★ 農林水産省から


平成12年度「食料・農業・農村白書」の概要

−畜産をめぐる状況を中心として−

農林水産省大臣官房企画評価課 松本 憲彦




はじめに

 「平成12年度食料・農業・農村の動向に関する年次報告」(食料・農業・農村
白書)は、平成13年4月10日閣議決定のうえ、国会に提出、公表された。

 12年3月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画に基づく食料自給率目
標の達成に向けた取り組みが始まった12年度の白書は、「食料の安定供給の確保」、
「農業の持続的発展」、「農村の振興」および「農業の有する多面的機能の発揮」
という4つの理念に基本視点をおいて、内容的には、食料・農業・農村の動向と
その課題や基本計画に即した具体的施策の実施状況等の分析・検証を行い、これ
らを通じて基本法の理念の浸透や基本計画の実現について、広く国民の理解を得
つつ、その取り組みを促進するための素材を提供するということを狙いとしてい
る。

 以下、食料・農業・農村白書の畜産関係の概要について、その一部を紹介する。

 なお、最後に白書全体の構成も紹介するので、詳細等については報告書をご参
照いただきたい。


国産稲わらの利用に向けた取り組みの展開

 12年3月から5月にかけて、家畜伝染病「口蹄疫」が、わが国では明治41年
以来92年ぶりに、宮崎県および北海道の肉用牛飼養農家で確認された。
 この発生に伴い、家畜伝染病予防法等に基づく家畜の移動禁止、全国的な清浄
性の確認等、一連のまん延防止措置が講じられ、また、安全性のPR等の消費対
策や畜産農家への経営対策等の各般の緊急対策が実施された。さらに、口蹄疫の
侵入防止の徹底を図るため、台湾、中国等の口蹄疫非清浄国から輸入される稲わ
ら等の検疫強化等の措置も開始された。こうした対応策により、9月26日にわが
国は国際的に口蹄疫清浄国への復帰が認められた。

 再発防止のため、発生原因の究明が続けられた結果、初発農場で使用されてい
た中国産麦わらが侵入源である可能性が最も高いことが明らかとなったが、稲わ
ら等は特に肉用牛経営において重要な粗飼料となっており、その輸入量は、11年
度には約26万トンと増加傾向にある(図1)。他方、国内で生産される稲わらは、
約900万トンに上っているが、耕種および畜産農家の労働力不足等による収集の
困難等から、11年度において飼料に利用されたのは約1割にとどまっている。現
在の稲わら等の輸入量は、国産稲わらで十分対応可能な量であり、安全な粗飼料
の確保による経営の安定化の観点から、耕種と畜産の連携等により国産稲わらの
飼料利用を促進することが重要である。

◇図1:稲わら等の輸入量の推移◇

 このため、国においては、従来からの対策に加え、12年度から長期・大口での
稲わら等の安定的な生産供給に対して助成を拡大した。また、地方公共団体のな
かには、以前から、稲作農家の稲わらの提供意向等を把握し、畜産農家への情報
提供に取り組んでいるところもある。こうした制度等の活用により、今後、稲わ
らの飼料利用の拡大が望まれる。

<事例:県下全域で稲作農家の稲わらの提供意向等を把握し、
畜産農家へ情報提供> 

 宮崎県では、県独自に水田農業実施計画書の様式を改良して、稲作農家の稲わ
らの提供可能量を把握している。この情報を市町村・農協を通じて畜産農家に提
供することで、畜産農家の稲わら収集の効率化を図り、稲わらの飼料利用に結び
つけようとしている。


飼料基盤を強化するうえで水田等の活用が重要

 自給飼料生産の推進は、飼料自給率の向上を通じたわが国の食料自給率の向上、
生産コストの低減と経営の安定化および家畜排せつ物の草地等への適切な還元に
よる畜産環境問題への対応等において極めて重要となっている。

 一方、自給飼料生産の現状を見ると、畜産農家の飼養規模の拡大に伴う労働力
不足等による飼料作物の作付面積の横ばい傾向に加え、優良な草種・品種の普及
の遅れ等による単収の伸び悩みから、近年、生産量も横ばい傾向にあり、純国内
産飼料自給率も同様の傾向を示している(図2)。

◇図2:飼料作物作付面積および単収の推移◇

 開発可能地の奥地化等から草地開発面積が伸び悩むなか、農地の有効利用、耕
種農家と畜産農家の連携による地域複合化等の観点からも、水田等既耕地の活用
等が重要であり、12年度から実施されている水田農業経営確立対策においても、
水田を活用した飼料作物の本格的生産を推進することとしている。また、通常の
水稲の栽培方法を準用でき、かつ、湿田等でも生産できる稲発酵粗飼料(ホール
クロップサイレージ)の普及に向けた、生産・給与マニュアル作成等の取り組み
も開始されている。


飼料生産受託組織の取り組みが進展

 自給飼料の生産は、その労働が飼料作物の収穫時期に集中するため、労働力不
足を課題とする畜産経営においては労働過重感が大きく、飼料生産を敬遠する一
因ともなっている。こうした労働負担を軽減し、ゆとりある畜産経営を実現する
ため、飼料生産受託組織(コントラクター)の活用等飼料生産の組織化・外部化
への取り組みが進んでいる。その状況を見ると、10年度では144組織あり、委託
農家数約1万5,000戸(前年度比150%増)および受託面積約5万1,000ヘクタール
(同36%増)と着実に増加している。飼料生産受託組織による作業では、大型機
械による大規模面積での作業による省力的・効率的な飼料生産と畜産農家の機械
費用の負担軽減が可能となる。北海道のある組織の作業料金を用いた、事例的な
試算によれば、飼料生産受託組織に全作業を委託した場合、自家作業に比べ3割
以上のコスト低減が可能となっている。(図3)。しかし、こうした効果は、飼
料作物の作付の団地化等により最大限発揮されるため、農協等と連携し、地域に
おいて飼料生産受託組織を核とした土地利用調整を推進するなど、関係者等が一
体となった取り組みの下で、地域の実情等に応じた推進が重要である。

◇図3:飼料生産受託組織への飼料生産の委託によるコスト低減効果◇

<事例:ゆとりある酪農経営の実現に資する飼料生産受託組織>

 北海道鹿追町の農協コントラクターにおいては、さまざまな工夫により多様な
料金を設定することで、町内の酪農家の半数以上がこれを利用し、時間的余裕の
創出と高品質な粗飼料を低コストで確保している。


家畜排せつ物の適正な管理と利用に向けて

 家畜排せつ物の管理と利用については、「家畜排せつ物の管理の適正化及び利
用の促進に関する法律」(11年施行)に基づき、12年にはすべての都道府県にお
いて、地域の実情に即した家畜排せつ物処理施設の整備目標等を内容とする都道
府県計画が作成され、現在、この計画に基づく施設整備や既存施設の活用を通じ
た、家畜排せつ物の不適切な管理の解消に向けた取り組みが進められている。

 家畜排せつ物の利用については、土づくりへの積極的な活用を図る観点から、
たい肥としての円滑な流通利用の促進が重要であり、それには生産供給の中核と
なるたい肥センターが重要な役割を担うと期待される。

 全国のたい肥センターの運営状況について、「平成11年度持続的生産環境に関
する実態調査」からみると、「販路の確保が困難」、次いで「たい肥の価格が安
価」なことが施設の運営に当たっての問題点となっている。また、散布サービス
等利用促進活動への取り組みの有無とたい肥の出荷状況の関係をみると、利用促
進活動に取り組む施設では、隣接する市町村を越えて広域に流通する割合が高く、
たい肥の流通利用を図り、たい肥センターの運営を改善するうえで、利用促進活
動の活性化が有効であることがうかがわれる(図4)。こうした取り組みを一層
推進するためには、たい肥生産技術の向上や運営上のノウハウの蓄積等たい肥セ
ンターの機能強化を図っていく必要があり、現在、一部の県ではたい肥センター
のネッワーク化による相互の情報交換、生産コスト低減対策等の検討が進められ
ている。

◇図4:たい肥利用促進活動の実施の有無別にみた
たい肥の出荷先の割合(運営主体別)◇

その他畜産をめぐる話題

 12年6月下旬、加工乳等に起因する食中毒事故が発生し、大規模な被害となっ
た。

 これに対応して、農林水産省内に対策本部が設置され、関係省庁等と連携して
情報収集を行うとともに、対応策を取りまとめ、生産面での大きな混乱は回避さ
れた。

 この事故を契機とする飲用牛乳等の商品名表示と種類別表示のかい離に対する
消費者からの指摘を踏まえ、生産者、乳業者および消費者等を委員とする「飲用
牛乳等の表示のあり方等に関する検討会」において、飲用牛乳等の商品情報を的
確に消費者に提供するため、生乳使用割合の表示の制度化等について提言がなさ
れた。

 12年下期に入り、牛海綿状脳症が欧州で広がりを見せ、牛肉の消費・生産に大
きな影響が出るなどの問題が生じている。わが国では、これまで牛海綿状脳症の
発生はなく、また、高発生国であるイギリスからの牛肉等の輸入停止や、反すう
動物(牛、羊等)の組織を用いた飼料原料(肉骨粉等)の反すう動物への給与の
禁止等の措置を講じてきた。しかし、侵入防止になお一層の万全を期すため、13
年1月には、EU加盟国等からの牛肉、牛臓器等の輸入停止等防疫措置の強化・
徹底が行われた。


平成12年度白書全体の構成

第T章 食料の安定供給確保

●消費者の食料や農業に関する知識・関心の低下等「食と農の距離の拡大」に警
鐘を鳴らす視点から、わが国の食料消費の現状と問題点を分析し、12年に策定し
た「食生活指針」の普及・定着の必要性を説明

●食料自給率目標の達成に向けた生産、消費の両面からの取組課題を検討・整理。
また、不測時の食料安全保障政策の概要等を紹介

●「食」と「農」を結び付ける食品産業の動向を概観するとともに、食品産業と
農業の連携強化、食品の安全性確保や表示制度の充実等安全・良質な食料を供給
する上での課題を整理

●我が国の食生活と密接な関係にある世界の食料需給の動向等の分析と諸外国の
農政の動き、国際協力のあり方を整理

●WTO農業交渉の重要性と12年12月に取りまとめられたわが国の交渉提案、交
渉の今後の課題等を分かりやすく紹介

第U章 農業の持続的発展

●2000年農林業センサス結果等を活用して、農業の持続的発展の基盤となる人
(経営)、農地、農業技術等の現状や課題を分析し、特に育成すべき担い手の確
保に向けた経営対策の必要性を指摘

●生産から流通にわたる多くの場面でさまざまな可能性が期待されるITについ
て、その活用を展望

●農産物需給について、基本計画において示された生産努力目標を念頭に、米、
麦・大豆、野菜、果樹、畜産等品目ごとに直面する課題や対応方向等を整理

●農業の自然循環機能の維持増進に向けて、農業に由来する有機性廃棄物等の適
正な処理のあり方について検討するとともに、環境保全型農業の取り組みの現状
と課題について整理

第V章 農村の振興と農業の有する多面的機能の発揮

●農村は、都市住民にとっても多くの魅力を有しているが、人口の減少や混住化
の進展から集落機能の低下が懸念されている。こうした農村社会の現状と課題、
都市と相互依存関係にある農村の魅力を整理・紹介

●農業の有する多面的機能の内容や中山間地域の下流域を守る防波堤としての役
割について、また、12年度から開始された「中山間地域等直接支払制度」の必要
性や浸透状況等について説明

●農業生産に加え、地域住民の生活の場でもある農村の振興について、その地域
特性とニーズに応じた総合的な振興のあり方、また、地域社会の活性化に向けた
多様な取組み等について、また、農村の高度情報化がもたらす可能性等について
検討

●地域活性化や国民の健康的でゆとりある生活に資する取り組みとして注目され
る都市農村交流の取り組みについて、その現状と推進に向けた課題を整理し、ま
た、その有力な手法であるグリーン・ツーリズムや子ども達の農業体験等の取り
組みの効果等について分析

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