★ 事業団から
家畜の利用開発シンポジウム開催される
〜養鹿およびダチョウ〜
企画情報部 情報第一課
平成13年11月13日に東京都千代田区の全農ビルにおいて鹿資源利用開発
に関するシンポジウム(主催:社団法人畜産技術協会、全日本養鹿協会)、12月
6日に同区の麹町会館においてダチョウ資源利用開発に関するシンポジウム(主
催:(社)畜産技術協会、財団法人日本農業研究所)が開催された。
(社)畜産技術協会は平成9〜13年度にかけて、財団法人全国競馬・畜産振興
会からの助成を受けて、新家畜資源としての鹿およびダチョウについて、その利
用開発の調査研究事業が実施されてきた。このシンポジウムは、これら事業の成
果を発表するとともに、鹿およびダチョウに関する情報を広く関係者に周知する
ことを目的として開催された。
このシンポジウムの中から事業報告の一部を簡単ではあるが紹介する。
養鹿事業報告シンポジウム
シンポジウム
1 記念講演「人と鹿の関わり−今までとこれから」(茨城県自然博物館館長、
元上野動物園園長 中川 志郎)
2 調査研究報告「えぞ鹿肉の有効利用性について」
(帯広畜産大学生物資源科学科助教授 関川 三男)
3 事業報告「鹿資源利用開発調査研究事業の成果報告」
(全日本養鹿協会専務理事 丹治 藤治)
4 事例発表1
(北海道JA鹿追町えぞ鹿牧場 伊東 正男)
5 事例発表2
(岩手県舘ケ森アーク牧場 吉田 浩士)
の順で進められ、最後に質疑応答が行われた。
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【シンポジウムを締めくくる
(社)畜産技術協会副会長】
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事業の目的
今後予想される世界規模の地球温暖化等異常気象により、人間の食料と競合し
ない飼料資源を有効利用するために、未だ家畜化されていない鹿の家畜としての
適性と活用方法を調査するものである。
鹿産業としての歴史は新しく、現在日本で50〜100頭規模の養鹿牧場は10カ所
程度に過ぎない。
飼養に関する研究成果等
・飼料
放牧を中心とし、夏季は青草、濃厚飼料、冬季は乾草、濃厚飼料等を与えてい
る。
・繁殖
雌の発情期(10〜11月)に雌15頭程度の群れに雄1頭を入れ、馴らす。交配を
11月中までに行なうと、分娩時期が翌年5月下旬〜6月末までの1カ月に集中す
るため、飼育管理が容易になる。
・飼養管理
雌鹿は出産期に、雄鹿は角が生え替わる4月下旬〜6月と発情期に特に注意が
必要である。
・衛生管理
鹿はまだ家畜として扱われていないので、予防注射、検査等病気の予防は自主
的に行なわなければならない。
成品の有効利用
鹿肉は貴重な動物たんぱく源、鹿の皮革は衣料、美術工芸品、鹿骨は医療用素
材等として、すべてを有効利用することができる。
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【鹿肉加工品と雄鹿の幼角を
抽出したリキュール類】
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・鹿肉、鹿油
鹿肉は低脂肪、高たんぱくで鉄含量が高く健康志向の食肉である。部位により
背肉はステーキ、もも肉は煮込み、ばら肉はソーセージ、内臓類は薬膳料理など
に利用される。鹿油は粘着性に富み、牛に比較して融点が高い。
・鹿養角
鹿養角には、鹿養角エキスとマタタビエキスを混合することによりガン発生を
抑制する作用が確認され、生活習慣病予防等に役立つことが判明した。
・鹿皮
鹿皮は、@他の家畜よりも丈夫で、伸びと縮みがある。A繊維が細く、しなや
かさがある。B通気性と吸湿性があり、水と油の汚れを同時にふき取ることがで
きる。このことから、航空機の操縦士は、緊張する離着陸時前後約11分、鹿皮革
手袋を着装して操縦をしているという。
国産鹿皮と外国産鹿皮との特長比較も行なった。
・鹿骨
鹿骨には、カルシウム、リンの他に亜鉛が含まれ、また、鹿骨のアパタイト
(歯・骨の主要構成鉱物)の結晶をX線回折した結果は歯や骨と酷似しているこ
とが判明した。
採卵鶏用飼料の無機リン源として乾燥鹿骨粉を加えた場合の鶏卵の卵殻強度に
及ぼす影響では、体重の小さい個体が、産卵日量、卵重が良く、飼料要求率も優
れているという成績であった。
今後の課題
養鹿は日本の風土、気候に適していて、鹿は、歴史的にも人類の文化、生活に
深い関わりをもってきた。
真の家畜とするためには、バイオテクノロジーを視野に入れた新しい研究と、
産・官・学の緊密な連携と基礎的学問における技術者の養成が必要であり、家畜
産業としての社会的認知度、法的整備、それに伴う安定供給・安定品質の保証が
求められる。
特に鹿肉は低脂肪、高蛋白質、鉄分を多く含み、消化時間は野菜並みという健
康食肉であることから、鹿肉の普及と加工製品の利用拡大等が望まれる。
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【さっぱりとした味わいの鹿肉
たたきと鹿バラ肉ソーセージ】
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【豪華でおいしいロースト鹿肉】
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ダチョウ資源利用開発シンポジウム
シンポジウム
1 記念講演「ダチョウとはどんな鳥」
(東京大学名誉教授 正田 陽一)
2 特別講演「世界のダチョウ産業」
(名古屋大学農学部教授 奥村 純市)
3 事業報告「新家畜(ダチョウ)資源利用開発調査研究事業報告」について
(日本農業研究所参与 小宮山 鐵朗)
4 個別報告1「ダチョウ飼養の技術的課題」
(信州大学農学部教授 唐澤 豊)
5 個別報告2「ダチョウ利用の技術的課題」
(日本大学生物資源科学部助教授 早川 治)
の順で進められ、最後に質疑応答が行われた。
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【会場は、数多くの関係者が
参集した。】
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事業の目的
ダチョウは、人間の食料と競合しない飼料資源を有効に利用し、厳しい自然環
境に順応することから、わが国における新たな家畜としての期待が高まりつつあ
る。
昭和63年に商業目的でわが国にダチョウが導入され、飼育が始まったが、食肉
としての流通量は約200トン、うち約180トンが輸入肉であるといわれている。12
年度には飼養戸数が266戸、飼養羽数が7,832羽と確実に増加している。そのよう
な中、わが国において家禽として十分な能力を発揮し得るかどうかは不明な点が
多い。そこでわが国におけるダチョウの適性を判断するための飼養試験を実施す
るとともに、内外におけるダチョウ飼養管理・利用状況および利用可能性を調査
する。
飼養に関する研究成果等
・繁殖技術
産卵管理技術は大部明瞭になったが、ふ卵技術において受精率の向上に問題が
残っている。
・育すう、育成技術
粗飼料の利用効率がよいことが明らかになったが、育すうの初期の温度管理お
よび飼料給与に問題があることが判明した。
・肥育技術
粗飼料が有用で、放牧することでと体の脂肪量が少なくなること、肥育に比し
成長は遅くなるが、と体には加齢の影響が少ないことがわかった。
と殺適期は12ヵ月が肉の生産面からは好ましいとされた。
・衛生管理
ダチョウは成長すると病気にはあまりかからないといわれている。しかし、ダ
チョウはニューカッスル病をはじめとして、多くの鳥類共通伝染病に感染する。
ダチョウの疾病およびその対策については未知の部分が多く、またダチョウ病に
詳しい獣医も少ないことから、ダチョウが伝染病等に羅患して甚大な被害を受け
る可能性、ダチョウから鶏等の他の畜種に被害を与える可能性も否定できない等
から、総合的な衛生対策の確立も求められる。
成品の利用に関する研究成果等
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【シンポジウムの後に開催されたダチョウ肉賞味会にて振る舞われたベーコン
とスモークハム。鉄の含量が多いため肉色が濃い。】
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・ダチョウ肉の調理
輸入牛肉フィレと比較するとダチョウ肉にはたんぱく質が多く、脂肪が少ない
のが特徴である。鉄、ナトリウム、亜鉛、銅ミネラル類が多いという特徴を持っ
ている。肉の部位によって硬さが異なり、加熱によって硬さが増加することがわ
かった。
加熱しない料理としては、刺身、たたき、カルパッチョ、タータンステーキが
良く、短時間加熱(レア)状態の料理としては、ステーキ、炒め物、薄切りカツ
等の揚げ物、肉団子等のひき肉料理が適しているものと考えられる。
・ダチョウ卵の調理
卵の調理特性を調べたところ、鶏卵と比べ気泡性が低く、泡立ちにくいが、一
度泡立つと泡の安定性が高い等から泡の安定性を利用したしっとりとした口当た
りの菓子類への利用が良いとされた。
・ダチョウ皮革
国産皮革の品質グレードは3級品が多く、高級品とされる1、2級品の生産が
難しい状況にある。その理由として、飼育中あるいは輸送中における損傷、小穴、
はく皮技術の未熟等が挙げられている。
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【賞味会にて展示された
ダチョウの皮。クイルマーク
(羽を抜いた痕跡)が美しい。】
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今後の課題
わが国でダチョウ産業が産業として成立するためには、ダチョウ産品が消費者
に受け入れられるのが大前提である。ダチョウ肉は低脂肪、高たんぱくという特
性等からヘルシーな肉として栄養面での評価が高く有望な食材といわれる。ダチ
ョウ肉の特性、料理方法等について消費者に普及啓蒙・供給システムの構築を図
る必要がある。
と畜については、今のところ認可を受けた専門の処理場や食鳥処理場等で行わ
れているが、今後、需要拡大が図られる場合には衛生面で安全な食肉供給を可能
とする体制、関連施設の整備は不可欠である。皮及び羽根についても、その流通
加工体制の整備が必要である。
いずれにしても需要が拡大し、かつ国際競争に打ち勝つためには、生産者が安
定してダチョウ生産を行いうる飼養管理技術の確立が必須である。わが国は南北
に長いため、気象条件に地域差が大きく、気象条件、土地条件、地域飼料資源を
踏まえた地域飼養管理方式を確立しなければならない等の点が挙げられる。
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