鹿児島県/企画情報部
伊佐郡菱刈町へは鹿児島市から北へ車で1時間強。人口1万の町では1980年代半 ばからちょっとしたゴールドラッシュが始まった。菱刈鉱山は埋蔵金量が約250 トンと日本一を誇り、その品位となると世界一。トン当たり60グラムで、国内金 産出の90%を占める。 そしてキラキラ輝くのは金鉱石ばかりではない。マニアには「ふりそそぐ星の 町」として知られるアマチュア天体観測のメッカでもあり、環境庁実施の全国ス ターウォッチングコンテストでは過去4回日本一に輝いている。 その菱刈町の家畜市場では、黒毛和牛の子牛のセリ市が年間7回開催される。 平成11年度の平均落札価格はおよそ38万円。前年の水準より低落したが、全国的 に知られる鹿児島黒牛の基盤を支えているという自負は一向に衰えず、現在でも 290戸近い繁殖農家が優良子牛の生産に意欲を燃やしている。 さて、子牛といってもセリにかけられる頃にはほぼ300キログラムほどに成長 している。これをトラックに載せ、市場まで運ぶとなると高齢者や婦人には骨の 折れる仕事だ。そんな状況を見るに見かねたのが、中核的な繁殖農家の青年たち。 「町特産の肉用牛生産の振興に寄与しよう」とその手間を買って出た。 それから14年、現在では菱刈町和牛青年部として組織化され、古川定志さん (52)をリーダーに、メンバーは合計で15人。3年度からは飼料用の乾草の生産、 供給にも取り組んでいる。 粗飼料の生産でネックとなるのは専用作業機械の確保だ。個別に所有するので はコストがかさみ、60歳以上の高齢者や婦人中心の繁殖経営では到底望めない。 そこで青年部による機械の共同利用で、これらの農家を対象にイタリアンライグ ラスを供給する。当初5年間は国の補助事業として、さらに8年度からは町単独の 事業として進められており、作付けの行われる転作田および水田裏の期間的借地 については行政が取りまとめ役となっている。 作付けの規模は毎年平均14ヘクタール。昨年10月、イタリアンライグラスのサ クラワセが稲の刈り取り前に播かれた。早生種としているのは青年部メンバー保 有田の刈り取り期と重ならないようにするためである。5月上旬には青年部はも ちろんのこと、その夫人たちで構成する女性部、そして農業共済組合、行政関係 者ら総出で刈り取りが行われ、83戸の高齢経営農家を含む85戸が購入した。 大半の繁殖農家が肉牛と稲作、タバコ、園芸等との複合経営。特に町を貫く川 内川から良質な水が得られる稲作は銘柄米「伊佐米」の産地としての地位を確立 している。米と肉牛、どちらにも活路を拓こうとするのが和牛青年部の活動の目 指すところである。
【刈り取り作業(菱刈町農林課提供)】 |