◎調査・報告


平成11年度国産食肉販売実態調査の概要について
−その1・牛肉−

社団法人 食品需給研究センター 主任研究員 関根 隆夫




はじめに

 社団法人食品需給研究センターでは、農畜産業振興事業団の助成により、国産
食肉販売実態調査を実施した。ここでは平成11年度における調査結果のうち、牛
肉の小売実態と価格形成、食肉小売の課題についてその概要を紹介したい。

□調査の内容:牛肉・豚肉の小売における価格形成と商品化体系、食肉総菜の取
 り組みと課題、食肉小売における課題

□調査の対象:専門小売店11店、SM(食品スーパー)6店、DS(ディスカウント)
 3店の合計20店

□調査の時期:	11年10月

注:調査対象には、肉畜の生産から食肉の小売まで一貫して手がける食肉専門企
  業が経営する小売店が多く含まれていること、また、調査対象数が少ないこ
  とからご利用に当たっては留意していただきたい。


牛肉の小売実態と価格形成

国産牛肉の調達ルート

 国産食肉の調達ルートの事例は図1に示したとおりである。専門店における国
産牛肉の仕入先は、和牛が主体であることから卸売市場や食肉センターが多い。
卸売市場や食肉センターから枝肉を仕入れて自社加工場で部分肉を製造するもの
(a)と、食肉卸売業や食肉センターから部分肉を仕入れるもの(b)と大きく2
つに分けられる。前者では食肉卸売業務を主力としており、専門店が卸売業務を
行うのは全国的にも少なくない。後者は、小売りを主力としており、このような
小売りに特化した経営では、従来からの枝肉仕入れによる脱骨等の作業は行わず、
部分肉パーツ仕入れへの移行が著しくなっている。

 スーパーにおける国産牛肉の調達ルートは、経営形態の違いもありそれぞれ異
なる。調査対象のスーパーでは自社牧場を有し肉牛生産から部分肉製造、卸売を
行う食肉専門企業が直営、あるいは、テナントとして出店しているもの(d)と
肉畜生産から食肉加工まで手がける食肉パッカーと製販同盟の関係にあり、地域
内でチェーン展開しているもの(c)となっている。前者は生産直売と低価格を
訴求している。

 調査対象のディスカウントでは、自社あるいは系列会社において肉牛の生産か
ら部分肉処理、卸売り、小売りまでを手がける食肉専門企業が経営している店舗
(e)である。国産牛の仕入は乳牛より和牛が多い。輸入も含めて品ぞろえが多
く、カテゴリーキラーを志向していることがうかがえる。また、生産直売による
低価格、品質、安心感を訴求している。

◇図1 国産牛肉の調達ルートの事例◇
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牛肉の仕入れ概要

 枝肉、部分肉等の仕入れ形態別の構成(図2)を見ると、専門店では国産部分
肉パーツが57.4%、国産部分肉セットが14.2%で併せて3分の2を超えており、枝
肉は8.7%にすぎない。スーパーでは国産部分肉パーツが70.7%を占め、国産部分
肉セットが15.7%、輸入部分肉パーツが13.0%となっている。ディスカウントで
は国産部分肉パーツが20.3%、国産部分肉セットが27.9%、輸入部分肉パーツが
49.8%となっている。以上、専門店は、枝肉仕入れが極めて少なく、部分肉仕入
れが主体となっており、スーパーは部分肉パーツが主体となっている。また、デ
ィスカウントでは食肉専門企業が経営していることから部分肉セット仕入れが比
較的多く、また、輸入部分肉パーツが多い。

◇図2 牛肉の仕入形態別構成比◇

 次に種類別構成(表1)を見ると、専門店では和牛が63.5%、乳牛が16.7%、
輸入牛が19.8%でやはり和牛が多い。スーパーでは和牛が28.1%、乳牛が59.0%、
輸入牛が13.0%となっており、調査対象のスーパーは乳牛が多い。ディスカウン
トでは和牛が39.7%、乳牛が10.5%、輸入牛が49.8%で輸入牛肉が半数近くとな
っている。専門店は和牛、スーパーは乳牛、ディスカウントは輸入がそれぞれ最
も多く、業態により商品政策の違いが明瞭となっている。以上、仕入れ形態と種
類について業態別にみると、明瞭な違いがみられたが、個別の小売店においても
同様に大きな違いがあることを付け加えておきたい。

表1 牛肉小売における商品政策(仕入重量ベース)
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牛肉の小売概要

 小売価格(図3、100グラム当たり・加重平均)は、業態により格差が大きくな
っている。和牛は、専門店が630円、スーパーが430円、ディスカウントが349円
であった。以下、乳牛、アメリカ産、オーストラリア産の小売価格も高い順に専
門店、スーパー、ディスカウントとなっており、業態によりグレードや価格政策
の差異が表れている。なお、牛肉の種類、格付規格、部位、アイテム別小売価格
の詳細は報告書を参照していただきたい。

◇図3 牛精肉の種類別小売価格◇

 次にアイテム別構成比(図4、重量ベース)についてみると、「切り落とし」
が16.4%で最も多く、次いで「すき焼き」が16.2%、「焼肉・カルビ」が15.1%、
「ステーキ」が9.7%、「しゃぶしゃぶ」が6.4%、「スライス」が6.0%、「カレ
ー」が5.0%、「小間切れ」が4.0%であった。また、「挽肉」が10.0%となって
いる。なお、精肉のアイテム名は、リテールカットの形態やメニュー用途で表現
されている。メニュー用途名ではカット形態がわかるが、カット形態名では用途
が不明である。

◇図4 牛精肉のアイテム別売上重量構成◇

 以上のように用途の広い「切り落とし」が最も多くなっている。「焼肉・カル
ビ」は家計消費においても浸透していることが分かる。また、「すき焼き」は和
牛のメニューとして見直されているようである。


牛肉小売の価格形成

 種類・規格別の価格体系(図5)についてみると、和牛、乳牛の枝肉格付等級、
アメリカ産チルド、オーストラリア産チルド・グレインの順で高く、格差が明瞭
となっている。和牛5等級は、銘柄和牛が多く、ほぼすべての部位で小売価格が
最も高い。次いで和牛4等級、和牛3等級と準じている。和牛2等級は、乳牛3等級
と比べてロイン系以外の部位で価格が安くなっている。アメリカ産チルドは部位
によって乳牛3等級や乳牛2等級と同じ価格水準となっている。オーストラリア産
チルド・グレインは最も安い価格帯となっている(チルド・グラスフェッドや冷
凍品を除く)。

◇図5 牛肉の種類別規格別の小売価格◇

 和牛3、乳牛3(枝肉時の格付等級)の部分肉価格と小売価格を図6、図7に示し
た。部位別仕入価格は、同月の部分肉市況と比較して、バラ系やモモ系等の部位
が比較的高くなっているが、これは小割スペックが多いことが一因ではないかと
考えられる。また、小売価格について仕入価格との格差を部位別にみると、おお
むね一定の範囲内となっているが、ロイン系等部位により比較的安い(歩留まり
計算済み)ものもみられる。これは牛肉小売の価格競争が激化していることに加
え、価格設定は部位数が多いことから自由度が高く、弾力的に行われているため
と考えられる。以上、価格設定は基本的には部分肉価格をベースに行っていると
いえる。

◇図6 和牛3の部位別価格形成◇

◇図7 乳牛3の部位別価格形成◇


食肉小売の現状と課題

商品づくりについて

 小売店における精肉の商品づくりの基本的な考え方は、新鮮でおいしいものを
提供する、おいしい食べ方・メニューの提案、地域の顧客に対応した品ぞろえ、
求めやすい価格・値頃感で提供する、季節ごとのイベントやフェア、生産直売に
よる品質・価格・安心感等が挙げられている。いずれも消費者重視の視点が強く
表れており、精肉の売上げ停滞を反映していると考えられる。

 和牛の商品づくりの考え方は、ブランド価値の表現、品質・おいしさ重視、特
売等により値頃感を表現、季節ごとの料理方法・メニューの提案、モモ等低需要
部位を割安価格で提供等が挙げられている。

 乳牛の商品づくりの考え方は、おいしい食べ方の提案、値頃感のある価格、季
節ごとのメニューの提案、定番は品質志向・特売はボリューム等が挙げられてい
る。和牛と比べて、割安な牛肉のおいしい食べ方をいかに提案するか工夫してい
る。

 輸入牛の商品づくりの考え方は、低価格・値頃感、低脂肪、ボリューム感、焼
肉・ステーキ中心のメニュー提案等が挙げられている。

 豚肉の商品づくりの考え方は、メニュー・料理の提案、鮮度重視、定番は品質・
特売はボリューム等が挙げられている。黒豚については、品質・おいしさ、少量
パックで求めやすい価格、カツ、ステーキの料理提案等が挙げられている。


売価設定について

 小売店における売価設定の基本的な考え方は、主なものを挙げると、原価を基
に目標マージンを付加、競合店の価格を考慮、不需要部位は割安に、消費者の求
めやすい価格の表現、価値基準に見合う価格設定となっている。小売店により考
え方が異なっているのは、これら因子の比重の差異と考えられ、興味深い。

 また、売価設定における市況の参考度合いは、調査対象20店において、「参考
にする」「あまり参考にしない」は、半々に分かれている。「参考にしない」要
因としては、売価設定はアイテム数が多く、自由度が高いこと、また、消費者の
求めやすい売価設定を重視しているためと考えられる。

 売価設定においてマニュアルがあるのは20店中、15店であった。しかし、この
マニュアルによってすべて決定しているわけではないようである。

 小売店では売価設定において、競合店との価格競争をどのように反映させてい
るのだろうか。売価設定における競合店の価格の参考度合いは、調査対象20店に
おいて、「参考にする」「あまり参考にしない」は、概ね半々に分かれている。
「参考にする」という小売店では、品質を考慮した上で反映させている。一方、
「あまり参考にしない」という小売店では、価格競争より、品質等で差別化を図
ろうとしているようである。


収益性改善の方法について

 調査対象の小売店における目標粗利益率をみると、和牛はディスカウントを除
き、20%から45%の範囲でばらつきがみられた。乳牛はディスカウントを除き、
25%から35%と和牛に比べてばらつきが小さくなっている。輸入牛肉では和牛や
乳牛よりも一段高くなっている。豚肉についてみると、30%台と40%台に集中し
ており、黒豚もおおむね同様な水準となっている。

 小売店における収益改善の基本的な考え方は、仕入れ等流通コストの削減、余
剰在庫部位の活用、売上げ増による粗利益の確保、人件費抑制、作業の効率化、
価値基準の見直しと価値の付加、ロスの低減、無駄をなくす等が挙げられており、
いずれも重要な要因となっている。

 次に、小売店における経営管理データの把握の頻度についてみると、20店のう
ち、「週次」が2店、「月次」が13店、「四半期」が3店、「半年」が2店となっ
ている。やはり、「月次」単位が多くなっているが「四半期」以上が5店あり、
経営データの迅速な捕捉は今後の課題といえる。粗利益等の把握を畜種別や品種
等のグレード別等どの程度詳細に実施しているのだろうか。調査対象20店につい
てみると、「小売部門全体」が7店、「牛豚等畜種別」が9店、「和牛・乳牛・輸
入別」が3店、「単品(アイテム)」が1店となっている。やはり、畜種別やグレ
ード別の把握は難しいようである。


おわりに

 牛肉の小売段階では、部分肉パーツ仕入れが進展するなか、価格形成に関する
調査研究は困難となっている。その要因は、部分肉の規格が多様(本調査では部
位のカット数がフルセット当たり13から30程度まで)であることである。これら
規格により精肉歩留まりが異なり、当然、取引価格も異なってくる。したがって、
部位別の価格形成の調査は、精度が課題となる。もうひとつの要因は、小売店に
おけるいわゆる計数管理の精度に起因する部分である。

 牛肉小売の価格形成調査を踏まえ、小売の収益性は極めて厳しい現状にあるこ
とが分かる。近年、順調に拡大してきた牛肉消費がここにきて成熟化現象がみら
れ、消費者の食肉に対する安全性志向、品質志向、価格志向は、一層強まりつつ
ある。牛肉のマーケットは業種・業態を越えた市場競争が展開されており、牛肉
小売における収益性を改善するためには、また、国産食肉の生産流通を振興する
ためには、消費者を起点とした生産流通の効率化・高度化を図る必要がある。と
りわけ、生産流通の主体間においては連携強化や統合化が今後の競争力を規定す
ることになろう。

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