★ 農林水産省から


水田を中心とした土地利用型農業活性化対策大綱について

農林水産省農産園芸局企画課 企画官 関川 寛己




はじめに

 平成11年10月29日に「水田を中心とした土地利用型農業活性化対策大綱」が長
い議論を経て、政府、与党、関係者の協力の下に大綱という形でとりまとめられ
た。同日農林水産省としても新基本法推進本部で正式決定した。昨年以来さまざ
まな場において有益なコメントを与えていただいた県、市町村・JAの担当者の
方々、現場で推進の最前線に立っておられる方々のご理解とご協力に心より感謝
申し上げる。

 さて、これからはこの大綱を実行に移していくことになるが、本稿では大綱の
ねらいとする点について説明したい。


基本的考え方

 本対策の2つの大きな柱は、麦・大豆・飼料作物等の本格生産対策と米の計画
生産対策である。

 米は需要に応じて計画的に生産するため、農業者が自分の産地がどれだけ作れ
ばいくらで売れるかについて認識することが必要である。一方、麦・大豆・飼料
作物等については、現時点では米と比較して生産性が低いことから、水田を有効
活用していかに本格的生産を行うかが課題である。この2つの柱は相互に関連し
ており、水田を有効活用した麦・大豆・飼料作物等の本格的生産が進展すれば、
米の計画的生産もやりやすくなるという関係にある。

 ここでなぜ今日、麦・大豆・飼料作物等の生産の定着・拡大が可能かについて
考えてみたい。これまでの生産調整でもひとかたならず取り組まれ、奨励金水準
も高い時期があったにもかかわらず、今日まで十分な定着が図られなかった。

 しかし今や米の世界も食糧法が制定され、「新たな米政策大綱」が推進される
など、大きく変わってきている。これまで、米と他作物のバランスは圧倒的に米
が有利であったが、現在ではその相対的位置関係も大きく変わり、米が、いわば
米以外の一般の作物の世界に近づいてきているといえるだろう。

 また、転作の麦・大豆・飼料作物については、技術面でまだまだやることが多
いということが、この2年間の緊急技術対策に取り組む中で分かった。

 高い単収を上げているところもあれば、いわゆる「捨て作り」で単収も長期低
落傾向の地域もあるというのが実態であるが、意欲のある担い手へ土地利用の集
積を図り、的確な技術対策を講じることで単収等の高位平準化は十分に可能だと
いうことである。

  さらに、麦・大豆については、新しい麦政策大綱、大豆大綱のもとで、実需と
結びつくことで、これまで以上に有利、かつ、安定した生産が可能となる環境が
整えられた。

 飼料作物についても、新たな酪農・乳業対策大綱等のもとで、飼料増産推進計
画の達成に向けて自給飼料の増産を推進することとしている。

 以上のように、本大綱も含めて、麦・大豆・飼料作物等の本格的生産に取り組
む土台が整備されたということである。この5年間の取り組みによって流れは大
きく変わると思われる。


需要に応じた米の計画的生産

 次に需要に応じた米の計画的生産について述べる。これまでの生産調整では、
以下のような問題点が指摘されている。

・これまでの生産調整目標面積(ネガ)による配分では、「減反」、「転作面積
 の消化」という後ろ向きのイメージがつきまとうこと

・価格及び販売動向を踏まえた産地ごとの米の生産販売戦略と直接的に連動せず、
 全体としては需給調整が図られても、産地別には需給の不均衡が顕在化するこ
 と

・他県と比較した転作率の高低のみが重視されること

 このため、地域の条件や需給状況等、産地における米をめぐる各種事情の下で
農業者が理解しやすい形で米の計画的生産を進められるよう、生産調整目標面積
(ネガ)から米の生産数量・作付面積(ポジ)への配分方式の見直しを行うこと
とした。

 なお、平成12年産については、現下の需給動向を踏まえ、「面積ベースで11年
産と同様の生産調整」を行うこととし、県別配分についても11年産と同様とした
ところである。12年産の配分に当たっては、農業者の理解のしやすさや事務上の
負担も考慮し、各地の生産調整を円滑に進めるため、米の生産数量と生産調整目
標面積を配分することとした。

 こうした暫定措置をとりながら、13年度以降に向けて、本格的な米の作付面積
を主体とした配分に移行するための準備を進めることが大切である。具体的には
生産者団体の意向を踏まえた都道府県のガイドラインの配分手法の検討や、市町
村等における水田台帳等の基礎データの整備等に取り組むこととしている。

 需要に応じた米の計画的生産に向けた13年度以降の配分については、前年産の
ガイドラインを基礎として、産地ごとに価格動向・販売動向・計画出荷動向等を
徐々に反映させていくことになると考えている。具体的な在り方については、生
産者団体が12年6月を目途に意向をまとめることとしているので、その意向を踏
まえて詰めることとしたい。いずれにせよ単に価格が高い安いではなく、需要を
つかまえて着実に販売を伸ばした地域の努力が報われるようにしていく必要があ
ろう。


麦・大豆・飼料作物等の本格的生産

 次に今回の対策における助成体系のポイントについて説明する。新たな助成シ
ステムは、単なる米減らしという観点の残る現在の生産調整助成金を廃止し、麦
・大豆・飼料作物等の土地利用型作物の生産振興や水田の有効利用に力点を置い
た新たな助成措置として発足させるものである。

 具体的には、

@農業者が中期的な見通しの下で安心して麦・大豆・飼料作物等の本格的生産に
 取り組めるよう、これまでの対策よりも長い「5年間」の安定的な助成システ
 ムとしたこと

A「経営確立助成」と「とも補償」の2本立ての分かりやすい仕組みとしたこと

B経営確立助成については、米をいかに作らないかではなく、水田において麦・
 大豆・飼料作物等をいかに良く作るかに重点を置いて、団地化または土地利用
 の集積、さらに基本技術の励行を条件に助成する内容にしたこと

Cとも補償について、水田農業振興計画と関連させ、地域の自主性が発揮できる
 仕組みとしたこと

等、これまでの生産調整対策の内容を大幅に見直したものとなっている
◇図1:助 成 体 系 の イ メ ー ジ◇
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◇図2:現行対策と次期対策の助成比較(麦・大豆生産の場合)◇
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経営確立助成について

 助成体系の柱である経営確立助成についてもう少し詳しく説明すると、基本助
成を、団地化助成と担い手への土地利用の集積助成の2本柱とするとともに、基
本的な栽培技術の実施等について、通常の栽培上必要な技術メニューの中から地
域の条件に応じて選択が可能な仕組みとしている。特に、飼料作物は畜産農家と
の利用協定の締結等を要件とし、確実な利用が図られるようにしている。

 また、耕地利用率の向上や大規模な転作を支援するため、麦・大豆・飼料作物
のいずれかを含めた水田高度利用(1年2作等)等に対し、基本助成に加算(水田
高度利用加算)を行うこととした。1年1作地帯においても、通常要件の2倍の面
積の取り組みがあれば加算を得ることができる。自給飼料基盤の一層の拡大に活
用していただきたい。

 さらに、米の計画的生産の実効確保や地域作物の生産振興の観点から、麦・大
豆・飼料作物以外のそばや地力増進作物(緑肥)、みつ源れんげ等の土地利用型
の作物についても、麦・大豆・飼料作物との間で助成額に一定の格差を付けた上
で、経営確立助成の対象に加えることとした。

 経営確立助成の団地化や土地利用集積の助成要件が4ha以上となっており、こ
れでは取り組みにくいのではないかとの疑問をもたれる方もおられるかと思う。
しかし、この要件は、検討に際して、若い担い手農家の声も十分に踏まえて設定
を図ったものである。具体的には、土地条件等による物理的な制限の強い団地化
のみではなく、団地化を要件としない担い手への土地利用集積(作業の受託)を
重視したメニューを設けている。また、当初2年間については、新たに麦・大豆
・飼料作物等の生産に取り組む際のいわば入門編として、やや簡易な要件(団地
化、土地利用集積それぞれ3ha)のコースも設定した。特に、飼料作物のみで転
作に取り組む場合は、転作と合わせて家畜の飼養を行っている実態を踏まえ、一
部の助成メニューで助成要件の面積について特例を設定している。

 このように、意欲さえあれば普通の担い手農家の皆さんにとって十分に取り組
み可能なものと考えている。

 団地化、土地利用集積の要件については徐々に向上を図ることとし、具体的に
は5年目の16年にそれぞれ1haずつ上がることになっている。現行の要件との継続
性にも十分に配慮してあるので、今後の5年間を上手く使ってもらい、経営面・
技術面で合理性が確保できる規模を目指して1歩でも2歩でも前に進んでもらいた
い。

 また、基本技術の励行の対象となる技術メニューについては5年間の中で陳腐
化したものは外す等のある程度の見直しも考えている。普通の営農に必要な技術
をしっかり励行してもらえるよう要件を設定することとしている。

 助成金の交付先についても、飼料作物転作の実態等を踏まえ、地域の関係者の
合意の下で水田農業振興計画にその旨を位置づけた場合は、全作業受託等による
実際の耕作者も直接交付対象者となることができるものとした。


新たなとも補償について

 現在の緊急生産調整推進対策においては、生産者の拠出と政府の助成により全
国単位で資金を造成し、この資金から生産調整の取り組みの実態に応じて補償金
を交付する「米需給安定対策」(全国とも補償)を実施している。

 この「米需給安定対策」は、全国的な公平な拠出と交付を通じて転作率の格差
による不公平感の緩和等に効果があるものの、次のような意見が各地から寄せら
れていた。

・作物ごとの助成単価が全国で一律であるため、地域独自の振興作物の推進に十
 分に資するものとなっていないのではないかということ

・野菜等で転作した場合、転作率等によっては拠出額が交付額を上回ることがあ
 ること

・水田面積当たりの拠出であるため、転作している面積からも拠出をとられるこ
 とに不満があること

 こうした意見も踏まえ、新たな「とも補償」制度においては、全国的な公平な
拠出と交付により転作率の違いによる不公平感の緩和を図るとの基本は維持しな
がら、 

@補償金の受取対象作物、受取単価等について地域で設定できるなど、水田農業
 振興計画の具体化に向けて地域の自主性が発揮できる仕組みとしたこと

A拠出と交付のバランスの改善によって、野菜等の転作の場合であっても、交付
 額が拠出額を下回りにくい仕組みとしたこと

B水稲を作付けした場合と転作作物を作付けした場合の所得格差の是正というと
 も補償の本来の機能をより発揮させるため、水田面積当たり拠出をやめ水稲作
 付面積当たり拠出としたこと

C水稲作付面積を基礎とする共済事業等との連携を図りやすくしたこと

等の改善を行った。

 地域ごとの水田農業の振興方向はさまざまなので、地域の自主性の発揮の観点
が極めて重要となる。団地化や担い手への土地利用集積を重視するタイプや特定
の地域振興作物を推進するタイプ等のとも補償単価の設定例や活用例を示してい
くので、地域ごとのアイデアを活かして、十分な活用を図っていただきたい。


関連施策について

 最後に関連施策について述べたい。麦・大豆・飼料作物の本格的生産の定着・
拡大のためには助成金ばかりでなく、関連する生産振興施策の充実も重要である。
具体的には、

・麦・大豆・飼料作物等の作付けの団地化や汎用水田化に資するほ場整備
・効率的な生産体制のための機械・施設整備
・麦・大豆・飼料作物等の新品種の開発・普及
・麦・大豆・飼料作物等に本格的に取り組む生産組織の育成等がある。

 特に、麦・大豆・飼料作物の主産地形成に向けた取り組みを行う地域であって、
一定の水準を満たした水田農業振興計画を策定した地域に対しては、これらの生
産のための基盤整備、機械・施設の助成、技術経営指導等を重点的に実施するこ
ととしている。


終わりに

 水田を活用した飼料作物転作は、飼料作物全体の作付面積の約1割(都府県で
は約3割)を占めるほか、転作作物全体の作付面積の約2割を占めており、飼料作
物の生産、水田の有効活用の観点から大きな位置を占めている。

 また、飼料作物転作に取り組む農家も、為替リスクの回避等飼料確保の安定化、
自給飼料基盤の拡大、たい肥等投入による地力増進、畜産環境問題への対応等多
様な視点から取り組んでいる。

 今後、本対策を5年間にわたり実施することとしているが、農家、生産者団体、
行政が一体となって、自給飼料基盤の一層の強化に向けて本対策を十分に活用し
ていただきたい。
◇とも補償の仕組み◇
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@高率目標地帯など高い割合で生産調整を実施している農業者の不公平感を緩和
A転作の場合、全国ほとんどの地域で赤字が出ない水準の交付基準を設定
B農業者への交付方法を地域の裁量に委ねることにより地域の実情に応じた生産
 調整への対応が可能

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