◎地域便り


大分県肉用牛増頭戦略検討委員会(答申)について

大分県/遠藤 秀紀


 平成12年8月25日、大分県知事の私的諮問機関である大分県肉用牛増頭戦略検
討委員会(以下、「検討委員会」という。)より、肉用牛増頭戦略に係る答申が
なされたので、検討委員会の検討経過および答申の概要について紹介する。

検討委員会の設置

 大分県では、県内各地において豊かな草資源や優秀な遺伝資源を背景とした黒
毛和種「豊後牛」を代表的とする肉用牛経営が営まれており、近年では、第1回
畜産大賞や朝日農業賞の最終回で最優秀賞を受賞するなど、優秀な子牛や品質の
良い枝肉の供給県として銘柄化を図ってきた。しかし、高齢化の進展、長引く不
況、国際化や産地間競争の激化を背景とした将来に対する不安等による畜産経営
の中止が相次ぎ、飼養頭数も8年以降4年連続で減少してきたことから、全国的な
視点で肉用牛振興を検討し、県内でも存在する優良経営を点から線、面へと拡大
させる目的で、11年8月、知事の私的諮問機関として検討委員会が設置され、内
外の農業情勢の専門家である8名の委員が委嘱された。

 座長には菱沼毅氏(当時:家畜改良事業団参与、現:農畜産業振興事業団副理
事長)が選出され、12年8月24日の最終委員会に至るまで、現地実態調査を含む
合計6回の検討委員会が行われた。


検討の経過

 戦略内容の検討を行うに先立ち、統計的なデータの整理と、現地での実態調査
が行われた。まず、「肉用牛の増頭戦略を考える必要性」から検討が開始され、
本県の肉用牛経営をめぐる現状について広汎に意見交換が行われた。

 次に、それを踏まえ、各委員の専門の立場から、増頭を図る上での課題を抽出
し、その解決のために必要なアプローチ手法と、具体的な目標指標の設定、さら
にその実現のために有効な先進事例や、モデルケースの例示を行う、という流れ
で検討が進められた。

 検討の過程では、主に、今後、大分県の肉用牛経営が国際化の進展や、産地間
競争の激化を乗り越え、食料生産はもちろんのこと、地域活性化の核として発展
するための方向性を導き出すため、委員諸氏から厳しい指摘、また、有効な先進
事例が多数提供された。


答申の概要

 答申は、増頭戦略を考える必要性、肉用牛振興を図るための課題と方策、目標
指標、諸資料で構成される報告書の形式をとっており、概要は次のとおり。

1 増頭戦略を考える必要性

 肉用牛経営は、食料供給を支える重要な産業であることはもちろんであるが、
大分県のように中山間地域が多く存在する場合には、高齢化・過疎化の進展に対
する解決方策を考えた場合、土地利用型農業の展開を通じた地域農業の活性化を
図る上で、肉用牛経営が寄与するところが非常に大きい。このため、肉用牛振興
を図るに当たっては、増頭を「肉用牛経営安定化のための戦略」としてとらえる
ばかりでなく、「地域活性化のための戦略」としてとらえることが重要であるこ
とから、畜産関係者のみならず、地方公共団体、農業団体が地域全体の問題とし
て取り組む姿勢が必要である。

2 振興を図る上での課題と解決のためのアプローチ手法

(1)担い手対策

 「生産者」から、経営の主人公である「経営者」への意識改革が最も重要であ
る。はっきりとした経営理念を持ち、主体的に実行する経営者を「小規模」から
「大規模」まで各階層ごとに育成することで、経営の安定化、産業全体の活性化
が図られ、後継者確保にもつながる。これと合わせて、経営の中止を無駄にしな
い継承システムの構築を地域全体で取り組むことにより、畜産資源が失われるこ
とを抑えた活性化が可能となる。
 また、女性、高齢者(畜産シニア)が活躍している地域は、間違いなく地域全
体が活性化している地域であることから、これらの人々の経営意欲や取り組みに
対して支援を行うことがますます重要である。

(2)生産形態の改善

 畜舎・飼養管理方法等の「生産形態」については、これまで以上に低コストで、
より多くの効果を上げる経営体が、全国各地に存在している。パイプハウス畜舎
等さらに低コストな畜舎の活用、運動場等の整備による畜舎の必要性の再検証、
耕作放棄地や育林放棄地、さらに醸造かす等本県でも利用可能な「未利用資源」
の活用等、今後、すぐに取り組みが可能と考えられる事例を提示し、県内での活
用実施を、県内経営の全国レベルへの即時活性化を図ることが重要である。

(3)地域支援体制の充実

 地域全体の活性化は、経営体をとりまく周囲全体を巻き込んだ意識の活性化な
しにはあり得ない。特に、中山間地域では、大規模な経営体ばかりではないこと
から、個人経営での努力には、おのずと限界が生じる。これを相互に補い、高め
合うための生産者組織が非常に重要である。農協など地域に根ざした関係団体や、
市町村などの地方公共団体も、農業全体あるいは地域全体の課題として、積極的
に肉用牛振興に取り組むことが必要不可欠である。

(4)有効性ある施策の推進

 今後の施策推進の舵取り役となる行政、団体のあるべき姿を考えた場合、常に
現状の把握と、費用対効果の視点からの検討を十分に行い、新たな施策の実施に
生かすことが重要である。また、実効性のある施策の構築や、営農指導体制の脆
弱化が叫ばれているなか、施策の立案・推進・実施に当たる全職員の資質向上を
図ることも忘れてはならない。


3 目標指標等

 行政が実施する検討会は、計画だけにとどまることが多いと言われているなか
で、今回の答申における特徴は、検討委員会での議論を、絵に描いたもちや、ス
ローガンに終わらせることなく、実効ある戦略として成果の上がるものとするた
めに、各種の目標指標が設定され、その達成のための優良事例が数多く盛り込ま
れたことにある。

 17年度の県内肉用牛総飼養頭数約8万頭(現在6万4千頭)をはじめ、県内12振
興局ごとに育成を目指す企業的な農家戸数や飼養規模等を設定し、さらにその目
標達成のために必要な経営事例やモデル等を例示している。


今後の取り組み

 県では、検討委員会の答申を柱とした新たな肉用牛振興体制を構築することと
し、13年度予算における肉用牛振興対策の抜本的な見直しを行っているほか、県
内各地域での戦略会議の開催や、規模や意識等の指標によって5段階に分類した
農家グループごとに指導・施策の投入方法を変えるなど、従来の振興体制の見直
しを図っている。

 また、関連機関・団体はもちろんのこと、生産者1戸1戸にも答申の主旨が浸透
し、意識改革が図られるよう啓発活動を実施中であり、生産から消費に至るまで、
これまで以上に関係者が一丸となって、大分県の肉用牛振興に取り組むこととし
ている。

大分県肉用牛増頭戦略検討委員会
 委員一覧(敬称略 現在所属)

座長:菱沼毅   農畜産業振興事業団副理事長
   秋山武久  肉用牛肥育経営(大分県)
   安藤豊作  肉用牛繁殖経営(大分県)
   甲斐諭   九州大学農学部教授
   木村元治  農林水産省畜産局
         自給飼料課草地開発計画推進室長
   左右田保  久住町畜産センター所長(大分県)
   間和輝   株式会社はざま代表取締役社長
   山本文二郎 農政ジャーナリスト
   (座長以外は五十音順)

大分県肉用牛増頭戦略検討委員会の検討経過

平成11年 8月 6日 知事より各氏に検討委員を委嘱
            第1回検討委員会:畜産をめぐる情勢の整理(その1)
     10月16日 現地実態調査(繁殖・肥育経営、関連機関等)
     10月17日 第2回検討委員会:畜産をめぐる情勢の整理(その2)
平成12年 1月17日 第3回検討委員会:畜産をめぐる情報の整理と課題抽出
      3月 6日 第4回検討委員会:課題解決手段の検討(その1)
      5月19日 第5回検討委員会:課題解決手段の検討(その2)
                     目標指標の設定と達成手法の検討
      8月24日 第6回検討委員会:報告書の最終検討、付帯意見の集約
      8月25日 知事に答申

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