◎今月の話題


 

「2000年センサスを読む」

宇都宮大学 農学部教授 宇佐美 繁








はじめに

 2000年センサスは、概要が昨年の11月に発表され、本報告はまだ未発表である。
「今月の話題」にしては幾分色あせ、詳細に論ずるには時期尚早な感があるが、
概要からでも日本農業の特徴的な変化を読むことが出来そうである。

 最も特徴的なことは、日本の農業、農家が直面している困難な事態を鮮明に捉
えていることである。


耕地面積・農家戸数の減少

 農業的資源が急速に減少している。農家が経営する耕地面積はついに400万ヘ
クタールを割り、389万ヘクタールまで減少した。統計史上初めての経験である。
耕作放棄地面積は95年に比べて30%増加し、不作付け地面積は78%も増加した。
合わせて49万ヘクタールに達し、経営耕地総面積の13%に相当する。こうした耕
地面積の減少は、都市近郊や中山間だけでなく、平場地域をも覆って進行してい
る。北海道や東北も例外ではない。家畜飼養頭羽数の正確な数値は公表されてい
ないが、販売農家の乳用牛、肉用牛、豚はこの5年間で10%以上、ブロイラーは
6%減少した。農家以外の事業体を含めても、この4部門は減少している。飼養
農家数は減少しても残った農家の規模拡大によって頭羽数は増加し続け、成長部
門として位置付けられていたのが80年代までの日本の畜産の姿であった。農業就
業人口も引き続き減少した。農業的資源に関わる人も土地も家畜もすべて減少す
る「日本農業の縮小過程」が、全地域で、勢いを増して進行しているのである。

 農家らしい農家も急速に減少している。販売金額500〜1,000万円の農家数は19
%、1,000万円以上の農家も10%も減少した。95年までは一貫して増加していた
階層である。増加したのは、定義上は「販売農家」に区分される「販売なし」と
50万円未満の農家だけである。15歳以上65歳未満の男子生産年齢人口がいる専業
農家も17%減少し、全農家に占める割合は、6.4%へ低下した。他方、専業農家
と定義されながら生産年齢人口のいない農家が増加し、専業農家の50%以上を占
めるに至った。一種兼業農家は30%、農業を主業とする主業農家数は26%も減少
した。95年に比べて10%以上下落した農畜産物価格が、農家らしい農家の存立基
盤を急激に狭めているのである。「日本農業・農家にとって冬の時代」を迎えて
いると言ってよい。


構造再編の進行

 農業の全般的縮小傾向の下で、農業構造は大規模経営が中心になる方向へ確実
に変化している。

 都府県の5ヘクタール以上の農家戸数が4万3,440戸となって、統計史上最大と
なった。日本の経営面積階層別農家数が統計的に把握されたのは1908(明治41)
年が最初で、そのときの4万1,642戸がこれまでの最大値であった。その後年々減
少し続け、農地改革が終了した1950(昭和25)年には815戸まで減少した。55年
から増加に転じたのであるが、2000年になってようやく、明治期の水準に復した
のである。戸数の増減分岐点も4ヘクタールまで上昇した。借入地のある5ヘク
タール以上農家の経営耕地の半分は借入地である。借地形態での農地流動化の進
行を反映したものであろう。北海道では50ヘクタール以上層だけが増加しており、
30ヘクタール以上農家の経営耕地面積割合がついに50%を超えた。西欧に比肩す
る構造変化が進展していると見てよい。

 企業的経営体が多い「農家以外の事業体」のシェアが拡大している。農家の場
合とは異なって、95年以降も耕地面積、家畜飼養頭羽数は増加し、耕地面積のシ
ェアは6.6%であるが、採卵鶏は68%、ブロイラー、豚は45%前後、肉用牛でも
20%を超えた。農家でも主業的農家が生産の中心になっており、酪農、養鶏、養
豚では80%を超えている。しかし、大規模になっても経営は安定しているわけで
はない。95年センサスでは、90年に乳用牛100頭以上、肉用牛300頭以上、豚1,00
0頭以上であった農家のうち、15%前後の農家が、95年には飼養を廃止していた。
畜産部門は、零細経営から大規模経営へという段階から、大規模な経営相互間の
競争段階に移行している。

 以上のように、日本農業は本格的な構造変動の時代を迎えながらも、これまで
経験したことのない厳しい状況に置かれている。しかし、畜産部門を見ても、コ
スト削減に努力し、ポストハーベストフリー(収穫後無農薬)の飼料を使い、抗
生物質を使用しない飼育の技術を確立して、「国民に支持される畜産」へ挑戦し
ている経営も数多く生まれてきている。統計には現れない農業者の努力が「国産
農畜産物」を支持する消費者の運動へと展開していくとき、「冬の時代」から脱
却し、新しい農業の時代を迎えることになるであろう。

うさみ しげる

昭和44年 北海道大学農学研究科博士課程修了
     農学博士
昭和44年 農林水産省農業総合研究所
平成2年より現職
専門分野:農村社会の構造と変ぼう

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