◎専門調査レポート
乳用肥育おす牛の産地ブランド化と産直取引への取り組み
−はこだて大沼牛に見るみやぎ生協との産直取引−
宮城学院女子大学 生活文化学科
教授 安部 新一
はじめに
平成3年の牛肉の輸入自由化によって、特に輸入牛肉と競合する乳用肥育おす
牛は大きな影響を受けている。わが国でも口蹄疫の発生に続き、13年の9月にB
SE(牛海綿状脳症)の発生が確認され、食肉の安全性に対する関心がさらに高
まっている。
今日、国産牛、特に乳用肥育おす牛を取り巻く環境はさらに厳しさを増す状況
にある中、調査対象先である北海道函館市近郊の七飯町にある大沼肉牛ファーム
(小澤牧場)では乳用おすを主体として常時飼育頭数4,200頭と、1農場として
はわが国でも最大規模にまで拡大を図ってきたことが注目される。そこで、大沼
肉牛ファームと宮城県のみやぎ生協との産直取引の特徴である、産地と生産過程
が明らかな「安全・安心」をセールスポイントとした産直取引の実態について明
らかにすることを目的として現地調査を行った。本調査では、生産者側である大
沼肉牛ファームと流通業者としてのホクレン、JA全農、さらに小売側であるみや
ぎ生協までの生産から流通、小売に至る流通過程の実態調査を行った。大沼肉牛
ファームとみやぎ生協の産直取引に至る経緯と開始後3年を経過しての現状を明
らかにし、さらに各流通段階の担い手の機能と役割および課題について見ていき
たい。
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【牧場入口にて】
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大沼肉牛ファームとみやぎ生協との産直取引の概況
産直取引開始の経緯
大沼肉牛ファーム(小澤牧場)の生産する乳用肥育おす牛であるはこだて大沼
牛と宮城県のみやぎ生協との産直取引は、10年8月に開始された。前年に全農か
ら取引の話があったが、それ以前に大沼肉牛ファームの社長、小澤嘉徳氏が組合
長であったJAななえとの野菜の産直取引を行っていた経緯があり、10年2月に七
飯町の大沼肉牛ファームへみやぎ生協側が訪問した。この訪問でみやぎ生協と小
澤氏、さらに全農とホクレンも同席して4者で取引方法の話し合いが行われた。
さらに試食会を行い、その後の意見交換会において、乳用肥育おす牛でありなが
ら味があり、甘みがあるとの評価を得て取引への話が前進した。生協が肉牛の産
直取引開始を決意した背景には、これまで「顔と暮らしが見える産直」を目指し
県内の養豚、養鶏農家との産直を進めてきたが、肉牛については県内の和牛産地
は小規模で個々の肉牛農家ごとに肉質にバラツキがあり、複数の肉牛農家からの
仕入れでは品質が一定しない状況にあった。また、県内の乳用肥育おす牛も検討
したが1カ所の牧場から必要とする頭数を仕入れることは困難であった。そこで、
北海道内において1カ所で必要頭数を安定的に仕入れることのできる牧場として、
大沼肉牛ファームが候補となった。さらに、生協組合員に手ごろな価格で販売可
能な価格帯での仕入れが可能であったこと、また、自家農場で牧草、青刈りデン
トコーンの粗飼料の確保が図られていること、クリーン農業を実践していること
等も取引を決定する要因であった。こうして、みやぎ生協との産直取引が開始さ
れた。
◇図1 はこだて大沼牛の流通ルート◇
産直取引の担い手と流通ルート
大沼肉牛ファームは、北海道内のJA歌登他4農協と2戸の子牛農家より、生後
6カ月から7カ月の素牛(300キログラム中心)をホクレンの仲介により導入し
ている。大沼肉牛ファームでは、21カ月から22カ月齢(枝肉重量460キログラム
から480キログラム目標)で出荷する。北海道畜産公社函館事業所でと畜し、ホ
クレンが引き取り、部分肉加工処理は有限会社カンチクミートに委託し、フルセ
ットでホクレンから全農へ引き渡される。みやぎ生協へのフルセット販売部分に
ついては、函館事業所から直接宮城県仙台市内のJA全農東北畜産販売所へ入り、
その後みやぎ生協の加工包装施設(コープフーズ東北)で精肉加工・パック詰め
後、各店舗へ配送される。一方、パーツ販売部分については、函館事業所から一
度フルセットで東京のJA全農中央畜産センターに入り、その後、みやぎ生協が発
注したパーツのみが中央畜産センターから東北畜産販売所へ輸送される。
商流については、素牛は大沼肉牛ファームが農協を通じて買い入れるルートと
大沼肉牛ファームが育成農家から直接買い入れるルートがある。肥育後は枝肉形
態でクレンへ販売され、部分肉に加工後フルセット形態でホクレンから全農へ販
売される。全農からみやぎ生協へはフルセットでの販売とパーツでの販売の2つ
の形態がある。
はこだて大沼牛の産直取引には、このように育成農家、農協、ホクレン、大沼
肉牛ファーム、全農、みやぎ生協が関わっている。その中でも中心的な役割を担
っている大沼肉牛ファーム、ホクレン、全農、みやぎ生協について、それぞれが
果たしている役割を見てみる。
はこだて大沼牛を生産する大沼肉牛ファームの役割
大沼肉牛ファームの概況
有限会社大沼肉牛ファーム会長、小澤嘉徳氏は昭和44年に父親から経営移譲を
受けた後、49年にそれまでの酪農経営から肉牛肥育経営に転換した。当初は70頭
規模であった。その後、平成3年の牛肉の輸入自由化後も規模拡大を続け、7年
には2,200頭へ、さらに13年には4,200頭まで拡大を行っている。現在、常時飼養
頭数4,200頭のうち、乳用おす(去勢牛)は3,500頭、F1は700頭である。当ファ
ームの特徴は、飼養頭数の拡大に伴い自給飼料畑を拡大してきたことであり、7
年当時には牧草地25ヘクタール、デントコーン畑40ヘクタールであったものが、
13年には牧草地100ヘクタール、デントコーン畑60ヘクタールへと拡大している。
現在、家族5名と常時雇用者2名の7名で、牛の飼養管理、粗飼料生産、素牛の
導入、肥育牛の出荷と格付けの立会いまでを行っている。7人という小人数でこ
れらの作業を行っているということは、極めて機械化と省力化された施設により
作業が行われていることの現れである。
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【左から筆者、小澤代表取締役、
ホクレン函館支所成松課長】
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表1 大沼肉牛ファームの発展経緯
飼養管理の特徴
品質の良い肥育牛を生産するためには、下痢、肺炎等を患っていない健康な素
牛選びから始めなければならない。このため、指定の子牛農家に対して粗飼料を
多給し、内臓が丈夫で健康な素牛の生産を依頼している。また、素牛導入に当た
っては小澤氏が子牛農家に直接出向き、1頭ずつ自分の目で確認している。導入
する素牛は生後6カ月から7カ月、生体重は300キログラムを目安としている。
導入価格は全農の育成牛取引価格を建値として、その他に市場取引価格、食肉需
給動向等を勘案してホクレンと価格交渉を行っている。翌月分の価格交渉を当月
の末日までに行っている。大沼肉牛ファームでは健康な肥育素牛の導入を図るた
め、これまで1キログラム当たり20円から30円のプレミアムをつけて導入を行っ
ていた。しかし、13年9月のBSEの確認による牛肉消費の落ち込みと市場価格の
低落から10月以降はこれを廃止した。
次に、肥育について見ると、肥育期間は15カ月から16カ月、出荷月齢は21カ月
から22カ月、生体重800キログラムから850キログラムを目標としている。一般の
肥育期間より1カ月程度長いことが特徴である。これには、ある程度熟成させた
牛でないと牛肉本来の味が出ないためとの考えによるものである。
当ファームでは、素牛導入時に12頭から13頭を1グループとして出荷時まで同
じグループとする群飼いを採用している。この方式だと肥育月齢が進み生体重が
大きくなると、一度にえさ箱に首を出すためえさを食べたいときに食べられない
牛が発生し、個体間格差が生じると言われている。しかしながら、当ファームの
飼養管理の特徴は、牛舎ごとに飼料給与する牛舎の担当を決め責任を持たせると
ともに、さらに小澤氏はいかに多忙であっても、午前と午後の2回は牛舎の見回
り、えさ箱をならして常時飼料が食べられるようにしておく等、牛へのきめ細か
な管理を行って個体間格差をなくす努力を日々行っている。
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【牛舎内にて】
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飼料給与と飼料調達方法
当ファームの飼料給与の特徴は、粗飼料多給型の給与体系をとっていることで
ある。肥育期間を前期と後期に分け、粗飼料と配合飼料の給与割合を変化させて
いる。すなわち、1日1頭当たり10キログラムを給与するとした場合に、肥育前
期の前半では粗飼料6に対し、配合飼料4、肥育前期の後半には粗飼料5に対し、
配合飼料5の割合である。さらに、肥育後期の前半では粗飼料3に対し、配合飼
料7、肥育後期の後半では粗飼料2に対し、配合飼料8の割合である。
このように、肥育前期に粗飼料を多給しているのは、生後6カ月から10カ月の
飼料給与によってロース芯の大きさが決まると言われ、この期間に配合飼料多給
だとロース芯が小さくなるからである。また、生体重が大きくなる時期に粗飼料
を多給することは内臓を丈夫にすることつながり、その後の生体重量を大きく伸
ばす上で重要である。配合飼料多給では内臓が弱く、食い止まりがみられ、その
後の生育にも大きく影響を及ぼし、途中廃棄にもつながる。こうした粗飼料の多
給を可能にしているのは、頭数規模拡大とともに飼料基盤も拡大を図ってきたこ
とによる。
牛の事故で最も多いのは胃が弱って起こるこちょう症である。このため、牛の
健康に良い乾草、ヘイレージ、デントコーンのサイレージ給与を行っている。特
に、発酵飼料を給与することで脂肪の質、肉の甘みに影響を及ぼすとの見解であ
る。ただし、現時点では粗飼料の自給率は80%から85%程度で、通年サイレージ
給与を目指しているが、最後の2カ月分が不足するという。このため、地元の稲
作農家からたい肥との交換によって稲わらを仕入るとともにカナダからの輸入牧
草を購入している。
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【サイロにて】
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デントコーンのサイレージはカロリーが高く、配合飼料の軽減ができるメリッ
トがある。牧草、ヘイレージはカロチンを含有しているため、脂肪が黄色くなり
風味にも影響を与える。サイレージ等の臭いは脂肪につき風味に影響を与えるこ
とから、肥育期間の最後の仕上げ2カ月間はサイレージ等の給与を行っていない。
また、良質のサイレージは水分含量70%以下が良いとの見解があるが、冬場と夏
場で水分含量が異なり、水分調整が極めて難しい。今後の良質サイレージを給与
する上での検討課題であろう。
先に見たように最後の仕上げ段階では配合飼料の多給となっている。配合飼料
は飼料メーカー3社から購入している。購入に当たっては大沼肉牛ファーム側か
ら独自の配合をメーカー側に依頼している。抗生物質を使用しないなどを飼料メ
ーカーに指示して安全な飼料を給与するためである。さらにBSEが確認される以
前から配合飼料を輸送するタンク車も専用車を指定し、養豚、養鶏用飼料が混ざ
らないよう安全性への配慮を従来から行ってきたことは評価に値しよう。また、
配合飼料の購入に当たっては一般よりも有利な価格で購入が行えるよう努力を重
ねてきており、購入飼料費の低減へと結びついている。
はこだて大沼牛の販売先とみやぎ生協の位置付け
大沼肉牛ファームの出荷頭数は9年1,610頭、11年2,400頭、13年3,200頭(見
込み)と順調に増加してきた。ホクレンが全量を買い取った後、ホクレンから全
農への販売は約80%、残り20%は北海道内の食肉加工メーカーと食肉卸売業者へ
10%、ホクレン道央支店へ10%、その他函館市内の生協にもわずかであるが販売
がみられる。
みやぎ生協への販売は全農への販売頭数の中からフルセットとパーツでの取引
となっている。全農からみやぎ生協への年間販売数量は公表されていない。公表
されているフルセット販売実績から見ると、1週間の販売頭数は8頭であり、1
カ月間の販売頭数は約30頭から35頭、年間での販売頭数は約400頭前後と推計さ
れる。全体の販売重量に占めるフルセットの割合が30%から35%前後であること
から、年間の販売頭数は1,200頭前後とみられる。12年の大沼肉牛ファームの乳
用肥育おす牛の出荷頭数実績は2,400頭であることから、出荷頭数の約半数はみ
やぎ生協へ販売していることになる。大沼肉牛ファームにおけるホクレン、全農
を経由してのみやぎ生協と産直取引ルートは極めて大きな販売ルートとなってい
る。
表2 大沼肉牛ファームの出荷頭数の推移
みやぎ生協の機能と役割
生協の牛肉販売に占めるはこだて大沼牛の位置付け
みやぎ生協は、店舗数41、組合員数15万6,125名を数える東北有数の生協であ
る。みやぎ生協における牛肉の種類別取り扱い構成比を見てみると、はこだて大
沼牛産直取引開始以前の9年頃では、乳用肥育おす牛30%、輸入牛40%、県内産
和牛30%であった。この時点での乳用肥育おす牛は北海道の「十勝産牛」を取り
扱っていたが、特定産地、農場の指定ができないことから、品質が一定しなかっ
た。そこで、乳用肥育牛は特定産地、農場、肥育方法等が明確なはこだて大沼牛
のみの仕入れへと変更した。導入当初の10年では、はこだて大沼牛57%、輸入牛
28%、県内産和牛15%であった。調査時点では、はこだて大沼牛50〜55%、輸入
牛35〜40%、県内産和牛5〜10%となっている。はこだて大沼牛の取扱量は11年、
12年、13年のBSEの確認前までは、ほぼ横ばいで推移しており、みやぎ生協の肉
牛取り扱いの半数を占める重要な位置付けとなっている。
産直取引の内容
はこだて大沼牛の取引は、みやぎ生協と大沼肉牛ファームとの直接取引とはな
っていない。みやぎ生協は全農との取引であり、全農はホクレンとの取引、ホク
レンは大沼肉牛ファームとの取引となっている。このため、価格決定交渉、仕入
数量の取り決めはみやぎ生協と全農との間で行われている。全農との取引は、セ
ットは先に見たように1週間に8頭の年間取引となっており、毎年2月に交渉を
行っている。また、パーツ取引は1カ月単位での取引で、毎月1回、生協と全農
との間で取引部位とおおよその予約取引数量、さらに翌月の商品提案、販促フェ
アの開催等の商談も行われる。ただし、具体的な取引数量の確定は、前の週に微
調整が行われて翌週1週間の数量を決定することになっている。フルセットでの
仕入価格は、生産費積み上げ方式と前年の東京食肉市場等の卸売市場価格を勘案
して取引価格を決定している。また、パーツ取引価格は前月の市中取引価格を基
準に交渉を行っている。
次に規格等級について見てみよう。出荷先である大沼肉牛ファームの乳用肥育
おす牛の枝肉の等級別割合は、B−2約80%、B−3約20%とみられている。みや
ぎ生協ではフルセットの等級別仕入れは、B−2は70%、B−3は30%の割合での
取り決めとなっている。ただし、販売する生協側としては B−3の要望が強いこ
とから、実際の取引ではB−2は50%、B−3も50%とB−3の割合を高める努力
が供給する側である全農側で行なわれている。
受発注システムと部位別コントロール
はこだて大沼牛の産直取引では、従来多くみられた生産・出荷者側と生協との
直接取引ではなく、ホクレンと全農が中間流通業者の流通の担い手として重要な
役割を担っている。そこで、産直取引を円滑に推進していく上でのホクレンと全
農の機能と役割を見てみよう。フルセットについては、先に見たように1週間に
8頭の仕入れである。と畜解体処理施設である北海道畜産公社から東京の全農中
央畜産センターへ輸送されるが、その途中、仙台に立ち寄り、8頭のうち3頭分
は毎週日曜日に仙台市内のみやぎ生協の加工施設(コープフーズ東北)に配送さ
れる。残り5頭分は生協の加工施設が貯蔵保管能力が小さいためJA全農東北畜産
販売所に一時貯蔵保管され、水曜日にみやぎ生協加工施設へ配送されている。一
方、パーツについては、北海道畜産公社から東京のJA全農中央畜産センターへ毎
週2便、月曜日と木曜日に直送される。みやぎ生協からの発注部位については、
中央畜産センターで部位別コントロールが行われ、東北畜産販売所を経由してみ
やぎ生協加工施設へ配送されている。みやぎ生協から中央畜産センターへの週間
発注は月曜日と水曜日および金曜日の週3回で、東北畜産販売所を経由してみや
ぎ生協加工施設へは、火曜日と木曜日および土曜日の配送となっている。ちなみ
に、みやぎ生協から中央畜産センターへの部位別発注数量は、全農とホクレンが
オンラインで結ばれていることから、その情報はホクレン函館支所へも伝わるシ
ステムとなっている。
次に部位別コントロールと季節別部位別需要状況を見てみよう。はこだて大沼
牛の部位別コントロールは先に見たように、ホクレンから全農へはフルセットで
の販売であり、全農がみやぎ生協の部位別発注に対応して東京の中央畜産センタ
ーで調整を行っている。みやぎ生協が年間を通じて仕入れる部位としてはロース
とカタロースである。ロースはステーキ用、カタロースは薄切りスライスや夏場
は焼肉用として、それぞれ年間を通じて定番商品として品揃えを行っている。ま
た、季節的に需要部位が大きく変化しており、8月中旬以降から2月末までは主
にカタロ−スとウデの利用が高まり、商品形態としてはスライスと切り落としで
の販売となる。3月から8月中旬までは主にバラとカタロース、ブリスケットの
利用が高まる。特に、夏場は焼肉用の部位が不足している。このため、焼肉用と
して価格も安くボリュウム感もある輸入牛肉の利用が高まる背景ともなっている。
11月中旬の調査時点でのはこだて大沼牛と県内産和牛および輸入牛肉別の商品
アイテムを見てみよう。県内産和牛はロースステーキ、ロースしゃぶしゃぶ用等
6アイテム、輸入牛肉はオーストラリア産牛カルビ焼肉用、霜降りしゃぶしゃぶ
用、ヤングビーフ・ロースステーキ等12アイテムであり、この中には定番商品で
ないものも4アイテム含まれている。これに対して、はこだて大沼牛はロースス
テーキ、カタロース薄切り(しゃぶしゃぶ用)、カタ・バラ薄切り(すきやき用)、
バラ切り落とし、カレー・シチュー用(カタ、モモ)、バラ角切り・煮込み用、
スネ・シチュー用の7アイテムである。
輸入牛肉はロースステーキの2アイテムとカレー・シチュー用を除いた9アイ
テムすべてが焼肉商品であることが大きな特徴となっている。特に、夏場にカル
ビ単品商品が圧倒的な販売量となり、これに対応するために、価格の安さととも
に単品部位の仕入れ対応が可能な輸入牛肉の仕入れが増大し、夏期間には牛肉取
り扱いに占める輸入牛肉のシェアは65%へと高まる。みやぎ生協の牛肉取扱数量
の半数を占めるはこだて大沼牛の商品数は7アイテムにすぎない。今後の販売量
の拡大を図るうえでも新たな商品開発の検討が重要な課題となろう。
ホクレンと全農の機能と役割
はこだて大沼牛の産直取引では、従来多くみられた生産・出荷者側と生協との
直接取引ではなく、ホクレンと全農が中間流通業者の流通の担い手として重要な
役割を担っている。そこで、産直取引を円滑に推進していく上でのホクレンと全
農の機能と役割を見てみよう。
ホクレンの機能と役割
ホクレンでは大沼肉牛ファームから年間の出荷頭数計画(4月から翌年の3月
までの1年間)の提出と月間の出荷契約頭数の提出を受けている。月間の出荷計
画に沿って、と畜解体作業を行う北海道畜産公社函館事業所への生体出荷申請は
ホクレンが行っている。と畜解体後に大沼肉牛ファームからホクレン側へ枝肉形
態で販売される。取引価格は前月の食肉卸売市場価格を参考に話し合いで決定さ
れる。枝肉は北海道畜産公社函館事業所に併設した部分肉加工施設(有限会社カ
ンチクミートに委託加工)で、フルセットはみやぎ生協スペック、パーツは全農
スペックで部分肉に加工される。全農への販売はフルセットでの販売であり、販
売価格は大沼肉牛ファームからの枝肉仕入れ価格に1キログラム当たり部分肉加
工料(加工整形の度合いにより、1キログラム当たり加工料金は高くなる)プラ
ス販売マージンを加算して決定している。
ホクレンの産直取引での役割は、みやぎ生協側が要望する品質の一定したもの
を供給するために、一定品質の肉牛の選別作業と部分肉のみやぎ生協スペックへ
の対応を図ることである。ホクレンの大きな業務としては、生協側が要望する品
質の肉牛を、安定して供給することにある。このため、ホクレンでは指導関係部
門が協力し、牛舎内のアンモニア臭の検査と指導を行い、牛舎の改築を行った経
緯がみられる。また、飼料担当部門では大沼肉牛ファームに検査に入り、牛の健
康状態等の健康管理、敷料、飼料の給与等を含めた項目を検査し、改善を働きか
けている。
その他の産直活動としては、みやぎ生協組合員との産直交流会での産地側とし
ての協力である。消費地側へ出向き小澤氏の紹介等の活動も行っている。
全農の機能と役割
はこだて大沼牛の産直取引の開始に当たって、全農は中心的な役割を果たして
きた。すなわち、産直取引開始時にこれまでの経験からフルセットのみでの産直
取引で進めると、取引先である生協側の部位別需給調整が困難となり、産直取引
が長期安定した取引として継続できない結果となる。こうしたケースにならない
ように、はこだて大沼牛の産直取引では一定量はフルセット、残りをパーツ取引
とする取引方法を採用している。さらに、生産者側に対しても一定量を産直取引
ルートに結びつけ、安定した取引先を確保することにより肉牛肥育経営の安定に
結び付けている。また、販売側に対しても部位別需要に対応するため、一定量を
パーツ取引とし生協側での売れ残り部位をできるだけ発生させないよう配慮する
とともに、一方で季節別に需要が高まる特定部位の仕入量の拡大も可能となるよ
う配慮している。はこだて大沼牛の産直取引は、これまでの産直取引と異なり柔
軟な仕入れ方法としての産直取引方法を採用していることが最も大きな特徴であ
る。このため、産直取引方法も手かせ、足かせとなる契約書に基づく産直取引と
はなっていない。このように産直取引における全農の機能と役割の最も大きな業
務は部位別需給コントロールにある。
さらに、生協での販売促進活動は全農が行っている。13年9月に発生が確認さ
れたBSEによる消費低迷の折にも、41店舗中26店舗でマネキンの導入、販売促進
資材を提供しての販売促進活動を行っている。これら販売促進に係る費用は全農
の負担である。さらに、生協組合員側が大沼肉牛ファームを訪問しての産地交流
会の開催に際して助成を行い、交流促進活動の支援も行っている。
情報公開と情報交換システムによる信頼関係の構築
13年9月のBSEの確認は、はこだて大沼牛とみやぎ生協の産直取引にも影響を
及ぼしたが、生協職員と産地交流会に参加した生協組合員を中心に、精肉売場で
の産直交流会、大沼肉牛ファームの写真、飼料等の安全性をアピールするパネル、
POP等を掲示した販売促進活動が積極的に行なわれた。こうした、生協組合員、
職員、生産者の小澤氏、ホクレン、JA全農担当者等の店頭での宣伝活動の努力が
あって取り扱いは減少したとはいえ、フルセット部分は減少することなく、今日
まで取引は継続していることは注目に値する。
ただし、10年8月の産直取引開始後、3年を経過したがその間の取引量は横ば
いで推移し、拡大してはいないとのことである。その理由として、生協側では宮
城県内の食肉消費が豚肉中心であり、牛肉消費は全体として少ないことを挙げて
いる。さらに、夏期間を中心に焼肉需要が高まりをみせているが、1回当たり購
入量が多くなると、単価の安い輸入牛肉を購入するケースが多い。今後、はこだ
て大沼牛の取扱量を増やしていくためには、価格の引き下げが求められている。
全農の販売担当者からも「はこだて大沼牛の販売量を拡大するためには売価をも
う少し安くする必要がある」との意見もある。
BSEの確認によって牛肉消費の落ち込みが顕著であり、乳用肥育おす牛等の大
衆牛肉は一段と値下がりした価格帯で今後推移していくとも考えられる。それに
対応した売場づくりが今後重要となってこよう。このため取引価格についても検
討していくことが必要であると考えられる。
組合員からの指摘として品質が一定せず、バラツキがみられるとの声が聞かれ
る。このことはB−3とB−2とにより品質に差がみられるためと考えられる。先
に見たとおりフルセットについては、B−3は30%、B−2は70%との取り決めと
なっているが、実際の取引ではB−3は50%とB−3の構成比を高める努力が行わ
れている。また、パーツ取引は圧倒的にB−2が多い。しかし、肉質が「かたい」
とは、スライス等加工処理方法によっても違ってくるはずである。生協担当者も
ミートセンターの稼働率を高めるためスライスをやや厚めに加工するので、やや
硬くなるのではないかとの意見も聞かれた。今後、出荷者側での選別の問題とと
もに、生協側でもカット方法について従業員への指導、教育の必要性が望まれる。
産直取引の発展のためにも生協の経営側面から見ても、はこだて大沼牛の販売
力を高めていくことが重要である。そのためには新たな売場づくり、すなわち商
品開発力が求められる。店舗によって売れ行きが異なり、売れ残りロスの発生と
それによる単価引き下げ販売(値引販売)が行われているとのことである。消費
者ニーズに対応した商品づくり、売場づくりによる販売力を高める戦略が今後の
大きな課題である。
当産直取引は、これまでの生産者と生協との直接取引きではなく、大沼肉牛フ
ァームとみやぎ生協との間にホクレン、全農が流通に関わっていることが大きな
特徴であった。そして、ホクレンと全農は極めて重要な機能と役割を担ってきた
が、一方で相互の情報が流通業者を介して交換され、緊密な意見交換を十分行う
ことができなかったとの生協側からの意見も聞かれる。そこで、産地交流会や意
見交換会の開催により生産者と生協組合員、職員との交流をさらに深め、生協側
は自分の目で直接確かめ、信頼をさらに深めていくことが、より重要になってき
ている。より強い信頼関係を構築し、はこだて大沼牛の「安全・安心」を強くア
ピールすることが消費拡大につながるものと考えられる。
定期的な飼料検査等を行うことも必要であるとの生協側からの意見も聞かれる。
これは現在給与している配合飼料に遺伝子組み替えとうもろこしが利用されてい
ることへの問題提起とも考えられる。そこには、生協側に近い立場から肥育方法、
配合飼料成分内容、と畜解体処理場、カット加工処理施設等での安全に関する検
査を行うことにより、生協組合員への「安全・安心」に対する信頼をより高めた
いとの考え方がある。こうした検査等を実施する費用を誰が負担するのかという
ことが課題として残される。
このように、いくつかの課題があるにしても、BSEが確認され、当産直取引の
セールスポイントである「安全・安心」が、乳用肥育おす牛の消費拡大を図るた
めにはますます重要となってくる。そのことは、産地交流会に参加し、大沼肉牛
ファームを見学した生協組合員、職員およびホクレン、全農担。当者を含め安心
・安全なはこだて大沼牛を私たちの運動で守っていこうとする強い決意により積
極的な販売促進活動を展開し、一定数量の販売を維持できたことに表れている。
こうした取り組みが産直取引の強みである。今後、より緊密な産消交流と情報
公開によってさらに強固な信頼関係を築きあげていくことが、国産牛肉消費拡大
にとってますます重要であることを示した好事例である。
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