で廃止した工場数を含む。
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