生産局畜産部衛生課 杉浦 勝明
BSE問題再燃の発端は、フランスで、平成12年10月下旬、BSE感染の疑いがある 牛から生産された牛肉が大手スーパーマーケットで販売されたことが明らかとな ったことである。このため、レストランでの骨付き牛肉の販売自粛などの措置が とられたが、牛肉の安全性に対する消費者の不安が急速に広まった。12年には、 2月にデンマークで初めて自国産牛のBSEの発生が報告されたほか、11月にはスペ インおよびドイツでも初めて自国産牛で発生が確認され、EU特別農相理事会では 13年1月から6カ月間、すべての家畜に対する動物性飼料の使用の禁止を決定した。 わが国ではBSEの発生は報告されておらず、侵入防止のため厳しい検疫措置を 講じてきたが、今般、これらの動きを踏まえ、BSEの侵入・発生防止になお一層 の万全を期するためにいくつかの追加的措置を講じたので、以下、経緯等を解説 する。
EUでは平成i8(1996)年3月、英国政府諮問機関がBSEとクロイツフェルト・ヤ コブ病の仮説的な関連性の可能性を公表したことを契機に、消費者の牛肉の安全 性に対する関心が増大し、牛肉その他の牛製品を、英国から他のEU諸国向けおよ び第3国向けて輸出することが禁止されたほか、英国において種々の追加的な家 畜衛生および公衆衛生上の対策が講じられた。 家畜衛生上の措置としては、まず、反すう動物由来のたんぱく質の反すう動物 への使用は昭和63(1988)年7月に既に禁止されていたが、その徹底を期するた め、平成i8(1996)年3月、哺乳動物の肉骨粉飼料の販売・供給の禁止、すべての 家畜・魚類への肉骨粉飼料の給与の禁止が実施された。また4月に哺乳動物の肉 骨粉を肥料として使用することが禁止され、さらに8月には哺乳動物の肉骨粉の 農場での保有が禁止された。 公衆衛生上の措置としては、6カ月齢を超える牛の特定牛臓器(SBO)の食用 への使用は既に元(1989)年11月以降禁止されていたが、8年3月に牛の頭部全体 が特定牛物質(SBM)に追加されたほか、10(1988)年1月には対象畜種が拡大 され、牛だけでなく、めん山羊の特定リスク物質(SRM)の食用、飼料用および 肥料用の使用が禁止された。 このような措置の実施により、英国におけるBSEの発生が引き続き減少すると ともに、消費者の信頼が回復に向かったこともあり、10年11月、EU農相理事会 は、肉骨粉飼料の使用禁止措置が順守されること、8年8月1日以降生まれた牛で BSEの患畜の産子がすべて殺処分されることおよび牛追跡システムが完備される ことを前提に、8年8月1日以降生まれた牛から生産された牛肉の輸出解禁を認め ることを決定し、11年8月に実施された。そして12年、フランスを発端にBSE問題 は再燃したのである。
検疫措置 わが国は、BSEの侵入防止のため、2(1990)年7月に英国からの生きた牛の輸 入を禁止して以降、種々の検疫措置を講じてきた。 フランス、スイス等、英国以外の発生国からも最初の発生が確認された時点で、 生きた牛の輸入を禁止してきたほか、牛の精液および受精卵については、10年3 月に英国から輸入を禁止するとともに、BSE低発生国からは供与牛がBSE感染牛で ないこと等の一定の条件を満たしたもののみ輸入を認めてきた。 英国(グレート・ブリテン)からの牛肉加工品については、8年3月以降輸入禁 止している(牛肉、牛臓器については、口蹄疫の関係で昭和26年から輸入禁止と なっていた)。北アイルランドからの牛肉、牛臓器および牛肉加工品についても、 8年3月以降輸入を禁止した。その他のBSE発生国からの牛肉および牛肉加工品に ついては、BSEの発生農場由来の牛から生産されたものでないこと、危険部位を 取り除くこと等を条件に輸入を認めてきた。 英国(グレート・ブリテンおよび北アイルランド)からの反すう動物由来の肉 骨粉については、2年7月から国際獣疫事務局(OIE)が定める基準(133℃、20分、 3気圧以上)に準じた基準で加熱処理されたもののみ輸入を認めてきたが8年3月 以降輸入を禁止し、その他の発生国からの反すう動物由来の肉骨粉については、 同様の基準で加熱処理されたもののみ輸入を認めてきた。 飼料に関する規制 英国におけるBSEの発生原因は反すう動物由来の肉骨粉の摂取と考えられたこ とから、わが国においても8年4月に農林水産省畜産局流通飼料課長から飼料関係 団体に対し、@反すう動物の組織を用いた飼料原料(肉骨粉等)については、反 すう動物に給与しないこと、A英国産反すう動物を原料とした飼料およびペット フードの輸入を行わないことを指導している。 国内におけるBSEの監視状況 8年4月にBSEを含む伝染性海綿状脳症を家畜伝染病予防法の規定に基づく政令 により、同法に基づくまん延防止措置の対象とし、i9(1997)年4月に同法を一 部改正し法定伝染病とした。8年4月以降、家畜保健衛生所に病性鑑定のため搬入 された反すう家畜についての病理組織学的検査が行われている。以降12(2000) 年3月までに、483頭の反すう家畜について病理組織学的検査が行われたが、BSE を疑う異常は認められていない。 また、家畜共済(加入率(10年):乳用牛100%、肉用牛等64%)による神経 系の疾病による牛の死廃事故頭数も、ほぼ横ばいで推移しており、BSEの流行を 示す兆候は認められていない。
EUの動き等を踏まえ、わが国としても、これまで講じてきた侵入防止措置およ び発生予防措置が十分であるか否かを技術的な観点から検討するため、12年12月、 6名の学識経験者等からなる「牛海綿状脳症に関する技術検討会」(座長:小野 寺 節 東京大学農学生命科学研究科 教授)を設置し、検討・助言をいただい た。 第1回技術検討会(12月13日) わが国が講じてきた肉骨粉等に対する措置、国内の監視措置、国内の飼料の使 用規制について、BSEの侵入防止措置、発生防止措置として十分か否か、技術的 な観点から意見交換が行われた。その結果、わが国が講じてきた措置は、BSEの 侵入防止策として十分に有効であるが、EU特別農相理事会の決定など最近の動き を重視し、侵入防止のなお一層の万全を期するため、EU諸国等(EU加盟国、ス イスおよびリヒテンシュタイン)からの肉骨粉等の輸入を全面的に禁止すべきと の意見がまとめられた。また、国内におけるBSEの発生防止・監視については、 BSEの清浄性を確認するため、今後とも引き続き本病監視のためのサーベイラン スを実施すべきであり、飼料の規制についても、肉骨粉を反すう動物の飼料とし て使用しないとの8年の行政指導について再度注意喚起を行ったらどうかとの助 言がなされた。 第2回技術検討会(12月21日) 牛肉等に対するBSEの侵入防止措置、動物薬事上の侵入防止措置について、意 見交換が行われた。その結果、@牛肉、牛臓器およびこれらの加工品に対するB SEの侵入防止措置については、わが国が講じてきた措置は、BSEの侵入防止策と して十分に有効であるが、最近のEUにおけるBSEの発生状況等を踏まえ、侵入防 止のなお一層の万全を期するため、EU諸国等からの牛肉、牛臓器およびこれらの 加工品の輸入を全面的に禁止すべきである、AEU諸国等からの牛精液、牛受精卵 および牛卵子についても、同様の理由により、全面的に禁止すべきである、B動 物用医薬品等の原料としての反すう動物由来の物質の使用規制については、英国 産反すう動物由来の物質を動物用医薬品等の製造原料として使用しない等の現在 の指導は、動物用医薬品等を介したBSEの発生防止に十分に有効であるが、発生 防止のなお一層の万全を期すため、英国以外のEU諸国等産の反すう動物由来の物 質を動物用医薬品等および飼料添加物の原料として使用しないよう徹底すべきで ある−との意見がまとめられた。
これらの意見を踏まえ、農林水産省として、BSEの侵入防止・発生防止のなお 一層の万全を期するため、いくつかの追加的な措置を講じた。 12月21日付け ・EU諸国等からの肉骨粉等の輸入停止 13年1月1日以降EU諸国等(EU加盟15カ国ならびにスイスおよリヒテン シュタイン)から船積みされる動物性加工たんぱく(肉骨粉、肉粉、骨粉、血粉 等およびこれら含有したものであって飼料となる可能性があるもの)のわが国へ の輸入を停止することとし、その旨関係国、動物検疫所等に通知した。 ・国内における清浄性監視 8年以降実施してきたBSEの清浄性監視を診療獣医師等とも連携しつつ引き続 き実施するよう都道府県に通知した。 ・反すう動物由来の飼料原料の使用規制 反すう動物の組織を用いた飼料原料を反すう動物用の飼料として使わないよう、 上記の輸入停止対象の動物性加工たんぱくを含む飼料およびペットフードの製造、 輸入、販売等を行わないよう再度指導を行った。 12月22日付け ・EU諸国等からの牛肉、牛臓器およびこれらの加工品の輸入停止 13年1月1日以降EU諸国等から船積みされる牛肉等(牛肉、牛臓器(ケーシ ングを含む)、加熱処理牛肉、加熱処理牛臓器、牛肉・牛臓器を原料とする加工 品)のわが国への輸入を停止することとし、その旨関係国、動物検疫所等に通知 した。 ・EU諸国等からの牛精液、牛受精卵及び牛未受精卵の輸入停止 13年1月1日以降EU諸国等から船積みされる牛精液、牛受精卵および牛未受精卵 のわが国への輸入を停止することとし、その旨関係国、動物検疫所等に通知した。 ・動物用医薬品等の原料としての反すう動物由来の物質の使用制限 EU諸国等産の反すう動物由来の物質を動物用医薬品等および飼料添加物の原料 として使用中止措置を講じるとともに、反すう動物由来物質を製造原料として使 用している動物用医薬品等および飼料添加物について、製造原料の製造元、使用 部位等の製造業者等による自主的な点検を進め、原料調達先を切り替える等の必 要な措置を徹底するよう、動物用医薬品等のメーカーに通知した。
北米、オセアニア諸国等のBSE清浄国においては、本病の侵入防止、公衆衛生 の観点から種々の措置が講じられている。豪州及びニュージーランドは、今般の EUの動きを踏まえ追加的な措置を講じた。 米国 米国は、昭和63年に英国からのすべての反すう動物の輸入を禁止し、平成元年 にその他の発生国からの生きた牛の輸入を禁止した。その後3年にBSE発生国から の反すう動物由来の食肉および加工品の輸入を禁止した。さらに、9年12月以降、 家畜衛生および公衆衛生の観点から、徹底的なBSEに関する危険度評価がなされ るまで、EU諸国を含む欧州全体からの反すう動物およびその食肉の輸入を禁止し ている。今般のEUの動きに対応した追加的な措置は講じていない。 カナダ カナダは、2年以降英国からの生きた牛の輸入を禁止している。英国からの牛 肉その他牛製品については、カナダ向け指定工場がないことから以前から事実上 輸入禁止となっている。10年4月以降、世界をBSE清浄国と非清浄国に分け、英国 以外の非清浄国からの牛肉および牛肉加工品については機械を用いて分離解体さ れた肉でないこと、反すう動物由来の肉骨粉の給与の禁止措置が実施された後生 まれた牛由来であること、特定危険部位を含まないこと等の条件を満たしたもの のみ輸入を認めている。今般のEUの動きに対応した追加的な措置は講じていない。 豪州およびニュージーランド 豪州およびニュージーランドは、8年3月以降、英国からの牛肉その他の牛製品 の輸入を禁止し、11年3月以降、その他のBSE発生国からも、反すう動物由来の肉 骨粉の給与が禁止されていること、特定危険部位が除去されていること等の条件 を満たしているもののみ輸入を認めていたが、今回のEUの状況を踏まえ、13年 1月8日から英国以外の欧州諸国からの牛肉その他の牛製品についても輸入禁止 とした。
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