生産局畜産部牛乳乳製品課 西元 薫
生乳取引については、昭和41年の加工原料乳生産者補給金等暫定措置法の制定 以来、加工原料乳については国が定める基準取引価格により取引が行われ、加工 原料乳以外の用途向けの生乳については乳業者と各都道府県ごとに1つおかれた 指定生乳生産者団体(以下「指定団体」という。)による相対交渉により価格や 数量が決定され取引が行われてきた。 しかし、この価格や数量を決定するための相対交渉については、交渉の過程が 不透明であり、交渉の決着までに多大な労力と時間が必要であること、需給事情 および生産者の経営の実状等が十分に反映されていないこと等の問題点が指摘さ れてきた。 一方、近年、生乳生産の地域的特化の進展、乳業工場の再編の進展、交通網の 整備・輸送技術の発達による生乳流通の広域化に伴い、都府県単位の指定生乳生 産者団体の下では、合理的な乳価形成や集送乳の合理化という機能が十分に発揮 しがたい状況にあることから、平成12年度末までに指定団体の広域化を実現し、 生乳の用途別計画生産、広域需給調整等の効果的な実施を背景に、合理的な乳価 形成等を行っていくこととされた。 また、農政改革大綱の中で、需要に即した国内農業生産の維持・増大を図るた め、農産物の需給事情等が価格に適切に反映されるよう農産物価格政策全般が見 直すこととされ、その一環として、加工原料乳生産者補給金制度についても、需 要の動向に応じた加工原料乳の生産を促進するため、市場評価が生産者手取りに 反映されるよう、安定指標価格、基準取引価格等を廃止し、国があらかじめ行政 価格を設定することなく、取引当事者間で市場実勢を反映した価格形成がなされ る新たな加工原料乳生産者補給金制度に13年度から移行することとされた。 このような生乳取引をめぐる制度の大きな変革の中で、生乳取引における相対 取引のルール化等透明性の高い公正かつ適正な価格形成システムの構築を図るた め、畜産局長の私的諮問機関である「乳製品・加工原料乳制度等検討委員会流通 ・消費部会」に生乳取引に詳しい業界関係者からなる「生乳取引のあり方検討チ ーム」(座長:香川荘一(社)中央畜産会専務理事)が設けられ、11年12月から 検討が開始された。検討は、実務者からなるワーキンググループ会合を含め9回 にわたり行われ、12年11月28日に乳製品・加工原料乳制度等検討委員会制度部会 および流通・消費部会合同会議(座長:甕滋地方競馬全国協会会長)において 「生乳取引のあり方についての考え方」の最終とりまとめがなされた。以下、そ の概要を紹介する。 なお、この検討の前提となる基本的な考え方は、報告書の冒頭にも述べられて いるように、 ・現段階では取引当事者による全く自由な交渉にゆだねるのではなく、何らかの 枠組みを設ける必要があること ・透明性の確保、国民へのアカウンタビリティ(説明責任)を明確にすること ・全国の酪農・乳業関係者の理解と納得の上に、わが国の生産者と乳業者が将来 的に共存共栄を図ること である。
基本的考え方 1 生産者補給金の交付対象となる加工原料乳の取引について、「再生産を確保 することを旨として」という生産者補給金単価の規定ぶりを踏まえ、取引当事 者による全く自由な交渉にゆだねるのではなく、何らかの枠組みを設けること について生産者と乳業者による合意形成を図るべきである。 2 生乳取引における加工向け取引と飲用向け取引との区別を明確にするため、 飲用向け生乳および加工原料乳について、それぞれの特性を踏まえ区別を明確 にするルールを設けるべきである。 3 生乳取引全体について、客観的な需給状況を的確に反映した価格形成が行わ れるという観点からの透明性の確保、取引内容についての国民へのアカウンタ ビリティ(説明責任)を明確にすべきである。 なお、その検討に当たっては、生乳および牛乳・乳製品の市場動向に留意しつ つ、わが国の生産者と乳業者が将来的にいかにして共存共栄を垂ていくかとの共 通の視点が必要である。そのためにも、生乳取引の改善方向について、全国の酪 農・乳業関係者の理解と納得が得られ、その実現に向けて一体となった取り組み がなされるよう配慮しながら具体化を図っていくことが重要である。 生乳取引の方法 相対取引については、生産者および乳業者双方にとっての生乳需給・価格の安 定の確保、生乳生産の安定的拡大、酪農経営の安定等の観点からは、入札取引よ りも優れている。従って、生乳取引の基本は相対取引としつつ、相対取引当事者 の意思決定に影響を及ぼす要素(需給事情、価格等)をできるだけ客観化し、公 表すること等により、国民の誰もが同じ情報と認識を持てるようにするなど、透 明性についてできるだけの改善を行っていくことが適当と判断される。 生乳取引への入札の導入の検討 生乳取引の一部について、相対取引を補完するとの観点または相対取引が有効 に機能しない場合の代替手法を整備するという観点からは、入札導入の意義も否 定しえない。従って、入札については加工原料乳の一部についての試行を念頭に おいて、入札導入の必要性、その具体的な手法等について関係者間で合意を得る べく引き続き「生乳需給・価格情報協議会(仮称)」(後出)において検討する こととする。 生乳の相対取引に当たっての基本的なルール わが国における生乳取引の実態等を踏まえれば、その改善方向としては、相対 取引を基本としつつ、可能な限り透明性についての見直しを行い、早急に実施し ていくことが現実的であり、また、広範な関係者の賛同の下に改善効果も期待で きるものと考えられる。 このような観点から、生乳の相対取引に当たっては、次のような基本的なルー ルについて、あらかじめ取引当事者間で合意しておくことが必要である。 1 取引交渉の時期 新制度下においては、国による補給金単価の決定時期が前年度秋に変更された ことを踏まえ、指定団体および全国連と乳業者は、12月から交渉を開始し、遅く とも3月末日までに取引契約の文書による更新を完了する。 2 取引契約の存続期間 生乳取引契約の存続期間は、生乳価格の迅速な決定が可能となるまで、当分の 間、現行の1年とするが、生乳の季節別需給動向を反映した価格形成を推進する 観点から、半年または四半期ごとの契約および季節別乳価の設定について検討す る。 3 用途別生乳取引の推進 用途別については、酪農・乳業関連施策の方向性を踏まえ、飲用向け、はっ酵 乳等向け、生クリーム等向け、加工向け、チーズ向け(ソフト、ハード)等のう ち、いずれの用途で取引を行うか当事者間で決定し、用途別処理の実績と一致し た用途別取引を実現する。これに伴い、従来のいわゆる飲用向けのうち、飲用、 飲用その他等の複数の用途設定は廃止し、飲用向けとして一本化する。 4 取引価格の決定方法 取引当事者は、「生乳需給・価格情報協議会(仮称)」が収集・公表する生乳 および牛乳・乳製品の需給・価格動向等を参考に、生乳の用途別に取引価格を決 定する。 5 取引数量の決定方法 指定団体および全国連と乳業者は、乳業者ごとの前年度の配乳量・シェア、乳 業工場ごとの用途別生乳需要、稼働率等を勘案してあらかじめ指定団体が作成し た用途別販売計画に基づき、取引数量を決定する。 6 生乳取引に係る付帯経費 生乳の集送乳経費、生乳の検査に要する経費、余乳の処理経費等が最小限にな るよう取引当事者間で協議・調整する。 「生乳需給・価格情報協議会(仮称)」の設置および業務内容 1 業務内容および位置付け 生乳の相対取引に当たっての基本的なルールに沿って生乳取引を推進するため、 生産者団体および乳業者団体は共同して、両団体の代表者、学識経験者等で構成 する「生乳需給・価格情報協議会(仮称)」(以下「協議会」という。)を創設 する。 協議会は、 1 新たな生乳取引の基本的なルールにおいて残された課題の検討 2 生乳および牛乳・乳製品の需給・価格動向の情報発信 3 生産者・乳業者による的確な全国の生乳需給計画等の策定および余乳処理 体制の整備についての検討 4 生乳取引についての国民全体への情報発信等の業務を行う。 2 運営体制ならびに国および農畜産業振興事業団の支援 協議会に生乳および牛乳・乳製品の需給・価格に関する情報の検討等を行う委 員会等を置くとともに、運営事務局を常設する。 また、国および農畜産業振興事業団は、協議会の円滑な運営を図るため、生乳 および牛乳・乳製品の取引に係る公正かつ客観的なデータの調査・公表を行うと ともに、協議会において必要な助言等を行う。 3 平成13年度の加工原料乳取引 加工原料乳については、13年度から基準取引価格が廃止されることから、加工 原料乳の取引についての基本的なルールを早急に具体化し、13年度の取引から実 行に移す必要がある。 的確な需給計画等 1 生産者・乳業者による的確な生乳需給計画等の策定 公正・適正かつ迅速な相対取引価格を実現するためには、生産者団体および乳 業者団体が牛乳・乳製品および生乳の需要予測ならびに生乳供給計画数量の策定 作業を共同で行い、取引交渉に当たって一定程度の変動を前提に生乳需給につい て共通認識を持つことが必要である。 (1)生乳需要予測、生乳供給計画等の設定 ア 協議会は、牛乳・乳製品の品目別および生乳全体の需要予測数量の設定・公 表ならびに乳製品の需給動向、調整保管、輸入乳製品の放出等に関する意見交 換、提言等を行う。 イ 生産者団体は、生乳全体の需要予測数量を基本に、全国の生乳供給計画数量 を用途別に設定・公表する。 (2)指定団体別生乳出荷計画等の設定 生産者団体内に設置する「生乳需給調整対策委員会(仮称)」において、全国 の生乳供給計画数量(用途別)を基に、酪農家ごとの生産量の積上げ数量および 指定団体ごとの生乳受託販売見込み数量を勘案の上、指定団体別に出荷計画総量 を設定する。また、これと併せ、あらかじめ指定団体が調査した乳業者別の取引 計画数量の積上げを基に、用途別の生乳供給計画数量と調整の上、指定団体別用 途別出荷計画数量を設定する。 2 全国レベルでの広域需給調整の実施 (1)全国連は、広域需給調整計画を基本に、余乳の発生動向も踏まえ、指定団 体および乳業者と調整しつつ、計画的かつ的確な広域需給調整を実施する。 (2)指定団体、全国連および乳業者は、相互に調整・協力の上、需給調整施設 (余乳処理施設)の計画的な再編・整備を実施する。 (3)なお、このような全国レベルでの生乳の広域需給調整を的確に実施するた めには、全国における日々の配乳状況について同日のうちに速やかに把握で きる体制の確立およびシステムの整備が必要であり、これについて協議会で 検討する。 生乳取引についての情報の公開等 1 国および農畜産業振興事業団は、取引当事者双方で生乳取引の参考とすると ともに、国民全体が共有し得る公正かつ客観的なデータの調査・公表を実施す る。 2 都道府県は、指定団体における用途別取引の公正性・適正性を確保するため、 乳業者の協力の下に、生乳の用途別取引価格・数量の確認を行う。 3 協議会は、指定団体、全国連および乳業者による生乳取引の参考に資するた め、生乳および牛乳・乳製品の需給・価格に関する情報の収集・公表を行うと ともに、牛乳・乳製品の販売業者、消費者をはじめとする国民全体への情報発 信を行う。 4 指定団体は、乳業者との間で決定された用途別の取引価格・数量等の取引契 約の概要について、速やかに生産者に公表する。
本報告においてその設置が述べられている「生乳需給・価格情報協議会(仮称)」 の準備会事務局が12年11月より活動を開始し、主な生産者、乳業者で構成される 準備会委員会も12月下旬に初会合がもたれたところである。「生乳需給・価格情 報協議会(仮称)」の本格的な活動は、13年度以降を待たなければならないが、 1月末より本格的に開始される平成13年度乳価交渉は、新制度下における最初の、 また、広域指定生乳生産者団体が出そろって初めての乳価交渉となるものであり、 「生乳需給・価格情報協議会(仮称)」準備会がどのような形での支援ができる のか、見守っていただきたい。 「生乳需給・価格情報協議会(仮称)」の活動により、今後の生乳取引の安定 が図られ、わが国の生産者と乳業者の共存共栄が図られることを期待する。
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