◎専門調査レポート


ミートランドを核とした 生協との産直取引の展開
−肉豚生産、処理・加工、流通の生販一貫体系の確立−

宮城学院女子大学 学芸学部生活文化学科  教授 安部 新一

 

 




はじめに

 豚肉の国内自給率は年々減少傾向にあり、平成11年には61%まで低下している。
こうした状況下にあって、秋田県鹿角市に県内と畜場統廃合の一環により最新鋭
の食肉センターである株式会社ミートランド(北鹿食肉センター、以下「ミート
ランド」という。)が建設された。このミートランドを中核として、旧来の養豚
生産グループである八幡平養豚グループの他に、これまで養豚飼養農家がみられ
なかった、JAかづの管内の小坂町に肉豚の生産拠点となる大規模養豚団地、有限
会社ポークランド(以下「ポークランド」という。)を新たに建設した。これに
より、県北地域での一大養豚団地を形成するとともに、肉豚生産から処理加工・
流通までの一貫体系を作りあげた。また、地域内で発生したふん尿の堆肥化と地
域還元を目指して有限会社小坂クリーンセンター(以下「小坂クリーンセンター」
という。)をポークランドに併設し、有機質肥料と地域の高原野菜、果樹、水稲
を結びつけた環境保全型農業の推進を図っている。さらに、10年には東京の首都
圏コープ事業連合と産地直送協定を結び、産直取引を開始した。国内の肉豚出荷
頭数が減少傾向にあるなかで秋田県北地域である、鹿角地方に一大養豚団地を形
成し年々出荷頭数が増頭傾向にあることは注目される。そこで、ミートランド、
ポークランドの設立経緯、背景および産直取引先である首都圏コープ事業連合を
併せて調査することにより、産直提携取引に関わる生産、処理加工、流通、販売
の各段階の担い手の現状と役割および課題についてみていきたい。

表1 秋田県地域別豚飼養戸数・頭数の推移
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 資料:秋田県「畜産基本調査」より
  注:鹿角市、小坂町は県北地域内である

表2 家畜飼養頭数の推移
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 資料:秋田県鹿角総合事務所「業務概要」(平成12年)より
  注:毎年2月1日現在調査、市町別の記載は平成12年2月1日現在

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産直取引を開始するまでの経緯

ミートランド建設の経緯

 秋田県における食肉流通施設の再編整備については、6年に「秋田県食肉流通
合理化計画」を策定し、その方向に基づいて県内の食肉処理施設の再編整備を進
めている。それ以前の県内と畜場は、県北地域に4施設、県中央地域に2施設、県
南地域に2施設の計8施設がみられた。これを、8年3月末までに県中央と県南地域
の4施設のうち2施設を廃止し、現在、秋田県食肉流通センターと横手平鹿食肉セ
ンターが稼働している。また、県北地域での4施設すべてを廃止し、新たにミー
トランドを設置した。


最新鋭施設と総合衛生管理システムのミートランドの概況

 鹿角地域における肉豚生産、処理加工、流通・販売システムの中核拠点である
ミートランドは、6年度に着工し、8年4月に操業開始した。当食肉処理施設は、
最新鋭の自動処理・搬送システムの施設整備と徹底した衛生管理により安全で新
鮮な食肉を提供することを社命とする食肉センターである。その施設等の概況は
以下のとおりである。

・処理能力

 1日当たり処理能力は、牛5頭、豚580頭、豚換算600頭であり、年間処理日数
240日として年間処理頭数14万4,000頭である。

・資本金と資本構成

 資本金4億5,120万円の出資構成は、JAかづのが2億5,000万円と最大の出資者で
あり、秋田県経済連と全農がそれぞれ1億円、JA鷹巣町100万円、JA大館市とJA
能代市がそれぞれ10万円となっている。

・組織構成と従業員数

 ミートランドの代表取締役には最大の出資者であるJAかづのの組合長、また
専務取締役もJAかづのからの出向者である。正職員は85名(12年3月末現在)で
あり、業務部門のうち、荷受・解体処理グループは25名、内臓処理グループ17名、
部分肉処理グループ31名であり、総務課の総務・施設管理および業務課に所属す
る販売担当を加えたグループは12名である。

・業務内容

 家畜のと畜・解体処理、食肉の加工処理および販売、副産物(原皮、内臓、骨
等)の処理・加工および販売、食肉および副産物の貯蔵・保管業務となっている。

・施設と組織運営等の特徴

 建設に当たって、関係者がヨーロッパの最新施設を調査するなどにより、国内
と欧米の最新技術とノウハウを導入している最大の特徴は、最新鋭の自動処理・
搬送システムと最新鋭の施設を生かすための衛生管理システムの導入を図ってい
ること、特に、と畜解体処理室と内臓処理室では、これまで汚染源の1つとされ
ていた枝肉同士や作業員と生肉との接触、内臓物との接触を最小限にとどめてい
る。また、部分肉処理施設では、衛生的な環境を維持するため、常時10℃の床暖
房とソックダクトと呼ばれる空調設備を導入し、室温を12℃以下にすることによ
り、細菌の繁殖を防ぐとともに、冷えなどから起こる作業員の健康障害にも配慮
した施設設備となっている。

 次に、管理運営については、秋田県内のみならず他県においても地方自治体や
第3セクターが運営を行っているところが圧倒的に多いが、当食肉センターの組
織は株式会社を設立して経営を行っている。生産者が出荷した肉豚は、と畜解体
後にミートランドで買い取り、その後生協・スーパー等へ販売する業務まで行っ
ていることがもう1つの特徴である。


生産拠点としてのポークランド

 新規の大規模養豚団地であるポークランドの設立は、鹿角地域内に新たに建設
されたミートランドの設立と密接に関連している。4年に、JAかづの内に北鹿食
肉流通センター建設対策室が設置され、建設促進の主導的役割を担った。当時、
食肉センターの処理能力を年間14〜15万頭とする施設計画であったが、当時の
JAかづのの年間肉豚取り扱い頭数は5万頭であり、近隣からの出荷頭数を含めて
も、ミートランドの処理能力頭数に対して大きく不足していた。そこで、JAか
づの畜産課内にポークランド建設構想が持ち上がったのである。ポークランド構
想は、新規者が妥当と判断し、紆余曲折を経て当時の畜産課長であった豊下勝彦
氏が社長に就任することになった。

 ポークランドの概況は以下のとおりである。

・会社設立と出資構成

 有限会社設立は、7年2月、養豚場は8年6月に種豚導入を開始し、9年5月から肉
豚出荷を開始している。

 資本金1,000万円の出資構成は、豊下社長51%、農協系統関連会社の組合貿易、
科学飼料研究所および出荷先である地元のミートランドからの出資額合計が49%
である。

・事業規模と事業内容

 常時飼養母豚は1,500頭で年間肉豚出荷頭数は3万5,000頭である。さらに、ポー
クランドの第2農場として位置付けられている、有限会社十和田湖高原ファーム
を9年6月に設立し、10年11月に繁殖母豚を導入開始、事業規模はポークランドと
同規模であることから、2農場を合わせると年間肉豚出荷頭数7万頭規模に達する
大規模養豚団地となっている。事業内容は家畜の繁殖、肥育の他に豚肉の販売を
行っていることが注目される。

・従業員数と業務内容

 ポークランドの従業員は、現業部門として繁殖部門5名、分娩部門6名、肥育部
門5名の合計16名を配置し、その他に総務部門2名の他に、販売部門には3名を配
置している。第2農場の十和田湖高原ファームも現業部門16名を配置している。

 新入社員は、これまでに養豚飼育の経験がなく、ポークランドへの就職動機に
ついても養豚飼育に従事し飼養管理技術を学びたいというよりも、一般の会社に
勤務する感覚で就職しているとの話である。飼養管理について全面的なバックア
ップを行っているのは全国農業協同組合連合会(JA全農)である。JA全農では、
SPF豚農場100万頭構想推進計画があり、その一環としてポークランド建設計画の
段階から積極的に関わってきた。このため、飼養管理技術指導のためJA全農から
獣医師1名を常務として派遣し、従業員の指導に当たっている。また、JA全農が
仲介して大規模養豚農場へ新人職員の研修派遣も行っている。

・豚肉の独自販売と通信販売による販路開拓

 ポークランド、十和田湖高原ファームの銘柄豚「桃豚」が、地元ではAコープ
かづの店のみで販売しているにすぎず、地域内で他に販売店がみられなかった。
そこで、「小坂町の大地で健康的に育てられた安全・安心・美味しい十和田湖高
原ポーク桃豚を味わってみませんか」というキャッチフレーズで、地元産豚肉を
地域の人たちに気軽に購入してもらうために、「桃豚の会」を発足するとともに
通信販売「桃豚通信」を開始した。販売エリアは、地元の小坂町、鹿角市、大館
市を中心に、関東、東海地域の遠方からの注文もみられる。現在、会員数は約9
00人である。

 なお、原料肉は自社農場からミートランドへ出荷し販売したものを、ミートラ
ンドでと畜解体後、ブロック、スライス等に加工し、Aコープを経由してポーク
ランドが仕入れるというルートによる仕入れとなっている。


地域循環型農業の推進を支える小坂クリーンセンター

 小坂クリーンセンターは、ポークランドから発生したふん尿と小坂町肉用牛生
産農家のふん尿等をも処理する施設として建設された。この施設で生産された完
熟たい肥を地域の野菜、果樹、水稲農家へ供給することにより、広域的かつ公益
的事業として展開している。

・会社設立と出資構成

 資本金300万円の出資構成は、JAかづの80%、ポークランドとミートランドが
それぞれ10%の出資である。小坂クリーンセンターはもともと「農協の地域発展
構想」の一環として、ポークランドと同一構想で進められた。このため、出資額
もJAかづのが8割を占め、代表取締役社長はJAかづの組合長であり、取締役のポ
ークランドの豊下社長が実質の責任者となっている。

・事業内容

 家畜ふん尿処理、たい肥の製造、販売、運搬、さらに、農作物の栽培、生産、
加工および販売を行うことも事業内容に盛り込まれている。野菜等の農作物生産

・販売事業を将来的に行う計画の背景には、JAかづのの将来計画に野菜団地構想
 があり、小坂クリーンセンターについても、自社で製造したたい肥を利用して
 参画する構想があるためとみられる。

・畜産を核としたクリーン農業の推進

 鹿角の地域では、地域内の大規模養豚場であるポークランドを中心に発生する
ふん尿等を原料に、小坂クリーンセンターで完熟たい肥を製造し、地域内の米、
夏秋きゅうり、夏秋トマト、キャベツ等高原野菜とりんご等果樹へ還元する地域
循環型のクリーン農業を展開している。地域内でのたい肥の流通は、農協が窓口
となり、各生産部会を通じてたい肥の需給状況を把握し、たい肥がクリーンセン
ターから耕種農家に円滑に供給されるシステムが確立している。

◇図1 たい肥流通システムフロー◇
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 また、現在、肉豚について、首都圏コープ事業連合との産直取引を進めている
が、完熟たい肥を使った農作物についても、産直取引の取り組みを開始している。
肉豚と青果物を組み合わせた産直取引体制の拡充を図る方向も検討されており、
今後、秋田県でも有機栽培認証制度確立の推進方向にある。


産直提携取引における契約内容と取引システム

産直取引先としての選定要因

 10年10月に首都圏コープ事業連合とJAかづの(ミートランド)、ポークラン
ド、JA全農の4者により産地直送協定が締結された。実質的には10年4月から仮
契約により産直取引を開始している。首都圏コープ事業連合が、新たな産直取引
先を求める背景として、従来、共同購入が主体であったものが、10年前から開始
した個人宅配が年々増加してきたことにより、豚肉の供給元が従来の2産地だけ
では不足してきたことが挙げられる。そこで、新たな、産地取引先の選定のため
に生協活動に理解のある産地の農協や商社系に対して協力を求めた。選定の基準
としては取引価格、品質(肉質)の基本的な事項以外に出荷前2カ月以上の飼育
期間中に抗生物質の投与を行わないこと。また、ふん尿については、地域内で処
理し完熟たい肥を製造して、農地に還元する環境保全型農業を推進し、地域住民
と合意のもとで養豚を実践していること。さらに、品質とともに出荷量も安定供
給が可能である大規模養豚農場1カ所との取り引きを希望した。

 こうして、最終的に4カ所の産地に絞り込まれた。4カ所の養豚場は、取引価格
と品質について首都圏コープ事業連合の基準をすべてクリアーできていた。最終
決定要因となったのは、ポークランドには、併設して小坂クリーンセンターを建
設し高原野菜・果樹等にたい肥を還元する環境保全型農業の実践を行っていたこ
とである。さらに、肉豚出荷前の休薬期間が120日と他の産地と比較して最も長
い期間であったことも理由となっている。


産直取引内容

・取引期間と取引数量

 取引締結期間は1年間であり、問題が発生しない限り自動延長となっている。
取引頭数は現在1週間に200頭、年間1万2千頭が目標である。出荷は、1週間のう
ち水曜日、木曜日、金曜日、土曜日の4回となっている。

・取引価格

 産地側と首都圏コープ事業連合の双方とも、お互いに緊張関係を持たせる意味
で、市場連動相場を導入した取引価格となっている。取引価格は前週1週間の東
京、大宮、横浜市場の上物加重平均(全農建値相場)を基準価格としている。さ
らに、市場価格の大幅な変動に対応し、また生産コストを確保する観点からも取
引価格の上限と下限の価格帯を設けている。その価格帯は国の安定価格帯に近い
とみられ、毎年協議を行う。なお中物については、上物から値下げにより仕入れ
を行っている。

・規格と商品荷姿

 仕入れる豚肉の規格は上物と中物のみである。カット肉の納入荷姿については、
首都圏コープ事業連合側では独自スペックの要望もみられるが、現状では全農規
格での納入となっている。

・出荷体重と日令

 出荷体重は110キログラム以上もしくは出荷日令180日以上となっている。

・その他

 飼料給与体系等を含めた繁殖、肥育段階での飼養管理マニュアル等の提出を求
めている。こうして、取引先側からも養豚飼養管理技術の向上を促している。


流通システム

 ポークランドからミートランドへの出荷は、月曜から金曜日までの5日間に60
0頭、そのうち、200頭が首都圏コープ事業連合への販売分である。ミートランド
でと畜解体、カット部分肉処理後に、ミートランド側で配車し、販売先への輸送
も系統関連会社秋田くみあい運輸株式会社に委託し行っている。千葉県習志野市
にある首都圏コープ事業連合の関連会社株式会社首都圏コープで検品、一般細菌
数の検査等の後、スライス等の商品形態に加工、パック包装し、組合員に配送さ
れる。

 次に、商流についてみると、JAかづのはポークランドから委託を受けてミート
ランドに販売し、ミートランドはと畜解体、カット部分肉処理後に、フルセット
形態でJA全農に販売する。JA全農は部位別需給調整(パーツコントロール)を
行い、首都圏コープ事業連合へセットとパーツを組み合わせて販売している。


生協等との産直取引における生産・流通担当者の機能と役割

 首都圏コープ事業連合等との産直取引における生産・流通担当者の機能と役割
について、それぞれの担い手別に見てみよう。


ポークランドの機能と役割

 肉豚生産を担うポークランドでの役割について、販売先側からは品質の向上と
ともに品質の安定および安定供給を求めている。現在、生協組合員が注目してい
るのは、抗生物質やホルモン剤の使用問題、飼料原料であるトウモロコシ等の遺
伝子組み換え問題である。ポークランド側でも飼料の品質検査を年1回実施して
いる。また、飼養管理マニュアル等の飼育に関わる情報の提供・公開を行って
「安心・安全」な肉豚を供給できるよう努めていくことが重要と考えられる。


ミートランドの機能と役割

 ミートランドの機能には、と畜解体、カット肉の製造および仕入れと販売機能、
さらに輸送・配送機能。ミートランドの重要な役割は、と畜解体処理、カット加
工処理での安全で新鮮な商品の供給である。そこで国内でも最新鋭の自動処理・
搬送システムの施設整備を図り、衛生管理を徹底している。


JAかづの機能と役割

 JAかづのは、ミートランド、ポークランド等の建設については重要な役割を
果たしてきた。首都圏コープ事業連合等との取り引きにおいては、肉豚出荷販売
代金の清算を行っている。また、ミートランドに農協の生産資材課畜産販売係1
名が常駐し各養豚場からの出荷計画(年間、月間、週間)をまとめ、調整すると
いう出荷調整機能を果たしている。


JA全農の機能と役割

 首都圏コープ事業連合との産直取引において、JA全農は各段階で重要な役割
を果たしている。生産段階のポークランドでは建設計画時点から深く関わり、ま
た養豚場稼働後は獣医師の職員を常務として出向させ、養豚飼育管理技術を中心
に指導を行っている。また、ミートランドでも衛生管理向上のノウハウについて
も人材を派遣し、指導・援助を行っている。特に、販路の拡大等販売については、
JA全農側で全面的な営業活動を行っている。現状ではミートランドに販売担当
を配置しても、販売ルートの開拓を行う体制にまでなっていないこともあって、
産直取引を進める上で重要な要件となる部位別コントロールについてもJA全農
で対応を行っている。


首都圏コープ事業連合の機能と役割

 首都圏コープ事業連合では、関連会社である(株)首都圏コープでスライス、
切り身等の商品形態に加工、パック包装を行うとともに、会員生協配送センター
への納品までの機能を果たしている。産地側との取り組みとしては、毎週組合員
に配布している情報誌に年1回産地紹介を掲載するほかに、産地交流会を産地側
と協力して実施している。産地交流会の実施に当たっては、職員の派遣とともに
交流会の実施に伴う資金援助を行い、生協組合員と産地側との相互交流と理解に
努めている。


JAを含めた総合的支援体制の重要性

 わが国の養豚は大きく後退し、11年には豚肉の国内自給率が61%にまで低下し
てきた。こうした畜産を取り巻く厳しい環境の中で、ミートランド、ポークラン
ドが建設された今回の事例は全国の養豚生産者、加工・流通業者にとっても参考
となる事例であろう。今回の事例の特徴は、行政の支援を受けたとはいえ、JA
かづの、JA全農等農協系統の全面的な協力と支援によってミートランド、ポー
クランドおよび小坂クリーンセンターの建設と維持・運営管理を果たしてきたこ
とである。特に、ミートランド、ポークランドの職員は、どちらも未経験の若い
職員が大部分であった。こうした素人集団が養豚飼育や解体処理、カット加工処
理等の技術向上には地域外を含め関係団体、関連業者等の協力、支援があったこ
とによって、今日の発展が図られたことに注目すべきである。

 今後、ポークランドでは、ハム・ソーセージ等加工品を製造し、地域の特産品
として誇れる商品開発を行う計画もみられる。これまでの豚肉販売の他に、新た
な加工品の商品開発を進めるためには、販売活動をより強化する必要がある。こ
れまでの通信販売ルートの拡充の他に、直売所の設置や宿泊施設等での販売以外
に観光客へのPRなどにより、販路拡大を図る計画もみられる。生産者、農協、行
政、さらには地域の観光旅館等観光業者をも巻き込んだ、地域振興、地域活性化
の観点から地域が一体となって活動していくことが求められる。

 経営の側面からみると、今日の肉豚価格の低迷から、将来、大幅に収益を挙げ
ていくことは極めて難しいとみられている。現在の従業員の平均年齢は24歳であ
り、10年後には家庭を持ち扶養家族が多くなると、給与を含めた待遇の問題が発
生することが予想される。このため、従業員のみならず、対外的にもポークラン
ドの経営のあり方を含めた将来、10年後のビジョンを提示することが求められて
いる。例えば、第3の養豚場建設計画があるのか、また、将来養豚経営を志向す
る従業員に対して、何らかの援助を行う制度を設ける方向があるのか等を提示す
ることが必要となろう。

 一方、ミートランドについても、集荷力の強化と施設整備が大きな課題となっ
ている。ミートランドヘの出荷促進を果たすためには何らかの出荷するメリット
が必要である。その1つは、ポークランドで徹底した衛生管理の下、健康的に育
てられた十和田湖高原ポーク桃豚を、ミートランドにおいてと畜解体、カット加
工処理における衛生水準をさらに高め、安全と鮮度の良さをアピールし、差別化
商品として販売可能となるように努めることである。

 もう1つは、ランニングコストの低減による経営改善を図って解体料金等の改
善につなげる方向をより強める必要がある。現在、処理施設の維持・修理費がか
さみ、ランニングコストアップが経営に影響を及ぼしてきている。このため、稼
働率と作業効率を高めるためにも、保留施設の拡大とともに、と畜解体処理工程
の整備、冷蔵室の保管能力の拡大およびカット肉製造ラインのさらなる施設拡充
整備が必要となっている。こうした大幅な施設整備を一私企業で実施することは、
長期的に金利を含めた借り入れ負担が重くのしかかることは、他の食肉センター
の例でもみられる事柄である。

 さらに、生産者から有利価格での仕入要請を受けていることから、販売面にお
いて、有利価格で販売できる販売先の開拓が必要となる。ただし、現在の取引先
でもある生協・スーパー等小売業界では各店舗間の激しい競争下において有利価
格での販売は困難な状況にある。そこで、環境保全型農業等地域内での取り組み
に理解のある取引ルートの開拓が重要となってこよう。

 このように、集荷対策、施設整備および販売活動の強化を例にとってもミート
ランド、ポークランド、それぞれ単独で実行していくことは極めて厳しい状況に
ある。

 本事例について、これまでみてきた課題に対処するためにはいままで以上に農
協系統による緊密かつ総合的な支援が重要となってこよう。これまでの飼育技術、
飼料の品質と価格、解体処理技術、衛生管理の指導・協力および販売活動の他に、
金融面での支援等も必要となってこよう。

 今回の事例は、取扱量が大規模になればなるほど、個々の大規模養豚場、食肉
センターごとに完結して達成できるものではなく、地域と関係業者が一丸となっ
て生産、加工・流通、販売システムの確立に取り組み、達成してきたことを再確
認すべきである。今後、畜産振興を図るうえでの展開方向を示した好事例である。

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