◎今月の話題


女性が生き生きした畜産経営の推進

社団法人 農村生活総合研究センター 研究員 山下 仁




 





求められる新たな能力発揮

 平成11年の第145回通常国会では「男女共同参画社会基本法」が制定され、
経営や地域への女性の積極的参画とともに、家事、育児、介護等の生活場面への
男性の参画が基本的な課題として求められる社会になった。畜産環境面では、
「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」が制定され、家畜
排せつ物の管理とたい肥の流通・利用の促進が広く農家に求められることとなっ
た。

 畜産経営において女性は、これまでに経営規模の拡大と技術革新に合わせて、
農業労働と生活の両側面で能力を発揮してきたが、今後、さらに、経営パートナ
ーとして、また、環境保全・地域づくりのリーダーとして、新たな能力発揮が期
待されている。


能力発揮のための課題

 社団法人農村生活総合研究センターでは、9年度から11年度の3年間、財団
法人全国競馬・畜産振興会の研究助成により、「女性の能力発揮による畜産経営
確立調査研究事業」に取り組み、畜産経営における農業と生活に対する女性の能
力発揮の現状と実態を調査し、能力発揮の条件と課題について検討を行ったので
紹介する。

@基礎的条件の整備−労働時間と労働報酬の適正化−

 経営規模の拡大等によって経済的水準は高いものの、個人の働き方では、労働
時間の超過や決まった休日の未確保等、ゆとりが少ない実態が明らかになった。

 女性の能力発揮に向けた基礎的条件の整備に関する課題は、経済的にも働き方
にもゆとりある経営の実現である。経済的なゆとりを確保する一方で、男女の総
労働時間の平等化と労働時間の短縮、休日の確保(特に夫婦・家族そろった休日
の確保)が求められる。

A男女共同参画の推進−男性の家事分担、女性の経営参画と役職就任−

 畜産経営における男女共同参画の現状は、資産形成では、女性が本人名義の預
金を持つ場合が多く、やや評価できるものの、家庭生活における役割分担や経営
参画、地域における役職就任は、他の作目の農業経営と同様にあまり進んでいな
い状況が明らかとなった。

 男女共同参画の推進に関する課題は、家庭生活においては家族員(特に男性)
の家事、教育、介護等の生活役割分担を進めていくこと。経営においては、能力
開発に向けた研修機会の増加と家族経営協定の締結および労働状況に合わせた資
産形成を一層推進していくこと。地域においては、女性の積極的な社会参画と組
織運営における発言機会の確保、女性の役職就任を促進していくことである。

B環境保全・地域づくりへの能力発揮

 畜産に携わる女性は、環境対策面でふん尿処理作業を厄介な作業として敬遠し
ている。しかし、地域への配慮として、また今後の経営の重点として衛生対策と
ふん尿処理を位置付けており、畜舎回りの美化に非常に高い意識を持ち実践して
いることが明らかになった。このことは、今後、ますます女性が環境対策面に能
力発揮していく可能性を示唆している。

 また、生産以外の諸活動に対する参加意向は、畜産物の直売や製造・販売にと
どまり、農家レストラン経営や農作業体験受け入れ、農家民宿(ファームステイ)
等のグリーンツーリズムや都市農村交流への積極的な参画意識は現状では少ない。

 環境保全・地域づくりに関する今後の課題は、農業農村の多面的機能の発揮に
向けて、家畜という生物とその環境を維持管理していく畜産経営がいかに参画す
るかであり、女性の能力発揮が大いに期待される。


必要となる家族の理解と協力

 畜産経営において、女性が今後もますます能力発揮していくためには、まず、
何と言っても家族、特にパートナーである夫の支援が不可欠である。現状で女性
の農業と生活を合わせた労働時間が男性の労働時間を超過していることを踏まえ、
家族内での生活に関する役割分担(特に家事分担)を促進することが重要である。
また、経営ビジョンに関する夫婦間、親子間の話し合いを推進することにより、
夫婦あるいは親子そろった休日の実現や女性の資産形成、農業経営と生活経営の
後継世代への適正な移譲を図ることが必要である。

 一方、地域や行政は、畜産経営に携わる女性の話し合いの場づくり、ネットワ
ークづくりを積極的に進める必要がある。その際、経営者感覚を持つ上でも、地
域や業種を越えた集まり等が今後ますます重要となる。さらに、女性の地域での
役職登用やふん尿処理の共同化、ヘルパーの組織化の推進、畜産経営を活用した
地域活性化等が地域に求められる支援課題である。

やました まさし

 昭和61年3月東京工業大学工学部建築学科卒業、平成3年3月同大学院総合理工
学研究科社会開発工学専攻博士後期課程修了、工学博士。2年10月社団法人農村
生活総合研究センター入所、研究員。

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