山口県/企画情報部
萩商港から見島へは北へ高速船でおよそ1時間。面積7.8平方キロメートルのこ の島は上空から見ると「牛の形をしている」そうだが、それもそのはず。見島の 名を全国の畜産関係者に知らしめているのは国の天然記念物「見島牛」によると ころが大きい。 多田一馬さん(52)は見島牛の繁殖、「保存」をしていますと自己紹介する。 普通の和牛経営ならば繁殖か、肥育、あるいは一貫経営かの区別で足りるのだが、 ここでは「保存」という言葉にぐっと重みを感じる。 軽トラック1台がやっと通れる山道を登ると丘の中腹に放牧地が開ける。雨に 打たれる牛たちの中にたたずむ種雄牛・正宝号は周囲を気にかけるそぶりも見せ ず悠然としている。同島で現在見島牛を飼養する農家は7戸。その全体規模は、 雌の成牛の飼養頭数で75頭にすぎない。 多田さんは見島牛20頭ほどのほかに、米、野菜等を2.3ヘクタールの耕地で生 産する複合経営。加えて対馬海流からの恵みも授かっており、アワビ、ウニなど を獲る漁業も営んでいる。 見島牛が天然記念物に指定されたのは昭和6(1931)年。最近でこそ「脚の先 までサシが入っている」といわれる肉質に高い評価を得ているが、「利口な性質」 であるとのことで元来島の人々は農耕作業での助けとして飼養してきた。 国の指定を受けてからは、多田さんが現在会長を務める保存会を中心に、純血 種の維持、拡大を図っている。従って、自然交配が通常だが、正宝号の精液は凍 結保存されており、JAが人工授精を行う場合もある。 性質、肉質ともに優れた見島牛ではあるが、難点は繁殖力が「決しておう盛で はない」こと。多田さんも年1産を目標にさまざまな努力を続けているが、せっ かく産まれた雌でも妊娠障害等で繁殖用にできないというケースが少なくない。 雄牛は生後10カ月程度で出荷される。平均150〜60キログラム程度、大きいも のならば200キログラム近くまで成長するが、その数は限られている。このため 料理店で見島牛を食べようとすれば事前の予約は欠かせず、その予約も順番待ち 見島牛を守っていこうとするのは先祖が残してくれた宝だからであり、見島の 看板だという誇りが原動力となっている。
【種雄牛・正宝号】 |
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【見島牛に干し草を与える多田さん】 |