◎今月の話題


21世紀の幕開け……

そして「生産局畜産部」の発足に当たって

農林水産省生産局  畜産部長 永村 武美




 いわゆる「世紀末」だからではあるまいが、昨年の畜産界は近年まれにみる多事
多難の年であった。

 92年ぶりの口蹄疫の発生に始まり、雪印乳業食中毒事件、スターリンク騒動と
いった突発的な事件から、加工原料乳におけるポスト不足払い制度の構築、豚コ
レラワクチンの全国的な中止、豚肉調整保管、家畜ふん尿処理対策、稲わら自給
運動、牛乳表示の見直し,バター余剰とHFC対策など、数え上げていくと10指に
余る「事件」があった。

 いずれも大過に至らず幸運であったが、これも畜産局のみならず、業界および
団体の関係者、地方自治体を含めた「畜産関係者」一丸となった努力の賜であり、
改めて感謝申し上げたい。そして本年もこうした伝統的な「畜産一家」としての
チームプレイに徹し、組織としての総合力を発揮できる環境作りに専念したいと
考えている。

 さて、21世紀の初頭に当たる2001年1月6日を期して、畜産局は生産局畜産部と
して新たなスタートに立つことになった。伝統ある畜産局がなくなった、と嘆く
諸兄もあり、また畜産部が残ってよかった、と胸をなでおろす諸兄もある。私な
りに「生産局畜産部」としてのスタートの意味を考えてみたい。

 生産局は、旧農産園芸局と畜産局および食品流通局の一部が統合された組織で
ある。しかしながら、畜産に携わる課をひとくくりにして部として発足したのは
畜産だけである。私はこの「生産局畜産部」という組織編成には、これまで培わ
れてきた畜産行政の伝統とこれから生産局で果たしていく役割に寄せられる期待
が込められていると考えている。くどいようだが、畜産物の生産から流通、加工、
消費に至る各般の施策を組織一丸となって展開することが求められているのであ
る。

 農林水産省は、省庁再編の嵐の中で現体制のまま生き残った数少ない省である。
しかし、そのことに安住せず、その内部組織をかなり大胆に見直すことになった。
それは約40年ぶりに改正された「食料・農業・農村基本法(旧農業基本法)」の
精神に立った見直しであり、いわば外圧によらず、自らの体制内改革を 断行し
たものであると言える。

 各局の組織は、「食料・農業・農村基本法」に掲げられた21世紀の農林水産省
の果たす役割、すなわち、食料政策、農業政策、農村政策を担当する局に目的ご
とに再編された。そして生産局は農業政策のうち生産対策を担当する局として、
すなわち生産努力目標の達成という最も重要とも言える役割を担う組織としてス
タートすることになったのである。

 この再編に当たり、農産園芸および畜産両局の接着剤の役割を果たしたのが、
「土地利用型農業の発展」と「家畜ふん尿利用の推進」である。生産局における
畜産振興は、今まで以上に、穀物、野菜等も含めた全体的な土地利用の中で飼料
作物の生産拡大を通じ、飼料自給率の向上とたい肥利用の促進による耕畜連携の
強化を考えていくことが求められているのである。以上のように生産局畜産部と
いう組織に中に身を置く人間は、局の中での広がりと、部としてのまとまりを絶
えず意識しながら、21世紀の畜産行政を展開していかなければならない。

 畜産部の編成は、旧畜産局9課が畜産部7課となった。畜産経営課は畜産総合対
策室および畜産振興推進室を含んだ形で畜産企画課として発展的に拡大し、自給
飼料課と流通飼料課が統合して総合的飼料行政を担う飼料課になったほかは、旧
畜産局のままである。一見、軽量化したように思えるが、実質的には不変、むし
ろ、機動力の向上、総合力の発揮が期待できる編成になったのではないかと考え
ている。

 当面の課題として、まず、経営体に着目した経営安定対策の検討が、全省的な
検討課題としてある。また、次期WTO交渉への備えとして、牛肉および豚肉の関
税制度、セーフガード措置、検疫のあり方等についての検討を急がなければなら
ない。さらに、13年度から見直された品目別経営安定対策(加工原料乳、地域肉
豚、マルキン)の円滑な運営、自給率向上と安全性確保(スターリンク、BSE関連)
を踏まえた飼料問題、畜産経営の担い手確保・ふん尿処理対策の推進、競馬収益
減少への対応と競馬のあり方の検討、行政改革を踏まえた団体の統廃合の検討な
ど、着手すべき仕事は枚挙にいとまがないが、昨年のような突発的な事件が起き
なければ(そう願っているのだが)、可能な限りこうした本来業務に専念してい
きたいと考えている。

 そのためには、畜産行政のよき伝統を守ることが極めて重要であることを再度
強調しておきたい。そのためにも昔のように開かれた、風通しの良い組織として
関係者の方々と密な情報交換を行いたいと考えており、団体、OB、業界関係者の
頻繁な来訪を心からお待ち申し上げる次第である。(ちなみに南別館5階から北
別館2階に移動したことを申し沿えておく。)

ながむら たけみ

 昭和46年東京大学(修士)卒業。47年農林省入省。平成5年大臣官参事官、7
年経済局国際部貿易関税課長、9年畜産局畜産経営課長、11年同畜政課長、12年
4月大臣官房審議官兼畜産局を経て、13年1月より現職。

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