山口県/佐々木 磯址
豊浦郡豊北町で酪農を経営する佐々木磯址さん(56歳)は平成12年度第39回農 林水産祭の畜産部門において天皇杯に輝いた。 JR山陰本線で下関から北上すること1時間強。静かな山間にたたずむ滝部駅で 降り、地元ではなじみの銘木「イトザクラ」を目標にすれば佐々木牧場に着く。 佐々木さんが酪農を始めたのは昭和35年。まず1頭導入し、その後「無理のない5 カ年ごとの規模拡大計画」に沿って着実に経営展開してきた。60年には国営農地 開発地域に入植。現在では自宅から5分少々の場所で、乳用牛140頭(うち経産牛 95頭)の通勤農業を営む。 土−草−牛の土地利用型酪農を基本に、所有する農地11ヘクタールでは牧草や ソルガムが作付けられており、通年サイレージ利用で粗飼料自給率60%と高い割 合を維持している。これを支えるのがふん尿をたい肥にしての作付けごとの施用。 ただし8つに分けた飼料畑の1ブロックはローテーションで休ませ、ここでの地力 増進が単収増加につながっているのである。 畜舎は暑熱対策、牛の動線、飼料給与・ふん尿処理作業などを配慮した設計に なっており、ミルキングパーラー、コンプリートフィーダー等による省力化、低 コスト化も図られている。また、ほ場管理には大型機械も導入しているが、過剰 投資にならない、「無理しない」よう、中古機械を利活用している。 58年から実施しているのが乳用牛群検定事業の活用。これによって乳牛の改良 に取り組み、その結果、経産牛1頭当たり乳量は1万603キログラム(11年度)に 達しており、山口県共進会でグランドチャンピオンも獲得している。ちなみに乳 脂肪率は3.8%、無脂乳固形分率は8.7%となっている(同)。 このほか牛の能力を十分発揮させるために、自給粗飼料の分析を行い、パソコ ンによる飼料給与計算も行っている。これによって独自に飼料配合し、群を分け る飼養管理で給与の効率化を図り、病気の防止にも役立てている。 日曜日の午後、後継者である二男・光広さん(27)一家が牧場にやってきた。 孫の将人くんらの声がこだまするのどかな光景だが、今日に至るまでには佐々木 さん一家が乗り越えなければならない不幸もあった。それは長男の早逝で、「家 族ぐるみでの酪農経営」を目指してきた佐々木さんは失意のどん底に落ちたが、 「それならば僕が頑張ろう」と光広さんが後継を決意。逆に「家族ぐるみでなけ れば現在に到達しえなかった」との思いが募る。 今後もゆとりある経営と地域との結びつきを強める方針で、「ふれあいの場」 としてのログハウスの設置も構想しており、酪農公園的な経営を次世紀、次代に 継承するのが佐々木さんの夢である。
【風通しのよい牛舎の中で】 |