◎専門調査レポート


北海道におけるSPF豚生産と販売の取り組み

帯広畜産大学 助教授 金山 紀久

 

 

 


はじめに

 わが国の肉豚生産は、平成2年頃までは、飼養戸数は減少しつつも1戸当たりの
飼養規模は拡大し、飼養頭数は増加傾向を示していた。しかし、2年以降、飼養
戸数の減少とともに飼養頭数も減少傾向に転じている。これは、昭和60年頃より
豚肉の輸入が増加し、国内生産の減少にもかかわらず、国内の豚肉の価格が、傾
向的に低下するという現状を反映したものといえよう(図1)。今後、わが国の
豚肉生産を維持・発展させていくためには、今日の国内の厳しい肉豚生産環境を
踏まえ、輸入豚肉との競争に対応できる養豚経営の育成が求められている。

 輸入豚肉に対する対応の方向として考えられるのは、1つは生産性向上の方向
であり、いま1つは高品質の差別化の方向である。最近の動きとして、製品差別
化の1つの対応としてバークシャー純粋種である黒豚の生産が、生産性向上の1
つの対応としてSPF豚の生産が挙げられる(SPFとはSpecific Pathogen 
Free の略であり、SPF豚とは特定の病原体が存在しない豚の呼称である)。

 ここでは、肉豚の生産性を高めると考えられるSPF豚を取り上げ、ホクレンが
中心となって展開してきた北海道のSPF豚生産の事例についてレポートしてみた
い。なお、SPF豚は特定の病原体が存在しない豚のことであるが、現在のところ、
特定の病原体とは何かが必ずしも公的に定められているわけではない。つまり、
SPF豚は、食肉小売品質基準に規定されている黒豚のように品種で特定できるも
のではなく、同じSPF豚と呼ばれる豚でも、種々のSPF豚が存在しているのが現状
である。そのため、ここでは、わが国においてSPF豚農場の認定制度を確立して
いる日本SPF豚協会の基準に基づき、SPF豚をとらえていくことにしたい。

◇図1:豚肉の生産量、卸売価格、輸入量の推移◇


北海道の養豚

 北海道の養豚経営は、全国の傾向と同様で、飼養戸数と飼養頭数ともにこれま
で減少傾向にあったが、飼養頭数については、9年以降ほぼ横ばいで推移し、11
年で飼養戸数610戸、飼養頭数549,200頭となっている。また、1戸当たり平均の
飼養頭数規模は、11年で全国が790頭、北海道で900頭と、全国平均と比べて大き
くなっている。8年頃までは、全国的に飼養規模の拡大が進んだことにより北海
道と全国の1戸当たり飼養頭数の差は小さくなってきたが、9年以降また大きくな
る傾向にある。

 北海道における養豚経営の地域的展開を見ると、畜産の中心をなしている酪農
経営とは明らかに異なっている。酪農経営は道東、道北を中心に展開しているの
に対して、養豚経営は、網走支庁を例外として、道央、道南を中心に展開してい
る(図2)。このように酪農と養豚で地域的展開に違いが見られるのは、北海道
では酪農が土地利用型の畜産であるのに対して、養豚は必ずしも土地利用型では
ないことによる。このことは、北海道の養豚が都府県と比べて、必ずしも有利な
立地条件にあるとは言えないことを意味している。事実、わが国において、酪農
では北海道が中心的な役割を担っているのに対して、養豚では、飼養戸数と飼養
頭数で、鹿児島県、宮崎県、茨城県、群馬県に及ばない状況となっている。した
がって、北海道の養豚経営では、酪農とは異なり、都府県と同様な条件の下で、
競争力のある経営展開を図っていかなくてはならないのである。

◇図2:北海道支庁別の肉用牛、乳用牛、豚の飼養農家数割合(平成11年)◇

 北海道の豚肉生産が、都府県と比べて優位にない状況を示す数字として、豚枝
肉格付実績がある(表1)。北海道と全国とを比較すると、格付率ではほとんど
差がないが、等級別割合においては、極上および上が全国と比べて常に低く、並
と等外が常に高くなっている。したがって、北海道の豚肉生産では、なお品質向
上の努力の余地が残されていると言える。

表1 豚枝肉格付実績の推移
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 資料:(社)日本食肉格付協会調べ


SPF豚

SPF養豚システムの歴史的経過

 SPF豚の生産システムは、米国ネブラスカ州立大学のG.A.ヤング教授の研究か
ら、マイコプラズマ肺炎と萎縮性鼻炎に汚染されている農場の豚の発育が1カ月
近く遅れることが明らかになったことから、これらの疾病にかかることを防ぐ対
策として同ヤング教授によって昭和27(1952)年に考案された。この生産システ
ムは、正常な豚の子宮内には、特定の病原菌がいないことから、開腹手術により
その子豚を無菌的に取り出し、母豚の初乳を与えずに育て、これを自然繁殖によ
って増殖しながら一般の豚と隔離して飼育することを基本としいる。わが国には、
信藤謙蔵博士によって37年に紹介され、43年にSPF豚生産が始まっている。しか
し、わが国においてSPF養豚技術が確立するには、なお30年近い地道な努力とさ
まざまな試行錯誤の繰り返しが必要であった。わが国では、SPF豚農場の認定制
度を確立している任意団体として日本SPF豚協会がある。日本SPF豚協会は、SPF
豚の技術開発と統一、健全な普及を目的として44年に設立された。その後、同協
会は、SPF豚農場の増加と消費者の関心の高まりを背景として、SPF豚農場の基準
を定める必要性が認識されたことから、SPF豚農場認定制度を平成6年に発足させ
ている。正会員は、協会の目的と活動に賛同する個人、組合、企業で、すべてS
PF豚を飼育しており、11年3月現在160会員である。


SPF養豚農場と飼養頭数

 日本SPF豚協会の認定農場数と飼養母豚頭数を見ると、北海道では、数は少な
いものの着実に増加してきている(表2)。一方、都府県では、東北を除いて、
停滞傾向にあることこら、全国的に見ると、飼養母豚頭数では増加傾向にあるも
のの、認定農場数では11年には対前年比100%を割っている。

表2 日本SPF豚協会認定農場数および飼養母豚数の推移
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 資料:日本SPF豚協会調べ


SPF養豚システムの概要

 わが国では、現在なお、SPF豚の公的認定基準が定まっていないことから、厳
密なSPF養豚システムを定義できない。そこで、認定制度を確立している日本S
PF豚協会の定めた基準に従って、SPF豚の生産システムを概観する。

 日本SPF豚協会によるSPF豚とは、トキソプラズマ感染症、豚赤痢、オーエスキ
ー病、マイコプラズマ肺炎、萎縮性鼻炎の5つの疾病にかからないように、原種
豚生産農場から肉豚生産農場まで、日本SPF豚協会が定めた基準に基づいた飼育
コントロールによって生産された豚をいう。

 SPF豚の生産は、3つの段階の農場からなる。第1段階は原々種農場(核農場、
GGP農場)と呼ばれ、開腹手術により作出した子豚(プライマリーSPF豚)を導
入し、数世代かけて改良を行い、併せて、非病原微生物に馴化させて優良系統を
作出する農場である。第2段階の農場(増殖農場、GP農場)は肉豚生産用の種豚
を生産する原種豚農場で、第3段階は原種豚農場より種豚を導入して肉豚を生産
するコマーシャル農場(CM農場)である。3段階からなるSPF豚の生産農場全体
を生産ピラミッドと呼んでいる。

 SPF豚を生産するためには、生産ピラミッドが一体となり、外部からの病気の
持ち込みを防止しなければならない。日本SPF豚協会では、各農場に共通する次
のような防疫コントロールのための基本を定めている。@農場はフェンス等で外
部から遮断し、部外者の立ち入りや場外車両の乗り入れを禁止する。A豚の導入
は定められたピラミッドの種豚生産農場からのみとし、他からは導入しない。B
飼養管理者はシャワーで体を清め、専用衣服を着用し、管理作業を行う。C農場
内に持ち込む物品は消毒を行う。飼養には、SPF豚専用飼料を使用する。D飼養
管理者は、他の農場やと畜場、食肉加工施設に出入りしない。・各農場は、飼養
豚の定期的健康診断結果と生産成績および薬剤使用量などを毎年日本SPF豚協会
に報告し、協会の認定審査を受ける。

 以上の防疫コントロールの基本に基づいてSPF豚農場の認定規則が定められ、
SPF豚農場認定制度が形作られている。コマーシャル農場の検査は毎年1回以上実
施され、認定基準に適合すると日本SPF豚協会の認定証が発行される。有効期間
は1年であるが、認定証の有効期間内であっても認定基準を逸脱する場合は、認
定が取り消される厳しい規則の運用となっている。また、認定農場で生産された
豚肉には、日本SPF豚協会が認定した農場で生産された豚肉であることを示すシ
ールが発行されている(図3)。
◇図3 日本SPF豚協会認定農場産の
豚肉であることを示すシール◇

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ホクレンのSPF豚生産の推進

 ホクレンのSPF豚生産への対応は、ホクレン独自の系統豚の組合わせによって
作出した種豚を供給するハイコープ豚生産事業が基本となっている。この生産事
業で、ホクレンは、「ハマナスW1」(大ヨークシャ種)、「ゼンノーL01」(ラ
ンドレース種)および「サクラ201」(デュロック種)の3つの系統豚を採用して
いる。

 「ハマナスW1」は、道立畜産試験場滝川試験地(旧、滝川畜産試験場)で造成
され、ホクレン滝川スワイン・ステーションで維持、増殖されている。

 「ゼンノーLO1」と「サクラ201」は、全農東日本原種豚場で維持、増殖されて
いる。

 ホクレンは、これら3系統を用いて、F1(WL)雌種とデュロック雄豚を生産し、
CM農場に供給している。このハイコープ種豚はコンベンショナル農場(SPF豚
農場以外の一般の養豚農場)へも供給されるが、ホクレンが供給するSPF種豚は
すべてこのハイコープ豚である。 

 北海道でSPF養豚農場が初めてオープンしたのは、昭和47年の羽幌町において
であるが、当時はまだSPF豚の生産技術が確立していなかった。その後、SPF養豚
技術の確立とともに、北海道においても日本SPF豚協会が認定する農場が増加し、
現在では10農場を数える。中でも滝川スワイン・ステーションは、ホクレンの
SPF豚生産事業を担う中核農場である。このステーションは、SPF豚生産ピラミッ
ドのGGP農場、GP農場であり、加えてCM実証農場である。平成2年に設置された
が、建設に当たっては、2年度広域畜産総合対策事業豚改良施設整備事業による
補助を受けている。施設は大きくSPF規制区、SPF準規制区、その他敷地の3つに
分けられ、適切な管理の下でSPF豚生産が行なわれている(図4)。なお、プライ
マリーSPF子豚の作出は、北海道立畜産試験場において行っている。
◇図4 ホクレン滝川スワイン・ステーションの配置図◇

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 SPF豚生産を実現する方法として、すべての施設を新しく建設する「新設型」、
既存の豚舎を利用する「既存豚舎利用型」、新設と既存豚舎利用を併用する「混
合型」の3つがある。日本SPF豚協会の認定を受けている北海道の農場のうち、
「新設型」は7農場、「既存豚舎利用型」は1農場、「混合型」は2農場となって
おり、「新設型」が大半を占めている。「新設型」では、母豚100頭規模で約
1億円強の建設費用がかかるが、畜舎建設関連の補助事業の適用を受けると5千
万円程度の投資となる。「既存豚舎利用型」は既存の豚舎を利用することから、
施設の建設費は「新設型」ほどはかからないものの、施設の改築と消毒を行うと
ともに、それまで飼養していた豚をすべて処分する必要がある。さらに、SPF豚
生産を始めるためには2カ月間空舎にして、生産を行うことができないため、逸
失利益が生じることも念頭に置かなければならない。旧滝川畜産試験場の研究報
告によると、母豚40頭規模の養豚農家が「既存豚舎利用型」によってSPF豚生産
農場に一括転換するための経費は、消毒剤、労働費、施設費、逸失利益の合計金
額で450万円弱と計算されている。

 ホクレンのハイコープ豚の生産頭数は、11年度で約8万7,000頭で、うちSPF豚は
約3万7,000頭であった。また、北海道の肉豚生産頭数が約97万1,000頭で、うちホ
クレン集荷頭数は約31万1,000頭であった。このように、ホクレンの集荷頭数も北
海道全体の肉豚生産頭数の約3割程度であり、さらにホクレンのSPF豚生産はホク
レン集荷頭数の10%程度であることから、SPF豚生産はまだまだ少ないのが現状
である。ホクレンとしては、平成18(2006)年までに10万頭まで増加させたい考
えである。

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ゲズント農場でのSPF豚生産

 北海道におけるSPF豚のコマーシャル農場の事例としてゲズント農場を取り上
げる。

 ゲズント農場は胆振支庁管内の豊浦町に立地する有限会社で、社長は勝木豊氏
である。10年に法人化し、同年にSPF豚のコマーシャル農場を立ち上げている。
農場の名称であるゲズントはドイツ語でヘルシーを意味している。勝木氏は、そ
れまでにも40年間コンベンショナル養豚を営んできた。当初は畑作との複合経営
で少頭数の飼養であったが、コンベンショナル養豚を中止する9年には母豚110頭
まで規模を拡大していた。SPF養豚に経営を転換した動機は、疾病が多く生産性
が低いという問題があったこと、そして、後継者の息子さんがSPF養豚について
勉強し、SPF豚の生産に強い意欲を示したことであった。転換には、500頭規模で
約7億円の総事業費を要したが、そのうち建設費用の2分の1の補助を受けている。

 図5にゲズント農場の簡単な配置図を示した。豚舎はすべてウィンドレスであ
る。農場の敷地内に人が入るとブザーでそれを知らせる装置がある。また、敷地
の入口近くには専用の長靴が準備されており、そこで靴を履き替えなければなら
ない。また、車両洗浄施設もある。さらに、事務所へは入浴をしてから入る構造
になっており、入浴後は管理作業専用の衣服に着替える。事務所内に持ち込む物
についても殺菌室で一度殺菌してから持ち込まなければならない。これらのこと
から、いかに厳しい防疫システムのもとでSPF豚の生産が行なわれているかを知
ることができよう。

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【ゲズント農場の入口】
 現在、労働力は、社長夫婦、副社長である息子さん夫婦、専務1名、従業員1名
の計6名体制である。飼養管理に当たっては役割を分担しており、息子さんは繁
殖舎と子豚の管理を中心に全体の管理、社長の奥さんとお嫁さんは分娩と子豚の
管理、専務は肥育舎と出荷の管理、従業員は肥育舎の管理を担当している。毎朝
7時50分から8時15分までミーティングを行ない、十分な情報交換とそれぞれの役
割の連携を図っている。さらに月に1回、全農とホクレンの関係者との検討会を
実施し、問題点の改善に努力している。なお、労働生産性を高めるためにも、週
に1回は、木金土のいずれかの曜日で休みを取れるようにしている。

 SPF豚の飼養管理では、コンベンショナル農場と比べて、防疫管理基準が厳し
いことが1つの特徴となっており、フェンスの内側にある規制区に入る前に必ず
入浴をしなければならないとか、養豚経営を行っている人との接触を避けるなど
の制限があるが、そのことが労働の強化につながるという問題はないようである。
ただし、SPF豚生産では、畜産関係者との付き合いが疎遠になりやすいことや、
コンベンショナル農場と比べて精神的な負担が大きくなる点は、労働条件として
はマイナスの面として指摘されよう。

 SPF豚の生産は、コンベンショナル農場の肉豚生産と比べて、生産性が高くな
ければ、その目的は達成されたことにはならない。ゲズント農場はSPF豚生産を
立ち上げて間もないが、11年の成績では、事故率は哺育段階で3.5%、肥育段階
で1.3%、出荷日齢の平均が169.9日、枝肉の平均重量が72.9キログラム、上物率
が67.4%であった。計数管理をしている道内のあるコンベンショナル農場の成績
を参考までに示すと、事故率が哺育段階で7.3%、肥育段階で6.7%、出荷日齢の
平均が202日、枝肉重量が71キログラム、上物率が44.5%であった。明らかに、
生産性においても品質的にも、 ゲズント農場のSPF豚の方がコンベンショナル農
場よりも成績が良くなっており、SPF豚生産に転換した所期の目的は達成されて
いると見てよいだろう。

 肉豚は、全量がホクレンに出荷され、ホクレンは、通常の豚の買入価格にプレ
ミアムを付けて買い入れている。このプレミアム価格は、厳しい防疫管理に対す
る対価という面もあるが、SPF豚が、特定の病原菌を持たないように生産するこ
とで薬剤の投与が少ないなど、安全性の高い豚肉であることを消費者に対してア
ピールすることができると判断しているからでもある。その意味では、SPF豚も
差別化を指向しているといえる。同農場の年間出荷頭数は1万1,000頭である。


SPF豚肉の流通

 ホクレンの集荷するSPF豚は、生産農場ごとに主な販売先が決まっているが、
ここではコープさっぽろのルーシー店と(株)マイカル北海道江別サティ店での
販売の事例を見てみたい。


コープさっぽろ ルーシー店

 コープさっぽろの展開する61店舗中SPF豚を取り扱う店舗はわずか4店舗である。
コープさっぽろでは、日本SPF豚協会に認定されたホクレンのSPF豚以外に、メー
カーがSPF豚と自称する豚肉を取り扱っている。また、SPF豚と通常豚との販売価
格差は設けていない。この理由は、1つには、消費者がSPF豚の安全性については
認識できるが、味などの品質面で通常豚との差を認識できないとの判断による。
もう1つは、ホクレンからのSPF豚についてはセット販売となっているためである。
つまり、パーツ対応ができれば、売れ筋の部位についての差別化対応ができるが、
現状のセット販売では、需要の多い部位については通常豚を補充しなければなら
ず、差別化が困難なためである。また、協同購入事業では欠品はできないことか
ら、パーツ対応でなければ、SPF豚を差別化商品として取り上げることはできな
い。

 生協のSPF豚の仕入価格は、通常豚に対してプレミアムが付いている。しかし、
セット販売の現状では差別化して販売できないことから、生協としてSPF豚の販
売をさらに拡大するインセンティブはない。SPF豚をプレミアムを払って仕入れ、
通常豚と同じ価格で販売するというコープさっぽろの対応は、SPF豚の評価が今
なお消費者に明確になっていないという認識があることと、SPF豚の供給量が十
分ではないことからくるSPF豚の販売面での混乱を象徴的に表している。コープ
さっぽろのSPF豚の現状の取り扱いは、「生協も安全性を売りにしているSPF豚も
販売していますよ」という程度の取り扱いである。


マイカル 江別サティ店

 江別サティ店では、4年前よりSPF豚の販売を始めたが、11年よりホクレンの協
力により、通常豚とSPF豚を差別化して、売り場のほとんどをSPF豚にする戦略的
対応を図っている。価格は通常豚と比べて100グラム当たり10〜20円程度高く設
定されている。江別サティ店の食肉販売担当者は、味が良く、見た目も良いと
SPF豚に対して高い評価を与えている。このようなSPF豚を前面に押し出した販売
戦略を取った結果、売上が前年比2ケタの伸びを記録している。豚肉は成長商品
ではないことから、SPF豚の販売戦略の成果であると認識できよう。売り上げの
部位別順位を見ると、通常豚の場合、ロース、もも、ばら、うでの順であるが、
SPF豚の場合、ロース、ヒレ、もも、ばらの順となっている。通常豚ではほとん
ど売れないヒレがかなり多く売れることが特徴となっている。この結果には、ヒ
レの部位のヘルシーな面を強調し、ヒレの一本売りなどにより、意識的に売り込
んだ成果も含まれているとみられる。黒豚は高級豚肉として差別化が確立してい
るが、高価格であり、消費の飛躍的拡大は期待できない。SPF豚が消費者の低価
格指向と安全・安心指向にマッチする商品であると判断した江別サティ店の戦略
は、十分な成果をもたらしたといえる。
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【江別サティ店のSPF豚の陳列棚
(一区画のすべてSPF豚で占め
ヒレの一本売りもみられる)】

おわりに

 わが国の養豚経営は、生産量の減少にもかかわらず、輸入の増加によって価格
が低迷し、厳しい環境下にある。このような厳しい環境を克服する方向として、
高品質の差別化による方向と、生産性の向上による方向が考えられた。ここでは
後者の方向としてSPF豚生産の事例を取り上げてレポートした。

 SPF豚の生産技術はかなり以前に開発されたものの、わが国に定着したのはそ
れほど古くはなく、北海道においてはようやく生産体制が整ってきたという段階
である。ホクレンのSPF豚に対する取り組みいかんが北海道の養豚生産に大きな
影響を与える構造にあり、今後も、ホクレンのSPF豚の生産から販売までの戦略
的対応が重要であることに変わりはないと言えよう。

 最近の動向として、SPF豚の販売面で、安全性を全面に押し出す差別化対応が
明確になってきている。消費者にもSPF豚の安全・安心のイメージが定着しつつ
あるように思われる。今後、北海道においてSPF豚の差別化戦略を図るには、コ
ープさっぽろやマイカルの事例で分かる通り、ホクレンがSPF豚生産を飛躍的に
高め、パーツ販売ができる体制づくりが必須不可欠の条件と言えそうである。

 また、SPF豚の差別化販売への対応は、小売段階におけるSPF豚の表示の問題を
引き起こすことになる。SPF豚が生産性の向上のみの技術であるならば、小売段
階におけるSPF豚の表示は、実質上意味のないことである。ところが、最近のSP
F豚に対しては、安全・安心のイメージが消費者の間に定着してきたことから、
小売店において、差別化商品として、SPF豚の表示が数多く見られるようになっ
ている。現段階では既に、SPF豚とは何か、その生産基準はどのようなものかと
いうことについて、消費者に分かりやすくその情報を提供する段階に来ているの
である。わが国に紹介されて以降、紆余曲折を経て今日のSPF豚の生産技術が確
立された。その1つの明確な基準が日本SPF豚協会で定めたものである。これ以外
にもSPF豚生産の基準があるかもしれないが、その場合でも、どのような基準に
従ってSPF豚生産を行っているのかを公にしていく必要があろう。商品に特定の
表示をする場合、その内容を消費者に伝えるのは、生産者と販売者の基本的な責
務である。また、複数の基準があることによって消費者が混乱するようなことで
あれば、統一した基準作りも政策的に必要となるかもしれない。また、SPF豚肉
の特性について、通常豚と品質的にどのように異なるのか、一層の研究が必要と
されている。

 最後に、SPF豚生産が教える重要なことは、オーエスキー病やマイコプラズマ
肺炎などの疾病を引き起こす病原菌の存在が、肉豚の生産性の低下に大きく影響
しているということである。コンベンショナル農場においても、十分な衛生管理
が生産性向上につながるということであり、その最も進んだ対応がSPF豚生産で
あると言える。SPF豚生産への転換は、大きな投資とともに、防疫コントロール
に対する強い意志がなければできない。一方、コンベンショナル農場においても、
競争力のある生産性の高い養豚経営を目指すには、衛生管理に対する非常に高い
認識とそれに対する強い意志が求められているのである。今回取り上げたSPF豚
生産が、この事実を教えてくれている点を見逃してはならないと思う。

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