◎地域便り


心の安らぎの場としての牧場を目指して

北海道/企画情報部


 「千代田の丘はどこですか」と若い女性に尋ねられて、(有)ファームズ千代
田専務取締役の高橋洋美さん(52)は小高い丘を指さした。8月下旬の上川郡美
瑛町は観光シーズンの真っ盛り。全国に知れ渡った「丘のあるまち」の中でも、
千代田の丘は多くの人々に足を向けさせる名勝地の1つになっている。ファーム
ズ千代田の広さは全体で230ヘクタール。実は千代田の丘も同社の所有地の中に
あり、訪れる観光客に「心安らぐ時間を過ごしてもらおう」と整備されたものだ。

 社長を務める父一雄さん(80)が美瑛町に入植し、肉牛生産を始めたのは終戦
後間もない頃であった。順調に規模を拡大していくが、その間、洋美さんは東京
都清瀬市の肉用牛農場で責任者となるまで経験を積み、美瑛に戻った後の昭和63
年に経営を法人化した。

 現在飼養する牛は合計で6,500頭。F1の素牛が1,800頭、肥育牛が3,000頭、それ
にホルスタインの素牛が1,700頭という構成だ。早くから安全な牛肉の生産をめ
ざし、自家配合飼料での肥育を基本方針としてきた。70ヘクタールのイネ科を中
心とした草地を有するが、これだけでは到底足りず、当然購入飼料も使用してい
る。だがそれらは「身元のはっきりしたものだけ」である。

 牧場に一団の小学生がやってきた。お目当ては「ふれあい牧場」の動物たちだ。
柵越しに馬の親子に触れ、歓声を上げる。鶏小屋では産んだばかりの卵を見つけ
大騒ぎだ。

 「乗馬クラブ」では若者がちょっと緊張気味に手綱を握りしめている。どの表
情も普段の生活ではなかなかでは見られないものであり、これこそが洋美さんが
提供しようとしている「心のやすらぎの場」である。

 観光客が一息つける場所としてレストランも設置されている。経営がどうにも
ならないようなら従業員食堂にでもしようと覚悟の上での開店だったが、予想外
の盛況ぶりである。これも動物たちとの一時を過ごせる牧場として知られている
結果なのだろう。

 洋美さんが今最も意を砕いているのは地域との関わりである。美瑛町でも高齢
のため農業従事を断念せざるを得ない経営者が後を絶たないが、これによって空
いた農地をたい肥づくりに利用しようという構想だ。飼料生産では既に一部実践
されている。

 新たに完熟たい肥を作るとすれば年間で10,000トンに達すると見込まれる。問
題はコストである。専用機械、施設への投資、人件費の増大等で決して楽観はで
きない。だがこれにこだわるのは完熟たい肥を自らも使って耕種部門への経営展
開を考えているからだ。肉牛専業から複合化を図り、「少しでも経営を安定させ
たい」。

 21世紀に向かってファームズ千代田は今もう1つの扉を開こうとしている。
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【乗馬クラブの前に立つ高橋洋美さん】

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