◎地域便り


都市住民と共存した酪農経営

神奈川県/秋山 清


 JR東海道線辻堂駅から徒歩15分の藤沢市の住宅地の真ん中に搾乳牛50頭を飼養
する長谷川牧場がある。長谷川牧場では奥さんのドイツ酪農視察をきっかけに、
地元の消費者に地元でとれた新鮮な食品を提供するため、平成10年7月に牧場内
に乳製品加工販売施設「Ricotta(リコッタ)」を開店した。身近な消費者に、新
鮮な搾りたて生乳を使った手作りアイスクリームやチーズなどを提供し、優れた
乳質と都市の中の牧場の存在をアピールしている。

 経営者の長谷川行夫さんは神奈川県ホルスタイン改良同志会の会長を務め、昨
年、岡山県で行われた第11回全日本ホルスタイン共進会への出品や神奈川県酪農
業協同組合連合会主催の乳質改善共励会で優秀者表彰を受けるなど、県内を代表
する優秀な酪農家である。乳牛改良については、体型の改良はもとより、早くか
ら乳成分改良のポイントを乳たんぱく質に置き、乳製品の加工に使用する生乳は
乳成分の高い乳牛を選別してバケットミルカーで個別に搾乳したものを使用する
など、長年の乳牛改良の成果を乳製品にして消費者に提供している。

 地元産の果物や野菜を利用したジェラートタイプの「手作りアイスクリーム」、
ブラウンスイス種の生乳を使用した「フレッシュレアチーズ」、生乳だけで作っ
た「飲むヨーグルト」など材料にこだわった乳製品は、地元の主婦や子供たちに
好評で、口コミでうわさが広がり、わざわざ東京方面から買いに来るお客さんも
ある。11年11月には藤沢駅ビル内に支店を出店し、定番の手作りアイスクリーム
のほかにソフトクリームやクレープなど本店とは違う商品もそろえている。

 長谷川牧場は、住宅地に立地するため、とくに環境対策には十分な注意を払っ
ており、牛床への消臭剤の散布、飼料への土壌微生物剤の添加、牛用の飲水にア
ルカリイオン水を利用するなど牛舎内からの臭気の発生を極力抑えるように努め
ている。排せつ物の処理は、尿汚水については公共下水道を利用した処理、ふん
についてはたい肥化施設で処理した後にたい肥として地域の野菜農家および園芸
農家へ供給している。

 乳価の低迷、環境問題など厳しい畜産情勢の中、消費地に隣接した立地条件を
生かした酪農を実践し、地域住民と融和した長谷川牧場の経営は、都市の中で取
り組む畜産のひとつの方向性を示している。
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【乳製品加工販売施設】

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【ブラウンスイス種(左から2頭目)】

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