◎地域便り


孵卵で培った技術を採卵経営に生かす

香川県/企画情報部


 善通寺市に本拠を置く有限会社斉藤孵卵場だが、主力とする一般卵の採卵鶏舎
は東隣の三豊郡山本町にある。そこにはジュリア種が3万羽。健康に育った鶏か
らの卵は地元スーパーとの間に確固たる信頼関係を築き上げており、プライベー
ト・ブランドで契約生産・納入されている。

 社名にある「孵卵(ふらん)」という語は今日では難解漢字のクイズにでも出
てきそうで、一般では忘れられようとしていることばの1つだろうか。現在、全
国には1万を超える農業生産法人が存在しているが、孵卵という語が入るのはこ
こ1社のみだ。しかし代表取締役の斉藤雄治さん(48)は社名を流行のアルファ
ベットやカタカナを彩った、洒落たネーミングにする気など毛頭ない。それは孵
卵という語がこの農業生産法人の歩んできた歴史を雄弁に物語っているからであ
り、孵卵で培われた技術と経験が経営全般の底流を形作っているからだ。

 通常は21日間で孵(かえ)る有精卵を半分の10日程度温め、熟してきたものに
インフルエンザ・ウイルスを接種してワクチンが造られるが、斉藤孵卵場ではこ
うした熟卵を生産し、ワクチンメーカーに供給してきた。市内の微生物研究施設
でのチェックは厳密を極め、レベルに達しない未熟卵は一銭にもならなかったと
いう。

 ところが国はワクチン行政を転換。接種費用の公的援助は中止され、接種自体
も任意制になった。これによってワクチンの製造量は激減し、斉藤孵卵場の経営
は大きな打撃を受ける。当時は一般採卵鶏も飼養していたが、800羽に過ぎず、
そこからの新規巻き返しだった。

 本社屋近くの旧来からの鶏舎では、讃岐コーチン4万羽、烏骨鶏(うこっけい)
300羽、そして南米チリ原産のアローカナ200羽も飼養されている。烏骨鶏の有精
卵は1つ300円。そのまま酢に漬け、柔らかくなってきた頃にかき混ぜて飲む。
カルシウムが吸収されやすく、肝機能を向上させるなどの効果から人気を呼んで
おり、インターネットを通じ、全国から注文が寄せられている。「数を産まない
だけに美味しい」と貴重品的なのがアローカナ卵。

 また鶏肉としての地位を固めつつある讃岐コーチンだが、卵の方でも評価を上
げようとしている。斉藤孵卵場では茶葉を加えるなど飼料を工夫した結果、卵黄
が濃く、盛り上がりも通常より高い卵の生産を実現している。

 一時は消えかけた「孵卵」だが、それは現在も生き続けている。ただ1つ変わ
ったのは本社屋のネーム・プレート。誰からも親しまれよう、「ふらん」と平仮
名で記されている。
ukokkei.gif (41421 バイト)
【烏骨鶏の雄と雌】

arocana.gif (42083 バイト)
【アローカナの雄と雌】

元のページに戻る